25.セラフィナとミカエルの日常
ミカが一歳になってから、わたくしは子ども部屋でミカと過ごす時間が少し変わった。
一歳になってから、ミカは小さく切れば大人と同じものを食べられるようになっていた。わたくしとも食事は同じものになったし、食事の回数も、朝食の後に午前中に午前食を入れる他は、わたくしと同じように昼食を食べて、お茶の時間をして、夕食を食べてという風になった。
それまではミカはわたくしが食べているものに興味津々で、手を伸ばしてくることがあったが、わたくしの分はわたくしの分なのでミカには分けられずにいた。それが同じものを食べられるとなると、ミカも嬉しい様子だった。
朝食のパンを千切ってもらって、それをミカが手で摘まんで食べているところに、オレリアさんがそっとスープやおかずを口に運ぶ。食いしん坊なためか、ミカは食べるのには熱心で、食べるのもとても上手で、零したり、遊んだりすることはなかった。
一生懸命噛んで、飲み込んで、オレリアさんが運んで来るスープやおかずを大きな口で受け入れて、ミカは毎日ふくふくと育っていた。
わたくしももうすぐ四歳になるので、背も伸びたし、体も大きくなったはずだが、ミカの成長の速度には驚かされていた。
わたくしは一歳のときには食後に午前睡をしていた記憶があるのだが、ミカは食後に眠らない。
元気に起きていて、わたくしがエリカに寄りかかって本を読んでいると、ぐいぐいと横に入ってきて、本を覗き込む。
わたくしが読んでいる本はミカには難しいものばかりなので、ミカが来るとわたくしは別の簡単な絵本に変えて、声を出して読んであげる。
「これは、りんごです」
「おいち!」
「りんごはおいしいですね」
「あい」
少しずつだがコミュニケーションが取れるようになってきているのもミカがかわいくてたまらない。
絵本に飽きてしまうと、ミカはエリカのお腹から抜け出してオレリアさんと積み木をしたり、ぬいぐるみで遊んだりしているが、奇声を上げたり、急に走りだしたりすることはない。
ルカ様は一歳で会ったときに絵本を破ろうとしたり、走り回ったりしていたが、ミカはそんなことはなさそうだ。絵本を読んでいても破ろうとしたことは一度もない。
ミカと子ども部屋で過ごしていると、学園から帰ってきたラファエルお兄様がわたくしたちに会いに来てくれることがある。
ラファエルお兄様は子ども部屋に入ると、わたくしとミカを順番に抱き締める。
「ただいま、セラフィナ、ミカエル」
「おかえりなさい、おにいさま」
「にぃに!」
わたくしもラファエルお兄様が大好きだが、ミカもラファエルお兄様のことが大好きである。
「にぃに、らっこ!」
「抱っこしてほしいの? いいよ」
両腕を広げてラファエルお兄様にねだるミカに、ラファエルお兄様は軽々とミカを抱っこしてぐるぐると回っている。ミカは抱っこされてぐるぐると回ってもらうのが大好きなのだ。
「きゃーっはっはっは!」
「ミカエル、楽しい?」
「きゃっきゃ!」
声を上げて笑っているミカに、わたくしもしてもらっていたなと思っていると、ミカを降ろしたラファエルお兄様がわたくしの方に手を伸ばす。
「おいで、セラフィナ」
「わたくしもいいのですか?」
「いいよ」
ラファエルお兄様に抱っこされてぐるぐる回ると、楽しくて自然と笑い声が出てしまう。
わたくしとミカは順番に何度もぐるぐると回してもらった。
「ミカエル、絵本を読んであげる。セラフィナには、ミカエルの絵本が終わってから読もうね」
わたくしが読んでほしい本と、ミカが読んでほしい本は違うので、ラファエルお兄様はちゃんと分けて読んでくださる。
「もいっちょ」
「もう一回だけだよ」
「あい」
ミカは同じ本を何度も読んでもらうのが好きなので、ラファエルお兄様はミカのお気に入りの短い絵本を何度も読んでいた。
ミカが満足すると、わたくしの番になる。
わたくしにはラファエルお兄様は長くて分厚い本を読んでくださる。
一回では読み終わらないので、章ごとに分けて、栞を挟んでおく。
