8.セラフィナ、五歳
「お父様、お母様、お兄様の冬休みに、ベルンハルトこうしゃく家に行きたいです」
五歳の誕生日の朝、わたくしはお父様とお母様にお願いしていた。
誕生日お祝いとして許可をもらえたらいいと思ったのだ。
お父様とお母様は顔を見合わせて話し合っている。
「一人で行かせるわけにはいかないよね。ラファエルも一緒だ」
「二人同時に皇族が移動するのは問題があるかもしれません」
「それはそうだが、行き先はベルンハルト公爵家だ。警備はしっかりしているはずだ」
例の件があったから。
お父様の言葉をわたくしは聞き逃さなかった。
例の件とは、もちろん、わたくしの前世であるクラリッサが死んだ馬車襲撃事件のことだろう。その裁きがどうなっているのかわたくしには情報は入ってきていないが、多分取り調べは進んでいるはずである。
ベルンハルト公爵家に行けば、そのような情報も少しは手に入るかもしれないという期待もあった。
「おねがいです、お父様、お母様」
わたくしが重ねて言うと、お父様とお母様の表情が緩む。
「セラフィナがこんなに言っているのですから、お誕生日のお祝いにベルンハルト公爵家に行かせてあげてもいいかもしれません」
「そうだね、セレナ。セラフィナはアルベルトに託した猫のことを気にしているんだろう」
どうやらわたくしはベルンハルト公爵家に行けそうな雰囲気だった。
わたくしの誕生日は、家族とベルンハルト公爵家とルクレール公爵家とアルマンドール公爵家の招かれたお茶会で祝われることになっていた。
久しぶりにリヴィア嬢やニコ様、ルカ様やユリウス様にも会える。ユリウス様はレティシア嬢と婚約をしてから初めて会う。
ユリウス様とルカ様もわたくしたちの従兄弟であるのだが、アルベルト様のように頻繁には宮殿に来ていなかった。ルカ様が幼いのもあるだろうけれど、アルベルト様のようにわたくしたちと親しくないというのもあるだろう。
ルカ様はドレスを着たわたくしを見て顔を赤くしていた。
「おにいさま、セラフィナでんかはこんなにかわいかったっけ?」
「セラフィナ殿下はお生まれになったときからずっと見目麗しく愛らしいよ!」
「かみがぎんいろでほしみたいで、きらきらして、おめめがきんいろで……」
「ずっとそうだったよ!」
わたくし、生まれたときから銀色の髪も金色の目も変わっていないはずなのに、ルカ様はそれに初めて気付いたような様子だった。男の子とはこういうものなのだろうか。気にしていないことはずっと気付かないのかもしれない。
「セラフィナ殿下は最近髪が真っすぐになりましたね。皇后陛下ととてもよく似ています」
「わたくし、かみしつが変わったようなのです」
幼児特有のふわふわとした髪から、わたくしは真っすぐなこしのある髪に変わっていた。それも成長の形なのだろう。
ニコ様がわたくしの髪を見てうっとりとしている。
「セラフィナでんか、リボンがかわいいですね」
「ありがとうございます、リヴィア嬢」
「プレゼントはリボンにしました。うけとってください」
「え!? それはうれしいです」
リボンが入った箱を受け取って、わたくしはそれを胸に抱きしめる。アルマンドール公爵家からのプレゼントはリボンだった。
「ぬいぐるみやおにんぎょうにつけても、かみにむすんでも、かわいいですよ」
「大事にします。ありがとうございます」
色とりどりの美しいリボンが箱の中に並んでいて、わたくしは嬉しくなってしまう。リヴィア嬢にお礼を言えば、リヴィア嬢が自分の髪を結んでいるピンク色のリボンを指で示した。
「わたくしとおそろいのリボンもはいっているの」
「本当ですか?」
「このいろとこのいろと、このいろが、わたくしのもっているリボンとおなじ」
「おそろいのリボンをつけられてうれしいです」
リヴィア嬢とわたくしが盛り上がっていると、ルカ様が箱を突き出してくる。
「ん!」
「ルカ! 『ん!』じゃなくて、おめでとうございますって言って渡すんだっただろう!」
「んー!」
なぜか顔を赤くして照れているルカ様から箱を受け取ると、中には造花の髪飾りが入っていた。美しい空色の薔薇と青いリボンの造花に驚いていると、ユリウス様が説明してくれる。
