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【ボーイミーツガール & ハイファンタジー!】君を探して 白羽根の聖女と封じの炎  作者: 芋つき蛮族
十二章

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418. 『報酬』

 突如、腕輪を介して口を開いてきたジング。

 それに対して、俺は口をへの字にしながら対応する。

 

「おいこら、ジング。いま大事なところなんだから、ちょっと黙ってろよな」

「んっんー? 聞こえねぇなぁ、小僧。俺様を黙らせてぇんなら、いつものようにお口にチャックさせてはどうかね。ま、それが出来ればの話だがよぉ」 

「――」

 

 余裕綽々、といったその声に、俺は暫し沈黙する。

 折角、ターレウムの横槍をルゼアウルの敗北受け入れでやり過ごせたというのに、一難去ってまた一難、といったところだが……

 

 正直なところ、中々洒落になってない状況だ。

 時間をかけてもいいことはない。

 ここは一度、ストレートにいくしかないだろう。

 

「ジング。いまは後にしてくれないか。頼む」

「ほーぉ。オメェにしちゃ珍しく素直じゃねえか。んで、何を頼むだって?」

「ルゼアウルから聞けるだけのことを聞いておきたい」

「聞けるだけねぇ。そりゃあ、フラム・アルバレットに関する話をか?」

「そうだ。その為の『制約ギアス』、その為の決闘だったからな」

「決闘ねぇ。二対一で決闘も糞もないとおもうがな」

「……ジング、頼む」


 一体どういうつもりなのか、一々こちら確認をとってくるジング。

 その反応に疑念を抱きつつも、俺は尚も説得を試みる。

 ここまで大人しくし続けていただけに、ジングの行動が読めない。

 

 まあ、コイツの精神構造は正直よくわかんないので、読めなくて当然といえば当然なのだが。

 なんにしても、ここで引き下がっては不味いことになるのは目に見えている。

 

 疲弊した体に鞭打ち、夜気に濡れた空気をスゥと肺に取り込んで、俺は言葉を続けた。

 

「いまツェブラクが……もう一人の魔人が戻ってきたり、なにかの間違いでルゼアウルの『制約ギアス』が解けでもしたら、ここまでやってきたことが無駄になる。それだけは避けたいんだ」

「なるほどな。そりゃここまで頑張ったフラムくんとしては、もう一踏ん張りしてぇよなぁ。うんうん、わかるぜ。もうオメェもアトマも使い尽して、ボロボロだもんなぁ」


 物分かりの良い風な口振りのジングに、ついつい、舌打ちを飛ばしそうになるのをなんとか堪える。

 翔玉石の腕輪の表面には、相も変わらずジングが己の意思で開いた瞳と嘴が浮き出ている。

 そのどちらもが、消える気配はない。

 

「ところで……そんなに邪魔くせぇってんならよ。さっきも言ったが、黙らせりゃいいじゃねえか。いつもみたいによ。ん? どうしたのかなぁ、お利口さんのフラムくんはよ」

「……」


 迂遠かつ挑発的な物言いのジングに、俺はまたも口を閉ざしてしまう。

 やはり腕輪に変化はない。

 こちらが何度『ジングに喋らせるな、何も見せるな』と念じたところで……


 今までのように、翔玉石の腕輪をコントロールすることが出来なかった。

 

「クカカカカカ……! どうやらその様子だと、マァジで俺様を抑えられないようだなぁ……まあ、さもありなん、さもありなんってヤツよ。カカカカ……そうだよなぁ。オメェはここまでの戦いでぶっ倒れる寸前。それに比べて、このジング様はどうだ? はっはーん?」


 腕輪に浮かべた嘴で語るジングは絶好調、といった様子だ。

 どうやら先程コイツに『喰わせた』モノが余程満足のいく代物だったようだ。


「ま、三下が呼び出したにしちゃあ、わるくねぇ瘴気だったぜ。オメェ程度にしてやられているようじゃ、まだまだだけどな。カカカカ……!」

「ジング。もう一度だけお願いだ。いまはルゼアウルから――」

「ハッ! やーなこったい!」


 損壊した霊銀盤が仕込まれた手甲を外しつつジングに呼び掛けると、取り付く島もない返事がやってきた。

 

「こっちはようやく力が手に入って、ウズウズしてんだよ! もう少しでゼフトが切れかけておっちんじまうかとヒヤヒヤしてたが……そこの梟野郎から吸い取った分と、さっきの瘴気の分でもう十分よ! これだけのゼフトがありゃあ、テメェから体を奪えるってモンよ!」

