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転生皇女セラフィナ  作者: 秋月真鳥
一章 セラフィナ誕生する

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28.新年の式典の日

 新年の式典の日、お父様とお母様とラファエルお兄様は朝食が終わると子ども部屋に来てくださった。

 式典前で忙しいのに、新年なのでわたくしに挨拶に来てくれたのだ。


「セラフィナ、新しい年が明けたよ。今年も元気でいっぱい食べて大きくなるんだよ」

「セラフィナ、おはようございます。今日は年の改まる日なのですよ。わたくしたちは式典に行ってきますが、セラフィナは待っていてくださいね。わたくしは早めに抜けて、こちらにやってきますので」

「セラフィナ、新年おめでとう。今年は赤ちゃんも生まれるけど、セラフィナのことは誰よりも愛しているからね」


 温かい挨拶を受けて、わたくしはお父様とお母様とラファエルお兄様を見上げる。

 お父様は肋骨服にマント姿で堂々として格好いいのに、わたくしを抱き上げて視線が合うようにしてくれている。お母様は菫色のドレスを着ていてとても美しい。ラファエルお兄様はフロックコートを着ていて、とても格好よかった。


「わたくち、ねぇねになるの。いいねぇねになる! がんばりまつ!」


 今年の抱負のように告げると、お父様からぎゅっと抱き締められて、額をこつんと合わせられる。間近から見るお父様は格好よすぎて、眩いくらいだった。

 こんなに格好いいお父様と美しいお母様の間に生まれたのだから、ラファエルお兄様は格好いいし、わたくしはかわいいのだと実感する。


「セラフィナは頑張り屋さんだからちょっと心配だな。無理をしなくていいからね。姉になることも、セラフィナが選んだわけじゃない。わたしたちが子どもが欲しかったから赤ん坊を望んだだけで、セラフィナは赤ん坊と仲良くしてほしい気持ちはあるけど、まだ小さいのだから我慢をしてはダメだよ」


 お父様の声はどこまでも温かく優しい。

 わたくしはお父様の優しさにじんと胸がいっぱいになる。


「にぃに、わたくち、だいすち。わたくち、あかたん、だいすちなる」


 赤ちゃんが男の子か女の子か分からないが、愛する心の準備はできている。ラファエルお兄様がわたくしを愛してくれたように、わたくしも赤ちゃんのことを愛したい。

 そのつもりで言えば、ラファエルお兄様がくすくすと笑う。


「セラフィナは生まれたときからかわいくて、天使だったからね。かわいがる以外の選択肢はなかったよ」

「ラファエルもかわいかったのだよ? わたしにそっくりで、セレナがラファエルを産んでくれたときには本当に嬉しかった」

「ラファエルのときは大変で目まぐるしくて子育ても初めてで余裕がありませんでしたが、セラフィナのときは少し余裕が出てきましたね。この子のときにはどうなるでしょう」


 ラファエルお兄様の気持ちも聞けて、ラファエルお兄様が生まれたときのお父様の気持ちも聞けたかと思ったら、お母様は自分のお腹を撫でて愛おしそうに呟いている。

 男の子だったらルカ様のような時期もあるかもしれないが、それでも自分の弟だったら愛せるとわたくしは覚悟を決めていた。


 ちなみに、わたくしはマティルダさんにお願いして、今日は菫色のドレスを着せてもらった。

 お母様とお揃いだったので、そのドレスを選んでよかったと思う。

 デザインもどこか似ているように作られているので、わたくしはお母様と同じ髪の色だし、お母様と似ているはずだし、お母様を見ているときっと似合っているのだろうと思える。


「にぃに、アルたま、ユーリたま、アンたま、くゆ?」

「アルベルトもユリウスもアンリエット嬢も来ると思うよ」

「わたくちから、よろちくおねちまつ、いって」

「分かった。伝えておくよ」


 朝の忙しい時間だったのにしっかりとわたくしと触れ合ってから、お父様とお母様とラファエルお兄様は式典に出かけていった。

 今日は一日式典なのだろう。

 お母様は早めに抜けてくると言っていたが、お父様とラファエルお兄様は晩餐会まで参加されるかもしれない。

 忙しい一日にもわたくしのことを気にかけてくれる家族の温かさに、わたくしは感謝していた。


 前世の実家は貧乏男爵家で、衣装も用意できなかったし、招待もされていなかったので、両親が宮殿の式典に出ているところは一度も見たことがなかった。わたくしが死んだことは実家にも伝わっているのだろうが、アルベルト様のご両親がわたくしを丁重に弔ったと言っていた。

