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【ボーイミーツガール & ハイファンタジー!】君を探して 白羽根の聖女と封じの炎  作者: 芋つき蛮族
二章

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番外編 2

【シュクサ村 防衛柵内 馬房前・朝】

 三人称形式 46話終了後のお話です

「それじゃあ……フォリーさんにもお世話になりました。どうか、お元気で」

「はい。フラムさまもご壮健であられますよう、お祈り申し上げます」


 朝靄漂う林道へと向けて、グリフォンの雛を伴った錆色の髪の少年が歩み去ってゆく。

 その横隣に、鹿毛の牡馬の鞍上に座した亜麻色の髪の乙女が並ぶ。


 この迷いの森の主である『煌炎の魔女』の一番弟子を名乗る少年、フラム・アルバレット。

 そして聖伐教団の最高位神殿従士、『白羽根』フェレシーラ・シェットフレン。


 その両名の後姿を見送り終えて、モノトーンのメイド服を身に付けた一人の少女が踵を返した。


「お別れはすみましたかな。フォリーさん」


 メイド服の少女、フォリーに声がかかる。


「おはようございます、チャドマさん」


 馬房の影から姿を現した壮年の男に、フォリーが一礼で返す。

 行商人のチャドマ……フォリーの主であるこの村の長、シュクサを得意先として扱っていた人物だ。

 

「朝早くから客人の見送りとは感心ですね。ああ……そういえば、村長の体調は戻られましたか?」

「まさか。昨晩、フェレシーラさまから御報告があったことはご存知でしょう。今は人払いをされて自室に籠り切りです」 

「なるほど。流石は音に聞こえた白羽根殿。噂通りのお人だったようですね」 

「なにを呑気なことを……状況がわかっておいでなのですか?」

「あっはっは。もちろんですよ、フォリーさん」 

 

 朗らかに笑うチャドマに、フォリーが醒めた面持ちで溜息を洩らす。

 

 村の住人を襲っていた、正体不明の魔物の討伐。

 それが達成されたとフェレシーラの口からフォリーが聞かされたのが、昨日の宵の口、陽も暮れて間もないときのこと。

 その後、神殿従士の少女と魔女の弟子がシュクサと何やら自室で話し込んでいたようだが……それきり村長は部屋から出てこなくなっている。

 

「中々上手くはいかないものですね。グリフォンがあの場所を塒に選んだと聞いて、あわよくば……などと思ったものですが」 

「――チャドマ様」

「ああ、そんなに睨まないでください。これぐらいの愚痴、いいじゃないですか。あのおっかない魔女の目を盗んで、ようやく本格的な採掘ルートを確保する目途がたっていた矢先だったんですよ? 教団の司祭にまで話を通させたっていうのに」

「自業自得です。シュクサ程度に任せたことが、そもそものミスだったと諦めてください」

「あっはっは。それを言われると痛いですねぇ」

 

 にべもなく切り捨ててきたフォリーに、しかしチャドマは朗らかな笑みのままだ。

 

「ま、ここいらが潮時だったということでしょう」 

 

 トレードマークである年季の入ったリュックサックを背負い直して、彼は言った。 

 その動きからは、なにかずっしりとした重量のある物……おそらくは金属の類が詰め込まれているように見える。


「白羽根殿の様子から察するに……マルゼス・フレイミングがこの地を離れたことは、ほぼ確実ですからねぇ。ここから先は教団と、噂を嗅ぎつけてきた無法者共で派手にやり合ってくれるでしょう。いい隠れ蓑ですよ、今回の件は」

「ですから。そういうことは、背中のモノを片付けきってから口にされて下さい……というか、なんでここにそれもって来てるんですか。あの白羽根、平時から他人のアトマが見えるとかいう化け物ですので。もしも無機物にまで適用されていたら、一発でアウトですが?」 

「……は?」


 フォリーの言葉にチャドマが固まる。

 二人の視線の先には、木陰に消えゆく少年少女と馬、そして地をパタパタと駆けまわる雛が一匹。

 

「は? じゃありません。報告書、ちゃんと見てなかったんですか? 魔女の弟子とやらについては貴方の方が詳しいでしょうから省きましたが。白羽根については一通り纏めています。というか『魂源視アトマサーチャー』のフェレシーラって渾名。聞き覚えあるのでは?」 

「うーん、どうですかね……基本荒事は避けているもので、そこら辺は疎くて」

「楽でいいですね。抑えるほどのアトマもない人は」

「いやー、それほどでも。いつも助かってますよ、ティリアーダ」 

 

 その名を呼ばれて、メイド服の少女の瞳が「スゥ」と細まる。

 ティリアーダ。

 それが彼女の本名であり、フォリーという名とそこに付随する立場は仮初のものに過ぎない。

 

 そしてそれは、『行商人のチャドマ』という男にしても同じことだった。

 

「盗掘に関わった者は全てリストアップしています。注文オーダーさえいただければ、すぐにでも消せますが」

「うーん、そこまでする必要もないかなぁ。君の死体みがわりを用意する時間もなさそうですし……なにより、折角これまで積み上げてきた偽装工作がんばりが無駄になるのも癪だ。白羽根殿の向かうルートも聞きだしているのでしょう?」

「それは勿論。最短距離で神殿都市アレイザを目指すとのことでした」

「よろしい。今回は現金取引を止めにして、馬を買い足しておいて正解でしたね。運が逃げないうちに、早めにここを発つとしましょう」

「畏まりました、マードック様」 


 深々としたティリアーダの一礼に、マードックと呼ばれた男が満足げに頷きを返す。

 そこに、ポツリと水滴が落ちてきた。

 

「この気配、荒れますね。もう少し稼がせてもらう予定でしたが……ま、今回は貸しにしておきますよ。フラムくん」


 マードックが悠然とした足取りで馬房に向かい、荷移しに取り掛かる。

 ティリアーダは特に動かない。

 だがしかし、彼女の真の主はそれを咎める様子もみせなかった。

 ものには使いどころがある、というのがマードックの持論なのだ。

 

「では、いきますか」 

「はい」 

 

 馬を四頭ひいてきたマードックに短く答えて、ティリアーダが手綱を手にする。

 

 そこで、はたとメイド服の少女が動きを止めて、その場を振り向いた。

 その視線の先には、あばら家の立ち並ぶ村が一つ。

 

 ティリアーダが、思い出したように唇を吊り上げる。

 故郷によく似た、つまらない村だったことを不意に思い出して……少女は軽く頭をさげた。

 

「……お世話になりました」

 

 なんの感情も伴わぬ言葉と共に、彼女は騙し尽くした地を後にした。




『君を探して 白羽根の聖女と封じの炎』


 番外編 迷わじの森より -君を騙して- 完

 

 

こちら『君を探して 白羽根の聖女と封じの炎』をお読みくださり、ありがとうございます!



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