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【ボーイミーツガール & ハイファンタジー!】君を探して 白羽根の聖女と封じの炎  作者: 芋つき蛮族
十二章

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420. 望外の手助け

 横合いからやってきたのは、無数の『光弾』。

 それが戦斧を振り上げたターレウムの横腹へと吸い込まれてゆく。

 

「むう……!」


 拳大のエネルギー塊を立て続けに叩き込まれて、赤銅の魔人が斧の刃を盾代わりに後退する。

 敢えて攻撃を避けないのは、自失状態で背後で立つルゼアウルの存在がある故だ。

 

 その隙に、俺はなんとか地面に転がっていた翔玉石の腕輪を回収して、合皮のベストのポケットへと突っ込んでいた。

 

「ジング! いまは体を乗っ取ろうだなんて思うなよ! 後で話もあるしな!」

「チッ……! 仕方ねえ、蹴っ飛ばしてきやがったのは気に喰わねえが、見逃しといてやらぁ! つーか見えねえが、いまの『光弾』……!」


 ジングの言葉に合わせるようにして俺は周囲を見回す。

 そして聞き覚えのある中高音アルトの声と『光弾』とがやってきた方向へと、重い手足を引き摺りながら向かい始めていた。 

 

「フラム!」

 

 程なくして『照明』の術効の外、幾つもの松明の火に揺れる深々とした闇の中より、俺の求める声と姿がやってきた。

 

「フェレ、シーラ……!」

「喋らない! ティオは大丈夫! いま『治癒』をかけるから、すぐにここから離脱よ!」


 ふらつきながら彼女の名を口にすると、そんな声と共にこちらの肩にに支えが入った。

 ただそれだけの事で、倒れかけたいた体が無様を見せまいと踏ん張りを示す。

 

 フェレシーラが、ティオの退避を済ませて戻ってきてくれたのだ。

 それを理解しただけで、空元気も元気とばかりに、四肢に力が漲るのがわかった。

 我ながら驚くほどに単純だ。

 

 対してフェレシーラは、動きを見せないルゼアウルと、それを守る為に仁王立ちとなっているターレウムを見て眼光鋭くも、怪訝な面持ちを見せていた。

 

「ちょっと。どうしてあいつら、動かないの? 特にあの梟の魔人なんて、まったく動いてないし……フラム、貴方が何かしたの?」

「ああ。あいつとは……ルゼアウルとは、『制約ギアス』を使った決闘に臨んでいたんだ……ちょっと話すと長くなるけどさ」


 フェレシーラの『治癒』を受けつつも、俺は状況を掻い摘んでの説明を行う。


「色々あって、いまのあいつは『忘我』の魔術で無力化されてるんだ」

「無力化?」 


 その一言を受けて、神殿従士の少女の瞳がギラリと輝く。

 誰がどうみても、たったいまこの場からの離脱を提案した者が見せる表情ではない。

 というかこっちの肌を刺すほどに、殺気がバリバリだし……! 

 

「それなら、いまここで強引に叩いておけば……!」

「ま、待ってくれ、フェレシーラ!」


 戦鎚ウォーハンマーを手に前に出かけた少女を、俺は反射的に引き留めてしまう。

 それは本当に、反射的な行動だった。

 

「なによ、そんなに慌てて。貴方だってわかってるでしょ? アレは潰せるときに潰しておかないと駄目な相手。高位の魔人なのよ? あいつのせいで、とんでもない被害が出ているのよ?」

「それは……そう、だけど」


 フェレシーラのいう被害の中には、迎賓館にした人々の命も含まれている。

 それは決して、うやむやにしていい類のものではない。

 頭では、理屈の上ではそうわかっていても、俺は己の言葉を止めることが出来なかった。

 

「あいつ、俺の『制約ギアス』に不備があったのをわかった上で、勝負してくれたんだ……それもその欠点をついて勝負をひっくり返せたのに、自分から負けを認めてきて」


 自分でも、なぜそんなことを言い出したのか、よくわかっていなかった。

 そんなこちらを、フェレシーラが青い瞳でじっと見つめてくる。

 

