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転生皇女セラフィナ  作者: 秋月真鳥
二章 ミカエル誕生

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15.青い羽ペンとペーパーウェイト

 ベルンハルト公爵家にお泊りをする件で、お父様とお母様はかなり頭を悩ませたようだった。

 わたくしが三歳というのもあるし、わたくしは日中はオムツをしなくてもよくなったのだが、眠るときにはオムツをしないと漏らしてしまうことがあることや、ラファエルお兄様と同じ部屋で眠らせるのか、別の部屋を用意させるのかなど、考えることはたくさんあったようだった。


 最終的に、お父様とお母様はわたくしに聞いてくれた。


「セラフィナ、ベルンハルト公爵家に行きたいと思っている?」

「お泊りはまず置いておいて、行きたいかを聞いているのです。アルベルト殿のご実家に行きたいですか?」


 真剣に問いかけられて、わたくしは右手を上げていい子のお返事をする。


「あい!」


 その返事に、お父様とお母様が難しい顔になる。


「行きたいのか。でもセラフィナはどういうことかよく分かっていないかもしれない」

「皇帝の息子と娘が同時に移動するのは危険が伴います。でも、別の日にしてしまったら、ラファエルがいないのにセラフィナは大丈夫でしょうか」


 ラファエルお兄様は皇帝の息子で、わたくしは皇帝の娘。同時に同じ場所に行かせるのは狙われることもあるので危険だとお父様とお母様は言っている。わたくしも皇弟の息子であるアルベルト様について町に出たときに、馬車が襲われた経験があるので、皇族が移動することの危険は理解していた。


「ベルンハルト公爵家に宿泊させて大丈夫だろうか」

「セラフィナが夜にわたくしたちを探して泣かないでしょうか」


 悪夢を見てお父様とお母様の寝室に行った日のことを思い出して、お父様とお母様は心配してくれている。わたくしも前世で仕えていたベルンハルト公爵家に行くとなると、自分の気持ちがどのようになるか分からないので、そのことは不安でもあった。


「おとうたま、おかあたま、マティルダたん、いっちょ」

「マティルダが一緒ならば大丈夫と言っているのか、セラフィナ」

「セラフィナにとってはマティルダさんは乳母で、母親のような存在ですからね」


 マティルダさんの名前を出せばお父様とお母様の表情が少し緩んだ気がした。

 お父様とお母様がよく話し合った結果、わたくしはベルンハルト公爵家に行けることになったのだが、護衛がしっかりと付けられることと、マティルダさんが同行することが決まっていた。

 マティルダさんがわたくしに聞いてくれながらベルンハルト公爵家に持って行く荷物を作っている。


「セラフィナ殿下、ワンピースはどれを持って行きますか?」

「これ!」

「靴下はどれになさいますか?」

「ちろいの!」

「パジャマはお腹が冷えないようにこっちにしますか?」

「あい!」


 わたくしは皇女として生まれたが、自分でできることは自分でしたいと思っていた。着替えも今はまだマティルダさんの手伝いが必要だが、そのうちに自分一人でできるようになりたいと思っている。

 厚手のワンピースを着て、カーディガンを着て、コートを着て、わたくしが準備をしていると、ラファエルお兄様が子ども部屋に来てくれた。ラファエルお兄様もコートを着て、マフラーも巻いて、手袋もつけて、出かける準備は万端だ。


「セラフィナ、父上と母上が許してくれてよかったね」

「あい! おにいたま、いっちょ。マティルダたん、いっちょ」

「わたしもマティルダさんも一緒だから安心だよ」


 ラファエルお兄様の後ろで開いているドアからちらりと見えている廊下に、数人の護衛が立っている。筋骨隆々とした護衛たちが厳めしい表情で整列しているのを見ると、皇帝の息子と娘が出かけるのは大変なことなのだと分かる。

 外に出る準備ができると、わたくしはオレリアさんに抱っこされたミカと、オレリアさんの足元で寝そべっているエリカに挨拶をした。


「ミカたん、いってきまつ。エリカたん、いってきまつ。わたくち、いなくても、いいこ、ちてね」

「ミカエル行ってくるよ。明日には帰るから、わたしのことを忘れないでね」


 ラファエルお兄様もミカに挨拶をしていた。

 ミカは金色のお目目をきょろきょろさせてわたくしとラファエルお兄様を見ていたし、エリカはぱさぱさと尻尾を振ってわたくしたちを見送ってくれた。


 馬車に乗り込もうとしたときに、わたくしは少しだけ緊張してしまった。

 前世でわたくしは馬車で死んでいる。馬車を見るとそのときの記憶がよみがえりそうになる。

 馬車のステップの前で固まっていると、ラファエルお兄様がわたくしの両脇の下に手を差し込んで、わたくしを抱き上げた。


「馬車のステップが高くて登れなかったんだね。わたしが抱っこしてあげるから大丈夫だよ」


 そういうわけではなかったのだが、いや、確かに馬車のステップは高すぎてわたくしはとても登れそうになかったのだが、それだけではなく、前世の記憶もあって動けなくなっていたわたくしに、ラファエルお兄様の助けはありがたかった。

