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転生皇女セラフィナ  作者: 秋月真鳥
二章 ミカエル誕生

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1.スミレの花束

 ラファエルお兄様の冬休みが終わっても、お母様が子ども部屋で過ごしてくれていたのでわたくしはそれほど退屈はしなかった。

 お母様はわたくしが文字を読めるのを驚いていたが、それとは別に絵本はわたくしに読んでくれた。


「ラファエルも三歳で文字が読めたので、セラフィナも文字を読むのが早くてもおかしくはありませんね。それはそれとして、絵本は読ませてくださいね」

「あい。おかあたまのえほん、うれちい」


 自分で読むのと読んでもらうのは全く違う。

 お母様の膝の上に抱き上げられてお母様の声を聞いていると心地よくて幸せが胸に満ちる。

 ラファエルお兄様が少し難しい本を読んでくれるようになって、お母様も文字が多めの少し難しい本を読んでくれるようになっていた。


 文字は読めるのだが、書く方はまだ無理だ。

 二歳児の手首は力の調整が難しすぎて、一つの文字を書こうとしても画用紙いっぱいに一文字が限度で、それもぐにゃぐにゃと曲がっている。

 お絵描きもぐるぐると制御できない手首を暴れ回らせて、何重にも連なる歪な円を描くぐらいしかできない。


 二歳児の体は本当に不便である。


 喋るのは日々言える単語が増えて来て、お母様もお父様もラファエルお兄様も、マティルダさんも、周囲のひとたちはわたくしの意図を読み取ろうとしてくれているので、多少拙くても伝わることは多い。それだけがわたくしの救いだった。


 毎日しんしんと外に降り積もっていた雪はそのうちに溶けて、庭の木々も新芽をつけて、暖炉の火を強くしなくても子ども部屋で過ごせるようになったころ、ラファエルお兄様のお誕生日のお茶会が開かれることになった。

 これでラファエルお兄様は十三歳になる。

 ラファエルお兄様の誕生日の少し後にはアルベルト様の誕生日もあるので、皇族は忙しくなる。


「おかあたま、にぃにのぷででんと、どうちる?」

「セラフィナはラファエルにプレゼントをしたいのですね」

「あい」

「庭のお花ではいけないのですか?」

「おはな……アルたまとおなじ」


 お母様にラファエルお兄様のお誕生日の相談をすると、お花を提案される。お花はアルベルト様に差し上げようと考えていることを伝えると、お母様は首を傾げた。


「同じではいけないのですか?」

「にぃに、アルたま、ちやう。ぷででんと、おなじ、いーの?」


 ラファエルお兄様はアルベルト様に妙に対抗しようとしているところがあるし、アルベルト様にはクラリッサのころからお花をあげていたのでそれを変えたくない気持ちで、同じでいいのかと問いかければ、母がわたくしに教えてくれる。


「違うお花を贈ればいいのではないですか? ラファエルもアルベルト殿も、セラフィナが用意したというだけで喜んでくれると思いますよ」


 花というくくりでは同じでも、プレゼントする花の種類を変えればいい。

 その言葉に、わたくしは納得した。


「茎が硬いお花だと、セラフィナが持っていてこけると怪我をするかもしれません。茎が柔らかくて、セラフィナが持ちやすい大きさで、かわいい花を探しましょう」


 お母様に促されて、わたくしはアルベルト様からもらった植物図鑑を開いた。

 わたくしの目を引いたのは、スミレの花とパンジーだった。


「こえ、おかあたまのおめめといっと」

「スミレはわたくしの目の色ですね」

「にぃに、こえ、あげう」

「いいと思いますよ。庭師に用意してもらいましょう」


 スミレの花を指差してお母様に言ってから、わたくしはパンジーの花を見る。パンジーは紫、白、黄色、青、赤、オレンジなどいろんな色があるようだ。

 アルベルト様に似合う色を考える。

 アルベルト様は金色の髪に琥珀色の目をしている。

 何色でも似合う気はするのだが、赤はお父様とラファエルお兄様の髪の色だし、紫はお母様の目の色と似ている。白か、黄色か、青か、オレンジか。

 悩んでいると、お母様がわたくしの手元を覗き込む。

 パンジーのページを開いて悩んでいるわたくしに、お母様が問いかけてきた。


「アルベルト殿の誕生日のお花を選んでいるのですか?」

「あい。パンジー、いろ、いっぱい。どえにすゆ?」

「一色に決めないで、何色か組み合わせてもいいのではないですか?」


 お母様の提案にわたくしは目を輝かせた。

 一色に決めなくていいのだったら、合う色を何色かまとめてもいい。


「ちいろ、ちろ、オレンジ……」

「いいですね。その三色はよく合いそうです」


 こうしてわたくしは黄色と白とオレンジの三色のパンジーをアルベルト様に贈ることに決めた。


 ラファエルお兄様の誕生日のお茶会にわたくしは小さいので出席できないが、朝に庭師にスミレの小さな花束を用意してもらって、ラファエルお兄様が子ども部屋に挨拶に来ると、それを差し出した。


