19.ラファエルとアルベルトの誕生日プレゼント
わたくしには打てる手だてがなかった。
侍女のうわさ話で聞いたとか、言い訳をして話をしてみようとしても、侍女が噂話をしているところなど見たことがない。
宮殿の中でも皇帝一家の住む棟に仕える侍女たちは決して無駄口を叩かないし、仕事中に個人的に話をするようなことはない。
クラウディア嬢のときにラファエルお兄様が言っていたが、特にわたくしについている侍女や乳母は、言葉の一つ一つに気を付けて、わたくしに悪い言葉を聞かせないようにしているとも知った。
わたくしは守られているがゆえに情報が入らないのだ。
何も言えないで口を閉じているわたくしに、アルベルト様が琥珀色の目で不思議そうにわたくしを見つめてくる。
「どうしましたか、セラフィナ」
「アルベルトおにいたま、こまってる。わたくち、なにもできない」
「セラフィナはそこにいてくれるだけでいいのです。わたしは癒されます」
アルベルト様がわたくしを抱き上げて椅子に座らせてくれる。
テーブルの上に並べられた今日のお茶菓子は、艶々の苺が乗ったタルトだ。食欲に負けて食べてしまうと、苺の下にカスタードが敷いてあってとても美味しい。
お茶も飲むと落ち着いてくる。
何もできることがないのならば、大人しくしておくことが一番なのかもしれない。
そう思ってわたくしはお茶の時間を楽しんだ。
アルベルト様がミカとエリカにも会いたがっていたので、お茶の時間の後は子ども部屋に一緒に行った。子ども部屋ではエリカがアルベルト様を見て尻尾を振っており、ミカは離乳食とミルクの食事を終えた後でオレリアさんに抱っこされて眠そうにしていた。
「ミカエルも大きくなりましたね」
「ミカたん、かーいーでちょ?」
「そんなことを言うセラフィナもとてもかわいいです」
アルベルト様の中ではわたくしとミカが同じ場所にいるのかもしれない。わたくしは喋って自己主張できるようになっているけれど、三歳などまだ小さくて赤ちゃんだと思われている可能性はある。
わたくしが微妙な表情になっていると、ラファエルお兄様がアルベルト様に囁いている。
「セラフィナはもう三歳なんだから淑女として扱わないと」
「ミカエルと同じようにかわいいと言ってはいけませんか?」
「セラフィナのプライドがね」
ラファエルお兄様はわたくしの気持ちを理解してくれているようである。
「アルベルトが三歳のころ、何を考えてたか覚えている?」
「両親にもっと一緒にいてほしかったと考えていました」
「そんな複雑なことを考えるくらい、三歳っていうのは成長しているんだよ。特にセラフィナは大人っぽいからね。わたしも、三歳のときにもっと複雑な絵本を読みたいと思っていた。セラフィナはもうわたしが六歳くらいのころに読んでいた本を楽しめるんだよ」
ラファエルお兄様に言われて、アルベルト様は考えを変えた様子である。
「失礼いたしました、セラフィナ。セラフィナがかわいいのは当然ですが、ミカエルとはまた違ったかわいさです。セラフィナは淑女ですからね」
淑女と言われてちょっと恥ずかしい気持ちはあったけれど、わたくしはアルベルト様に頷いて答えた。
「わたくち、りっぱなしゅくじょになりまつ」
「やっぱり、かわいい」
「うちの妹がかわいい」
アルベルト様もラファエルお兄様もわたくしを見て膝から崩れ落ちそうになっていた。
わたくし、何かしただろうか。
エリカの世話係がわたくしにジャーキーを渡して、エリカにおやつをあげさせてくれる。
「エリカ、おてて!」
「くぅん」
「おかわり!」
「わん」
「ふせ!」
「きゅう」
エリカはお手を要求されると大人しく右の前足を差し出し、お代わりを要求されると左の前足を差し出し、伏せを命じれば低く伏せる。
「じょーじゅにできまちた」
ご褒美にジャーキーをあげると、ガジガジと齧って食べている。
わたくしはエリカを撫でてたくさん褒めてあげた。
