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転生皇女セラフィナ  作者: 秋月真鳥
二章 ミカエル誕生

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27.家庭教師のバロワン先生

 わたくしの四歳のお誕生日のお茶会が終わった後で、アルベルト様は子ども部屋に顔を出してくれた。

 子ども部屋にはラファエルお兄様も一緒に来ていた。

 子ども部屋で着替えを終えて遊びだしたミカに視線を向けつつ、アルベルト様がわたくしに話しかける。


「セラフィナは、寂しかったり、悲しかったりしませんか?」

「わたくしが?」

「はい。下の子が生まれてその子が注目されると、上の子は寂しかったり、悲しかったりするものだと聞きました」


 アルベルト様の心配に、わたくしは笑ってしまう。


「わたくし、へいきです。ミカはとてもかわいくて、わたくしのだいじなおとうとです」

「すっかりとお姉さんになられて。困っていることがあったら言っていいのですよ?」

「こまっていることはありません」


 ミカが生まれてからもわたくしはラファエルお兄様からもお父様からもお母様からも愛されているし、ミカもわたくしのことが大好きだし、寂しいと思ったことはなかった。

 家族に愛されているおかげでわたくしは自己肯定感が強いようだった。


「おにいさまとわたくしがちがうように、ミカとわたくしもちがいます。おとうさまもおかあさまも、ちがうものとしてあいしてくれています」

「セラフィナは四歳とは思えない大人びたことを言うので驚いてしまいます」

「セラフィナはわたしを超える才女かもしれないよ。家庭教師がついたら、すぐにわたしなど追い越されてしまいそうだ」


 ラファエルお兄様が悪戯っぽく言うのに、わたくしはくすくすと笑う。わたくしは前世の記憶があるから四歳にしては賢いだけで、大きくなるにつれて凡人になるのは決まっているようなものだった。

 前世の記憶があることを悟られることなく、不自然ではないように勉強を進めて行って、皇女に相応しい学力を身に付けなければいけない。

 わたくしはラファエルお兄様のようになることは難しいかもしれないが、皇女として恥ずかしくないレベルには到達したいと思っていた。


「おにいさま、アルベルトおにいさま、かていきょうしはわたくしになにをおしえてくれるの?」


 ラファエルお兄様とアルベルト様に聞いてみると、答えてくれる。


「最初は文字の読み書きからだろうね」

「読むのはできるようですから、書くことを教えられると思います」

「それから、難しい単語を覚えたり、辞書を引くことを覚えたり、歴史の本を読みだしたりするんじゃないかな」

「家庭教師によって進め方は変わってくるでしょうが、たくさんのことを教えてもらえると思いますよ」


 二人の説明にわたくしは小さな胸を押さえる。

 家庭教師が来るのは明日からだが、それが待ちきれないくらい楽しみだった。


 前世ではわたくしは十分に学ぶことはできなかった。

 平民の学校では学んでいたが、それは生活に則した読み書きや計算だけで、歴史などはほとんど習っていない。高位貴族に方向に出すと決めていたようなので、マナーだけは教えてもらっていたが、その教師も態度が悪く、機嫌が悪いとわたくしが間違っていなくても腕を出させて、そこを定規で叩いた。


