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転生皇女セラフィナ  作者: 秋月真鳥
一章 セラフィナ誕生する

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24/59

24.初めての熱

 朝起きたら、体がぐらぐらしてベッドから出られなかった。

 頭が痛くて、汗をかいているのに寒くて、自分がどうなっているか分からない。

 混乱していると、起こしに来た乳母がわたくしの額に手をやって侍女に声をかけた。


「セラフィナ殿下が発熱しています。皇帝陛下と皇后陛下とラファエル殿下に伝えて、医者を呼んできてください」


 侍女は無言で頷き、お父様とお母様とラファエルお兄様のところに行くものと、医者を呼びに行くものに分かれる。わたくしはベッドに座らされて汗を拭いてもらって、新しいパジャマに着替えさせてもらっていた。


 鼻水が出ると、乳母がそれを拭いてくれる。

 すぐに医者がやってきて、お父様もやってきて、お父様の前でわたくしは医者に診察してもらった。

 医者はわたくしの熱を測り、口を開けさせて喉を見て、聴診器で胸の音を聞いて、診断した。


「風邪でしょうね。重篤な病気ではありません。ただ、うつる可能性はあるので、隔離した方がいいかもしれません」

「薬はあるのか?」

「風邪薬と熱さましはありますが、風邪は栄養を取ってゆっくり休めば治りますので」

「分かった。セラフィナと話をさせてくれ」


 医者に話を聞き終わるとお父様は膝を曲げてわたくしと視線を合わせてくれた。ベッドに座っているわたくしは、熱のせいで頭が痛いし、ぼーっとするし、動くことができない。

 お父様はわたくしの手を取ってわたくしに言い聞かせた。


「しっかり食べて、ゆっくり休めばすぐに治るからね。治るまではラファエルともセレナとも会えないけれど、それは我慢してほしい。わたしはできる限りお見舞いに来るから、頑張れるかな?」

「あい。がんばりまつ」


 優しい言葉で教えてくれるお父様に、わたくしは素直に頷いていた。

 前世では実家にいたころ、何度も熱を出したこともあったし、病気になったこともあったけれど、そのときには屋根裏部屋に閉じこもって病気が治るのを寝ながら待つだけだった。

 水や食事は哀れに思った使用人が届けてくれていたけれど、ほとんど食べられなかったのを思い出す。

 それもそのはず。食事は病気になってもいつもと変わらないカチカチのパンと薄いスープだけだったのである。


 皇女セラフィナとなったわたくしは全く違っていた。

 お父様がすぐに手配させて、食べやすいものを用意してもらっていた。

 

「それじゃ、セラフィナ、早く元気になるんだよ。愛しているよ」


 お父様は執務の前に時間を作ってわたくしを見に来てくれていたようで、足早に去って行ったが、妊娠しているお母様やまだ十二歳のラファエルお兄様にうつってはいけないと分かっているので、お母様とラファエルお兄様が来られなかったのには納得していた。


 朝食は卵の入った優しい味のリゾットとジャムの入ったヨーグルトだった。

 あまり食欲はないけれど、乳母に食べさせてもらうと寒かった体がほっと温まってくる気がする。

 食後には風邪薬を飲んだ。

 粉薬で飲みにくかったし、苦くて変な顔になってしまったが、治らないとお母様にもラファエルお兄様にも会えないから我慢して飲み込んだ。


 薬を飲んだ後は歯磨きをして、ベッドで休む。

 眠っていると、前世のことを思い出していた。


 前世では実家で屋根裏部屋に住まされて、使用人のように扱われていた。

 屋根裏部屋は夏は暑くて、冬は寒くて、最低の環境だった。

 夏場はよく熱中症になりかけてふらふらになったし、冬場はよく風邪を引いた。

 風邪を引くと、うつっては困るから屋根裏部屋に閉じ込められていた。じめじめとした臭い毛布が一枚だけしかなくて、寒くてがたがたと震えながら眠っていた。

 ベッドもなく、擦り切れた絨毯の上に毛布一枚被って眠っていた。


 目を覚まして、わたくしは自分がクラリッサではなくセラフィナであることを確かめるように、小さな手を握っては開いた。

 わたくしは清潔なベッドに寝かされていて、体には温かくて軽い羽毛布団がかけられている。最近はそれだけでは寒くなってきたので、洗濯されていい匂いのする手触りのいいふかふかの毛布もかけられている。


「セラフィナ殿下、目が覚めましたか。お水を少し飲みましょう」

「あい」


 グラスに水を注いで持ってきた乳母がわたくしに水を飲ませてくれる。うまく飲み込みきれなくて、唇の端から垂れた水は、すぐに拭ってもらえた。


「昼食までもう少し時間がありますが、お腹は空いていませんか?」

「おなか……ちょっとちーた」

「それなら、簡単に摘まめるものを食べましょう」


 すぐに焼き菓子が用意されて、わたくしはフィナンシェを手に取って齧った。鼻水が出ているので、匂いがよく分からなくなっているが、バターの香りのする甘くて美味しい厨房の料理長が作ってくれたフィナンシェに違いなかった。

