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転生皇女セラフィナ  作者: 秋月真鳥
三章 セラフィナの婚約

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7.ミカエル、二歳

 子ども部屋に来たお父様とお母様が話している。

 それをエリカに寄りかかってミカに絵本を読みながら、わたくしは何気なく耳に入れていた。


「セラフィナも次の誕生日で五歳になる。そろそろ一人部屋にしていいのではないだろうか」

「そうですね。家庭教師からも授業を受けていますし、一人部屋で眠るようになってもいいのかもしれません」


 ミカがわたくしの隣でそわそわしているのが分かる。ミカに細かなお母様とお父様の話している内容は分からないだろうが、わたくしと離れてしまう予感はしているのだろう。

 この国ではかなり幼いころから子どもは一人で自分の部屋で過ごして眠る。一人部屋になるまでは子ども部屋で過ごすことが多いのだが、わたくしは子ども部屋を卒業する年が来ているようだ。


「ミカエルは夜にセラフィナのベッドにもぐりこんでいると聞いている。ミカエルも自立しなければいけないだろう」

「ミカエルはまだ一歳ですよ」

「もうすぐ二歳だ」

「それはそうですけど」


 わたくしとミカエルを引き離すことに関しては、お父様とお母様の間でも意見が分かれているようだ。

 わたくしがドキドキしながら聞いていると、ミカが立ち上がった。


「パパ、ママ!」

「どうした、ミカエル」

「抱っこしましょうか」

「ねぇね、やぁの!」


 わたくしと引き離されるのが嫌だというように涙目になるミカをお父様が逞しい腕で抱き上げる。


「ミカエルも一人で眠れるようにならないといけない」

「ねぇねー!」

「いつまでもセラフィナと一緒ではよくないよ」


 優しい声だが譲らない口調のお父様に、ぽろぽろとミカの金色の目から涙が零れた。泣いているミカの背中を撫でてお父様が宥める。


「寂しくはないよ。オレリアもいるし、日中はセラフィナに会える」

「ねぇね、いいの! ないない、やぁの!」

「セラフィナはいなくなるわけではありません。別の部屋で眠るだけですよ」


 お父様とお母様に説得されても、ミカはなかなか納得しなかった。


 初夏になってミカの誕生日が来る。

 ミカの誕生日は家族だけで祝った。

 二歳になったミカはお喋りもかなり上手になっていた。


「ねぇね、おへや、ないない、やっ!」

「まだ言っていたのか」

「セラフィナが五歳になったら一人部屋に移りますよ」

「やっ!」


 反抗期なわけではないが、わたくしのことだけは譲れないミカ。そんなミカがわたくしにはかわいくてたまらない。

 でも、わたくしも五歳になるのだから、一人で眠れなくてはいけないということは分かっていた。


 前世では物心ついたら一人だったし、寂しいなどと思う暇はなくて、忙しく働かされていたが、今世ではミカと離れるのが寂しいと思ってしまう。


「毎日わたしとセラフィナがお休みのキスをしに行くよ。ね、セラフィナ」

「はい、おにいさま」


 ミカにラファエルお兄様とわたくしが言うと、膨れていた頬っぺたがちょっとだけ元に戻った気がした。


 ミカのお誕生日はティールームで家族でお茶をした。

 桃のショートケーキを作ってもらって、ミカは小さく切って食べていた。二歳になってミカはますます食べるのが上手になった。食いしん坊なので食べ物に対する情熱が違うのだろう。わたくしが二歳のころよりもナイフとフォークの使い方が上手な気がする。