 わたくしの遺骸を両親が引き取り拒否したのかもしれない。

 それを考えると、ベルンハルト公爵家で埋葬してもらえた方がずっとありがたかった。


 いつかクラリッサだったころのわたくしのお墓にも行ってみたいが、それが叶う日は来るのだろうか。

 わたくしは宮殿の敷地内から出たことがないし、行ったことがあるのも宮殿の一部でしかないと分かっている。

 宮殿の庭に出たことはあるが、その庭も子ども部屋についている庭で、全容はもっと広いのだとは聞いている。


 皇女として育つとこんなにも世間知らずになってしまうのかと、わたくしは思っていた。


 前世では馬車を使うことなど許される身分ではなかったので、自分で歩いて学校に通っていたし、メイドになった後も歩いて町に出てお使いなどの仕事もこなしていた。

 町に出たい気持ちはあるが、わたくしは小さすぎるし、大きくなっても護衛がたくさんいないと無理だということも理解している。

 皇女とはとても不便だった。


 午前中はアルベルト様からもらった図鑑を見て過ごしていた。

 動物図鑑には大陸全土のみならず、違う大陸の動物まで載っていて、ものすごく興味深い。

 わたくしは前世でも猫と犬と鳥くらいしか身近に動物はいなかったし、牛や馬を見ることもあったがそれも稀で、それ以外はお肉になった動物しか知らなかった。


「ちか……つのがおっちーね」

「セラフィナ殿下、文字が読めるのですか?」

「え……えっと……」


 声に出して読んでいたようで、鹿の絵を目を輝かせて見ていると、マティルダさんに指摘されてしまった。

 文字が読めるのは前世の記憶があるからなのだが、マティルダさんに訝しく思われていないだろうか。


「ラファエル殿下も三歳になられたころには文字が読めたと聞いています。セラフィナ殿下も天才の血を引いているのですね」

「しゅごい?」

「はい。このことは皇后陛下にもお伝えしないと」


 よかった。

 ラファエルお兄様が文字を読むのが早かったから、わたくしが文字を読むのが早くてもそれほど変に思われなかった。それにしても、さすがラファエルお兄様である。わたくしは前世の記憶があるのでずるをしているようなものだが、ラファエルお兄様は三歳で自然と文字を覚えたのだろう。

 ラファエルお兄様が学園でも常に首席で賢いのも小さいころからだったのだとよく分かった。


 昼食のころには、お母様が子ども部屋に戻ってきた。

 お母様は楽な格好に着替えて、わたくしと一緒にテーブルに着く。


「昼食は一緒に食べましょうね。最近は悪阻があって、貴族たちの香水で気分が悪くなるので、早めに下がらせてもらいました」

「つわり!? おかあたま、だいじょぶ?」

「幸い、食べ物にはあまり反応しないので大丈夫ですよ。ちょっと香水の匂いが苦手になっているだけです」


 貴族の中では香水をつけるのが流行っていると前世でも聞いていた。

 毎日お風呂に入らない貴族などは、香水の匂いで誤魔化しているという話も聞いている。

 わたくしは前世は毎日お風呂に入ることは叶わなかったが、できる限り清潔でいようと体を濡らしたタオルで拭いていたし、ベルンハルト公爵家のメイドになってからは、清潔でいることも使用人としての嗜みだったので、毎日残り湯だったが風呂に入れてもらえていた。


 皇女セラフィナとして生まれ変わってからは、毎日お風呂に入るのが当然だし、汗が酷いときや、お尻を汚してしまったときなどは、一日数回お風呂に入れてもらうこともあった。

 お父様もお母様もラファエルお兄様も毎日お風呂に入っているようで、いつも清潔な匂いがしてくる。


 お母様が香水の匂いに反応してしまうのだったら、公務を続けるのは難しいと判断して早めに公務を休むように指示したお父様が正しかったことになる。


 お母様と並んでテーブルについて昼食を食べていると、マティルダさんが手伝う前にお母様がわたくしを手伝ってくれて、料理を小さく切り分けて、食べやすくしてくれる。


「おまめ、ころころ……」

「わたくしがお口に運んであげましょう」

「あーん」


 スプーンでもフォークでも太刀打ちできないお豆がするするとお皿の上を逃げて行ってしまうのに、お母様がスプーンで掬って食べさせてくれる。大きく口を開けていると、お口まで運んでもらえて、わたくしは無事に昼食を食べ終えることができた。


「おかあたま、あいがとごじゃます」

「どういたしまして。セラフィナに食べさせてあげることができてわたくしも嬉しいのですよ」

「おかあたま、たべたててくれゆ。わたくち、うれちい」


 二人で言い合って、微笑み合って食事を終えた。

読んでいただきありがとうございました。

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