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【ボーイミーツガール & ハイファンタジー!】君を探して 白羽根の聖女と封じの炎  作者: 芋つき蛮族
十二章

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426. 月下叛星

「それではご機嫌よう。この一手、見事乗り越えてみせるか……期待していますよ、フラム・アルバレット」

「フェレシーラ!」


 自らの生み出した瘴気の渦に消えゆく魔人からは視線を外して、その名を叫ぶ。


「アイツの術法式を止めるのに力を貸してくれ! このままじゃ、皆が『爆炎』に巻き込まれる!」

「……了解よ。少し時間を頂戴。そっちはギリギリまで『解呪』を狙ってみて」

「ああ。ホムラ! お前は皆のところに飛んで、メグスェイダに退避を呼びかけさせてくれ! もしも『爆炎』が発動する兆候が見えたら、即座に離れるんだ!」

「ピピピ……ピピィー!」

「おいおい、なんて無茶振りだよ……ったく、しょうがないね。行くよ、おチビちゃん!」


 可能な限り手早く指示を飛ばして、ギガントへと向き直る。

 当然ながら、俺に戦う力は残されてはいない。

 戦力としては完全にフェレシーラに頼りきりになる形になるが、彼女は既に精神統一を開始している。

 

 前に戦ったギガントの能力を考えれば、多少の攻撃でなんとかなる相手ではない。

 おそらくは、自身が持ちうる最大火力……奥の手を切るつもりなのだろう。

 

 不幸中の幸いというべきか、やはり前回と同じく術法式の起動状態に入ったギガントが動く様子はない。

 守りは考えずに、全力で阻止に動けることだけが、唯一の希望だといえた。

 

「落ち着け……一度は『分析』出来た相手なんだ。いける筈だ……!」

 

 重い体を引き摺り、鉄巨人の足元へと辿り着く。

 左右の手甲の術具を用いて、『分析』へと取り掛かる。

 

 が、それが上手く機能しない。

 術効自体は発動しているが、肝心要、このデカブツの中に刻まれた術法式に弾かれていることが、すぐにわかった。

 

 明らかな『対解呪式アンチディスペル』による術効遮断。

 それも前回の物より強力で、より堅固な代物だ。

 時間がない。このままでは『爆炎』の発動に間に合わない。


 そう思った瞬間に、膝から体が崩れ落ちた。

 限界だ。

 今度こそ本当に、指先一本にも力が入らなかった。

 

「フェレシーラ……!」

「もう少し……もう少し、時間を頂戴!」

 

 かすかに巡らせた視線の先には、額に汗を滲ませて戦鎚ウォーハンマーを握りしめる少女の姿。

 間近では、どんどんと脈動を強めてゆく鉄の巨人。

 

「おい、しっかりしやがれ! なにへばってやがる!」 

「わかってる……わかってるけど、もう体が……」

 

 腕輪を振るわせて叱咤の言葉を飛ばすジングにも、俺は泣き言を洩らすのみ。

 このままいけば、皆が死ぬ。

 ティオが、ハンサが、セレンが、パトリースが、エキュムが、ドルメが、ワーレンが……名も知らぬ兵士たちが、俺の巻き添えとなり、皆死んでゆく。

 

 なにか手はないのか。

 残された選択はないのか。

 このまま俺には何も出来ないと、また諦めるだけなのか。


『心を、一つの大きな皿に』


 全てを投げ出しかけたその瞬間、不意に脳裏に甦る言葉があった。


『思考を一所に置き過ぎないこと。やれることを決めつけないこと。自分の心に、蓋をしないこと』

 

 それは、嘗ての師の教えだった。


『貴方はきっと、立派な魔術士になれる。必ずなれる。その時は一緒に――』

「ジング!」


 やれることを決めつけるな。

 その教えを支えに、俺は叫ぶ。 


「俺の体を……俺の体を、お前が使え! お前が溜め込んだ力を……ゼフトを使って、コイツをなんとかするんだ!」

「んな……!?」


 その叫びに、ジングが驚愕の声を発する。

 フェレシーラは動かない。

 完全なる瞑想状態トランスモードに移行している証左だ。

 が、それで間に合う保証も、そもそも鉄巨人を術法式ごと破壊に至れる確証もない。

 

「い、いきなりんなこた言われたってよぉ……なにをどうすりゃいいんだよ!」

「知るか! とにかくコイツをブッ飛ばせ! いっっっっっっっつも、デカい口叩いてんだろ! つべこべ言わずに、やるんだよ!」

「ぬぅぅ……ど、どうなってもしんねーぞ……!」 

 

 恐る恐るの了承の言葉に続き、胸の辺りより冷たい感触が全身へと広がる。

 手足の感覚が失せて、気付けばそれが全身に広がってゆく。

 

「まったくよぉ……なんでこの俺様が、折角自由になれたってのによ!」


 感覚を失ったままに、視界が上に持ち上がってゆく。

 ジングが、俺の体を動かしている。

 しかし不思議なことに、こちらの視線は、意識は、翔玉石の腕輪には移動していない。

 

 あるのはただ、腹の底より燃え上がってくる鼓動だけ。

 ガコンと、何かが外れ落ちる音が響いてきた。

 

「ぐぬぬぬぬ……!」


 ジングの発した唸り声に伴い、凍えるような波が体を駆け巡る。

 魂絶力ゼフト

 魂源力アトマとは異なる、負のエネルギーがフラム・アルバレットの全身より立ち昇る。 

 

「こんぬおぉ……」


 掲げた右手に漆黒の波動が集う。

 大気が鳴動する程の力が、俺たちの頭上で一つの巨大なエネルギー塊と化し――


「くらえりゃあああああああッ!」

 