「にぃに、おたんどーび、おめめとごじゃまつ」

「セラフィナ、わたしにくれるの?」

「あい」

「嬉しいな。セラフィナからもらったスミレの花、一輪は押し花にして栞にしよう。そしたら、いつでも持っておける」


 こんなに喜んでくれるとは思わなくて、わたくしまで嬉しくなってくる。

 ラファエルお兄様は小さな花束を侍女に命じて部屋に飾らせたようだった。


 そういえば、わたくしの行動範囲は狭いので、まだラファエルお兄様の部屋に行ったことがない。そのうちラファエルお兄様の部屋にも行かせてもらいたいと思いながら、わたくしはラファエルお兄様に抱っこされた。


「本当にありがとう、セラフィナ。大好きだよ」

「わたくち、にぃに、だいすち」

「セラフィナは本当にかわいいな。このままお茶会に連れて行きたいくらいだよ」


 わたくしと離れがたそうにしているラファエルお兄様に、一緒に来ていたお父様とお母様が苦笑する。


「セラフィナは連れて行けないよ、ラファエル。まだ小さいのだからね」

「セラフィナはわたくしとお留守番していましょうね」


 今日のラファエルお兄様のお誕生日のお茶会は、お母様も欠席するようだった。お母様は悪阻は酷くなかったけれど、貴族が付けている香水の匂いで気分が悪くなるようだから、貴族の集まる場所には出たくないのだろう。

 新年でお母様の妊娠は公にされているし、その後は公務を休むことは伝えられているので問題はない。


「ラファエル、本当にお誕生日おめでとうございます。お茶会は楽しんでくるのですよ」

「母上にいい報告ができるように頑張ってきます」

「いい報告?」


 お母様がお父様を見れば、お父様が説明をしてくださる。


「ラファエルはこの誕生日にアンリエットに婚約を申し込むつもりなんだ」

「そうなのですか、ラファエル」

「はい。アンリエット嬢にわたしの気持ちを知ってもらいたいと思ったのです。アンリエット嬢と過ごしてきて、わたしはこの方以外にわたしの婚約者は考えられなくなりました。母上、アンリエット嬢に婚約の申し込みをする許しをください」

「アンリエット嬢は心も優しく、成績も優秀で、公爵家の令嬢で、ラファエルに相応しい相手だと思います。ラファエル、しっかり頑張るのですよ」


 お父様からの説明に、ラファエルお兄様が真摯に自分の気持ちを語って、お母様もラファエルお兄様を応援していた。

 アンリエット嬢はわたくしにとってもとても好印象の人物である。リヴィア嬢の姉であるし、わたくしに対してもとても親切にしてくれる。


「にぃに、がんばって!」

「頑張るよ、セラフィナ」


 わたくしもラファエルお兄様に応援の言葉を送った。


「わたしがセレナに婚約を申し込んだのは十五歳のときで、セレナが十四歳のときだったが、あのときには緊張したものだ」

「わたくし、ヘリオドール様から婚約を申し込まれるなんて思わなくて、二度も聞き返してしまったのです」

「二度も聞き返されて、セレナはわたしのことは好きではないのかと思ったけれど、聞き返した後で顔を真っ赤にして、俯いて」

「じわじわと実感が伴ってきたのですわ。ヘリオドール様に将来の妻として求められていることが分かって、わたくしもヘリオドール様をお慕いしていましたから、実感が伴うと幸せで、嬉しくて、震える声でお返事しました」


 皇帝と皇后という身分なのにお父様とお母様は恋愛結婚である。

 ある程度は身分の釣り合いが取れるようにはしていたのだろうが、最終的にはお父様はお母様を愛して婚約を申し込み、お母様はお父様をお慕いしてそれを受け入れた。


「わたしの父上と母上は政略結婚で結婚生活は冷え切っていた。わたしはそんな風にはなりたくないと思ったのだ。愛するひとと結婚したいと思った。それで、セレナに婚約を申し込んだ」


 わたくしのお祖父様とお祖母様にあたる前皇帝と前皇后の話は初めて聞いたが、お父様は冷え切った夫婦の間に生まれて、愛のある結婚を夢見ていたようだった。

 それならば、ラファエルお兄様やわたくしにも、愛のある結婚をさせてくれるつもりなのではないだろうか。


 わたくしはまだまだ結婚までは遠いが、結婚するなら愛する方に嫁ぎたいという気持ちは生まれていた。

 その愛する方が誰なのか、わたくしにはよく分からなかったが。

読んでいただきありがとうございました。

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