赤ずきん 〜天才少女と雑魚狼の攻防〜
梅ノ木版新釈・世界の童話の記念すべき第一作目は赤ずきんです。色々と改変を加えて少しは自分の納得できる結末に落とし込めたかなーとは思います。あくまでも童話なので気楽に読んでみてくださいな。
昔、あるところに、かわいい小さな女の子がいました。誰でもその子を見ると可愛がりましたが、特におばあさんが一番で、子供にあげないものは何もないほどの可愛がりようでした。あるときおばあさんは赤いビロードのずきんをあげました。そのずきんは子供にとてもよく似合ったので子供は他のものをかぶろうとしなくなり、それでいつも「赤ずきんちゃん」と呼ばれていました。
ある日、おかあさんが赤ずきんに言いました。
「赤ずきん、こっちにおいで。ここにケーキが一つとワインが一本あるわ。これをおばあさんのところまで持っていってちょうだい。おばあさんは病気で弱っているの。これを食べると身体にいいのよ。暑くならないうちに出かけなさい。行くときはちゃんと静かに歩いて道を逸れないようにしなさい。そうしないと転んで瓶を割っておばあさんは何ももらえなくなるからね。お部屋に入ったら『おはようございます』って言うのを忘れないのよ。ご挨拶する前にキョロキョロしたり覗き込んだりしちゃだめよ」
赤ずきんは不思議でした。病気をして弱っている人にケーキをワインを持っていったところで快復するとは思えなかったのです。そういう人にはおくすりやおかゆなどを持っていくほうがいいのではないかと思いました。ケーキに含まれる栄養などほぼ糖分、つまりは炭水化物です。本当に病人の身体にいいのでしょうか。というか、病人に届けるものが暑くなるとすぐにダメになってしまうようなものは相応しいと言えるのか、赤ずきんには疑問でした。
それに、道を逸れて歩いたところでそんなに簡単に転ぶとは思えません。道から逸れて歩いただけで転ぶとか、どんな悪路なんだという話です。そもそも、たとえ転んだとしても瓶が割れないように何らかの対策をするのが普通でしょう。
いや、根本的なことを言うとなぜおばあさんだけ一人森の中で暮らしているのでしょうか。こういう時に困るのだからいっその事二世帯住宅を建てて一緒に暮らせばもっと楽になるはずです。どうせ土地は余っているのです。不可能ではありません。そうすれば健康状態も毎日見られるし、何より毎日たくさんお話することができます。赤ずきんはいずれ時を見計らって提案しようと思いました。
「(色々とおかあさんの話には不思議で不可解なところが多いから本当は色々と問いただしたいけれどとりあえず)よく気をつけるわ」
そう言って赤ずきんとおかあさんは約束の握手をしました。
おばあさんは赤ずきんの住んでいる村からおよそ一・五キロ離れた森の中に住んでいます。その森の中に入った時に、赤ずきんはちょうど一匹の狼と出会いました。周りに他の狼がいる気配はありません。一匹狼です。赤ずきんは、一匹狼とは本来は群れで行動している狼の中でも弱い個体で、弱すぎるがゆえに群れから追い出された存在だと知っていたので全く怖がりませんでした。
狼は言いました。
「こんにちは、赤ずきんちゃん」
いきなり面識の無い通りすがりの子供に話しかけるなど不審者でしかない、と思いましたが赤ずきんは礼儀として返事をしました。
「ご親切にありがとう、狼さん」
「こんなに早くにどこに行くんだい、赤ずきんちゃん」
赤ずきんは唐突に現れた不審な人物にそんなことを言うわけがなかろうと思いました。しかし、だからと言って言い訳をしようにも他の人の家に行くと言うことはできません。何故ならば村からこの森に続く道はおばあさんの家まで伸びる一本道だからです。こんな所にいる狼がそれを知らないはずはありません。
「その……お花を摘みに行くのよ。このカゴにいっぱいになるくらいね」
そう言って赤ずきんはたまたま右腕に持っている空っぽのカゴを掲げました。
しかし、それで騙されるほど狼も馬鹿ではありません。狼は素早く赤ずきんの全身に目を走らせると言いました。
「じゃあそのエプロンに入っているものはなんだい?おれにはケーキとワインに見えるんだけどな」
赤ずきんはほんの少しだけ唇の端を歪めました。確かにこれを持っていてお花を摘みに行くと言ってもちぐはぐになってしまいにわかには信じてもらえません。ですが、おばあさんの家に行くと言えばこの狼が何をしでかすか分かりません。一匹狼とは得てしてお腹を空かせているものです。もしかするとおばあさんを食べようとするかもしれません。たとえ弱い存在であっても窮地に陥れば実力以上の力を発揮することもあります。赤ずきんが恐れていたのはそこでした。
