24.ミカエルの一歳のお披露目
初夏の日差しが強い晴れの日に、ミカの一歳の誕生日がきた。
その日は朝から大忙しだった。
オレリアさんがミカに朝食を食べさせて、わたくしも一緒に朝食を食べる。
ミカは分かっているのか、いないのか、興奮した様子でテーブルを叩いていた。
朝食が終わると、顔と手を洗って、着替えをする。
わたくしは薄茶色のドレスに、ミカは白いシャツに臙脂色の短い丈のズボンをはかされる。
ルームシューズではない硬い革靴を履いて、ミカは歩きにくそうによちよちとしていた。
薄茶色のドレスを着たお母様と、純白の肋骨服を着たお父様がやってきて、ラファエルお兄様もワインレッドのフロックコートを着て、子ども部屋にやってきた。
お父様がミカを呼ぶ。
「ミカエル、お誕生日おめでとう。今日はミカエルのお披露目だよ」
「あい! ぱっぱ!」
「ミカエル、お返事が上手になりましたね。一歳おめでとうございます」
「まっま!」
「ミカエル、おめでとう」
お父様とお母様とラファエルお兄様がミカにお祝いを言っているのを聞いて、わたくしもお父様に抱っこされたミカを見上げてお祝いを言う。
「おめでとうございます、ミカちゃん」
「ねぇね!」
どうして祝われているのかよく分からない様子だが、ミカはみんなに注目されて嬉しそうににこにこしていた。
お父様がミカを抱っこして、ラファエルお兄様がわたくしを抱っこして宮殿の大広間に移動する。
大広間にはテーブルと椅子が用意してあって、ミカ用の椅子もわたくし用の椅子もあった。ミカのためにベビーベッドも用意されている。
「今日はわたしの息子、ミカエルのために集まってくれて感謝する。ミカエルも無事に一歳を迎えられた。ラファエル、セラフィナ、ミカエルの生きるこの国が平和で幸せなものとなるように、今後とも努力していきたいと思う」
皇帝としてのお父様は、家族を幸せにしたいという思いで国を治めている。この国を平和で豊かにすることこそが、わたくしたちの幸せだと信じているのだ。
国民のためとか言う方が皇帝として相応しいのかもしれないが、お父様の言葉はわたくしの胸に響いた。
アルマンドール公爵家のアンリエットお義姉様とニコ様がミカに挨拶に来る。
「ミカエル殿下、おめでとうございます。皇帝陛下もこんなにかわいいミカエル殿下がいてお幸せですね」
「ミカエル殿下、一歳おめでとうございます」
アンリエットお義姉様とニコ様に挨拶されて、お父様が微笑んでいる。
「ラファエルが生まれたときもこんな幸せなことがあっていいのかと思ったが、セラフィナが生まれて女の子とはこんなにかわいいのかと実感して、ミカエルでまた幸せを感じている。ミカエルにお祝いをありがとう。わたしもミカエルが健康で成長して幸せだ」
お父様に抱っこされているミカはお父様の肋骨服の紐を引っ張って遊んでいるが、お父様はその様子を目を細めて幸せそうに見詰めていた。
お茶会が始まると、ミカは椅子に座らせられて、わたくしも椅子に座ってお茶菓子とお茶をいただく。ミカのお茶はほとんどが牛乳だったが、ミカは口の周りを真っ白にして一生懸命飲んでいた。
食いしん坊なせいか、ミカは食べるのが上手だ。オレリアさんがミカのためにお茶菓子を切ってあげると、上手に手で摘まんで口に入れている。手が汚れるのは仕方がないので、オレリアさんがこまめに拭いているが、ミカはお茶菓子を食べるのもお茶を飲むのもとても上手だった。
「ミカエル殿下、おめでとうございます。今日はセラフィナ殿下も参加されているのですね」
「弟のミカエルのお披露目に、姉のセラフィナが参加できないのはかわいそうだと思って。セラフィナは大人しくていい子だから特別に参加させることにした」
「セラフィナ殿下は淑女ですからね」
アルベルト様が挨拶をしに来ているのを聞いて、わたくしはちょっと誇らしい気持ちになる。アルベルト様はお父様とミカに視線を向けているが、わたくしがじっと見ていると、わたくしの方にも目を向けた。
薄茶色にも見える琥珀色の目がわたくしを見ている。
