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転生皇女セラフィナ  作者: 秋月真鳥
二章 ミカエル誕生

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4.ミカエル、誕生

 過ごしやすい春の日は過ぎて行って、少しずつ日差しが強くなって、汗ばむ日が増えてきた。わたくしは薄手のワンピースを着せられて、お尻が見えないように薄手のレギンスもはかされるようになった。

 夏になってわたくしも三歳の誕生日を秋に控えて、日中はオムツをしていなくても過ごせるようになっていた。

 オムツは替えられるときに恥ずかしかったし、お尻がもこもこして動きにくかったので、日中だけでもオムツを卒業できてわたくしは喜んでいた。

 夜寝るときには膀胱の機能がまだしっかりしていないので漏らしてしまうことがある。そのために、まだオムツをつけなければいけなかった。


「わたくち、ねぇね、なる。おむちゅ、ないない」

「起きているときはお手洗いでできるようになりましたからね」

「ラファエルは三歳のときにオムツを卒業しました。セラフィナもその日が近付いて来ていると思うと感慨深いです」


 マティルダさんとお母様が話している前で、わたくしは日中オムツが外れたことを誇らしくお母様に報告した。

 わたくしもお姉様になるのだ。もう少ししっかりしたいと思っている。

 お母様のお腹は丸く大きくなって、出産予定日に近付いていた。


 前世に通っていた学校で、赤ちゃんは十月十日母親の胎内にいて、それから生まれてくるのだと習ったが、本当はもう少し短いようだった。細かいことは医者ではないので分からないが、十月十日よりは短いということはお母様が妊娠したという報せを冬に聞いてから夏に出産なので、実感として理解していた。


 夏の特別暑い日、寝付けなくて夜中に汗だくになってベッドの上で寝返りを打っていると、夜もついていてくれる侍女がわたくしの体を冷たい水に浸して絞ったタオルで拭いて、パジャマを着替えさせてくれた。

 素焼きの壺に入った冷たいレモン水を飲ませてもらって、ベッドに入ろうとしたところで、マティルダさんが子ども部屋に駆け込んできた。


「セラフィナ殿下、起きておられますか?」

「あい!」

「弟君がお生まれになりました」

「おとと?」

「はい、弟君です」


 お母様はついに赤ちゃんを産んだのだ。

 わたくしは寝ていられなくてそわそわとしていると、わたくしが起きていることをマティルダさんがお父様とお母様に伝えてくれて、お父様が赤ちゃんを抱っこして子ども部屋に来てくれた。

 赤ちゃんはぽやぽやの赤毛に金色の目のお父様とラファエルお兄様によく似た男の子だった。


「セラフィナ、弟が生まれたよ。お姉様になったね。おめでとう」

「あいがとごじゃまつ。おとうたま、あかたん、みてて」

「ほら、ご覧。とてもかわいいだろう?」

「かーいーね」


 生まれたばかりの弟は小さくて顔が真っ赤で、小さな手を握り締めている。手の指が五本、足の指が五本揃っているのが信じられないくらい小さい。


「おとうたま、あかたん、おなまえ、なぁに?」

「セラフィナの弟の名前は、ミカエルだよ」

「ミカたん!」

「ミカというのはかわいい呼び方だね。セラフィナはミカと呼んでいいよ」


 赤ちゃんのことはわたくしはミカと呼ぶことを許された。

 そろそろ生まれてくるだろうというのは分かっていたので、子ども部屋にはベビーベッドが用意されていたが、ミカはそこに寝かされることになった。


「セレナの調子がよくなったら、日中はセレナが子ども部屋で一緒に過ごすからね。ミカエルの乳母も今日から一緒だ」

「ミカエル殿下の乳母の、オレリア・トリスタンと申します」

「オレリアたん、よろちくおねちまつ」

「セラフィナ殿下、ご丁寧にありがとうございます。こちらこそよろしくお願いいたします」


 ミカの乳母のオレリアさんも増えて、子ども部屋はますます賑やかになりそうだったが、元々子ども部屋はとても広いので問題はなかった。


 オレリアさんはその日から子ども部屋に泊まり込みになった。わたくしも赤ちゃんの頃はマティルダさんがいつもそばにいてくれた気がするので、オレリアさんもずっとミカのそばにいるのだろう。

