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転生皇女セラフィナ  作者: 秋月真鳥
三章 セラフィナの婚約

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6.金色の薔薇の花束

 アルベルト様のお誕生日お祝いになにを贈るか、わたくしはとても悩んでいた。

 ラファエルお兄様のお誕生日お祝いは、庭に咲いていた真っ赤な薔薇でよかったのだが、アルベルト様は金髪に琥珀色の目で、庭に咲いている花のどれとも色が合わないのだ。

 わたくしが悩んでいると、朝食後に顔を見せてくれたお母様がわたくしの顔を覗き込んでいた。


「セラフィナ、困ったことがありましたか?」

「わたくし、おにいさまのおたんじょうびにはまっかなばらをさしあげたけれど、アルベルトおにいさまのたんじょうびになにいろのおはなをさしあげればいいのかわからなくて」


 正直にわたくしが答えると、お母様が少し考えて提案する。


「金色の薔薇が宮殿の庭に植えてあるのを知っていますか?」

「きんいろのばら?」

「わたくしが嫁いできたときに、お父様が南国から取り寄せた薔薇なのですが、黄色の色がとても濃くて、金色の薔薇と呼ばれています」


 金色の薔薇が宮殿の庭に生えているだなんて知らなかった。

 わたくしがいつも散歩に出ているのは、子ども部屋用の小さな生け垣に囲まれた庭で、それ以外の場所をわたくしは歩いたことがなかった。


「わたくしの部屋に面した庭にあります。一緒に来て見てみますか?」

「あい!」

「あら、ミカエルも行きたいのですか?」

「あい!」


 わたくしより先に、話を聞いていたミカがかわいく手を上げて返事をしていた。色んな所に行きたいミカにとっては、お母様の提案は魅力的だったのだろう。

 その日の朝の散歩はお母様の部屋から見える庭になった。

 薔薇の茂みが見えると、お日様の光りを浴びて金色に花びらが輝いて見える薔薇がある。

 わたくしが駆け寄ると、ミカも目を輝かせて薔薇を見つめている。


「このばらを、わけてもらえますか?」

「もちろんです。アルベルト殿のお誕生日のころに咲くように、蕾の薔薇を切ってもらいましょうね」


 庭師に声をかけて、お母様が薔薇を切ってもらう。

 金色の薔薇の花束ができて、わたくしは琥珀色に似た薄茶色のリボンを用意してもらって、一生懸命花束に結んだ。結び目はすぐに解けてしまうので、お母様が二針目立たないように縫ってくれた。


 アルベルト様のお誕生日お祝いはこれで決まった。


 アルベルト様のお誕生日のお茶会にわたくしは小さいので招かれなかったが、数日後にアルベルト様が宮殿に来てくださったので、わたくしは金色の薔薇の花束を抱えてティールームに向かっていた。わたくしの後ろから、ミカがよちよちと歩いてくる。ミカも一緒に祝ってほしかったので、わたくしはオレリアさんに頼んでミカが迷子にならないように連れて行ってもらった。


 ティールームに来ていたアルベルト様に、わたくしは金色の薔薇を差し出す。


「アルベルトおにいさま、おたんじょうびおめでとうございます」

「ごじゃまつ」


 わたくしを真似して、ミカもお祝いを言っているのがかわいい。


「ありがとうございます、セラフィナ、ミカエル」

「このばらはおかあさまがとついでこられたときに、おとうさまがとりよせたものだそうです。アルベルトおにいさまのかみのいろににているので、プレゼントしたくてわけてもらいました」

「とても嬉しいです、ありがとうございます」


 濃い黄色は金色にも見えて、薔薇の花は七分咲きくらいでちょうどよかった。アルベルト様が受け取ってくれてわたくしは安堵する。


「わたしの誕生日には、セラフィナは真っ赤な薔薇をくれたんだよ。わたしの髪の色だよね?」

「そうです。おにいさまのかみのいろです」

「リボンもわたしのために結んでくれて」


 対抗するラファエルお兄様にわたくしは笑ってしまうが、ラファエルお兄様は必死だった。

 それに対して、アルベルト様がひっそりと笑う。


「金色の薔薇……金は、セラフィナの目の色ですね」

「あ! そうでした」


 わたくしは顔立ちや髪の色はお母様に似ているが、目だけはお父様に似ていて金色だった。ラファエルお兄様も金色だし、ミカエルも金色だ。分かっているのだが、アルベルト様は薔薇の花の色にわたくしの目の色を見出していたようだった。