「ええ、そうよ。狼なのによくわかったわね。これはおかあさんがどうせ時間がかかるからって言ってお昼ご飯のために持たせてくれたものよ」
赤ずきんは我ながら苦しい言い訳だとは思いましたが他に良い考えもなくこう言いました。
「へぇ、そうかい。それじゃ、お花畑までついて行くとしよう」
狼はこの赤ずきんを食べようと考えていました。なんと若くて柔らかそうなんだ。なんとおいしそうに太ってるんだ。骨と皮しか無さそうなばあさんよりよっぽどうまそうだ。今日はばあさんを襲って食べようと思っていたが計画は変更だ。おれはうまくやって両方つかまえなくちゃならん。さて、どうするか。
狼と並んで歩きながら赤ずきんはどうやって狼を始末するか考えていました。おそらくこの狼はおばあさんを食べようとしているわ。いいえ、もしかしたら待ち伏せて私も食べるつもりかもしれない。そんなの困るわ。どうすればこの狼を上手いこと殺せるのかしら。殺せなくても無力化できればいいわ。どうしましょう。
しばらく歩いて狼が言いました。
「赤ずきんちゃん。見てごらん、このあたりのお花はなんて綺麗だろうね。周りを見渡してごらん、小鳥たちもとても綺麗にさえずっているよ。真面目くさってとぼとぼ歩いていないで顔をあげてごらん」
赤ずきんは目を上げました。太陽の光が木の間からあちこちに踊っていて、綺麗な花が一面に生えているのを見ると赤ずきんはここで綺麗な花々に目を奪われたような演技をして狼を油断させよう考えました。それで花を摘みに道から森の中へと走っていきました。一本摘むとさらに向こうにある花を追いかけてどんどん森の奥へと入っていきました。
それを見てほくそ笑んだ狼は道をまっすぐに走っていきおばあさんの家に向かいました。そして戸を叩きました。
「そこにいるのは誰だい?」
「赤ずきんよ」
と狼は答えました。
「ケーキとワインを持ってきているのよ。戸を開けて」
「掛け金をあげて。私は弱っていて起きられないから」
そうおばあさんは叫びました。
狼が掛け金をあげると戸はぱっと開きました。堂々と入ってきた狼は一言も言わずにまっすぐおばあさんのベッドに行くとおばあさんを丸呑みにして食べてしまいました。それから狼はおばあさんの服を着て、帽子を被り、カーテンを引くとベッドに横たわりました。
森の奥に入った後、木陰から狼の様子を観察していた赤ずきんは狼の姿が視界から消えると再び道に戻ってきました。
「どうしようかしら」
狼を始末しようと考えたはいいものの、赤ずきんにはその力がありません。真っ向から戦ったところで狼に負けることは目に見えています。
赤ずきんが頭を悩ませていると、そこにちょうど猟師が通りかかりました。その姿を見て赤ずきんの頭にある考えがひらめきました。
「猟師さん、おはようございます」
「おお、赤ずきんか。おはよう。こんな早くにどうしたんだい?」
問われた赤ずきんはさも恐ろしいことがあったというような顔をしました。
「あのね、この道の先に住んでいるおばあさんが狼に食べられてしまったの。どうにか助けてもらえないかしら」
赤ずきんのひらめきとは、はったりをかけて猟師を誘い出し、代わりに狼を始末してもらうというものでした。しかしこのはったり、あながちただの嘘とも言えません。狼の行動を想像すれば赤ずきんの姿が見えなくなった瞬間におばあさんの家に行ったことは明らかです。おばあさんの家に行って狼がすることなどおばあさんを食べる以外にありません。狼の足の速さであればもうおばあさんの家について食べ終えた頃でしょう。そして狼はおそらくおばあさんを食べた後で待ち伏せて、のこのことやってきた赤ずきんをも食べる腹積もりでいます。ということはこのまま赤ずきんが猟師を引き連れておばあさんの家へ行けば襲いかかってきた狼を返り討ちにしてもらえるはずです。猟師が狼を殺す頃にはおばあさんの命は既に失われてしまっているでしょうが、今後の被害者のことを考えればどうということはない安い出費だわ、と赤ずきんは考えました。
「なんと、そんなことがあったのか。それは大変だ。ぜひとも助けてあげよう」
「ありがとうございます」