 日中はお母様が来るので休むのかもしれない。


 その夜は暑かったのもあったが、ミカが生まれた喜びでわたくしは走りだしたいくらい興奮していて、なかなか寝付けなかった。


 ミカが生まれた次の日はわたくしは寝坊してしまったが、起きたときにはミカが激しく泣いていた。ミカの声は小さな体なのにとても大きくて驚いてしまう。


「ミカたん、えんえんちてる」

「ミカエル殿下はお腹が空いているのです。今、ミルクの用意をしています」

「ミルク、のまててあげて」

「はい、セラフィナ殿下」


 オレリアさんがミカを抱っこして哺乳瓶でミルクを飲ませている。ミカは生まれてすぐなので上手に飲めないのか、口に哺乳瓶を当てられてもしばらく泣いていた。


「ミカたん、がんばえ、がんばえ!」


 わたくしは手に汗を握ってミカを応援した。

 ミカが生まれてから一週間してから、お母様は子ども部屋に来るようになった。

 一週間ぶりにお母様に会えたときには、わたくしは感動を伝えたくて、必死に言葉を紡いでいた。


「おかあたま、ミカたん、かーいーの。ミカたん、えんえん、ちる。オレリアたん、ミカたん、ミルクあげう。ミカたん、のむのへたくちょ。えんえんちる。わたくち、がんばえ、がんばえ、ちてた」


 二歳児なりに言える言葉を一生懸命選んで話すと、お母様はわたくしを抱き締めてくれる。


「毎日ミカエルのことを応援してくれていたのですね」

「ミカたん、わたくちのおとと。だいじ」

「わたくしの娘と息子のかわいいこと。セラフィナは立派なお姉様ですね」


 お母様に褒められて、わたくしは何もできていないのだが、誇らしい気持ちになっていた。


 お母様が子ども部屋に来るようになってから、日中はお母様がミカエルに母乳をあげるようになった。哺乳瓶では上手に飲めなくて、お腹を空かせて泣いていたミカエルも、お母様の母乳は飲めるようで、少しずつ落ち着いてきた。

 夜はお母様は部屋に戻ってしまうので、哺乳瓶でミルクを飲ませてもらっているが、お母様が日中に母乳を上げているせいか、ミカは哺乳瓶でも少しずつ飲めるようになってきているようだった。

 小さな体で一生懸命母乳やミルクを飲んでいる姿を見ると、わたくしは応援したくなる。


 ミカが早く大きくなって、わたくしと遊べるようになればいいとわたくしは思っていた。


 ラファエルお兄様もミカのことはとてもかわいがっていた。

 生まれた翌日には子ども部屋に来て、ミカと顔を会わせてうっとりとミカを見つめていた。


「セラフィナも天使のようだと思ったけれど、ミカエルもかわいいな」

「ミカたん、わたくちのおとと」

「セラフィナのことは今もかわいくて、天使だと思っているよ」

「おにいたま、だいすち」

「もう『にぃに』って呼んでくれないの?」


 ミカが生まれたので、わたくしは前々からラファエルお兄様のことは「おにいたま」と呼ぶことができたのだが、甘えて「にぃに」と呼んでいたのを改めようと心に決めていた。これからはわたくしもお姉様になったのだ。ミカの手本になるように努めなくてはいけない。


「セラフィナの成長を感じるけど、少し寂しいなぁ」

「おにいたま、ミカたん、だいすち!」

「わたしもセラフィナが大好きだよ」


 ミカを抱っこした後に、ラファエルお兄様はわたくしを抱っこしてくれた。


「下の子が生まれたときほど、上の子を大事にしないといけない」

「そうですね、セラフィナに寂しい思いをさせてはいけません」

「ミカエルを抱っこしたら、セラフィナのことも抱っこするように気を付けます」


 お父様とお母様とラファエルお兄様は、ミカが生まれてからわたくしが寂しくならないようによく考えてくださっていた。

 ミカを抱っこする前か、抱っこした後には、必ずわたくしも抱っこしてくれる。ミカをかわいがったときには、わたくしもしっかりとかわいがってくれる。

 弟が生まれたからといって、わたくしがないがしろにされるようなことはないと思っていたが、逆にとても大事にされてわたくしは姉としてこれでいいのかと思いつつ、お父様とお母様とラファエルお兄様の愛情を受け取っていた。


 受け取っただけミカにも愛情を注いであげようと心に決める。


「ミカたん、えほん」

「あー」

「りんごが、いっこ。みかんが、にこ」


 難しい絵本は読めないし、重くて持てないので、わたくしが赤ちゃんのころにラファエルお兄様が何度も読んでくれた簡単な小さな絵本をオレリアさんに抱っこされたミカに見せて読んでいると、ミカは金色のお目目をきょろきょろさせながら、じっと聞いていた。

 わたくしも赤ちゃんのころから絵本が好きだったが、ミカも絵本が好きなようだった。


 ラファエルお兄様がわたくしに絵本を何度も読んで聞かせてくれたように、わたくしもミカにたくさん絵本を読んで聞かせてあげようと思っていた。


 小さなミカ。

 かわいいミカ。

 わたくしの弟。


 わたくしは弟が生まれたことをこの上なく幸せに思っていた。


読んでいただきありがとうございました。

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