 大絶叫と共に振りかぶった腕より、螺旋を描く力の渦が放たれた。

 全然、一切、まったく、ギガントと関係ない方向に。

 

 おい。

 

「……んお?」


 ちょっとまて。

 

「あ、ありゃ?」

 

 おいこらふざけんな。

 

「なにやってんだよ! この、アホジング!!!」


 気付けば俺は、まったく変わりなくギョンギョンと胸部装甲を明滅させるギガントの前で、盛大なツッコミを入れる羽目となっていた。

 

「おま……なにこの大事な場面で大暴投カマしてくれてんだよ!」

「う、うっせぇ! いきなり出てきてやったこともねー真似しろだとか、無茶振りがすぎんだよ、テメェは! 準備運動もなしに、当てられるワケぬぇーだろッ!」

「なら投げつけるんじゃなくて、体ごと突っ込むとか工夫しろよ! ていうか、体の支配圏戻してんなよ! この無責任乗っ取り系鷲兜! もっぺん出てきて自爆特攻でもしろアホ!」

「んな恐ろしいこと出来るかっ! 相変わらずバトルになると頭のネジ飛びすぎなんだよ、オメェはよ!」

 

 ちゃっかり翔玉石の腕輪に引き籠ったジングに向かって吼えるも、全てが虚しいだけ。

 想定外どころではない、この大惨事。

 ここはもう、フェレシーラの奥の手にかけるしかない状態だ。

 

 だが――

 

「……フェレシーラ?」


 見れば後方に控えていたフェレシーラの、様子がおかしかった。

 

「く……ぅ」

 

 一度は精神を集中しきっていた筈の彼女の額に、脂汗が滲んでいる。

 誰がどう見ても苦しげで、疲弊しきった状態だ。

 

 その姿を見て、俺は気付く。

 

「フェレシーラ!?」


 がくりと肩を、握りしめていた戦鎚ウォーハンマーを手より滑り落として地に伏せた少女を視て、俺はようやく気付いていた。

 呪文の詠唱にも入れず、アトマを纏ってすらいなかった彼女もまた……俺と同じく、限界を迎えていたのだ。

 

 魔人を滅ぼす。

 その一念のみで戦い続けていたフェレシーラに、当たり前の様に無理難題を吹っかけていた。

 やらかしたどころの話ではない。

 

 自分の事を知りたいからと、欲を掻いたツケを彼女に支払わせてしまっていた。

 その結果、『爆炎』を止めるだけの手段を失っていた。

 

「くそ……ッ!」


 見上げた先には、今にも溢れ出しそうな赤い光。

 鉄の巨人がその両腕を遥か遠くへと向ける。

 それが狙い定めたのは、ミストピアに撤退中の本体か、それとも馬鹿な俺の元に駆けつけようとしてくれている人々の只中なのか。


「止まれ……! 止まれよ! この、この……!」


 青黒く焼け焦げた短剣を、分厚い鉄の塊に叩きつけては腕ごと弾かれて、無様に地面に倒れ込む。

 

「とまって、くれ……」


 オオオオォォ――

 

 無機質さに満ちた雄叫びが、ちっぽけな願いを掻き消す。

 馬鹿みたいにデカい腕に、燐光が灯る。

 指一本動かせないままに、俺は天を仰ぐ。

 

 空には月が浮かんでいた。

 地上に灯る小さな太陽に、俺が力任せに生み出した『照明』に照らされた、白い月。

 膨れ上がった赤い光がそれを隠す。

 

 とまれ。

 とまれ、とまれ、とまれ。

 とまれとまれとまとまれとまれとまれとまれ――

 

 なんでもいいから、たのむから、とまってくれ。

 

 思考を放棄した願いが虚しく心を塗り潰してゆく、その最中。

 赤く染まった月より、何かが突き抜けてきた。

 

 キィン、と冷たく風が引き裂かれる音があり。

 視界の全てが白へと染まる。

 続けてやってきたのは、無音の衝撃、凍てつく波濤。

 

「……ッ!?」

 

 冷気。轟音。

 そして熱と色を失い、沈黙する巨人。

 

 交錯する、そこまで一切そこになかった筈の情報、力の氾濫。

 吹きすさぶ極低温の颶風に、閉じゆく瞼のその先に……何者かが降り立っていた。

 

「局地的に多量のゼフトを確認――」


 抑揚と共に、温もりまでもを置き去りにしてきたかの様な、女性の声。

 反射的に、落ちかけていた己の瞼が開く。

 

「――不定術法式強制起動。アトマ増幅機関開放。霊銀体始動――」

 

 病的なまでに白い肌。

 透けるような青い髪。

 湖上に走る薄氷を模したかの如き、見覚えのない礼装。

 

 その全てが、初めて目にするも……しかしそれ以外の全てが、忘れようもなき姿形。

 

「複数の魔人の痕跡を確認。これより、敵性体の検出を開始する」

 

 冷たい瞳が、感情を伴わぬ眼差しが、俺をまっすぐに見つめてくる。

 違う。

 でも同じだ。

 

 そんな筈はない。

 理屈が通じない。

 それはありえない。

 

 頭では、それを十全に理解していながらも――

 

「マル……ゼス、さん……!」 

 

 自らが生み出した偽りの太陽の下、俺は嘗ての師の名を口に、氷獄と化した原野に立ち上がっていた。

 




『君を探して 白羽根の聖女と封じの炎』



 十二章 完

こちら『君を探して 白羽根の聖女と封じの炎』をお読みくださり、ありがとうございます!



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