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【ボーイミーツガール & ハイファンタジー!】君を探して 白羽根の聖女と封じの炎  作者: 芋つき蛮族
十三章

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444. 師弟対決 其の肆 なれど影は我らを嘲笑う

 一度は収斂し、そこから膨れ上がった赤きアトマの火線。

 結実の一撃が空を薙ぐ。

 

「!」


 迫る極大化された『熱線崩撃』の標的となった『凍炎の魔女』が、四氷の翼より銀雪を振りまきながら、回避運動を試みる。 

 それに対してこちらは火線を放つ両の掌を動かし、射軸を合わせにかかるも――

 

「ぐぅ……!」


 体の前面に圧し掛かってくる強烈な反動が、それを赦さない。

 ブーツの踵が地にめり込み、索敵すらも覚束ない。

 当然の如く射線にブレが生じて、狙いが逸れる。

 

 己の力量を越え、最大出力で魔術を行使したが故の代償だ。

 

「攻撃を回避。近接反撃に移行」

「まだ、だ……!」

 

 そんなこちらに体たらくに気付いたのだろう。 

 高速且つ、低空の飛行にてこちらに吶喊を開始してきたのは『凍炎の魔女』。

 青き襲撃者へと向けて、俺は意気をぶつけにかかる。

 

 しかし眼前にあるのは焦げ付く合皮の手甲と、赤く染まる夜空ばかり。

 己が発露させた魔術を御しきれずにいる証左。

 不出来の証だ。

 

 なんとか首を捻り、落ちかけた瞼の隙間より空を睨みつけると、そこには高速で迫りくる青きアトマの煌めきが在った。

 

「標的『フラム・アルバレット』を捕捉。突撃チャージ

「だから、まだなんですっ、てば……!」


 玉石の如き水縹みずはなだの瞳を前に、俺は歯を食いしばり暴れ馬と化した魔術の手綱を握りしめる。

 

 魔術、つまりは術法の権能を決定するのは、アトマの総量と術法式の精度だ。

 特に攻撃術においては、威力・範囲・射程・持続時間といった複数の、攻撃面での術効を同時に統制して行使する必要がある。

 

 そのどれもを高水準で満たすとなれば、当然ながら必要となるアトマも膨大なものとなり、それを実現する為の術法式も高度な物が求められる。

 それ故、術者はその目的に応じて何かしらの要素を――例えば、範囲や持続時間を固定化して余計な消耗を抑えたりだとか、威力や射程を制限して制御を用意にしたりだとかの、取捨選択を行っていくのが必須となる。

 

 すべての術効を最大限に引き上げて放つ攻撃術などという代物は、単なる自滅に等しい。

 不発に終わればまだ幸運なほう。

 制御を失った破壊の力が術者を起点に炸裂すれば、自滅へと至りかねない。

 それが攻撃術だ。

 

 そして今、俺はその危険極まりない権能を掌握する力の殆どを、『威力と持続時間』に絞り注ぎ込んでいる。

 当たれば必殺。外し切ったら、ハイそれまで。

 

 ちなみに後詠唱による追加の制御は不可能だ。

 何故なら今の俺は、飽くまで『必要に応じてゼフトをアトマに転換』した上で、それを先込め式で『術法式に装填する』形で術法を行使している状態だからだ。

 そこに相応の集中を必要とする『転』術でアトマの補充を試みようものなら……

 

 まあ、結果はお察しというもの。

 それこそ暴走した熱エネルギーによる、自死が待ち受けているだろう。

 無論、そうなるわけにはいかない。

 しかしアトマは継ぎ足せない。 

 

 となればこの状況、必然、俺に出来ることは限られていた。


「この際ですから、はっきりいっておきますけど……!」

 

 既に手甲よりあがる煙は、白から黒に変じ始めている。

 踵が地にめり込む感覚は途絶えており、視界は霞み、ただ思考だけが冴え渡っている。

 

 均衡を失いつつある意識の最中、『凍炎の魔女』が一気に飛翔する速度を増して、その姿を鮮明なものとしてきた。

 

 己が引き起こした結果と向き合え。

 それが力を持つ者の責務なのだと。

 

 そう教えてくれた人とそっくりの、しかし明らかに力に呑まれたとしか思えぬ女性ひとを前にして、

 

「人に偉そうに講釈垂れてくれたからには……吐いた唾ぐらい、飲めってんだ!」


 腹の底からの叫びと共に、俺は暴発寸前の『熱線崩撃』を抱えたまま、強引に身を捻っての急旋回を開始していた。


「――!?」


 直後、一個の巨大な氷弾と化した『凍炎の魔女』の姿が視界に収まる。

 それまでの無表情を絵に描いたような澄まし顔が、驚愕の表情へと変じてゆく。

 

 明らかに限界を越えて一切の身動きが取れずにいた標的が、再びのアトマ切れを起こしかけていた死に体が、巨大な火線諸共、向き直ってくる。

 

「緊急回避……!」

「おせぇッ!」


 叫喚一声、俺は己を両腕を体ごと黒き衝撃にて、即ち、残された力であるゼフトの放出にて強引に弾き飛ばす。

 我が身を一振りの炎刃、焔の剣と化して空を焦がし薙ぐ。

 

「標的のZ値――」

「くっちゃべってねえで、防御しろ!」

「ッ!」

 

 膨れ上がる火の暴威に視界が覆われる中、生成を開始した氷晶の盾が微かに見えた。

 