二人は連れ立っておばあさんの家へと向かいました。おばあさんの家に着くと家の戸が開いたままになっています。それを見た赤ずきんは自分の予想が当たったことを確信し、猟師はこれから起こるであろう戦いを想像して銃をしっかりと握り直しました。
「おはようございます」
戸の前に立った赤ずきんができる限りドスの効いた声で挨拶をしても返事がありません。
しかし狼がいるからだと分かっていた赤ずきんが部屋に入ると中はとても暗かったのでカーテンを開けました。すると、ベッドにはおばあさんの帽子を顔まで深々と被って変装したつもりでいる狼が寝ていました。赤ずきんにはその様子がとても奇妙で滑稽なもののように見えました。
赤ずきんが黙って振り返り手招きをすると、猟師が足音を殺して中に入ってきました。そしてベッドで寝ている狼を覗き込むと言いました。
「赤ずきん、これはおばあさんではないのかね?」
「何を言っているのかしら?どこからどう見ても狼でしょう?」
赤ずきんは猟師に自分が話して狼の気を引くから、起き上がってきたところを撃ち殺すように頼みました。
「いや、殺すより気絶させた方がいいだろう」
「あらどうして?」
「まだおばあさんが生きているかもしれないからさ。一旦狼を気絶させて腹を開く必要がある」
赤ずきんは面倒だと思いましたがもちろんそんなこと態度には出しません。
「なるほど、わかったわ」
そう言うと赤ずきんは狼の方に向き直って尋ねました。
「おばあさん、とても耳が大きいわね」
「お前の声がよく聞こえるようにね」
「おばあさん、目がとても大きいわね」
顔が見えていないと思っていた狼は狼狽えましたがすぐに気を取り直して言いました。
「お前がよく見えるようにね」
「おばあさん、手がとても大きいわね」
狼の返事など気にせず赤ずきんは続けて質問をしました。
「お前をよく抱けるようにね」
「おばあさん、鼻がとても長いわね」
「お前の匂いを良く嗅げるようにね」
「おばあさん、顔も手も毛だらけでふさふさしているわね」
これには狼は上手い返答を用意しておらず、しばし考えました。そして何とか「お前を暖かくするためにね」という言い訳を口にしました。
「おばあさん、恐ろしく大きな口ね」
これには狼は嬉々として返事をしました。
「お前をしっかり食べるためさ!」
そうして狼が飛び起きようとした刹那、赤ずきんは猟師を振り返り「今よ!」と言いながらしゃがみました。
猟師は素早い動きで狼に近寄り銃床で狼の頭を殴りました。狼はその衝撃に耐えられず、たちまち気を失ってしまいました。
「赤ずきんの言うとおり狼だったな」
「ええ。さぁ、狼が気を失っている間に捌いてちょうだい。おばあさんが生きているかもしれないんでしょう?」
「ああ、今から開くとも」
猟師は大きなハサミを取り出して狼のお腹をちょきちょきと切っていきました。すると、中から息も絶え絶えのおばあさんが転がり出て来ました。赤ずきんは一瞬、おばあさんが生きていたことに驚きましたがすぐに気を取り直しました。
「おばあさん!!」
「……あ、ああ、赤ずきんかい……?助けてくれたのかい……?」
「ええ、猟師さんが助けてくれたわ!」
「ああ、そうかい……二人とも、ありがとうねぇ……」
腹を切り開かれたままの狼はそのまま放り捨てて置いても死ぬことは誰もがわかっていましたが、赤ずきんはどうせなら苦しめて殺してやろうと思いました。
そこで赤ずきんは近くからたくさん石を拾ってくるとどんどん狼のお腹に詰めていきました。狼のお腹が石でいっぱいになったところで腹を大雑把に縫い合わせ、森の中に転がしておきました。
しばらくして狼は目覚めました。そして先程の失態を思い返して赤ずきんに復讐してやろうと思いました。
しかし、どうにもお腹が重たくて起き上がることが出来ません。そしてお腹に激痛が走りました。猟師が切り開いた部分、赤ずきんが雑に針を通して縫い合わせた部分、さらにはお腹の中の石が様々な臓器と擦れて生じる痛み……。数多の痛みに苦しめられますが、狼は身体だけは丈夫だったため容易に気を失うことも出来ません。
そのうち、狼は傷口の化膿と出血多量によって死んでしまいましたとさ。めでたしめでたし。
さて、そんなわけで狼に騙されなかった世界線の赤ずきんでしたー。赤ずきんちゃん大活躍!でしたねー。いやーめでたしめでたし。いぇい。
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