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転生皇女セラフィナ  作者: 秋月真鳥
一章 セラフィナ誕生する

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19.憧れの学園生活

 実はわたくし、二歳になって「おにーたま」と言えるのだ。

 言えるのだが、「にぃに」の方が言いやすいし、すぐ口から出てくるのでラファエルお兄様のことは幼さに甘えてもう少し「にぃに」と呼ばせてもらおうと思っている。


 子ども部屋の窓から見える庭の景色も変わってきて、木々は紅葉し、秋も深くなっているのが分かる。

 ラファエルお兄様も学園に入学してから一か月が経とうとしていた。わたくしのお誕生日からも約一か月が経ったということだ。


 その間にラファエルお兄様はアルベルト様とユリウス様とアンリエット嬢を招いて、宮殿でお茶会を二回している。二回目にはヴァレリア嬢も来ていたのだが、彼女はそれなりの処分を受けたということでもう忘れることにする。


 ラファエルお兄様から聞く学園の話は、とても興味深くて、ラファエルお兄様が学園から帰って少しでも子ども部屋に来ると、わたくしはいつもラファエルお兄様に駆け寄って話を聞いていた。


「がくえんのおはなち、ちて」

「セラフィナは学園の話が好きだな。学園のクラスは身分で分けられているんだ。わたしのクラスには、皇族と公爵家の子息令嬢と、侯爵家の子息令嬢しかいない」

「どうちて?」

「学園で学生は平等だと言っているが、それは建前なんだ。身分の差があるということを学ぶのも学園での大切なことだし、身分差のあるクラスメイトではいじめや上位貴族が下位貴族を馬鹿にして蔑むことが起こりやすいと言われているんだ」

「いじめ……」

「セラフィナには難しかったかな? いじめっていうのは、集団で一人を攻撃する、とても卑怯で最低の行為なんだ」


 そうなのか。

 わたくしは貴族であればほとんどのものが通うはずの学園に入学しなかったから知らなかったが、学園は建前上は学生は平等としているが、身分差をはっきりとさせており、身分の大きく違うものが同じクラスにならないようになっているのか。

 わたくしも学園に通っていたらいじめられていただろうから、ラファエルお兄様の言ういじめの意味は重く受け止めていた。


「もっとおはなちちて」

「学園ではサロンがあって、そこで昼食やお茶の時間ができるようになっているんだ。サロンは仲のいい友人同士のグループで借りるんだ」

「アルたま? ユーリたま? アンたま?」

「そうだね。わたしはアルベルトとユリウスとサロンを借りていたけれど、アンリエット嬢とご友人の令嬢も参加することになっているよ」

「しゅてきー!」


 ラファエルお兄様のサロンにアンリエット嬢も来ることになった件に関しては、わたくしは手を叩いて応援と歓迎の意を示す。拍手をするとラファエルお兄様が目を細めて喜んでくれるから、気を引きたいときには手を叩いてしまうのだ。


「そえから?」

「ごく少数だが平民の特待生も学園に来ているよ」

「とくたいしぇい……がくえん、どうちるの?」

「特待生や領地が帝都から遠くて帝都にタウンハウスがない貴族は、寮に入っているよ。昔は全寮制だったみたいだけれど、高位貴族や皇族は身を守らなければいけないから、セキュリティ上の問題で、帝都にタウンハウスがある高位貴族はそこから通ってるんだよ」

「りょう、おっちい?」

「寮は三つに分かれていて、これも身分ではっきりと差があるよ。こんなに話をしてたら、セラフィナが明日にでも学園に来ちゃうんじゃないかと心配になるよ」


 前世で学園に通えなかった分、わたくしは学園の話を聞くのが楽しかった。前世も通えたならば学園に通いたかった。クラリッサを冷遇する両親のもとで学園に通いたいと主張することもできなかったが。


「わたくち、がくえん、いきちゃい」

「来る?」

「いーの?」


 学園への憧れに胸をいっぱいにさせていると、ラファエルお兄様からお誘いがある。学園には十二歳になって入学してからしか行くことはできないと思っていたので、わたくしはラファエルお兄様から誘われたことに驚いていた。


「すぐには行けないんだけど、冬休みが明けたら、体育祭があるんだ。そのときに父上と母上に許可をもらって、護衛をしっかりと付ければ学園に来られるかもしれないよ」

「たいいくしゃい?」

「ダンスや乗馬、リレーなどで生徒が身体能力を見せあう学園の一大イベントだよ。わたしはアンリエット嬢を誘ってダンスに出ようかな? 乗馬でもいいな。セラフィナにわたしの格好いいところを見せたいよ」