「セラフィナ殿下はリボンを好んでいるようですが、たまには花を飾ってもいいのではないでしょうか」
「とてもきれいです。使わせていただきます。ありがとうございます」
わたくしがお礼を言えば、ルカ様がふんすっと鼻息を荒くして満足そうな顔をしていた。
リボンに造花とわたくしは美しいものばかりお祝いにもらっている。
「わたしからはただの花ですが」
アルベルト様が差し出したのは淡い紫色の薔薇だった。お母様の目の色のようで美しい薔薇の花束を、わたくしは大事に受け取る。
「美しいバラですね。ありがとうございます。お母様の目の色のよう」
「わたしの誕生日には金色の薔薇をもらいました。銀色の薔薇を探したのですが見つからなくて、この色にしました」
「とてもうれしいです。ありがとうございます」
アルベルト様もわたくしの髪の色である銀色の薔薇を探してくれたようなのだが、見つからなかったと言っている。銀色の薔薇は難しいだろう。その代わりにお母様の目の色のような淡い紫の薔薇はとても美しくてわたくしは満足だった。
「ねぇね、おめめと」
「ありがとうございます、ミカ」
「ねぇね!」
ミカも何かしたかったのか、わたくしにしがみ付いてぎゅうぎゅうと抱き締めてきた。頬にキスをされて、ミカなりの誕生日お祝いにわたくしは嬉しくなる。
たくさんのお祝いをもらった誕生日だった。
「コンラート、学園の冬休みにラファエルとセラフィナがベルンハルト公爵家に泊まりに行きたいと言っているのだが、いいかな?」
「もちろんですよ、兄上。アルベルトも喜びます」
「アルベルトはラファエル殿下とセラフィナ殿下を兄弟のように思っていますからね」
「最近、アルベルト殿はラファエルとセラフィナとミカエルの前では敬語で話さなくなったのですよ。従兄弟同士仲がよくてわたくしも嬉しい限りです」
ベルンハルト公爵家の叔父様と叔母様にお父様とお母様が告げている。
わたくしは問題なく学園の冬休みにはベルンハルト公爵家に行けそうだった。
「お泊りですか? いいですね」
「ユリウスはベルンハルト公爵家に泊まりに行ったことがないのか?」
「わたしはルカがいますからね。ルカがわたし一人で出かけると拗ねるのですよ」
「すねてない!」
「拗ねるじゃないか、ほら」
「ちがうもん!」
男同士の兄弟というのは大変なのかもしれない。
ユリウス様といい合っているルカ様を見て思ってしまう。
「セラフィナでんかが、うちにとまりにくればいいんじゃないか?」
「ルカ、うちはわたしとルカで、男ばかりなのだよ。セラフィナ殿下はレディなんだ」
「だめなのか?」
「ダメに決まってるだろう」
ルカ様はわたくしにルクレール公爵家に泊まりに来てほしいようだ。ユリウス様とルカ様のお二人と一日過ごすとなるとどうなるのか、わたくしには予測がつかない。
「おとまりー!」
「ルカ、駄々をこねない」
「おにいさまのわからずや! きらいだ!」
ほっぺを膨らませて顔を背けるルカ様に、ユリウス様は困らされているようだった。
初めて会ったころからルカ様は自由でやんちゃだったが、五歳になってもそれは変わっていない。ルカ様らしいと言えばそうなのだが、ルクレール公爵家としては困っているのかもしれない。
「ルカは家庭教師の話も聞いていないし……」
「困ったものですね」
ルクレール公爵家の伯父様と伯母様もため息をついていた。
「ルクレール公爵家にラファエルとセラフィナを泊めるのは難しいかもしれないが、宮殿にユリウスとルカが泊まるのはどうだ?」
お父様が提案して、ルカ様が目を輝かせる。
「いいのか?」
「ルカ、皇帝陛下に対してなんて口の利き方をしているんだ! 『いいのですか?』だろう?」
「いいのですか?」
喜んでいるルカ様に、お父様も苦笑している。
「ルカがもう少し家庭教師と勉強を頑張ったら宮殿にお招きしよう」
「がんばります!」
家庭教師との勉強に乗り気ではないルカ様をその気にさせるためにお父様は言ったのかもしれない。
宮殿に来るのであれば、それほど心配はないような気がする。
ルカ様とユリウス様が泊まりに来る日も、わたくしは楽しみにしていた。
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