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【ボーイミーツガール & ハイファンタジー!】君を探して 白羽根の聖女と封じの炎  作者: 芋つき蛮族
十三章

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429. 『凍炎』

 ここまでにしておくべきだ。

 

「え……なに言ってるんですか、マルゼスさん」


 お前の勘とやらは盛大に外れた。

 これ(・・)はあの人とは違う――

 頭の中に響く声。

 

「俺ですよ……フラムですよ! フラム・アルバレットです! 貴方がつけてくれた、名前じゃないですか……!」

 

 冷静ぶった自分の囁きから耳を塞ぎ、俺は必死で己に与えられた名を叫び続けていた。

 

「フラム・アルバレット。該当AZ波形照合……異常値観測。再照合、対象のAZ値増大」

「なにを……さっきから、なにをワケのわからないこと言ってるんですか……マルゼスさん!」


 思わず詰め寄るも、青の魔女はふわりと飛び退くばかり。

 こちらの質問にまともに受け合わないどころか、意味不明なことばかり。


 こんな筈ではなかった。

 なにかの間違いだ。


 そう思うも、それ以上の言葉が出てこない。

 それどころか、上手く息を吸い込むこともできない。

 

「そこまでよ、フラム」

「……フェレシーラ。」


 そっと肩に掌が落ちてきて、俺はようやく冷え切った眩しい夜の空気を肺に取り込めていた。

 見れば間近には、神殿従士の少女の顔。

 彼女はゆっくりと頭を振り、前に進み出た。

 

「こちら突然、連れが失礼を致しました。どなたかは存じ上げませんが、先程は危ないところに加勢していただき助かりました。私はレゼノーヴァ公国公都アレイザ所属、白羽根神殿従士フェレシーラ・シェットフレンと申します」


 所属から階位に至るまで、一言一句はっきりとした名乗り出にて、フェレシーラが青の魔女と相対する。

 そもそも彼女からすれば、それは見えていた結果、というヤツだったのだろう。

 

 今まさに『爆炎』の猛火を放たんとしていた超大型影人ギガントを、事も無げに凍てつかせた規格外のアトマの持ち主。

 ただ在るのみで、原野を氷原へと作り変えるほどの凍気を纏う術士。

 それが先程から延々と、理解不能な動きと発言を繰り返している。

 

 警戒するな、という方が無理がある相手だ。

 フェレシーラとて礼節を守った振る舞いを見せているが、その実に右手に握り締められたままの戦鎚ウォーハンマーが彼女の内心を物語っている。

 

 敵の敵が味方、ということで済めば苦労はない。

 会話の通じる相手か否かは、すぐにわかる。

 なれば呆けて使い物にならない同行者に代わり、取り返しが(・・・・・)つかなくなる前に手を打っておくべきだ。

 

「こちら、然るべき礼を取らせていただく為にも、御名前を伺ってもよろしかったでしょうか」

 

 名を聞く。

 それがすべきことであり、常道というものだろう。

 

「名前――」

 

 魔女がそれだけを呟くのが見えた。

 同時に瞳が伏せられて、こくりと一つ、大きな頷きが返されてくる。

 見覚えのない仕草に、ピクリとも動かぬ面持ち。

 

 それは俺の良く知るものではない。

 薄い唇が、続けてあの人が滅多に見せなかった動きをみせてきた。

 

「マルゼス」

「え……」

「へ――」

 

 フェレシーラの声に、こちらの声が続く。

 一瞬、思考が置き去りとなる。

 

「私は……マルゼス。魔を滅する者。円環を成す者。盟約を継し者。天秤を傾ける者。畢竟、聖伐の意思なりて、或いは、砕けし真の銀と黒の胡桃、其の残り火なり」 

「な――」


 ぶわりと、冷たい風が吹きつけてきた。


「AZ波形、再照合完了。異常値継続。敵性体の可能性有り。警戒レベル上昇。準戦闘モードに移行します」


 青の魔女の掌に、赤き火が灯る。

 灯るも、それは刹那にして凍てつきの輝きを放ち始めていた。


「なぜ……何故、貴女がそれを!」

「フェレシーラ!」


 返事を待たずに、思い切り腕を引っ張った。

 同時に体の全面に力を籠める。


 直後、青き炎と黒き波動が場に渦巻いた。

 

「う……っ!?」


 ギリギリのところで均衡を保つも、生じた余波までが殺しきれずに体が後ろに追いやられる。

 周囲に無数の氷柱が立ち伸びて、再び原野が氷獄と化す。

 無事であったのはこちらの背後のみだ。

 

 ていうか、今のって……まさか!