「そっか」

「おうよ! ま、テメェの代わりに俺様が話は聞いておいてやるから――って」


 ゴトン、ゴトトン、と俺の腕より滑り落ちていった物体が、鈍い音を立てて地に転がった。

 

「へ……?」

「まあ、そういう事態は想定してたし、何よりさっきはしてやられてたからな。俺としては世話になった部分はあるから、一応お前の口から聞くまではリスクも許容して『お願い』って形にしてたけどさ」


 ポカンと開いた嘴が浮かぶのは、俺の手より離れて地に転がった翔玉石の腕輪の表面。

 それを見届けて、俺は再び手甲を装着し終えていた。


「こっちのアトマが尽きかけていて、ついつい勝ち誇りたいのはわかるけどな。乗っ取るつもりなら、こうやって俺との接点を断たれる前にとっととやれっての。まー、魂を入れ替える為の術法式を理解してないお前が、俺の精神領域に入り込めるかは甚だ疑問だけどさ」

「え? は? ちょ……なにオメェ、人の棲家ポイ捨てしてくれてんだよ!? なんか離れたら不味いとか言ってませんでしたぁっ!?」

「そりゃ滅茶苦茶離れたら悪影響あるかも、って話だったろ。多少離れたぐらいでどうにかなるんなら、それこそセレンさんに俺の精神領域からお前を引き剥がしてもらった時点でどうにかなってるっての。相変わらずアホだな」

「なん……っだそりゃあ!」


 普段、肌身離さず腕輪を身に付けていたせいで、勘違いしていたのだろう。

 ギャーギャーと喚き始めたジングに説明をしてやると、喋る腕輪がキレてきた。


「じゃあナニか? あんなに気合入れて瘴気吸い込んだってのに、ぬか喜びかよ! 我慢して黙ってたのに、タダ働きかよ! はー!?」

「ですね」

「ですね……じゃねーよ! なーにが『お前もゼフトが手に入るんなら、悪くない話だろ?』だ! 端っから利用するだけ利用して、アタイのことは捨てる気だったのね!?」

「うん、まあ。お前ならすぐに調子に乗ってくるってわかってたしな。それと埋められたくなかったら、そのよくわからんノリはやめような?」

「ぐぬぬぬぬぬ……テメェ、まーじで覚えてろよ! 次はぜってー泣かしてやるかんな!」

「へいへい。ま、ここにお前を置いていくわけにもいかないからな。ちょっと大変だろうけど、ホムラに運んでもらうなりで対処するとして……」

 

 ちょっと脇道に逸れてしまった感は否めなかったが、そこはそれ。

 見ればルゼアウルの眼差しがどんどん虚ろなものと化し始めていた。

 

 これは『忘我』の魔術に限ったことではないのだが……

 こうした精神操作系の術法は、かなり高度な系統に属するものだったりする。

 

 代表的なものでは『睡眠』や『催眠』といったものが存在する、この精神操作術。

 

 そのどれもが、成功に至るには対象の纏うアトマや精神力の壁といった術法への抵抗力を上回らぬ限り、『術法を使ったけど何も起こらなかった』という結果が待っている。

 しかもその癖、成功させるにはかなりの実力が求められるので、どうにも博打感が強い。

 

 まあその分、一撃必殺に近い術効を得られるのは非常に大きな強みといえるだろう。

 例えば『睡眠』が成功したとして、周りにそれを起こしにいく者がいなければ、サクッとトドメを刺したり、厳重に捕縛するといった形で勝負をつけにいけるわけだ。

 

 その中でも『忘我』の魔術は、対象をある種の自失状態に追い込み、思考能力を奪う術効を持つ。

 そのため追加で尋問を行えば、簡単に対象が秘めている簡単に情報を引き出せるので、今回の制約ギアスの組み込んである。

 

「ったくよぉ……まー俺様も、そいつの言ってることは気になってたしな。やるんならとっととやっちまえってんだ」

「ああ。それじゃ自失状態に移行したみたいだし、そうさせてもらうかな」

 

 ぼやくジングに返事を行いつつ、ともすれば気を抜くだけで疲労から意識が飛びそうになるのを、ひた隠しにしながら……

 

「魔人ルゼアウル。まずはあんたのいう、『我が君』ってヤツについて。詳しく話してくれ」

 

 俺は一言一句はっきりとした言葉で以て、ルゼアウルへの質問を開始していた。

 


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