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【ボーイミーツガール & ハイファンタジー!】君を探して 白羽根の聖女と封じの炎  作者: 芋つき蛮族
三章

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47. 神殿都市《アレイザ》を目指して

 林道を抜けると、そこは一面に広がる緑の絨毯だった。 

 

「うっわ……」


 視界の端々までを覆いつくす草原に圧倒されてしまい、歩みが止まる。

 

「もう少し先に宿場町があるから。今日はそこで宿をとりましょう、フラム。そこまで行けば歩き通しの旅も一旦お終いよ」 

「あ、うん……そうだったな」 


 馬上からの呼びかけ……フェレシーラの声に、俺は振り向き頷く。

 そこに、一陣の風が押し寄せてきた。

 

「うっぷ……っ! か、風つよいな、ここ!」 

「北西のメタルカ側から吹く季節風ね。今は初夏だから、時期的にはこれからが本番ってとこだけど」

「本番って、これでも序の口って――ぶっ!?」


 一面の深緑、大草原の上を風の波が駆け抜ける。

 そんな悠然とした光景に目を細めていると、突如、モコモコした物体が顔にぶつかってきた。

 

「ピィ! ピピィ!」 

 

 その物体が、俺の眼前で嬉し気に飛び回る。

 白茶の翼と鉤爪に白赤の鷲頭、それに猫科の半身を併せ持つ、小さな幻獣。

 グリフォンの雛だ。

 

「こら、ホムラ! 顔はやめろって言ってるだろ、顔は!」 

「ピ!」 

「貴方たちねぇ……立ち止まるごとにそうやってじゃれ合うの、いい加減にやめなさいってば」

「べ、べつに、やりたくてやってるわけじゃ……ていうかお前、昨日まではホムラも遊びたい盛りなんだから、ちゃんと付き合ってやれって言ってただろ!」 

「言ったけど。そもそも事あるごとに足を止めちゃう貴方のせいでしょ。大きな川や石橋で止まるのはまだわかるとして。こんな何にもないところまで道草食っていたら、いつまで経っても公都に辿り着けやしないもの。シュクサ村から出てもう四日よ、四日。小言の一つも言いたくなって当然だと思うけど?」

「ぐ……わーったよ、進めばいんだろ、進めばさ……っ」

「ま、気持ちはわからないでもないけどね。新鮮味のない旅ほど、つまらないものもないし」


 フェレシーラの言葉に背を押されて、俺はホムラを抱えての歩みを再開した。 

 気分次第で飛んだり寝転んだりするホムラは、こうしてでもおかないととてもじゃないが旅のペースがあがらない。

 荷物の殆どを馬装に預けてるのでそこまで重荷でもないが、目を離せないという意味では中々に気が休まらない状態だ。

 

「ほんと、フレン様様だな。お前がいなかったら、俺とっくにダウンしてたよ」 

「そうよー。この子には感謝しておきさないよー、何せこれからもっとお世話になるんだから」


 二人で声をかけると、かっぽかっぽと馬蹄を鳴らしていたフレンが「ブルル……ッ」と低い嘶きを返してきた。

 

「でも、フレンがホムラに怯えなくて助かったよ。まだ全然チビだから平気だったのかな」

「そうねえ。まあこの子って結構豪胆な性格してるから。初めて貴方と出くわしたときは驚いちゃってたけど、あんなの滅多にないことだもの」

「うえ……マジか。あのときは驚かせてごめんな、フレン……」


 なんだかんだと言い合いながら、俺たちは道幅の広くなりだした街道を進んでゆく。


 あれから『隠者の森』を離れて、はや四日。

 俺はフェレシーラに連れられて、ひたすらに西進する毎日を過ごしていた。


 旅の目的地は、レゼノーヴァの公都『神殿都市アレイザ』。

 公国の首都にして、神殿従士であるフェレシーラが所属する聖伐教団の総本山が構えられた、中央大陸有数の大都市。

 

 俺が今後どう生活していくにせよ、そこであれば様々な選択肢が存在している――

 そんなフェレシーラの勧めから、俺はアレイザを目指している最中だった。

 

「ベストと言えるのは、貴方が無理なく魔術を使えるようになる。これよね。司祭様に診てもらえれば、何か解決の糸口が見つかるかもしれないし……」

「勿論、そうなれば嬉しいけどさ」


 フェレシーラの提案に俺は頷く。

 あの『隠者の森』での一件以来……俺が霊銀の手甲を使って強引に『熱線』の魔術を発動させてからというもの。

 彼女は俺が無闇に魔術を使おうとしていまいかと、随分気にかけている様子だった。


 まあ、その心配はもっともといったところだ。

 俺が魔術で洞窟に大穴を開けてしまった、というのも理由の一つなのだろうが……


 何せこちらは、一人前の魔術士になれずに破門となり放逐された身なのだ。

 そんな男が曲がりなりにも術法式を起動させて、大規模な攻撃魔術を発動したとあれば。

 旅の同行者であるフェレシーラにしてみれば、俺が調子にのって盛大にやらかしはしないかと気が気ではないだろう。


 とはいえ、そこは一応こちらとしても自戒している部分ではある。

 それになにより、自力で魔術を扱えないことに変わりはない。

 影人討伐の一件で俺自身が成長したというわけでもないのだ。

 この程度のことで増長していては、あの人に笑われてしまうだろう。


 ここレゼノーヴァでは誰もが知る大魔術士、数多の魔人を滅したとされる救国の英雄、勇者……『煌炎の魔女』マルゼス・フレイミング。


 俺の師であったその人物は、どういうわけか今は自らの領地である『隠者の森』を離れているらしい。

 当初、その話を聞いたときは俺も驚きはした。

 だがそれも、別段おかしな話でもないと今は思う。

 十年以上つきっきりで面倒を見てきて、結果らしい結果をまるで出せなかった不出来な弟子から、ようやく解放されたのだ。

 彼女にしてみれば、晴れて自由の身となったというのに、わざわざ俺のために構えていた『隠者の塔』に引き篭る必要もない、ということだろう。


「とりあえずさ。魔術の話については、おいおいってことにして」


 涼やかな薫風を頬に受けつつ、俺は話題をすり替えるにかかった。


「まずはちゃんとした働き口を見つけて、自立出来るように努力してみるよ。と言っても、あんまり出来る仕事なんてないかもだけど」 

「うん? そこは心配ないと思うけど。たぶん貴方なら、そうそう働き口に困ることはないもの」 

「困らないって……え、何でだ? 自慢じゃないけど、俺、大きな町の仕事とか全然わかってないぞ?」 

「それは……ま、実際にそのときがくればわかる話ね」 

「ふぅん? よくわかんないけど……困らなそうなら、楽しみにとっておけばいいか」 

「そういうこと。それよりも、貴方昨日の夜――」

 

 時折道端の風景に現を抜かしたり、お喋りに興じたりしながら。

 気がつけば俺たちは、街道沿いに設けられた宿場町へと辿り着いていた。

 


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