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【ボーイミーツガール & ハイファンタジー!】君を探して 白羽根の聖女と封じの炎  作者: 芋つき蛮族
十二章

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421. 〖厳命〗

「ドルメ助祭とワーレン卿が、駆けつけてくれてるって……」 

 

 予想外のフェレシーラの言葉を、俺は思わず反芻してしまっていた。

 たしかにあの二人と兵士たちが力を合わせれば、ツェブラクに不覚を取ることもないだろう。

 

 それ自体は願ってもない展開だ。

 しかし――

 

「なんであの人達が、殿の位置にまで退がってきてくれてるんだ? 二人とも、エキュム様のいる本隊に同行していたのに……」 

「そうね。そこは私も何かあったのかと気になって、ドルメ助祭にティオを預けたときに聞いてみたの」

 

 その疑問は、フェレシーラにとっても同様だったらしい。

 

「そしたらあの二人、『自分たちはミストピアの所属ではないから、街への移動が最優先ではない』って言って、本隊から駆けつけてくれていたの。特にドルメ助祭は、貴方のことが心配だったみたいで……ワーレン卿は『助祭の護衛役だから仕方ない』とは言ってたけど、ね」

 

 彼女はそう言うと、赤銅の魔人ターレウムに向けて歩を進め始めていた。

 これからルゼアウルから情報を得ようとしている、俺をサポートする為――というか、フェレシーラのことだからそのままターレウムを倒してしまうつもりだろう。


 そういう意味では、こちらも一緒に戦いたいところだが……

 

「フラム。貴方はルゼアウルとやらの『制約ギアス』が途切れないかもみておいて頂戴。その分じゃ、もうまともに動けないでしょ」

「う……気付いてたか」

「そりゃあね。もう視えてるアトマも僅かだし、根本的なスタミナ切れで『治癒』を受けても立っているのがやっとの筈よ。一応『体力付与』もかけておいたけど、やり過ぎても私が戦えなくなるし」


 そこまで言って、彼女はチラリとこちらを振り返ってきた。


「正直、ティオを退避させるだけの時間を稼いでくれただけでも、十分すぎるぐらいだもの。その上、『制約ギアス』なんて使って情報収集もこなしていただなんてね。いつものことだけど、ほんと無茶し過ぎよ。本当に、間に合って良かった……」


 堪えていたものを吐き出すようにして呟いてきたフェレシーラに、俺は一瞬、返すべき言葉が見つからずにその場に立ち尽くした。

 渾身の氷の息吹ブレスを放ち疲弊しきったティオを、撤退させるという判断。

 

 俺がそれを提案し、ルゼアウルたちの足止めに回ると告げたとき、きっとフェレシーラにも少なからず葛藤があった筈だ。

 早急な退避に移るためにも、こちらに考えがあるとだけ伝えたときも、当然ながら説明が欲しいとも思っただろう。

 

 しかし彼女は、俺を信じて任せてくれた。

 そして今こうして、再びここに駆けつけてくれたのだ。

 文句にせよ、労いの言葉にせよ、言いたいことは沢山あるだろう。

 

 それを「本当に良かった」といってもらえて……本当に、言葉がなかった。

 

「フェレシーラ……」

 

 かける言葉も見つからぬまま、俺は目の前立つ少女の名を口にする。

 そこに、兵士たちが撃剣を打ち鳴らす戦地から、聞き覚えのある風切りの音が響いてきた。

 

 突然の事に驚きその場を振り向くと、そこにいたのは煌々とした光を放つ小さな翼。

 

「ピイィー!」

「――ホムラ!」 

 

 忘れようもない勇ましい鳴き声に、思わずその名が口を衝いてでる。

 吹きつけてきた突風に手を翳し、翡翠色のアトマに目を細めていると、続けて声がやってきた。

 

「まったく。人間たちに紛れて影人どもを突っつきまくってたかと思えば、全速力でUターンとはね。大したおチビちゃんだよ、この子はさ」

「メグスェイダ……無事だったんだな」 

「別にアタシはこのおチビちゃんに引っ付いてるだけだからね。キミこそ、あの状況からよく命があったもんだ。しぶといなんて表現じゃ済まないレベルの粘りだよ」


 ホムラの背中から姿を現した白蛇――メグスェイダに声をかけると、彼女は小さな舌をチロリと覗かせつつそんなことを口にしてくつ。

 するとそこにホムラが、「ピ! ピピィ! キュピッ♪」と背中のメグスェイダに呼び掛けるような声と仕草をみせてきた。


「あれ? なんだよホムラ……もしかして、メグスェイダにお礼を言ってるのか?」

「ピ!」

「いやいや、なんで言ってることわかるんだよ」


 元気一杯な返事と共に、ホムラがメグスェイダを見せつけるようにして背中を向けてくる。

 メグスェイダはメグスェイダで呆れた風ではあったが、感謝されるだけの心当たりはあるようだった。

 

 これといった根拠もないなんとなくの思い付き、直感からの質問だったのだが……

 どうやらこの二人の間で、なんかしらの協力関係だかが発生していたらしい。

 となれば、これは恐らくアレだ。

 