 両脚からゼフトを放っての、無理矢理もいいところな方向転換。

 それを選択するより他になかった俺に、加減する余裕なぞ一切残ってはない。

 ノーガードで直撃すれば、如何な『凍炎の魔女』とて無事では済まない。

 

 さりとて、そこまでの無茶な代物を叩きつけねば、ガードに徹された際に有効打とは成り得ない。

 不殺を貫き相手を無力化する。

 その為には、持てる最大火力を意図的に防がせるより、他になかった。

 

 しかしそれでも多大なリスクは残る。

 外せば負け。

 だが当てたら当てたで、今度はオーバーキル(やりすぎ)という結果が待ちかまえている。

 

 威力と持続時間にアトマというリソースを注ぎ込んだ分、このまま全力で『熱線崩撃』を浴びせ続ければ、氷術の守りすらも容易に貫き……

 最悪、師であるやもしれぬ女性ひとを消し炭に変えてしまいかねない。

 

「防衛システム、負荷増大。危険、危険――」

「く、おぉ――」

 

 眼前で燃え盛るアトマの向こう側からやってくるのは、限界を告げる声。

 視認が必要となる『探知』の術効では、自らの魔術が視界を阻害しており、『凍炎の魔女』のアトマを、その余力を視ることも叶わない。

 

 一瞬、ここまでと決め打ちして術を中断することを選択しかける。

 殺すわけにはいかない。

 かといって、中途半端で勝ち切れる相手ではない。

 

 ここで相手を戦闘不能に追い込めねば、やられるのはこちらの方だ。

 限界を超えた術効を得る為に、更には強引な方好転を決めるために、アトマのみならず、今現在その源泉たるゼフトすらも使い果たしているザマなのだ。


 その証左なのか、握りしめた火線の熱に赤く身を晒しながらも、腹の底では黒く冷たい何かが拡がりゆく感覚がどんどんと膨れ上がっている。


 限界が、もうそこまで近づいている。

 だからここは、『凍炎の魔女』をギリギリのところで仕留めるその境界を、なんとしても見極めていかねば――

 

『……ろっての!』

 

 己が生み出した蜃気楼に知らずの内に意識を呑まれかけていたところに、『声』がやってきた。

 

「――ジング!?」

「ったれいぃ! ようやくかよ!」 


 こちらの叫びに応じて翔玉石の腕輪が機能を発揮する。

 突然のジングの復活。

 だがしかし、今はぶっちゃけそれどころではない!

 

「ちょっと待て、ジング! 今はお前に構ってる暇は――」

「んだまらっしぇい! いいからとっとと、そのゼフトを(・・・・・・)使うのをやめやがれ! ガチでヤベーんだよ、それを使うのは!」

「はぁっ!? おま、いきなりなに言って」

「るせぃ! いたんだよ、アイツが! あの陰険鴉が、この俺様を謀りやがって……とにかく、これ以上ゼフトを使うんじゃねぇ! アイツが出てきたら、この場にいる全員、確実にやられるぞ!」

「やられるって……ああ、もう、クソッ……!」


 いきなり出てきて喚き立てるジングに舌打ちをしながらも、こちらはもう限界だった。 

 

「ぐっ!」


 残る力を振り絞り、両のかいなに集めたアトマを弾かせて、魔術の強制終了に及ぶ。 

 結果もわからぬままに、破壊の奇跡の存続を断念する。

 

「――つぅ」 

 

 ブスブスと煙を上げる合皮の手甲をだらりと下げると、僅か十数mほど先に、地に倒れ伏す人影があった。

 確認するまでもない、『凍炎の魔女』だ。


 その周囲には溶けかけた氷晶と氷の翼が散らばっている。

 青白いアトマがうっすらと漂っているところを視ると、まだ息はある。


 どうやら本当にギリギリのところで昏倒するまでに追い込めていたらしい。

 ジングの乱入には焦ったが、結果的に助けられた形だ。


 それを確認して、俺は安堵の溜め息を吐き下ろしていた。


「フラム!」


 するとそこに、戦いの決着を確信してか、背後より声がやってきた。

 フェレシーラの声だ。

 ふらつく体をなんとか引き摺り、そちらへと振り向く。

 

「フェレ、シーラ……見てた。か? いまの……」

「ええ、ええ……貴方の勝ちよ! すぐに火傷を治すから……!」

「――そっか」

 

 そうか。

 勝ったのか。

 俺はあの人に……マルゼス・フレイミングに、勝てたのか。

 

 自分でも信じられない、大金星だ。

 そう思い、焼け焦げた手甲を、垂れ違ったままの己が腕を見る。

 

 なめした皮と皮を打ち合わせてあつらえた手甲は、未だに黒い煙をあげ続けていた。

 あれだけの火力、炎術の反動を受けたのだ。

 無理もないだろう。

 

 しかし、何か引っかかるものがあった。

 よくよく見れば、手甲はもう燃えてはいなかった。

 熱も殆ど引いている。

 

 いや……むしろこれは、冷たすぎるぐらいで、

 

「小僧! にげ――」

 

 ジングの叫びに、激しく鳴動する翔玉石の腕輪のあげた悲鳴に、俺は顔をあげる。

 見れば辺りには濛々とした黒煙が立ち込めていた。


 ピシリ、と……何処かに罅が入る感触が、手首へとやってきた。

 それが何であるのを、俺が理解するよりも早く――


「え……」

 

 闇色の腕輪が音もなく、粉々に砕け散っていた。 



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