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転生皇女セラフィナ  作者: 秋月真鳥
三章 セラフィナの婚約

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2.ルナール男爵家の真実を知って

 前世のわたくし、クラリッサ・ルナールはルナール男爵家で冷遇されて生きてきた。

 ルナール男爵家では使用人のような扱いしか受けていなかったし、家庭教師をつけられることがなく学校に通わされていたし、マナーの教師だけはなんとかつけてもらっていたが、それも高位貴族の元に奉公に出すためでしかなかった。

 夏は暑く、冬は冷える屋根裏部屋で寝起きして、じっとりとした臭い毛布一枚しか与えられなくて、服もボロボロのものを自分で洗ってなんとか使っていて、ルナール男爵家ではわたくしの存在はないように扱われていた。

 それだけでなく、ルナール男爵家がアルベルト様の馬車襲撃に関わっていたのだとすれば、クラリッサの両親は娘が死ぬことなど全く構わなかったというわけである。

 愛されているとは思っていなかったが、死んでも構わないとまで思われていたというのはショックではないわけがなかった。


 アルベルト様に抱っこされて子ども部屋に戻った後、わたくしは癒しを求めるように暖炉の前で寝そべっているエリカのお腹を背もたれにして座って息を整えた。心臓がどくどくと脈打っている。

 落ち着かないわたくしの横にミカが滑り込んできて、わたくしの金色の目を覗き込む。


「ねぇね?」

「ミカ……」


 思わずミカを抱き締めると、ミカは優しくわたくしの髪を撫でてくれた。


「ねぇね、いこいこ」

「ありがとう、ミカ」


 わたくしが何に傷付いているかは分からないだろうが、ミカはわたくしが傷付いていることには気付いていて、わたくしを慰めてくれる。なんて優しくて気遣いのできるいい子なのだろう。

 しばらくミカを抱き締めていると、わたくしも落ち着いてきた。


 ルナール男爵夫妻は、アルベルト様の馬車襲撃事件に関わっていた。

 ルナール男爵夫妻には厳罰が下されるだろう。

 前世のわたくしは両親に愛されていた思い出はないので、両親がどうなろうと知ったことではない。それが正直な感想だった。


 今世のわたくしはお父様にもお母様にも愛されているし、ラファエルお兄様にもミカにも愛されている。


 それでも、その日眠るときに心臓がどくどくと脈打って、嫌な汗が出て、眠りに付けなくて、わたくしは子ども部屋を出て廊下を歩いて、階段を上がって、廊下の突き当りのお父様とお母様の寝室に向かっていた。心配してマティルダさんもついてきてくれているので、怖くはなかった。

 寝室のドアをノックして、お父様とお母様が出てくると、わたくしは胸を押さえて顔をくしゃくしゃにして泣いてしまった。どうして泣いているのか、自分でも分からないが、ルナール男爵夫妻の話が胸の中でぐるぐると渦巻いていた。

 泣いているわたくしを抱き上げて、お父様とお母様が優しく自分たちのベッドの真ん中に寝かせてくれる。


「マティルダ、今日はセラフィナはわたしたちと眠る。明日の朝迎えに来てやってくれ」

「心得ました」

「セラフィナ、怖い夢を見ましたか? わたくしたちがいますよ」


 優しくお父様とお母様に迎え入れられて、わたくしは泣きながらお父様とお母様のベッドで眠ってしまった。

 何かあればいつでも来ていいというお父様とお母様の言葉は本当で、お父様もお母様も真夜中にわたくしがやってきても少しも嫌がったり困ったりしなかった。


 朝になるとお父様とお母様はもういなかったけれど、マティルダさんが迎えに来て、子ども部屋まで連れて帰ってくれた。

 ミカはまだ眠っていて、わたくしがいなくなったことに気付いていない様子だった。


 お手洗いに行って、顔を洗って、着替えをして、朝食の席につくころには、わたくしはもう落ち着いていた。

 ルナール男爵夫妻がアルベルト様の馬車襲撃に関わっていたとしても、アルベルト様はクラリッサを疑っていなかった。クラリッサが手引きしたとは思っていないようだ。

 前世のわたくしもそんなことは聞かされていなかったし、ルナール男爵家を出た時点で縁は切れたようなものだったから、ルナール男爵夫妻がアルベルト様の馬車襲撃事件に関わっていたことを知らずに驚いたくらいだった。


 自分たちの手でクラリッサが死ぬように取り計らっておきながら、ベルンハルト公爵家にはクラリッサを死なせた慰謝料をもらいに行く厚顔無恥な両親が、ひたすらに憎く、恥ずかしかった。


 ラファエルお兄様もアルベルト様も、わたくしの前では怖い話はしないと決めているようだし、これ以上の話を聞くには、工夫しなければいけないだろうが、わたくしはルナール男爵夫妻がどうなって、ルナール男爵家がお取り潰しになるのかどうかははっきりと聞いておきたいと思っていた。