「アルベルトおにいさまのかみのいろばかりかんがえていました」

「金色だったら、わたしの目も、ミカエルの目も、父上の目も同じだよ」

「そうですね。わたしも一家の仲間に加えてもらったようで嬉しいです」


 ラファエルお兄様に穏やかに答えるアルベルト様。

 兄弟のいないアルベルト様にしてみれば、わたくしたち従兄弟は兄弟のようなものなのかもしれない。


「アルベルト、一家に加えてもらいたいなら、その敬語をやめてほしいな」

「やめていいのですか?」

「昔から思っていたけれど、アルベルトは従兄弟なのにちょっと距離があるというか……」


 ラファエルお兄様もアルベルト様ともっと親しくなりたいと思っていたのか。

 生まれた月も同じで、生まれた年も同じ。

 生まれたときから知っているアルベルト様が、距離を置いているのがラファエルお兄様はずっと寂しかったのかもしれない。


「敬語をやめたら不敬になるかもしれませんよ?」

「望むところだ。わたしは対等な従兄弟同士でありたいからね」

「それなら、そうさせてもらおうかな、ラファエル」

「お、いいね、アルベルト。その調子だ」


 敬語を使っていないアルベルト様を見ると、クラリッサだったころに触れあっていたアルベルト様を思い出す。アルベルト様の方が主人でわたくしはメイドだったので、アルベルト様は敬語を使わず、わたくしが敬語だった。


「アルベルトおにいさま、わたくしにも」

「レディに失礼ではないですか?」

「わたくしはいもうとのようなものでしょう?」

「みーも!」

「ミカエルまで」


 くすくすと笑いながらアルベルト様がわたくしとミカを順番に抱っこする。鼻先が触れ合うように顔を近付けられて、わたくしは心臓がどきどきと脈打っていた。


「わたしは口が悪いかもしれないよ。セラフィナとミカエルの教育によくないかも」

「アルベルトおにいさまにかぎって、そんなことはないです」

「あうべうと」

「それじゃ、そうさせてもらおうかな」


 アルベルト様が砕けた口調で話してくださる。

 それはアルベルト様と仲良くなれたようでわたくしは嬉しかった。


 ティールームでお茶をしていると、ミカが手を伸ばしてわたくしのリボンを解いてしまう。ミカは最近リボンを解くのが好きなようだ。

 ばらばらと生まれてから一度も切っていない長い前髪が落ちて来て、わたくしが困っていると、アルベルト様が手を差し出してわたくしの髪を指で梳いて結んでくれた。


「セラフィナの髪は、昔はふわふわだったけれど、最近は真っすぐになってきているね」

「おかあさまににているのだとおもいます。わたくしもおかあさまみたいになりたい……」


 銀色の長い美しい真っすぐな髪に、菫色の瞳の美しいお母様。

 お母様はわたくしの憧れだった。

 お母様のようになりたい。


「セラフィナはセラフィナのままでいいよ」

「そうだよ。セラフィナはセラフィナらしく生きて行けばいいよ」


 アルベルト様とラファエルお兄様に言われて、わたくしはお母様のようにはなれないのかと思う反面、そのままでいいと言われている喜びもあった。

 お母様のようにならなくても、ラファエルお兄様とアルベルト様は愛してくれる。

 そう思うと胸が温かくなる。


「わたしは完全に父上似だからなぁ。ミカエルも父上に似ているよね」

「ラファエルとミカエルはそっくりだよね」

「そっくりなのは嬉しいけど、母上の要素もちょっとはほしかったな」


 ラファエルお兄様は自分で言うようにお父様にそっくりだった。お父様の見上げるような長身も受け継いでいるようで、もう成人男性の平均身長を越しているのではないだろうか。アルベルト様もラファエルお兄様ほどではないが体は大きい。

 お母様も女性にしては長身な方なので、わたくしはお母様のようにすらりと背が高くなりたいと思っていた。


「ねぇね……ごめちゃい」

「いいのですよ、ミカ」


 髪を解いてしまったことを謝るミカに、わたくしは怒っていないことを伝える。ミカはひらひらするリボンや紐などを見ると、つい引っ張ってみたい年齢なのだ。


「これはダメだからね」

「あい」


 金色の薔薇の花束に結ばれているリボンを隠すアルベルト様に、ミカは素直に返事をしているが、気になっているようではある。


「それは、おかあさまがぬってくれたので、ほどけませんよ」

「本当? それはよかった」


 アルベルト様に伝えれば、アルベルト様は安心したように微笑んでいた。

読んでいただきありがとうございました。

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