 

「なによ、あれ! 一瞬、炎が出そうになってたのに……次に瞬間にはいきなりカチコチとか、まるで出鱈目じゃない! どういう理屈なのよ!」

「多分だけど……!」


 急ぎ体勢を立て直すも叫ぶフェレシーラに、俺は記憶の片隅にある術理に関する知識を引っ張り出しにかかっていた。


「あれ、『転』の技法だ。一度だけ、師匠に実践してもらったことがある」 

「え? 『転』って……ええと、確か大昔の術法論で、『起』『承』『結』の中にあったっていうあれ?」

「一応、今も使い手はいるんだけどな。まあ、外法扱いで皆は使ってないみたいだけど」

「外法って……え? そんなにヤバい技なの?」

「ヤバいっていうか――取り敢えず、一旦下がるぞ! 隠れられる場所はあっちから作ってくれてるしな!」

「了解……! まったく、次から次になんだっていうのよ、本当に!」


 言いつつ、二人揃って周囲に乱立した氷柱に身を隠す。

 どうやら話している感じでは、フェレシーラの不調は一時的なものであったようだ。

 

「なあ、フェレシーラ。あっちのアトマ、探れるか?」

「うん? まあ、ちょっと氷の柱が邪魔っけではあるけど、いけるわね。それがなにか?」

「や。視えてるならいいよ。こっちの問題だからさ」

「なによ、こんな時に。気になるんですけどー?」

「あー……それよりも、だ。一応重要かもだから、いまの内に術法式の『転』について掻い摘んでいっとくから、聞いておいてくれ」


 中々の勘の冴えを見せてくる彼女に対して、俺は話題を変えることにした。

 

「要はあれだよ。『転』ってのは、発露した術効をその名の通りに反転させる技法……『承』と『結』の間に『転』の術法式を挟み込むことで、さっきみたいに火を氷にしたり、光を闇にするわざさ」

 

 嘗て一度だけ見た、その煌めき。

 起承結。

 術者がアトマを練り起こし、術法の式へと承け注ぎ、実りを結ぶその過程に際込まれる反転の法。

 

「んん? なにそれ。そんな手間をかけて逆の術効を生み出すって、なにか意味があるの? あ……もしかして、フェイントに使うとか?」

「いや、それがさ。フェイントとしては、かなーり微妙なんだよなぁ」


 いきなりの攻撃、予想外の攻防ではあったが……

 うん。

 ぶっちゃけ頭が混乱していたところに、世にも珍しい『転』術を拝ませてもらったお陰で、むしろ意識の切り替えが出来て助かっている。

 

 無論このまま、あの規格外の氷術に晒され続けるのは避けたいところだが、戦うにしても逃げるにしても、上手くやる必要があった。

 特にこの場合は、逃げが難しい。

 

 正体不明の青の魔術士。

 コイツはどうみても、氷術特化の攻撃術士。

 しかも出現時の動きといい、移動方法といい、飛翔能力持ちの『自意識をもって移動する吹雪』とでもいうべき存在だ。

 

 はっきり言って、人間かどうかも疑わしいレベルのアトマ出力と言動をしているが……まあそこは、マルゼスさんだって似たようなところがあるので、軽々しく断定は出来ない。

 わかっているのは、ただ一つ。

 

 このまま考えなしに皆のいる場所に徒歩で逃げ込んだりすれば、あっさりと追いつかれた挙句、それこそ周囲の人々を巻き込んでしまいかねない。

 そんなことになれば、マジモンの氷の地獄が完成してしまうのは目に見えている。

 

 とはいえ、現状のフェレシーラと俺でこの化け物を相手にするのは、厳しく思える。

 となれば、なんとか戦いそのものを回避するのが上策、ということになる。

 

「しかし、参ったな……」

「そうね。話し合いが通じる感じの相手じゃなかったし。なんとか隙を見つけて、ってところでしょうけど」


 ついつい口を衝いて出たその言葉に顔をあげると、無数の氷柱の鏡に写し身を浮かべる少女の姿があった。

 こうしてみると、白羽根さんが大量に湧いて出たみたいで負ける気がしませんね。

 ……なんて冗談を言ってる場合ではないとして。


「どうみても難物だけど、一応やりあってみるしかないな……何が起きても、驚かないでいてくれよ」

「おかしな事いうのね。そんなの、いつもの事じゃない」

 

 こんな時だというのに、ニヤリと不敵な笑みで返されてしまい……

 

「それじゃ、これから俺の言う事を……よく聞いておいてくれ」


 青黒く焦げた短剣を手に、俺は彼女に伝えておくべき話を開始した。

 


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