 食べ終わると、歯磨きをしてまた眠った。

 次に起きたときには昼食の時間で、パン粥を食べさせてもらった。

 牛乳の味がほのかに甘く、離乳食でこれを食べたことを思い出していた。


 昼食後にまた眠ろうとしても、たくさん眠ったのであまり眠くなかった。

 ベッドで横になってはいるが、退屈になってくる。


「えほん、ほちーの」

「セラフィナ殿下、今日は安静にしておきましょう」

「えほん……」

「それでは、一冊だけわたくしが読ませていただきますね」

「あいがと」


 乳母が折れてくれて一冊だけ絵本を読んでくれたので、少しは退屈が紛れた。絵本を読んでもらうと布団の中に潜り込んで目を閉じる。


 ひたすら安静にしていたら、翌日には熱は下がっていた。

 熱は下がったのだが、わたくしはまだ鼻水が出ていた。

 自分でも拭くのだが、乳母にも何度も鼻水を拭いてもらう。


「まだ完全には治っていないようだね。明日まで様子を見よう」

「あい、おとうたま」

「寂しいかもしれないけれど、治ったらセレナともラファエルとも会えるし、遊べるから頑張ろうね」

「あい、がんばりまつ」


 朝にはお父様がわたくしの様子を見に来てくれて、もう一日わたくしは療養することになった。

 食事は食べやすいリゾットやパン粥だったが、昨日よりもしっかり食べられるようになっていて、全部残さずに食べた。

 眠っていなくても体は回復していて、ベッドの中にいるのが退屈になると、乳母が本を持ってきてくれて、読ませてくれた。


 発熱してから二日目には、わたくしは鼻水も止まって、完全に治っていた。

 朝に様子を見に来たお父様は、医者にわたくしを診せて完治したのを確認した。


「セラフィナ、よく頑張ったね。風邪は治っているみたいだよ。今日からセレナとラファエルと一緒に過ごしてもいいよ」

「おかあたまとにぃにといっと! あいがとごじゃまつ、おとうたま」

「セラフィナが頑張ったからだよ。いい子だったね」


 髪を撫でられて、わたくしは嬉しくて飛び跳ねそうだった。


 お父様から許しが出ると、お母様とラファエルお兄様が子ども部屋にやってきた。


「セラフィナは治ったばかりだから、外に行くのは避けるように。激しい運動も避けるように言われている。たくさん我慢していたから、いっぱい褒めて甘やかしてほしい」

「分かりましたわ、ヘリオドール様」

「父上、了解です!」


 お父様はお母様とラファエルお兄様に伝えてから、執務に戻って行った。

 わたくしは二日ぶりに会えたお母様とラファエルお兄様に飛びつく。


「おかあたま、にぃに!」

「セラフィナ、風邪を引いて一人で心細かったでしょう。いい子で頑張りましたね」

「セラフィナ、今日はにぃにがいっぱい絵本を読んであげるよ。どれがいい」

「あれがいーの!」


 ラファエルお兄様に抱っこされて本棚を見せてもらうと、わたくしは上の方にある分厚い本を指差す。わたくしがラファエルお兄様が五歳くらいのときに読んでいた冒険譚も読むことができたと分かっているので、ラファエルお兄様はその本を手に取って、わたくしを膝の上に乗せて読んでくれた。


 その本は、この国の建国の歴史を子ども用に分かりやすく書いたものだった。

 簡単な歴史は前世の学校で習っていたので理解しているが、建国の歴史など知らなかった。


 この大陸には元々たくさんの国があって、その中のいくつもの国が大陸を統一しようと戦争を繰り返していた。

 あるとき、セレスティアという国と、ストラレインという国と、カラステアという国が協力して大陸を統一しようということになった。

 三国は非常に力のある領土の広い国で、三国が集まって大陸は一つの国になった。

 それが今のセレスティア帝国である。

 セレスティア帝国はストラレイン王国とカラステア王国を属国とし、永久にその地位を守ると誓ったのだった。


 建国の歴史を聞いて、この大陸がセレスティア帝国に治められていて、属国にストラレイン王国とカラステア王国がある意味が分かった。


 ラファエルお兄様が読み終わると、わたくしは拍手をして深くため息をつく。


「しゅごいねー」

「わたしたちはセレスティア帝国を建国した皇帝の血を引いているんだよ」


 読んでくれたラファエルお兄様にお礼を言って、わたくしは新しい知識を身に付けられたことを喜んでいた。


読んでいただきありがとうございました。

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