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【ボーイミーツガール & ハイファンタジー!】君を探して 白羽根の聖女と封じの炎  作者: 芋つき蛮族
三章

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57. 霧の街ミストピア

 レゼノーヴァ公国東部、メルランザス地方――

 

 公国三大領主の一角、『公国の盾』ルガシム・マグナ・メルランザスが統治する、大草原、穀倉地帯。

 北東のメタルカ共和国、南東のラ・ギオといった、隣国への緩衝域としての役目を果たすこの地域には、大小さまざまな町が街道を繋ぐ形で存在している。

 

 俺たちが立ち寄った湖畔の街ミストピアは、その中でも一際重要な役割を占める、一風変わった街だった。

 

「湖畔の街ミストピア。別名、霧の街か……」 

 

 霧の街ミストピア。

 公国最大の湖『貪竜湖』から常に流れ込む多量の霧が、この街をそう呼ばせているのだ。


 そしてその地域的特性は、公国製の大型術具を用いた『気流操作』により管理されている……とのことなのだが。

 

「変幻自在の霧の壁で侵入者を包み込み、誘導、分断する……確かに攻め込む側にとっては相当厄介なんだろう、けどさ……」

 

 街の入口に配されていた教会を出て、夕暮れを迎えた路地を十歩と進まぬうちに、

 

「ここまで濃いと、普通に生活する分にも影響あるだろこれ……!」


 俺は霞む往来での宿探しに際して、四苦八苦する羽目となっていた。 


「なに言ってるのよ。馬車から貪竜湖が見えたときには、一人ではしゃぎまくってたくせに」

「う……そ、そりゃ初めてみたときは驚いたし、随分と涼しくて喜んだけどさ。それにしたって、町中まで霧が濃くて数歩先が見えないってのは……流石にやりすぎじゃないか?」 

「普段からずっとこの調子ってわけでもないのよ。今は術具の定期メンテナンスが行われていて、邪魔な霧を排出しきれていないだけだから」 

「なるほど、タイミングの問題ってことか。それにしてもこれだけの範囲の気流を操作するっていうのは、凄いな。術具の管理にも相当人手が必要なんじゃないか?」

「それがそうでもないらしくって。なんでも街の北側の山肌から吹き込んでくる風に手を加えることで、周辺一帯の霧の量を操れるとかなんとか。勿論、細かい調整は細部でもやるみたいだけど。基本的にはローコストでやれてるって話よ」

「ほへー……術具の運用にも、そんなやりかたもあるんだな……」

「あとは、そうね。街周辺の防壁は最低限に抑えて、霧の影響が及ぶ地形を利用して外敵からの侵攻に備えたり。光と音で低地に誘導して、あわよくば湖に落としたりだとか。様々な工夫が施され続けた結果、迷いの森ならぬ迷いの街とか呼ばれてたりとか。特徴としては、そんなところかしら」

「なるほど、それで妙に似たり寄ったりな道ばっ――あたっ!?」 

 

 会話の途中、路傍の木々や標識の角に頭をぶつけたり。

 ぼんやりとした道を踏み外して、そこら中の水路に落っこちそうになったり。

 誘蛾灯のように輝く光に誘われて、袋小路に入りかけたりと。


「なんて言うか……霧の中の蟻地獄、って感じだな。ここ……」

 

 結果、俺はミストピアという街に対してそんな印象を抱くに至っていた。


「蟻地獄か……そうね。言い得て妙、ってヤツかも」


 その例えに、フェレシーラがクスクスと笑いながら答えてきた。

 あっちへこっちへと戸惑うこちらの様を、どこか楽しんでる様子の彼女だったが……

 まあ、目新しい物を見かける度にふらふらと引き寄せられる俺も悪いので、文句は言えない。

 

「レゼノーヴァが建国されてから一度だけ。十一年前にラ・ギオからの侵攻があったのだけど」

「ラ・ギオって……獣人族が、ここに攻めてきたってことか?」

「ええ。当時はまだ、公国もラグメレス王国領からの再編で余裕がなかったみたいで。一部の獣人たちが攻め時とみて押し寄せてきたの」


 躊躇う様子もみせずに先をゆくフェレシーラが、過去の出来事を口にする。

 

「その頃から、ミストピアは霧深い街と知られてはいたのだけど。多少視界を遮られる程度であれば、自分達の鼻と耳をもってすれば障害にはなりえない……攻め込んだ獣人たちは、そう考えたのでしょうね」

「たしかに。防壁のない街なんて、山だらけのラ・ギオで育ったヤツらからしてみれば、平地とそう変わらないだろうしな」

「ええ。貴方の言うとおりに、彼らここに迫ってきた。兵も関所も殆どに置かれていない国境を容易く越えてね。そして得意の肉弾戦に持ち込む為に、一直線にこのミストピアの中心部を目指して――」 


