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転生皇女セラフィナ  作者: 秋月真鳥
二章 ミカエル誕生

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28.バロワン先生の授業

 バロワン先生の授業は楽しい。

 二日目から、わたくしが読む本をバロワン先生が選んできてくれていた。それはこの国の歴史を簡単にしたものと、この大陸の地理を簡単にしたもので、わたくしは早く読みたくて仕方がなかった。

 音読をするように言われているので、声に出して読んでいると、この国の歴史が分かってくる。

 かつてはこの大陸にはたくさんの国があった。それを統一したのがこのセレスティア帝国だった。統一するときにストラレイン王国とカラステア王国が協力してくれて、この二国は今もセレスティア帝国の中で、属国として存在している。

 三国の結びつきは強く、一時期は政略結婚も盛んだったが、今はそれぞれの血筋を守ることを大事にして、国外に王族や皇族を嫁がせることはないようだった。


 歴史の本を読んでいて、わたくしは属国であるストラレイン王国やカラステア王国に嫁がされることはないのだと安心する。わたくしも皇女として生まれたからには、誰かと政略結婚をしなければいけないのだと思っていたが、お父様とお母様は学園で出会ってお互いに好きになって結婚をしたようだし、ラファエルお兄様もアンリエットお義姉様のことを好きになって婚約した。

 政略結婚を絶対にしなければいけないなんてことはないのかもしれない。


 地理の本も合わせて読んだが、この大陸の他にも別の大陸があること、その大陸とは交易がされていることなどを学ぶことができた。


 わたくしは歴史も地理もほとんど習ったことがなかったので、この国が一つの大陸を制定してできた国だというのもよく知らなかったし、他の大陸があるというのも知らなかった。


 たくさん知識を手に入れて満足したところで、苦手な文字と数字の練習が始まる。

 読むのは簡単なのだが、書くのは難しい。わたくしの手は手首が安定していなくて、ペンを持つのに慣れていないのだ。

 ぐにゃぐにゃになってしまう文字を、バロワン先生が辛抱強く何度も練習させる。

 一時間の授業時間が終わるころには、わたくしは手首と肩が痛くなっていた。


「明日、今日勉強したところを復習しましょう。今日はこれで終わりです」

「ありがとうございました」


 バロワン先生は厳しいわけではないが、きっちりとしている。わたくしに対しても、子どもに対するような態度はとらなくて、教師と生徒という立場で接してくれている。

 前世で学びたかったことを学べるし、バロワン先生は家庭教師としてわたくしにフラットな態度で接してくれるし、わたくしはとても満足していた。


 その日の夕食は、お父様とお母様とラファエルお兄様と食堂で食べた。

 ミカはまだ食堂では食事ができないようだ。ミカがいないのを残念に思いながら食べていると、お父様とお母様が聞いてきた。


「家庭教師が来たようだが、どうだったかな?」

「疲れていませんか?」

「まだふつかめですが、とてもたのしくべんきょうしています。しらなかったことをしることができて、とてもうれしいです。バロワンせんせいはわたくしをこどもあつかいしないで、わたくしにあったじゅぎょうをしてくれています」


 わたくしが報告すると、お父様とお母様は微笑んで頷き合っている。


「家庭教師を探すのに苦労したんだよ」

「バロワン伯爵の次女が名乗り出てくれたのです」

「はくしゃくけのかただったのですか!?」


 バロワン先生は伯爵家の娘だった。

 わたくしに対しても物おじしないで接してくるとは思ったのだが、貴族だったのだ。

 皇女の家庭教師ともなると貴族が選ばれるのかもしれない。


「礼儀作法も教えてくれると思うから、しっかりと学びなさい」

「セラフィナならば大丈夫ですよ」

「はい、おとうさま、おかあさま」


 伯爵家の娘ともなれば、礼儀作法もしっかりと教えてくれるだろう。バロワン先生について学んでいこうとわたくしは思っていた。


「家庭教師を呼ぶのであれば、少し早いですが、セラフィナに一人部屋を用意した方がいいかもしれません」

「子ども部屋では勉強の間、ミカエルがいて気が散るかもしれないね」


 お母様の提案に、お父様が答えている。

 わたくしはもう子ども部屋を卒業しなければいけないのだと思うと寂しくて、お父様とお母様に言っていた。


「べんきょうのときだけ、じぶんのへやにいて、それいがいのじかんは、ミカといっしょにすごしたいです。わたくし、ミカがだいすきなのです」

「そうだな。急にセラフィナがいなくなると、ミカエルも寂しがるだろう」

「セラフィナもその年で一人部屋で寝るのは寂しいかもしれませんね」


 わたくしは勉強のときには集中したい思いはあったが、それ以外の時間、ミカから離れるのは嫌だった。子ども部屋を卒業してしまえば、エリカとも離れなければいけないかもしれない。エリカがわたくしの部屋に来ることになったら、今度はミカがエリカと離れなければいけなくなる。