「セラフィナはこの時期に字が読めて天才かと思ったけれど、ミカエルのフォークの使い方を見てごらん。ミカエルはきっととても器用に育つよ」

「ミカエルも天才ですね。とても上手です」

「二歳でこれだけフォークを上手に使えるのは珍しいです」


 お父様もお母様もラファエルお兄様もミカを絶賛している。

 ミカはフォークを切り分けた桃のショートケーキに刺して落とさずに上手に食べていた。


「みか、じょーじゅ」

「とても上手だよ」

「本当に器用です」

「素晴らしいですね」

「みか、すばらち!」


 褒められてミカはすっかり機嫌が直ってしまったようで、誇らしげに胸を張っていた。

 ミカの誕生日にはアルベルト様とアンリエットお義姉様がお祝いに来た。

 アルベルト様は帝都の有名店の焼き菓子の詰め合わせを、アンリエットお義姉様はクマのぬいぐるみをミカにプレゼントしていた。


「あいがと」

「どういたしまして、ミカエル」

「ミカエル殿下、大きくなられましたね」

「みか、おっちー! みか、じょーじゅ!」


 胸を張って自分は大きくて食べるのが上手だと主張するミカに、わたくしが付け加えておく。


「ミカはフォークとナイフをつかうのがとてもじょうずなのです。おとうさまとおかあさまとおにいさまにほめられていて、じしんをもっているのです」

「それでは誕生日プレゼントはかわいいナイフとフォークとスプーンのセットの方がよかったでしょうか?」

「おきづかいなく、アンリエットおねえさま。ミカはよろこんでいます」


 クマのぬいぐるみを抱っこしてエリカに見せに行って、嬉しそうにしているミカに、アンリエットお義姉様も安心したように微笑んでいた。

 アンリエットお義姉様とアルベルト様に、わたくしは相談してみる。


「わたくし、あきでごさいなのですが、ひとりべやにいどうするようにいわれました。アンリエットおねえさまと、アルベルトおにいさまはなんさいくらいでひとりべやにいきましたか? リヴィアじょうはもうひとりべやですか?」


 前世のわたくしの記憶が役に立たないので聞いてみると、アンリエットお義姉様とアルベルト様は答えてくれた。


「わたくしは六歳くらいでしたね。リヴィアもそろそろ一人部屋に移動しなければいけませんが、年の近い兄姉はいないので、子ども部屋でも一人ですからね」

「わたしもずっと一人っ子で子ども部屋で一人だったから、意識したことがなかったよ。わたしは五歳くらいかな」


 アンリエットお義姉様は六歳、リヴィア嬢はそろそろ一人部屋に移りそうで、アルベルト様は五歳で一人部屋に移ったようだった。

 お二人とも同じ時期に子ども部屋で過ごした相手がいないので、わたくしのことはあまり理解できていない様子だった。


「ミカはさみしがりやなのです、よるにわたくしのベッドにはいってくるのです」

「まぁ、かわいい」

「それは一人にするのは心配だね。でもミカエルももう二歳なのだから、一人で眠れるようになっていい年齢だと思う」


 ミカのことを責めるわけではなく、優しく言ってくれるアンリエットお義姉様とアルベルト様に、わたくしも決意を固めた。

 一人部屋になっても日中はミカと一緒に過ごすのだし、その時間をミカに寂しくないようにいっぱい遊んであげよう。

 わたくしも皇女として自立しなければいけない初めのときがきたようだった。


「エリカは、わたくしのへやにきますか? こどもべやですごしますか?」


 エリカに問いかけてみると、「きゅんきゅん」と鳴きながら尻尾を振っている。エリカまで子ども部屋からいなくなってしまうと、ミカはさらに寂しがるだろう。


「エリカはこどもべやにのこって、ミカのことをたのみたいのです」

「きゅう」


 わたくしの言うことがエリカに通じたのかは分からなかったが、エリカは小さく鳴いて返事をしてくれた。


「アンリエット嬢、アルベルト、ミカエルのためにありがとう」

「ラファエル殿下、ミカエル殿下の成長、本当におめでとうございます」

「ミカエルが日に日に大きくなっていくようでわたしも見ていて嬉しいよ」


 遅れて子ども部屋にやってきたラファエルお兄様が挨拶をすると、アンリエットお義姉様もアルベルト様も微笑んでラファエルお兄様を迎え入れている。


「アルベルト様は、少し喋り方が変わりましたね」

「ラファエルとセラフィナとミカエルは従兄弟なので、親しく話してほしいと言われたのです」

「その方がお似合いですわ。わたくしにも同じように話してくださっていいのですよ」

「それはさすがに、ラファエルに怒られます」

「ラファエル殿下はそんなに心が狭くないですわ」


 アルベルト様の喋り方が変わったことを指摘するアンリエットお義姉様に、アルベルト様が説明している。アルベルト様もアンリエットお義姉様に敬語を外して話すことはなかった。

 それはわたくしたちが特別と言われているようで嬉しくなる。


「アルベルトおにいさま、ヒースはどうしていますか?」

「ヒースはすっかりやんちゃに育っているよ。庭に出すと小鳥やネズミを狩ってくるし、遠くまで行ってしまいそうだから、部屋の中だけで飼っている」

「ヒースはへやねこなのですね」

「今度ヒースに会いにおいでよ。ふわふわの長毛の猫になっていて、子猫のころとイメージが全然違うと思うから」


 エリカが拾ってきた子猫のヒースは、ふわふわの長毛の猫に育っていると聞いて、わたくしは驚いてしまう。拾ったときにはぱやぱやの毛しか生えていなかった。


「あいにいきたいです」


 ベルンハルト公爵家には前にも一度泊まりに行ったことがある。

 また行きたいと言えば、お父様もお母様も許してくださるだろう。

 わたくしはヒースに会うのを楽しみにしていた。


読んでいただきありがとうございました。

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