 前世のわたくしはもっと学びたいと思っていた。

 学園にも進学したかったし、高等教育が受けたいと思っていた。


 今世のわたくしはせっかく学ぶ場を与えられるのだから、大事にしなければいけないと思っていた。


 翌日の午前中から家庭教師の先生がやってきた。

 ほっそりとした女性で、髪を後頭部でひっ詰めている。


「クレマンス・バロワンです。お初にお目にかかります、セラフィナ殿下」

「セラフィナ・アストリアノスです」


 先生にわたくしが頭を下げると、先生は目を細めた。

 焦げ茶色の髪に焦げ茶色の目の三十歳くらいの若い先生だった。


「わたくしのことはバロワンとお呼びください」

「はい、バロワンせんせい」

「それでは、セラフィナ殿下がどれくらいの学力をお持ちか、見せてください。この本は読めますか?」


 バロワン先生が取り出したのは、わたくしがミカに読み聞かせているような簡単な絵本だった。わたくしは絵本を受け取ってすらすらと読んでみせる。


「バロワン先生、セラフィナ殿下はそれくらいの絵本でしたら、ミカエル殿下に毎日読み聞かせています」

「ねぇね!」


 マティルダさんがそっとバロワン先生に耳打ちしている。

 絵本を読んでいるのに気付いたミカが、わたくしの椅子の下に歩み寄って、熱心に絵本を聞いている。わたくしはつっかえることなく最後まで絵本を読み終えた。


「とてもお上手ですね。普段読んでいる本を持って来てくれますか?」


 バロワン先生に指示されてわたくしは本棚から読んでいる本を持ってきた。かなりの分厚さがあって、文字も小さく、わたくしの腕力では支えきれないので、エリカに寄りかかって膝の上で広げて読まなければいけない作品だった。

 冒険もので少年と少女が竜に乗って旅をするのだ。


「これを読んでいるのですか?」

「はい。まいにちすこしずつですが、よみすすめています」


 わたくしが言えば、バロワン先生はとても驚いた様子だった。


「これは六歳から十二歳くらいの子どもを対象とした作品……これを読み聞かされるわけではなく、自分で読んでいるのですね?」

「はい。む、むずかしいので、すこしずつですが」


 いけない。

 わたくしは四歳の能力を超えたことをしすぎたかもしれない。

 わたくしが慌てていると、バロワン先生はすぐに気を取り直して、わたくしに軸の太いペンを持たせてくれる。ペンを握ると、紙が用意されて、バロワン先生が促す。


「書ける文字を書いてみてください」

「かくのはむずかしくて」


 書ける文字がないわけではない。むしろ子どもの絵本に書かれているような文字は全て把握はしている。

 それでも、わたくしは書けると言えなかった。

 手首が安定していなくて、文字の形にならないのだ。


 試しにいくつか文字を書いてみると、バロワン先生がそれを見て判断している。


「確かに、文字を書くのは難しいようですね。これから練習していきましょう」

「はい。よろしくおねがいします」

「算数をしたことがありますか?」

「さんすう、ですか?」


 ない。

 この体に生まれ変わってからは、わたくしは計算をしたことはない。

 不自然にならないように、わたくしは算数が分からないふりをした。


「さんすうとは、なんでしょう?」

「数を数えることはできますか?」

「はい。できます」


 わたくしが指を降りながら十まで数えて、指を開きながら十一に折り返して、全部開いて二十を数えると、バロワン先生が頷く。


「数を数えることはできるようですね。その数を足したり引いたりかけたり割ったりするのが、算数です」


 その辺までは平民の学校にしか通っていなかったとはいえ、わたくしは勉強していたので理解できた。でも、皇女のセラフィナはそんなことを習っていなかったので、分からないふりをする。


「文字と数字を書くところから始めましょう。数字は読めますか?」

「はい、よめます」


 その日はほとんど確認で終わってしまったがバロワン先生はマス目の大きなノートを持ってきていて、わたくしが大きな字を書いて練習できるように用意してくれていた。


「セラフィナ殿下は聡明ですが、まだ四歳です。無理をしないように、今日はこれで終わります。明日、また文字の練習と数字の練習をしましょう」

「ありがとうございました」


 一日目の授業は順調に終わったようだった。

 授業の間もミカが興味津々で足元に聞きに来ていたが、邪魔をされるようなことはなくて、わたくしは安心していた。

 これから毎日バロワン先生と勉強ができる。

 まだしばらくは午前中の一時間だけだろうが、そのうちに午後も一時間勉強ができるようになるだろう。


 最初は誤魔化しながらやらなければいけないが、歴史の勉強などが出てきたら、きっとわたくしは夢中になってしまう。

 そんな予感しかしていなかった。

読んでいただきありがとうございました。

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