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「まったく。一時はどうなることかと思ったけど……」

 

 いまだ瘴気漂う夜の馬車道に立ち、フェレシーラが戦鎚ウォーハンマーを手にこちらに視線を飛ばしてきた。

 

「その様子だと、ジングを抑え込むカラクリは見抜いてるようね」

「ああ。理屈は不確かなところは多いけど、俺のアトマが保たれている間は大丈夫そうかな。大きく消耗すると危険かもだから、サポート中心の動きにしておくけど」

「オッケ。どのみち、全力の貴方の攻撃術を無効化してくる相手だものね。それも手よ」


 突然のジングの復活&乗っ取り&封印劇というアクシデントもなんのその、俺の返答を受けた彼女は、すんなりと状況を把握してくれていた。 


「というわけだから、ティオ。ここは私たちで攻めに回っていきましょう」

「ふむむ。なんかいまいち、状況が飲み込めていないけど。まさかフラムっちも、『もう一人の自分』持ちとはね。なかなかやるじゃん……!」


 そんなフェレシーラからの提案を受けて、何故だかやる気モードとなって前に出るティオ。

 魔人たちとやり合っている状況で、詳しい説明なしに動いてもらえるのは非常に助かる。

 

 まあ、なんかちょっとというか、わりと激しめに勘違いされている感じもするけど。

 そういうわけで、あとは……

 

『それじゃお前は暫く大人しくしてろよ、ジング。乗っ取りの件含めて、あとでしっかり問い詰めさせてもらうからさ』

『ケッ! 勝手にしやがれってんだ、クソッタレめが! テメーなんて、ボーッコボッコに負けちまえぃ! バーカバーカ!』 

 

 こちらの頭の中にて悪態を撒き散らす鷲兜くんに釘を刺し終えてから、俺はあらためて意識を戦場へと向け直していた。

 

「……なんとまぁ、驚かされました」


 そこで声をあげてきたのは、耳木兎ミミズクの魔人ルゼアウル。

 どうやらジングが引き起こした騒動に興味を引かれたらしく、ありがたいことに今の今まで静観を決めていたようだ。

 見た感じ、こちらに対する戦意よりも、戸惑いや好奇の感情が強めな状態といったところか。

 

 だがしかし、それでコイツの危険度が低いなどとは、到底思えない。

 そう感じていたのは、俺だけではなかったのだろう。

 

「でもさぁ。こっちがメインでやるっていっても、あの両脇の魔人? あいつらだけでも結構な相手だとおもうよ? さっき二匹同時に咎人の鎖(クリミナルハンガー)で拘束したら、それだけでオーバーヒートしかけたし」

「そうね……私もあの真ん中のリーダーっぽいのに『浄撃』を叩き込んでみたけど。正直そこまで効いてる感じはしなかったかな」


 ティオとフェレシーラ。

 聖伐教団きっての実力者である筈の二人が、揃って攻めあぐねる様子を見せていた。


 はっきりいって、あまりよろしくない状況だ。

 いまは向こうも動揺しているようで、積極的に仕掛けてきてはいないが……この状態が続くとは到底思えない。

 

 となれば、多少リスキーではあるが、サポート役として提案を行っておくべきだろう。

 

「二人とも、良かったら聞いてくれ。上手く嵌れば、って感じではあるんだけど……あの耳木兎ミミズクみたいな魔人について、考えがあるんだ」

「お? なになに? なんかいい手があんの、フラムっち」

「ぜひお願い。そういうとこ、頼りにしているからじゃんじゃん言ってきて」


 こちらの申し出に、二人揃っての快諾が返されてきた。

 それに感謝の念を抱きつつ、俺はここからのプランを整理しつつ、言葉を続けた。

 

「あの耳木兎ミミズクの魔人とは、まともにやり合ったら危険だと思う。もし三人がかりで封じ込められたとしても、ティオのいうように他の奴らに攻囲されたらそれまでだ。だからここは……あいつを相手にせずに、一人が影人どもを担当して。そして残りの二人で一体ずつ、青銅の魔人とローブの魔人を受け持とう」

「へ? 梟ちゃんを、相手にせずって……徹底的にスルーしろってこと?」

「うん? それってどういうことなの? そんなに都合よくいかないと思うのだけど」

「いや。これで上手くいく。ていうか、上手くやってみせる」

 

 一体なにを言い出してるのかが、まったくわからない。

 そんな反応を見せてきたティオとフェレシーラに、俺は敢えてはっきりと答えてみせた。

 