 そこでピタ、と足を止めて。

 

「そしてそのまま、これといった戦果も出せずに大敗を喫した。そんな過去が、この彼らにはあるの。『帝国の盾』ルガシム卿の指揮の元展開された、試作品の天光操作術具を用いた幻惑作戦の術中には落ちて……正しく蟻地獄に嵌るようにして、水底に沈んでいったという過去がね」 


 フェレシーラは、こちらを振り返ってきた。


「そりゃまた……想像に難くないというか。あまり夜中には聞きたくないと言うべきか……」

「実際に街の正門に彼らが到達したとき、その数は侵攻開始当初の、五分の一にも満たなかったらしいわ。その残された兵士も、殆どが卿の策略で同士討ちに遭って囚われたのだけど。その後、公国はラ・ギオから得た多額の身代金を元手に街の防備を固め続け……結果、メタルカも巻き込んでの不戦条約を取り付けるまでに至った、という話ね」

「首尾よく巣を完成させて、強気に出れるようになったわけか。うーん……師匠の使ってた『迷走』の魔術が、可愛く思えてくるな」 

「やっていることの規模と難易度でいえば、隠者の森のそれには大きく劣るもの。物とアトマは使いよう、ってことよ」 

 

 言いながら彼女が突き出していた手を引くと、そこから眩い光が溢れ出してきた。

 

 不意打ち気味にやってきたアトマの――水晶灯の輝きと、追って押し寄せてきた熱っぽい喧噪に、俺は反射的に目を細めてしまう。

 どうやらお喋りに夢中になっている間に、目的の宿に到着していたらしい。

 

「さてと。この街の話は、食事のときにでもにするとして……今日はここで休んでおきましょう。教会での件をもう少し詰めておきたいし」 

「ああ。じゃあ先に、ホムラを起こしてご飯を済ませてからだな」


 酒場の奥から響いてくる、高らかな歌声。

 軽妙なリズムを刻む弦楽器の旋律。

 打ち合わされるジョッキと、掌の音。


 静まり返っていた道中とは打って変わり、熱を伴う活気に満ちた空間。

 

「残念。今日も騒がしそうね」

「大丈夫。馬車での昼寝に比べたら、もうどこでも寝れる気がしてきたからな」 

「あら、言うようになったじゃない。でもレゼノーヴァの西端になると、あんなものじゃ済まないわよ? なにせ街道らしい街道なんて、殆ど通ってないもの」

「うげ。それは勘弁だな。すんません、調子コキました……!」 

「わかればよろしい――と言っても、そこまで行くこともないけどね。アレイザまでの道はちゃんと整備されてますので、ご心配なく」 

「なんだよ……さっきの話といい、無駄に驚かすなって」 

 

 もぞもぞとし始めたナップサックを背負い直して、俺は宿中を見渡した。

 

 間取り自体は、セブで立ち寄った宿とそう変わりのないもない、やや手狭な感じ。

 しかし多量に満ちる霧への対策としてか、扉と窓、梁などの一部の構造材を除いて、腐食に強い石造りの構造となっている。

 

 食堂を兼ねた酒場の席は、おおよそ三十席ほど。

 その殆どが埋まっているところをみると、供される料理の味にも期待出来るだろう。

 

 現に入口に差し掛かっただけで、威勢よく振るわれる鍋の音に乗って、肉や魚の焼ける香ばしい匂いが店中に立ち込めている。

 

「うん……? なんかここ、セブの町と比べて皆の服装とかが目に優しいっていうか……白とか黒ばっかりで、ちょっと地味だな」

「地味とか言わないの。そこは統一感があると言っておきなさい。ここから先に住んでる人たちは殆どが公国民だから、大体こんな感じだもの」

「なるほど。そういや獣人も全然――っと。この話は、あんまよくないか?」

「そういうことね。あの町の異国情緒感は私も好きだけど……国に加えて種族まで違って、ましてやそこと争って日が浅いとなれば、仕方もないわ」 

「それはわかるけどさ。その割に、セブの町の皆は結構雰囲気よくやってなかったか? まあ実質半日もいなかったから、イメージとしてはだけど」 

「あそこはまだ町がつくられて年数も浅いから。そもそも侵攻時はここまで殆ど素どおり状態で、実質的な損害がなかっただけよ。それもいつまで続くかわからないし」 

「そっか……聞いてた話よりも、おっかない連中なんだな。獣人ってのは」

「ラ・ギオの人たちだけに限った話じゃないわ。人は皆、怖いものよ。覚えておきなさい」

 

 宿の受付を済ませて振り返ってきたフェレシーラに、俺はこくりと頷いてみせた。


 その言葉の意味を、深くは考えぬままに……



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