 そのどちらも望んでいなかったので、わたくしは勉強の時間以外は子ども部屋で過ごせるようにお願いした。

 お父様もお母様もそれに納得してくれた。


 翌日、起きて顔を洗って着替えて、朝食を食べ終わって、わたくしは用意されたわたくしの部屋にマティルダさんに連れて行ってもらった。四歳になっていたが、まだまだ階段は高くて危険だったし、抱っこで上がってもらった。

 二階のラファエルお兄様の隣の部屋の鍵が開けられて、わたくしのために用意されていた。

 よく磨かれた飴色の机と座り心地のよさそうな布張りの椅子。机の上にはブックエンドがあって本が立てられて、ペンもケースに入れられて用意されている。


「おはようございます、セラフィナ殿下」

「おはようございます、バロワンせんせい」


 バロワン先生が部屋に来たので、わたくしは姿勢を正してお辞儀をした。バロワン先生も優雅に一礼する。

 わたくしが椅子に座って、バロワン先生が立って授業が始まった。


「この大陸を統一したときに協力した三つの国を答えてください」

「セレスティアていこくと、ストラレインおうこくと、カラステアおうこくです」

「その後、ストラレイン王国とカラステア王国はどうなりましたか?」

「セレスティアていこくのぞっこくとなりました」


 わたくしが答えると、バロワン先生が納得したように頷いて「よく覚えていました」と褒めてくれた。

 その後で地理の問いかけもされたが、わたくしは問題なく答えることができた。


 文字を書くのは難しく、まだぐにゃぐにゃだったが、少しずつ形にはなってきている。数字の方がまだ書きやすかったので、わたくしは先に数字を習得することになった。

 数字が大きなマス目いっぱいに書けば何とか形になるようになったのを確かめて、バロワン先生がわたくしに問いかけた。


「リンゴが三つ、ミカンが二つあります。合わせて何個でしょう?」

「いつつです」

「それでは、リンゴが四つ、ミカンが三つでは?」

「えっと……ななつです」


 すぐに答えてはいけない。

 わたくしははっとした。

 バロワン先生に違和感を持たれてはいけない。わたくしは指を折って数えるふりをしながら答えた。

 算数を習ったことがない四歳児が急に答えられるのはおかしいだろう。


「計算もできそうですね。明日から少しずつ練習していきましょう。今日はこれで終わりです。ありがとうございました」

「ありがとうございました、バロワンせんせい」


 夢中になって勉強していると一時間はあっという間に過ぎてしまう。

 もっともっと勉強したい気持ちはあるのだが、三十分本を読んでその本の答え合わせをして、三十分文字や数字を書いていると、四歳の体がくたくたになってしまう。もっと勉強したいのに、手首や肩は強張ってしまうし、足も動かしたくてそわそわしてしまう。

 四歳児には一時間が限界なのだろう。


 勉強が終わるとバロワン先生は部屋から出て行った。


「マティルダさん、わたくしのおへやを、すこしみてからもどってもいい?」

「もちろんですよ、セラフィナ殿下」


 マティルダさんに許可を取って、わたくしは用意されている自分の部屋を見て回った。

 カーテンもベッドカバーも明るい空色で、部屋の中は日当たりがよくとても気持ちいい。暖炉もあるし、ベッドには天蓋がついていて、わたくしは見上げてうっとりとする。天蓋からは白いレースの垂れ幕が下がっていた。


 ソファセットも空色の布張りで、座り心地がよさそうである。ローテーブルはきれいな木目の明るい茶色だった。


「とてもすてきなおへや。おかあさまがよういしてくださったのかしら」

「皇后陛下がセラフィナ殿下の過ごしやすいように用意されたと聞いています」

「このへやに、エリカをつれてくることはできる?」

「犬用のトイレを用意しないといけませんね。皇帝陛下と皇后陛下に相談してみてください」


 部屋を見て回って満足したわたくしは、子ども部屋に連れて帰ってもらった。

 わたくしが不在だったことに気付いたミカが、わたくしの元に駆けてくる。


「ねぇね! どぉこ?」

「わたくしのへやで、おべんきょうしていました」

「みー?」

「ミカもわたくしのへやにあそびにきてくださいね。おとうさまとおかあさまにおねがいして、エリカもこられるようにしましょう」

「ねぇね、おへや!」


 ミカに話しかけると、ミカは嬉しそうにしていた。

読んでいただきありがとうございました。

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