「たぶんだけど、あのリーダーぽいヤツは戦闘に関してはほぼ素人だ、力は凄くてもな」 

「マジ? まあ、この状況で様子見してきてる辺り、警戒心は強いんだろうけどさ」

「なる。そういうことなら、上手くいくかもだけど……残念ながら、根拠を聞いている時間はなさそうね……!」


 耳木兎ミミズクの魔人、ルゼアウルは戦い慣れていない。

 俺が告げた言葉に、二人が半信半疑ながらも戦闘態勢へと移行する。

 

 そうした理由は単純だ。

 それまで動かずにいた影人の群れが、じわじわとこちらに進み出てきていたからだ。

 

「さて……内緒話は終わりですか? 少々予定が狂ってしまいましたが……あのふざけたしゃべる兜も出てこないようですし。人間どもの兵が向かってくるのも面倒ですからね。覚悟してもらいましょうか」


 そこに一歩だけ進み出てきたのは、当然というべきか、ルゼアウルだった。

 見れば両脇を二体の魔人でしっかりと固めて、落ち着き払った態度で以て言い放ってきているのだが……


「な? いかにも素人っぽいだろ?」


 出来るだけ声を顰めて、俺はその姿、立ち振る舞いについて指摘した。


「わざわざ色々、自分から教えてくれているし。ああやって口に出しておかないと、ヘマうつかもって心配なんだよ。ま、性格もあるんだろうけどさ」

「あー、はいはい、わかるぅ。いるよね、ああいうヤツ。普段安全なところでふんぞり返ってるくせして、いきなり前線にやってきて『頭いいぞ俺は』って感じで、聞いてもいないのにダラダラくっちゃべるタイプね」

「そこまで酷いと決めつけるのもアレだけど……ジングみたいなイレギュラーが出てくると、固まって動けなかったみたいだし。一理あるわね」

「ご理解いただけて、なによりだ」


 当のルゼアウルの発言を前にしてこちらの意見に賛同してきた二人に、俺はちょっと意地悪げに口元を歪めて返してみせた。

 

 ルゼアウルのみは戦いの素人だという前提で、まともにやり合わずに振り回してゆく。

 一見して唐突な感は拭えないであろう、この提案だが……

 

 実はこれに関しては、一応の根拠は存在する。

 それがなにかといえば、あの『フラム・アルバレットの精神領域』と思しき場所での、ジングとのやり取りだった。

 

 あの時、一体どんな手段を用いたのかはわからずとも、ルゼアウルは確実に俺の精神領域に踏み込んできていた。

 見た目た灰色一色だったとはいえ、あの独特の唐突さ、なんとも言えない空虚さからして、それは間違いないと断言できる。

 

 そしてそこでヤツは、突然現れたジングを相手取り、なし崩し的に一戦交える羽目になっていたが……

 

 これがまたなんというべきか、ルゼアウルの戦い方はお粗末もいいところだった。

 幾らジングがちょこまかと翻弄するような動きに徹していたとはいえ、あれだけ一方的にやられるその様を目にすれば、誰だって思うだろう。

 

 例え力はあっても、コイツは戦いに関してはズブの素人だ、と。


『だよな、ジング』

『あァン? しらねーよ、んなコト。馬鹿らしーし、勝手にやってろってんだ。せーっかく、チャンスだと思って張り切ってたのによぉ……クソッタレぃ!』


 とまあ、結果的にルゼアウルの干渉から俺を救ってくれていた鷲兜さんは、こうして御機嫌ナナメなわけではありますが。

 

 ともあれ、これを利用しない手はない。

 しかも都合の良いことに、ルゼアウルはわざわざ俺の精神領域にまでやってきて、話しかけてきていたのだ。

 明らかに、何かの目的、執着があっての行動だ。

 俺を殺せばそれで終わりというのであれば、もっと他に取るべき有効な行動は幾らでもある筈だ。

 

「さて……それじゃそういうわけで」


 チラリと一瞬、俺は頭上に在る『照明』の源、ホムラがその背に乗せた白蛇に視線を飛ばしてから、思考を切り替える。

 

「ちょっとばかし気合入れて、魔人退治といくか……!」

「了解! それじゃ私は左。斧持ちの、ゴツい方を受け持たせてもらうから!」

「ほーい。そんなボクは最初にいってたとおり、右に入るローブのヤツをもらおっかな……!」


 その宣言に合わせて、神殿従士と神官、二人の少女が二手に分かれ走り出す。

 必然、こちらが受け持つのは無数の影人ども……

 

 そして中央で待ち構える、耳木兎ミミズクに魔人ルゼアウルへと絞られていた。


 ……あれ?

 ちょっと待ってくださいませんか、お二人さん。

 いまの話だと、俺ってサポート役じゃありませんでしたっけ!?


 いやまあ、一応アイツの対処法は考えてはいますけど!



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