「ホムラが飛び回っている間、アンタが周囲を警戒してくれてたってことか? それで危険なときは声をかけてくれていたとか」

「……ホント、マジでキミの頭の中ってどうなってるんだろうね。ああ、そうだよ、その通り正解さ。ま、影人に襲われて困るのはワタシだし、自分の為にやったことだけどね」

「プピピピ……ピィー♪」

「なるほどな。サンキュ、メグスェイダ」 

「だからさぁ……って、おい! キミ、それどころじゃないだろ! アッチアッチ!」

「へ――あ!?」


 会話の途中、妙に焦ったメグスェイダの声と、真っ白い上半身を大きく振っての指摘に、俺は我に返ってその場を振り向く。

 

 当然そこには、こちらが来るのを待ち構えていたフェレシーラの姿。

 急ぎ俺は、彼女の元へと向かう。

 

「わ、わるい、フェレシーラ! つい、ホムラたちが無事で……!」

「ううん。大丈夫よ。『制約ギアス』の持続時間はまだ余裕があるんでしょ? あっちのデカい魔人も専守防衛って感じで動いてこないし。仲間の無事を喜ぶのは大事なことだもの。さすがに延々やっているようなら、かるーく小突きに行っちゃってたかもだけど」


 おそらくは本心から、にこやかな笑顔でこちらを迎え入れてくれたフェレシーラさんですが……

 かるーくと言われても、今のコンディションでそんな真似されていたら、わりと洒落になんない気がしてならない。

 

 まあ、流石に俺がフラフラのダウン一歩手前だから、逸る気持ちを抑えて余裕を与えてくれているのだろう。

 

「それよりも」


 なんて思っていたところに、普段よりやや低めの声で彼女が耳元で囁いてきた。

 秘密の相談事、または確認。

 その意図を察して、俺もまた亜麻色の髪とこちらの肩が触れるほどに寄せてゆく。

 

「どうしたんだ? いきなり」

「ジングのヤツよ。いまは大人しいみたいだけど、大丈夫なの?」

「あー……確かにな。一応、口約束で乗っ取りは控えさせていたけど。お前の心配ももっともだな。そういうことなら……腕輪、預けておいていいか? 多分いまのコイツって直接的な俺との接点がないとちょっかい出せないぽいし」

「あっ、テメ……! 余計なことしてんじゃ――アッ、ハイ。よろしくお願いいたします、フェレシーラさん」

「オッケ。それじゃコレは預かっておくから。貴方はあの梟魔人をよろしくね」

「ああ、助かるよ」


 簡易的な乗っ取り対策としてフェレシーラに翔玉石の腕輪を預けると、彼女はそれを自らの腕につけて留め具と調整してみせてきた。

 

「ジング、お前も変な気は起こすなよ?」

「ぬぐぐ……わーってらい、チキショーメ!」

 

 流石にフェレシーラに管理されるとあって、観念したのだろうが……

 この感じだと、やっぱコイツ性懲りもなく乗っ取りを狙っていたんだな。

 ちょっとは協力関係も馴染んできて、もしかしたら信用出来るかもと思っていたのに、困ったものである――って。

 

「いけね、色々ありすぎてちょっと忘れていた」

「ん? まだ何かあったの? 出来ればそろそろ動き始めておきたいのだけど……」

「わるい、そうだよな。でもちょっと、これは言っておかないと不味いと思うんで、聞いて欲しいんだけどさ」


 言いながら、俺は手甲の内側に設けられたスロットを解放する。

 正直切り出し難い話題だったが、これは仕方がない。

 

「実は、無理が祟ったみたいで……お前に貸してもらっていたアレが故障しちゃってさ」

「え……」

 

 ぽかんと口を開けてきたフェレシーラに、俺は覚悟を決めて霊銀盤を引き抜きにかかる。

 そこにあるのは、度重なる使用により損傷したと思しき――

 

「……は?」

 

 思考が停止した。

 

「ちょっと……ちょっと待って。アレって、私が貴方に貸与した、霊銀盤のことよね? 不定術を使う為に、貸していた。アレが壊れたっていうの? 本当に、壊れたの?」

「あ、ああ。そうだけど……その筈、なんだけど」


 明らかな戸惑いを含む少女の声を耳にしつつも、手甲のスロットを、件の霊銀盤を装填していた部位を確認する。

 

 なにかの見間違い、勘違いかもしれない。

 そう思い、一つ隣の『探知』と『分析』の術効が刻まれた霊銀盤のスロットを、左右共に確認するも……やはり、そこにも(・・・・)それは存在しなかった。

 

「あ、あれ? 知らない間に、落としてたとかかな? でも、そんな筈はないし……」

「フラム・アルバレット」


 突然の消失。

 在って然るべき物が存在しない。

 そのことにパニックを引き起こしかけていたところに、冷然とした声がやってきた。


 反射的に、俺は顔をあげる。

 そこにいたのは、俺の良く知るフェレシーラとは異なる佇まいの何者かであり――

 

「私の前で……此処で術法を使ってみせるのです。いま、すぐにです」

 

 厳かな口調で以てそう命じてきたのは、『フェレス』と名乗った、あの少女だった。

 


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