 ラファエルお兄様に抱っこされていると、恐怖が薄れる気がする。


「こんなに震えて。寒いのかな? それとも、馬が大きくて怖かった?」

「こわい……」

「わたしのお膝の上に座っているといいよ」


 ラファエルお兄様が膝の上に抱っこしてくれたのでわたくしは安定して座ることができた。馬車が怖い気持ちもラファエルお兄様の膝の上で抱き締められて、ラファエルお兄様の体温を感じていると落ち着いてくる。

 この人生では初めての馬車の移動は、護衛に守られて問題なく行われた。

 ベルンハルト公爵家ではベルンハルト公爵夫妻とアルベルト様がわたくしとラファエルお兄様を迎え入れてくれた。

 雪の積もった庭を抜けて玄関ホールに辿り着くと、アルベルト様とラファエルお兄様が軽くハグをして挨拶をしている。この二人はこんなに仲が良かったのだと改めて実感した。

 わたくしがメイドだったころには掃除したこともある玄関ホールは広く、清潔に保たれていた。

 玄関ホールのマットで靴の雪を落として、ベルンハルト公爵家に入ると、最初に客間に通された。

 わたくしとラファエルお兄様は同じ部屋で眠ることになっている。

 二つベッドのある部屋に通されて、侍女が部屋に荷物を運び込む。客間は暖炉に火がともされて暖められていた。


「おにいたま、とれないー!」

「セラフィナ、じっとして」


 ネックウォーマーと手袋を外そうとしたのだが、ネックウォーマーが上手に外れなくて四苦八苦するわたくしに、ラファエルお兄様が手を添えて外してくれる。

 コートのボタンはゆっくりだが外せるので、コートを脱ぐと、マティルダさんが受け取って暖炉のそばに干してくれた。


 ベルンハルト公爵家に着いたのは昼食時だったので、客間で防寒具を脱ぐとすぐに食堂に移動した。

 食堂にはわたくしのために幼児用の椅子が用意してあった。


「その椅子はアルベルトが小さなころに使っていたのです」

「こんな小さな子どもが我が家に来るだなんて、本当に楽しみにしていたのですよ」


 ベルンハルト公爵夫妻がわたくしを見て目を細めている。

 前世でもいい雇い主であったが、今はわたくしの叔父様と叔母様なのだ。

 わたくしはお母様が言ったことを思い出していた。


 叔母様はアルベルト様を産んだときに難産で、次の子どもは望まない方がいいと言われたのだった。だからベルンハルト公爵家には子どもは一人だけで、アルベルト様に弟妹はいない。


 お母様もラファエルお兄様を産んでから長く妊娠しなかったようだが、ラファエルお兄様が十歳のときにわたくしを産んでいて、ラファエルお兄様が十二歳のときにミカを産んでいる。わたくしは三人兄弟だが、アルベルト様に兄弟が増えることはない。


 それを考えれば、叔母様がわたくしを歓迎してくれるのも理解できる。


「おじたま、おばたま、よろちくおねがいちまつ」

「セラフィナ殿下は礼儀正しいのですね。こちらこそよろしくお願いします」

「セラフィナ殿下の賢いこと」


 褒められてわたくしも悪い気はしないが、それよりも叔父様と叔母様のことが気になっていた。

 クラリッサが死んだ後で叔父様と叔母様はアルベルト様をどのようにして慰めたのだろう。

 クラリッサのことを知りたいが、わたくしの口から聞くのは不自然すぎるので何も言えない。


 食堂で昼食を食べて、わたくしとラファエルお兄様とアルベルト様はアルベルト様の部屋に移動した。

 アルベルト様の部屋はわたくしが死んだときからほとんど変わっていなくて、懐かしさに胸がいっぱいになる。

 この部屋でわたくしとアルベルト様は一緒に勉強をしていた。


 わたくしがアルベルト様の部屋を見て回っていると、アルベルト様がわたくしを抱き上げる。抱き上げた先に、本棚があって、そこにガラスの青い美しいペーパーウェイトと羽ペンが置いてあった。

 どうしてこんなところにあるのだろうと不思議に思いながら手を伸ばすと、アルベルト様にそっと止められる。


「それは、わたしの大事な相手に贈るはずのものだったのです」


 アルベルト様は言っていなかっただろうか。

 クラリッサが死んだ日、クラリッサへのプレゼントを買おうと思って町に出たのだと。

 それがこの美しいペーパーウェイトと羽ペンだったのかもしれない。


 アルベルト様がわたくしに渡そうとしたかもしれないもの。

 わたくしは感慨深く見つめていた。


読んでいただきありがとうございました。

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