「かわいいミカエル、セラフィナ、それじゃ、わたしは学園の宿題を終わらせてくるから、またね」
「にぃに、にぃに!」
「おにいさま、ありがとうございました」
ラファエルお兄様を後追いしようとするミカはオレリアさんに抱き留められて、わたくしはラファエルお兄様に手を振る。
夕食はミカはまだ食堂では食べられないが、わたくしは食堂に呼ばれてお父様とお母様とラファエルお兄様とご一緒することもある。
それ以外の日はミカと一緒に子ども部屋で食べる。
夕食後はミカとわたくしが順番にお風呂に入って、ベッドで休む。
そんな日々が続いていた。
暑い夏が過ぎて、季節は秋に入りかけている。
子ども部屋の庭にお散歩に行くときに、暑くて汗が流れていたが、最近は風が涼しくなって過ごしやすくなっていた。
もうすぐわたくしの四歳の誕生日が来る。
誕生日に向けて、わたくしとミカは準備を進めていた。
衣装はミカの誕生日に開かれた一歳のお披露目のときに着たもので構わなかったが、わたくしの誕生日にはミカも参加してほしいし、リヴィア嬢やルカ様とも会いたい。
わたくしはお父様とお母様にお願いしてみることにした。
「わたくしのおたんじょうび、ミカもさんかできるようにしてほしいのです。それに、リヴィアじょうやルカさまともおあいしたいです」
わたくしはまだ四歳になるところなので、正式なお茶会は開かれない。お父様とお母様が招待した方々とだけのお茶会が開かれるのだ。
「今年もアルマンドール公爵家と、ベルンハルト公爵家と、ルクレール公爵家を招待しようか」
「もちろん、ミカエルも参加できるようにしましょうね」
お父様もお母様もわたくしのお願いを聞いてくれるようだった。
わたくしは感謝しつつ、子ども部屋のソファに座っているお父様のお膝に乗り上がっているミカを見つめる。長時間は無理だろうが、食べ物があればミカは短時間ならば大人しく椅子に座っていられる。
ミカは小さく切ってあげれば大人と同じものが食べられるようになったので、お茶会に参加するのも問題はないだろう。
「セレナ、セラフィナのことなのだが、セラフィナはとても賢いので、そろそろ家庭教師をつけてもいいのではないかな?」
「そうでした。セラフィナに相談したかったのです」
お父様とお母様の申し出に、わたくしは身を乗り出す。
わたくしに家庭教師がつく!?
前世では六歳から平民の通う学校に行って勉強していたわたくしは、貴族なのに家庭教師から勉強を習ったことがない。普通の貴族ならば、家庭教師を雇って、子どもの教育をして、十二歳になると貴族や皇族が通う学園に入学させるのだが、前世の両親はそんなことは全くしてくれなかった。
「セラフィナは二歳のころから文字が読めたし、文字を書くのもすぐに覚えられるだろう」
「ラファエルは五歳から家庭教師をつけたのですが、セラフィナは賢いようなので、四歳の誕生日から家庭教師をつけるのはどうかとヘリオドール様と話していたのです」
「わたくし、おべんきょうができるの?」
「そうだよ。家庭教師がセラフィナに知らないことを教えてくれる」
「ラファエルの話では、難しい本も読み聞かせたら理解しているようなので、セラフィナの知識欲を満たしてくれる相手が必要かと思ったのです。セラフィナ、家庭教師の先生について勉強する気がありますか?」
「はい! わたくし、おべんきょうしたいです」
皇族の教育は平民の学校とは全く違うだろう。ずっと子ども部屋で遊んでいるだけではつまらなかったわたくしにとっては、勉強できる時間が持てるということはとても嬉しいことだった。
「始めは一時間だけ、慣れて来たら、午前一時間、午後一時間に増やそう」
「セラフィナに無理のないようにしたいですね。困ったことがあったらいつでも話してくださいね」
お父様もお母様もわたくしに無理のないように勉強を進めてくれるようだ。
わたくしは前世の記憶を出しすぎて変に思われないように気を付けながら、勉強を進めていきたいと思っていた。
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