「わたしにもできますか?」
「ジャーキーくだたい」
アルベルト様が興味を持っているので、世話係に促せば、アルベルト様にもジャーキーが渡される。
アルベルト様の前でもお手もお代わりも伏せも上手にできたエリカは、追加でジャーキーをもらっていた。
「ベルンハルト公爵家でも犬が飼いたくなりますね」
「エリカたんかわいーの」
「父上と母上に頼んでみようかな」
アルベルト様が飼う犬はどんな犬なのだろう。
軍用犬で体の大きなものだろうか。
それとも小さな愛玩犬だろうか。
どちらにしてもかわいいのではないかとわたくしは思っていた。
前世のわたくしの両親に関しての情報は、わたくしには入ってこない。
情報だけでも手に入れたいと思っている間に、外の雪は溶け、春になっていた。
春になるとラファエルお兄様のお誕生日がある。
その少し後でアルベルト様のお誕生日もある。
お誕生日プレゼントに頭を悩ませていたわたくしに、お母様が提案してくれた。
「ラファエルのお誕生日とアルベルト殿のお誕生日を別の日にセラフィナが祝えるようにしましょうか?」
「いいのでつか、おかあたま」
「セラフィナはラファエルとアルベルトが大好きでしょう。お茶会には出られないかもしれませんが、セラフィナのために合同お茶会を身内だけで開きましょう」
お母様の提案にわたくしは両手を上げて「やったー!」と喜んだ。
少々はしたなかったかもしれないが、お母様は咎めなかった。
お誕生日お祝いに関しても、お母様が考えてくれた。
「リボンを結ぶのはどうでしょう?」
「リボン?」
「用意したお花に、セラフィナがリボンを結ぶのです」
蝶々のような形のいわゆるリボン結びはできないが、ただ結ぶだけならば特訓すればできないこともないかもしれない。
わたくしはその日からリボンを結ぶ特訓を始めた。
結び方は前世の記憶で分かっているのだが、小さな手がうまく動いてくれない。何度も解けて、うまく結べなくて悲しい思いもしたが、どうにか片結びができるようになった。
後はプレゼントするお花を選ぶだけだ。
お花はわたくしはガーベラを選んだ。
アルベルト様がわたくしにくださったときにとても嬉しかった花だし、華やかでとても美しいのでアルベルト様もラファエルお兄様も喜んでくれるだろうと思っていた。
ラファエルお兄様の誕生日、わたくしはお茶会に参加することができないので、挨拶に来てくれたラファエルお兄様に抱き着いてお祝いだけ伝えた。
「おにいたま、おたんじょうびおめでとうございまつ」
「ありがとう、セラフィナ」
これでラファエルお兄様も十四歳になられるのだ。
わたくしも秋には四歳になるが、ラファエルお兄様は社交界デビューまで一年に迫っている。
前世でわたくしが死んだ年は十五歳。
ラファエルお兄様がその年に近付いているという現実に驚いてしまう。
十五歳のわたくしは、デビュタントにも参加することができなかった。
貴族は十五歳でデビュタントに参加して、皇后陛下と皇帝陛下の前で挨拶をして、社交界デビューをする。
前世のわたくしも貴族の端くれだったが、デビュタントに参加できるような身分ではなかった。両親もわたくしがデビュタントに参加して社交界デビューすることは望んでいなかっただろう。
もしかすると、ベルンハルト公爵夫妻はわたくしがデビュタントに参加することを望んでくれていたかもしれないが、わたくしはその前に死んでしまった。デビュタントは毎年新年のパーティーで行われるので、秋に死んだわたくしは、デビュタントの時期を迎える前に人生が終わってしまったのだ。
わたくしは皇族なのでデビュタントに参加することはないかもしれないが、十五歳になれば社交界デビューができる。
この人生では十五歳になったら無事に社交界デビューができればいいとわたくしは考えていた。
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