「それで? 向こうが手心を加えてきたから、今度はこっちが見逃してやろうとでも言うつもり? いまのところ無害になったメグスェイダの時とは危険度が桁違いなの、わかって言ってるのよね?」

「……ああ」


 認めざるを得なかった。

 フェレシーラの言っていることは正しい。

 

 というか、俺の要求は異常だ。

 それはわかっている。

 

「でも、それだけじゃないんだ。あいつからジングが聞き出した話が、どうにも気になって。それについて、俺、もっと知りたいんだ」

「ジングがって……どういうこと? なにか不味い話でも聞いたの?」

「まずい話っていうか、ぶっ飛んでるっていうか。まだざっくりとだけど、ちょっとな」


 流石にここで「地上と奈落の支配者」だとか、「新たなる統治者」だなんていう、ルゼアウルの言葉を持ち出したところで、話が見えずにグダるだけなのは目に見えていた。

 ポケットの中からジングが舌打ちをしてくる気配があったが……

 

 話を止めにこないところを見ると、コイツもルゼアウルから情報を得た方が良いと考えているのだろう。

 さっきはルゼアウルを始末しろだなんて言ってきたが、あれだけ焦っていたからには、ジングとしても情報は欲しい筈だ。

 

 そう考えてじっとフェレシーラの返事を待っていると、「ふぅ……」という重い溜息が返されてきた。

 

「貴方の過去に関係があるのね?」

「ああ」

「まだ『制約ギアス』が効いてるうちに、なんとかあいつから情報を聞き出しておきたいのね?」

「ああ」

「時間は?」

「30分近くある」

「時間は十分、ってことね」


 フェレシーラからの三つの質問。

 それに対してこちらが返答を行うと、今度はスゥと息を深く肺に取り込む音がやってきた。

 

 一瞬の静寂。

 遠くでは兵士たちの声と軍靴の音。

 その気配に安堵と焦りを同時に覚えつつも、俺は彼女の返答を待ち続けた。


 ややあって、形のよい小さな唇が動く。

 

「わかった」


 短い、しかしハッキリとわかる許諾の声。

 フェレシーラが、こちらの我儘に理解を示してきた。


「そういうことなら、私はあのデカい魔人を受け持つから。フラムはしっかりと、聞けるだけの情報を掴んでおいて」

「フェレシーラ……!」

「喜ぶのは、首尾よくことを終わらせてからにして頂戴。それと、用が済んだら私がキッチリとトドメを刺すから。変な仏心は禁物よ? そっちも、わかった?」

「ああ……ありがとう、ありがとうな、フェレシーラ!」 

「だからそういうのは、あとにしてってば……」


 流石にここまで譲歩してもらって、トドメ云々を――それでも微かな抵抗はあったが――拒否するわけにはいかなかった。

 ただ、『忘我』の術効である自失状態は、強いショックを受けると効果を失う可能性が非常に高い。

 

 それをフェレシーラに伝えると、「ま、しくじったらそれこそ撤退ね」と返されてしまった。

 これでなんとか、ルゼアウルから追加の情報を得られるかもしれない。

 そこまで考えたところで、ふと、俺はあることを思い出した。

 

「あ……そういえば、ローブの魔人。ツェブラクって呼ばれてた、ティオと戦っていたヤツ……あいつがまだいたんだった」

「ん? ああ、あいつならここにくる途中、出くわしたけど……今は平気よ」

「平気って……え、まさか兵士の人達が戦っているとかか!? それってマズくないか!?」

「ちょっとちょっと。落ち着きなさいってば。だから平気なんだってば」 

 

 流石に数では勝るとはいえ、影人に加えてツェブラクまで加わったとあれば、こちらに向かってきてくれていた兵士たちも只では済まないだろう。

 

「ドルメ助祭とワーレン卿。あの二人が駆けつけて来てくれたの」

 

 そう思い、焦りフェレシーラに問いかけると、彼女は不意にその名を口に上らせてきて――

 

「いまローブの魔人は、兵士たちと一緒になって二人が抑え込んでくれているから。だからこの場は安心して……私たちは私たちで、成すべきことを成し遂げましょう?」

 

 妙に誇らしげな様子でもって、クスリと笑みをこぼしてきたのだった。



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