 体育祭なんていうものがあるのか。

 平民の通う学校にはそんなものはなかったので、知らなかった。

 そもそも、平民は六歳から十二歳までの間、学校に通う。これは国で定められた義務教育だ。義務教育を終えると、平民の子どもたちは大人と同じと扱われて、働きに出ることが多いのだ。

 一部の優秀な特待生が貴族や皇族の通う学園に進学していることは知っていたが、学園での仕組みがどうなっているかは知らなかった。


 平民の通う学校では、読み書きと算術と簡単な歴史くらいしか習わない。

 ラファエルお兄様が家庭教師について勉強していたのをそばで見守っていたが、難しい数学や歴史、政治学などを学んでいて、それだけではなく礼儀作法も学んでいて、平民とはやはり違うのだと差には気付いていた。


「にぃに、たいいくしゃい、いく!」

「わたしもセラフィナに来てほしいな。父上と母上に頼んでおくよ」


 お父様とお母様はわたくしが学園に行きたがっていることを知っているはずだ。お父様とお母様は普段は執務と社交で忙しいのであまり会うことができないが、会えるときには子ども部屋に顔を出してくれているし、お茶の時間を一緒に過ごすこともあった。そのときにラファエルお兄様がいたら、今日のように学園のことで質問攻めにしているので、お父様もお母様もわたくしが学園に興味を持っていることは知っているのだ。


「わたくち、いいこにちる」

「セラフィナはいつもいい子だよ」

「もっと、いいこにちる」

「そうだね。そうしたら、父上も母上も学園に行くことを許してくれるかもしれないね」


 ラファエルお兄様が学園に通うようになってから、子ども部屋でラファエルお兄様とアルベルト様とユリウス様が勉強するようなこともなくなって、わたくしは少し退屈していた。

 わたくしには様々なおもちゃが用意されていて、乳母も侍女も積極的に遊んでくれるのだが、どうしても二歳児に対する遊び方なのでつまらないのだ。

 もっと知りたいことがある。もっと勉強したい。

 わたくしは字も読めるので、絵本を自分で読むこともできるし、もっと難解な本を読みたいのだが、まだ二歳なので簡単な絵本しか子ども部屋には用意されていない。

 かつてラファエルお兄様が読んでいたであろうちょっと高度な本でも、六歳児くらいまでが対象となる話だし、その本は高い位置に置いてあるのでわたくしは手が届かないのだ。


「にぃに、えほん、よんで」

「セラフィナはどの絵本が読みたいのかな?」

「あえ!」


 本棚の手の届かない上の方を指差すと、ラファエルお兄様が苦笑する。


「あれはまだセラフィナには早いよ。とても長くて、読み聞かせるのも何日もかかってしまうし」

「あえがいーの!」

「どうしても、これがいいの? それじゃ、読むけど、途中で飽きたらやめていいからね」


 上の方の本棚が見えるように抱き上げてもらって、一冊の本を選ぶと、ラファエルお兄様がそれを取ってわたくしを抱っこしてソファに座り、読んでくれる。それは分厚い本で、文字も小さく、二歳児向けではなかったけれど、平民の学校を卒業したくらいのわたくしにはぴったりの冒険譚だった。

 胸をドキドキさせてラファエルお兄様が読むのを聞いて、わたくしも自分で読み進めたいと思うのだが、ラファエルお兄様は読んだところまでにしおりを挟んで本をまた同じ高い位置の本棚に戻してしまった。


「あえ、とってー!」

「続きはまた今度ね」

「にぃに、ほちーの!」

「セラフィナ、それじゃ、乳母に続きを読んでもらえるように言っておくよ。セラフィナは本当に賢いね。これはわたしが五歳くらいのときに夢中になった本だよ」


 続きを乳母に読んでもらえると聞いて、わたくしは納得してそれ以上ラファエルお兄様を困らせることはなかった。


 ラファエルお兄様が部屋に帰って行くと、またわたくしはつまらなくなってしまう。

 お絵描きができるクレヨンと画用紙も用意されていたが、二歳の手はぐらぐらして上手に字が書けない。絵を描こうとしても、手首がぐらぐらして、全然上手に書けない。

 早く文字も書けるようになりたいと、わたくしはクレヨンを手に、画用紙に真剣に向き合っていた。


読んでいただきありがとうございました。

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