 朝食を食べると、わたくしは自分の部屋に行ってバロワン先生が来るのを待つ。バロワン先生が来ると、わたくしは新年のご挨拶をした。


「バロワンせんせい、しんねんおめでとうございます。ことしもよろしくおねがいします」

「セラフィナ殿下、ご丁寧にありがとうございます。こちらこそ、今年もよろしくお願いします」


 バロワン先生はその日はわたくしに歴史の授業と算数の授業をしてくれた。

 数字はほぼ書けるようになっていたし、文字もかなり書けるようになっていたので、それは自主練習ということにして、バロワン先生がいないとできないことをする。

 算数の問題はわたくしには簡単すぎるのだが、あまりにできすぎると不自然なので、指を折って数えるふりをしたり、躓くふりをしたりして、四歳児らしい反応をしていた。

 間違えたとしても、バロワン先生はわたくしを叱ったりしなかった。


「セラフィナ殿下、この問題はもう一度見直してみましょう」

「はい。あ、まちがっていますね。こたえは、こっちでした」

「そうですね。これで全問正解です。よく頑張りました」


 バロワン先生はわたくしが間違っていても、簡単に×をつけたりしなかった。見直しをさせて、全問正解になるようにしていくのだ。

 四歳児に対する勉強の教え方なのだろうが、バロワン先生のおかげでわたくしは勉強が楽しいだけの時間になっていた。


「今日は午後に礼儀作法の勉強に参ります」

「そのときはよろしくおねがいします」

「それでは、今日の午前の授業は終わります」

「ありがとうございました」


 挨拶をしてバロワン先生が部屋を出て行くのを見送って、わたくしは今日の勉強のノートを見直す。算数は簡単すぎたが、歴史の授業は本当に面白かった。自分が知らないことを教えてもらうというのがどれだけ幸せなことか、わたくしは実感していた。

 平民も通う学校では文字の読み書きと計算が主で、それ以上のことはほとんど教えてもらえなかった。わたくしは十五歳まで生きていたが、この国の歴史や地理は全く知らなかったのだ。

 アルベルト様と一緒に家庭教師から習ったときに少しだけ教えてもらったこともあったが、それも記憶がおぼろげになってきている。


 ノートを纏めて子ども部屋に戻ると、ミカがわたくしを待っていた。


「ねぇね、ねぇね!」


 嬉しそうにとてとてと歩いてきてわたくしに抱き着くミカを、わたくしも抱き締める。


「セラフィナ殿下に絵本を読んでほしかったようなのです。わたくしが読んで差し上げたのですが、セラフィナ殿下がよかったようで」


 オレリアさんがわたくしに何冊かの絵本を見せてくる。どれもミカの好きな絵本だったが、わたくしが読んだ方が面白かったのだろうか。


「ミカ、えほんをよみましょうか」

「あい!」


 オレリアさんから絵本を受け取って、わたくしはミカに読んであげた。ミカは金色の目をきらきらさせて聞いていた。


 昼食の後、お昼寝をして、目が覚めたらお茶の時間で、お茶をしてからわたくしは自分の部屋に行って礼儀作法の授業を受ける。

 礼儀作法の授業では、敬語の使い方や、目上のひとに対する態度、皇女としての振る舞いなどを教えられる。

 どれも前世で習ったこととは全く違うので、わたくしはついて行くのに必死だった。


「背筋を伸ばして、足元を見ないようにして、床に引かれた線を両足で挟むようにして真っすぐに歩くのです」

「は、はい」


 歩き方から、座り方、立ち方まで、細かなルールがある。

 四歳のわたくしには難しいことも多かったが、バロワン先生は叱ることなく、「ゆっくりと練習していきましょう」と促して、わたくしに教えてくれた。

 歩くので疲れたわたくしが休憩中に、バロワン先生に聞いてみた。


「きぞくのいえがおとりつぶしになったら、どうなりますか?」

「領地を持っていた場合には国に返還されます。財産も同じくです」

「とうしゅがはんざいをおかしていたばあいには、どうなりますか?」

「当主は裁かれます。警察が取り調べに入って、罪が立証されましたら、裁判が行われます。裁判は分かりますか?」

「さいばん……さいばんかんにさばきをうけるのですよね?」

「そうです。警察が集めた証拠が正当性のあるものかを審議して、裁判官が刑を決めます」


 裁判の制度などについてはわたくしもあまり知識がないのでバロワン先生に聞いているのだが、バロワン先生は唐突な問いかけにも真摯に答えてくれた。


「セラフィナ殿下は裁判の制度に興味がおありですか?」

「はい、あります」

「それでは、午前の授業にそういう内容も入れていきましょう」


 どうして興味があるのかとか、何で知りたいのかとか理由を聞かずに、バロワン先生はわたくしが興味があるからという理由で裁判の制度も教えてくれるようだった。

 ルナール男爵家がどうなるのかわたくしは知りたい。

 わたくしは、ルナール男爵家の娘だった前世があるがゆえに、ルナール男爵家の行く末は見届けたかった。


読んでいただきありがとうございました。

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