そういえばわたくしは今日は薄茶色のドレスを着ているし、リボンもアルベルト様にもらった薄茶色のものを結んでいるので、アルベルト様の色と誤解されないだろうかとドキドキしてくる。
「セラフィナ殿下は、皇后陛下とお揃いのドレスなのですね」
「おかあさまとおそろいでつくってもらいました」
「とてもお似合いです。そのリボンはわたしが差し上げたものですか?」
「はい。ドレスにあうとおもったので、これにしました」
どうやらアルベルト様の色を付けているとは指摘されなかった。
アルベルト様がわたくしに目を向けて話してくださると、わたくしは妙にほっとする。
アルベルト様の視線を奪っておきたいわけではないが、前世の記憶があるせいか、アルベルト様のそばにいると安心するのかもしれない。
「アルベルトおにいさまのいしょうも、すてきです」
アルベルト様は夏に相応しい爽やかな青いフロックコートを身に付けていた。その姿がなんとも言えず格好いい。
「お褒めに預かりありがとうございます。今日のお茶会、楽しんでくださいね」
「はい、ありがとうございます」
アルベルト様が自分の席に戻ると、少し寂しさを感じる。
わたくしは成長に伴ってクラリッサの記憶は薄れてきているはずなのに、アルベルト様への気持ちは変わっていないのだろうか。
恋愛的なものではなく、弟に対するようなものだったが、わたくしはアルベルト様を慕っていた。アルベルト様もわたくしによく懐いてくれていた。
初めて出会ったアルベルト様が七歳でわたくしが十二歳のときのことは、記憶が薄れかかっているが、まだかろうじて覚えている。
貴族の娘で、アルベルト様と年が近いということで、アルベルト様付きのメイドになったわたくしに、アルベルト様は不安そうにしていた。七歳のころのアルベルト様は両親に愛されているか分からずに、自信がなかったのだ。
今のアルベルト様はあのころとは全く違う。
年齢も十四歳になったし、堂々としている。両親からも愛されているとしっかりと理解している。
来年にはアルベルト様は十五歳。
前世でわたくしが死んだ年齢と同じになる。
十五歳になったら、アルベルト様はデビュタントに参加して、社交界デビューをする。
そうなると、アルベルト様と婚約したい令嬢がたくさん出てくるのではないかとわたくしは思っている。
沈んだ表情で、自分は結婚はしないと告げていたアルベルト様。
その気持ちはまだ変わっていないのだろうか。
もし、クラリッサを殺した黒幕が捕まって、アルベルト様が本当の意味でクラリッサの死を乗り越えることができたら、アルベルト様のお気持ちも変わるのではないだろうか。
クラリッサを殺した連中は捕まって処刑されていたが、誰が黒幕かは分かっていない。
ベルンハルト公爵家でも調べているのだろうが、わたくしも何かできないか考えるが、まだ四歳にもなっていない身ではなにもできないと諦める他なかった。
お茶会が終わると、子ども部屋に戻ってわたくしは着替えて少し休んだ。ベッドの脇にエリカが来てくれて守るように床の上に横になる。
お茶会の最後の方は眠かったのか泣いてしまったミカは、着替えさせられてベッドに寝かされるとすやすやと眠っていた。
「ミカちゃん……いいえ、ミカ。もういっさいなのだから、ちゃんづけはおかしいですね。ミカ、ほんとうにおめでとう」
ベッドに近寄って眠っているミカの額にキスをすると、ミカがへにょっと笑った気がした。
赤ん坊は死にやすいので、厳重に守られた皇帝一家であろうとも、一歳になるまでは子どものお披露目はしない。
一歳という節目を超えられたミカに、わたくしは少し安心する。
これからミカはわたくしと一緒に成長していく。
ミカが暴れん坊になっても、ルカ様のようにイヤイヤになっても、わたくしはミカをかわいがるつもりである。
ミカはどんな男の子になるのだろう。
ふわふわの前髪を整えてあげて、わたくしは自分のベッドに戻った。
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