18.新年のパーティーとクラリッサの両親
新年のパーティーにはわたくしは出られない。
新年のパーティーの日には、お父様とお母様とラファエルお兄様が子ども部屋に来てくれて、わたくしとミカに挨拶をしてくれた。
「かわいいセラフィナ、ミカエル、今年もよろしく」
「今年もたくさん食べて、たくさん遊んで、たくさん眠って、大きくなりましょうね」
「今年はミカエルの一歳のお披露目もある。楽しみにしてるよ」
わたくしとミカを代わる代わる抱っこしてくれるお父様とお母様とラファエルお兄様に、ミカは嬉しそうにきゃらきゃら笑って、わたくしはしっかりと抱き締め返した。
新年のためにミカはかわいいベビードレスを着せられて、わたくしはお母様とお揃いの菫色のドレスを着ている。
挨拶のためだけだったが、部屋に来てくれたお父様とお母様とラファエルお兄様に、わたくしとミカは確かに愛されているのだと感じていた。
お父様とお母様とラファエルお兄様が式典に行ってしまうと、子ども部屋は急に寒くなったような気がする。
暖炉のそばにエリカを呼んで背もたれにして絵本を読んでいると、侍女がお菓子を持って来てくれた。
朝食から昼食までの時間、わたくしはどうしてもお腹が空いてしまうことが多い。三歳の胃袋は小さくて、すぐにエネルギー不足になってしまうのだ。
「皇帝陛下と皇后陛下から、こちらに届けるように命じられました。式典で出されるお茶菓子です」
ソファのローテーブルに並べられたのは、色とりどりのお菓子で、わたくしはエリカから離れてソファに座った。侍女がすぐにお茶を入れてくれる。丸くて小さくて、わたくしの手の平くらいの大きさだった。そのお菓子をわたくしは食べたことがないので、名前を知らない。
赤いお菓子、紫色のお菓子、ピンクのお菓子、オレンジ色のお菓子……あまりに色がきれいなのでもったいなくて食べれないでいると、侍女が説明してくれる。
「これはマカロンというお菓子です。こちらには苺のジャムが使われています。こちらはブルーベリー、こちらは桃、こちらはオレンジ……」
「しゅごーい!」
色が違うだけでなくて、味まで違うようだ。
大人の一口大くらいのマカロンはわたくしの片手で持てる。
苺のマカロンを手に取ってもしゅもしゅと食べると、しゅわしゅわと口の中で溶けて消えてしまうような食感で、ジャムの味が口の中に残ってとても美味しい。
「おいちい! ミカたんにも!」
「ミカエル殿下には少し早いですね。ミカエル殿下は赤ちゃんせんべいとボーロを食べているので、セラフィナ殿下が全部食べていいのですよ」
四つもあるのだから、ミカにも分けてあげたかったが、ミカはまだ食べられないようなので我慢する。
四つとも食べてしまうと、わたくしはかなりお腹がいっぱいになってしまった。
「おいちかった。おとうたまとおかあたまに、ありがとうってちゅたえてくだたい」
「心得ました。セラフィナ殿下が喜んでお召し上がりになったことも伝えますね」
「おねがいちまつ」
マカロンを持ってきた侍女が下がっていくのを見送って、わたくしとミカは防寒具を身に纏ってエリカと世話係と共に雪の中の庭に散歩に出た。
エリカはその日はわたくしにべったりくっついていて、走って行かなかった。
今日は宮殿は新年のパーティーでひとがたくさん来ているのに気付いているのかもしれない。ひとの出入りが激しいから、エリカは警戒していたのだろう。
ゆっくりと子ども部屋についている庭を歩いて運動すると、子ども部屋に戻って昼食を食べる。
ミカは離乳食とミルクだが、わたくしは温かいシチューとパンだった。寒かったので温かいものを食べるとお腹が心地よくなって眠くなる。
昼食後にお昼寝をして、目を覚ましたときには、子ども部屋に来客があった。
「アルベルトおにいたま! アンリエットおねえたま!」
「少しだけ新年のパーティーを抜けさせてもらって、セラフィナとミカエルに新年の挨拶をしに来ました」
「セラフィナ殿下、ミカエル殿下、今年もよろしくお願いします」
ラファエルお兄様と一緒に、アルベルト様とアンリエットお義姉様が子ども部屋に来てくださっている。
急いでお手洗いに行って、着替えて、わたくしはお二人に挨拶をした。
「ことちもよろちくおねがいちまつ」
「リヴィアとも仲良くしてくださいね」
「また苺を持ってきますね」
短い時間だったけれど、アンリエットお義姉様とアルベルト様と会うことができてわたくしは嬉しかった。
新年のパーティーの日は幸せに過ぎて行った。
ベルンハルト公爵家に泊まった日から、わたくしは気にかかっていることがあった。
クラリッサの両親がベルンハルト公爵家に金をもらいに来ているということである。クラリッサの遺体の引き取りに応じなかったのに金だけもらおうとしているということは、おかしいと叔父様も叔母様も気付いているだろうが、最初に支払ってしまった後に、何度か支払っているのではないだろうか。
今は断っているようだが、前世でわたくしを冷遇していた両親に、ベルンハルト公爵家からお金が行っているのは納得できない。
どうにかしてクラリッサが両親にとっていらない存在で、ベルンハルト公爵家にも売られるようにして奉公に出されたのだと伝えるすべはないものか。
三歳のわたくしがクラリッサのことを知っているはずはないし、叔父様とも叔母様とも気軽に話せる状態ではない。
何より、わたくしが説明しても、どうしてその情報を知ったのか訝しがられるだけだ。
どうにかできないかと考えていると、最初に浮かんだのは手紙を書くことだった。
手紙ならばわたくしから届いたと分からないのではないだろうか。
しかし、それには大きな問題があった。
わたくしの手首が安定しないので、文字がきちんと書けないこと。手紙を書いたところで、三歳児なので叔父様と叔母様にばれないように渡す手段がないこと。
詰んだ。
がっくりと肩を落としていると、わたくしの様子に気付いたラファエルお兄様が、わたくしを抱き上げた。
「元気がないな、セラフィナ。お腹が空いているの? 眠いの?」
ラファエルお兄様の問いかけにわたくしはふるふると首を振る。
わたくしはどうにかして前世の両親のことを叔父様と叔母様に伝えたいのだができなくてがっくりしているのだ。
とはいえ、わたくしにできることは何もない。
わたくしが落ち込んでいると、アルベルト様の来訪が告げられた。
わたくしとラファエルお兄様はティールームに移動する。
ティールームでアルベルト様はわたくしたちを待っていた。
「もっと早い時間に来たかったんですが、邪魔が入って」
「何かあったの、アルベルト」
アルベルト様は以前に馬車で襲われている。ラファエルお兄様の声が硬くなるのは仕方がないことだった。
「ベルンハルト公爵家の玄関前に、例の男爵家の夫婦が来ていて……」
「なんともなかった?」
「護衛がすぐに追い払ってくれたので平気でしたが、道の真ん中で騒いでいるので、なかなか馬車が出せなかったんですよ」
例の男爵家の夫婦とは、クラリッサの両親ではないだろうか。
金をせびりに来たに違いない。
アルベルト様に迷惑をかけていることが許せなかった。
「アルベルトおにいたま、だいじょうぶ?」
「心配してくれてありがとうございます。わたしは大丈夫ですよ」
馬車の事故のことを思い出していないか。アルベルト様はクラリッサのことを思い出していないか心配になるが、アルベルト様は落ち着いた表情で微笑んでいた。
わたくしにできることがない。
それがわたくしは歯がゆくてたまらなかった。
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