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399. - evil end -

 状況は混沌を極めていた。


 突如現れた魔人、そして影人の群れ。

 それに対するこちらの先制攻撃が不発に終わり、睨み合っていた真っ只中――

 

「その口調……まさか、貴方!」


 再び俺の体を乗っ取ったジングの宣言を受けて、フェレシーラがいち早く反応した。

 おそらくは魔人の登場や、ここに至るまでのジングの沈黙から、ある程度のアクシデントを予測していた故、なのだろうが……

 

「え? 今度はなになに? こんなときに何のキャラ作り? ていうかフラムっち、『クカカカカカ』って笑いかた、ダサくない?」


 当然ながらすぐ隣にいたティオからすれば、俺ことフラム・アルバレットの豹変ぶりは質の悪いおふざげにしか見えなかったのだろう。

 というか……!

 

「おい、ジング! お前なんで、腕輪に封じられていた筈なの……に……?」

 

 あれ?

 え、なんだ?

 声が普通に出ている? ジングに体を奪われたのに、話せている?

 

 というか、視界がおかしい。

 焦るフェレシーラの姿が、妙に高い位置にある。

 向きというか、視野全般がやたらと狭い。

 

 ティオの姿もはっきりと見えないし、遠近感も狂いまくっている。

 

 これって、まさか……!

 

「げ。おま、なんでしゃべれんだよ! 大人しく引っ込んでろっつーの!」

 

 急ぎ『瞳』を動かすと、そこには迷惑千万、計算違いだと言わんばかりにフラム・アルバレットの口を動かす男がいた。

 

 やっぱりだ。

 今の俺は、ジングに体を乗っ取られたのと同時に、翔玉石の腕輪の中に閉じ込められている状態なのだ。

 

 それはジングによって行われた魂の移動、配置換えに際して発生した予期せぬ出来事だったのだろう。

 一体どうしてジングがそれを実行出来たのか、その理由を気にしている暇はなかった。

 

「フェレシーラ! ティオ! フラムだ! 理由はわからないけど、いま俺は魔人か何かに体を乗っ取られて腕輪の中にいる! 俺のことはいいから、一先ずここから離れてくれ!」

「やっぱり……!」

「腕輪の中って――え、マジで?」 

「マジだ! それとあの耳木兎ミミズクみたいな魔人も危険だ! たぶんだけど、精神攻撃の使い手だ!」


 とにかく当てずっぽうでも何でもよかった。

 今は只管に二人に異常事態であることを告げて、ホムラと一緒にこの場から離脱してもらうより、他にやりようないと断言できた。


 理由はわからないが、耳木兎ミミズクの魔人ルゼアウルが怯んでいる内に、なんとか動かねば全てが終わってしまう。

 周囲の影人、そして青銅とローブの魔人の統率者と思しきヤツが平常心を取り戻したが最後、大攻勢が始まるのは目に見えていた。

 

「チッ、相変わらずちっとの間でごちゃご――」

「せいッ!」

「とっうぉっ!?」


 等と考えているところに、舌打ちするジングの腹部目掛けて戦鎚ウォーハンマーが振り抜かれていた……って、フェレシーラさん!?


「ちょ、おま……あぶねーな! なにしてくれてんだよ、このアマ!」 

「見ての通りよ。貴方を昏倒させるか動けなくして、皆で一緒に脱出するの。時間がないから、大人しくのびてなさいッ!」

「え、あ、ちょ――おいっ、フラム! おめぇの女だろ、コイツ! 今すぐやめさせ――あっぶな!? んぎょあっ!?」

「だ、か、ら……動くなこの、乗っ取り犯!」

 

 ……ええ、まあ。

 そうですね。

 多分それが、きっとベターというか言われてみればベストなんですが。

 

「え……なに? これって由緒正しいどつき漫才なの? それともなにか、新しいプレイなの?」

 

 ブンブンひょいひょいと振り回される鈍器と、そこから必死に逃れる標的をみて、ティオが『治癒』による両腕の自己回復に勤しみながらも、困惑の声をあげていた。 


 彼女からすれば、俺ことフラム・アルバレットが、突如わけのわからぬことを言い出して、そこにフェレシーラが襲い掛かったようにしかみえないだろう。

 ジングに関する事情を知っているフェレシーラとは違い、ティオにとってはすべてが寝耳に水、というヤツに違いない。

 

 こんなことなら洗い浚いすべてを話しておくべきだったなどと言ったところで、後の祭りだ。

 そしてこうして時間を浪費しているばかりでは、何の解決になる筈もなく――

 

「ぐっ……い、一体なにが、どうなっているのです……!」


 当然の帰結として、ルゼアウルが朦朧状態から立ち直ってきていた。

 

 不味い。

 本当にこのままでは不味い。

 なんとか状況を収拾せねば、敵に攻囲されて手詰まりとなるのは目に見えている。

 

 先ほどからなんとか術法式を練ろうと試みていたが、まったく手応えはない。

 当たり前だろう。

 そもそも魔術が……術法が使えるのは、豊富なアトマがあり、術法式を構成するための体、引いてはその中にある精神領域が存在するからこそ、なのだ。

 

 いまの俺にはそれがない。

 翔玉石の腕輪の中には、わずかなアトマがあるのを感じられる程度で、それも恐らくこのままの状態が続けば、俺の意識、魂を維持するだけで擦り減り、いつかは尽きてしまうだろう。

 

 おそらくジングがこれまで沈黙し続けていたのは、きっとそこに起因しているに違いないという推測を立てることが出来た。

 もっともコイツの場合は、アトマではなく、魔人の力、ゼフトなのだろうが――

 

「……あ」


 状況を打破するには無関係とも思えた思考が、俺の脳裏で閃き、同時にある光景を蘇らせていた。

 

 俺の意識が突如飛ばされた、灰色の空間での出来事を思い出して、それを確信する。

 あの時ジングは、ルゼアウルの背中に取りつき、生やした牙を突き立てていた。

 

 そうだ。

 きっとこれはそうなのだ。

 あれはきっと、その為だったのだ。

 

 体の乗っ取りに、ジングであっても可能な、つまりは単純明快な、何かしらの条件があるのだとしたら。

 この状況下、まだこちらに打てる手はある!


「フェレシーラ! ティオ!」


 ただ一言、あらん限りの声で翔玉石の腕輪に紛い物の口を象り、俺は叫ぶ。

 瞬間、その場にいた者すべてが動きを止めた。

 

 純粋な勢いと、不意打ちとして放たれた叫びがもつ力。

 その儚い効果が途切れぬうちに、俺は続けて言葉を発する。

 

「この腕輪に『アトマ付与』をかけてくれ! いま、すぐにだ!」

「な……小僧、貴様!」


 説明も減ったくれもないその要求に、ジングが敵意剥き出しの視線でこちらを見下ろしてくる。

 

 うん。

 やっぱコイツ、基本的にアホなんだよな。

 サンキュージングくん、自白ありがとう。フォーエバー、鷲兜。

 ダサいとかいってマジごめんな。

 

「……了解!」 

「ん。よくわかんないけど、暇だし。ほいきた」


 明らかな動揺をみせたジング。

 そのリアクションを見るなり、フェレシーラがく呪文の詠唱へと移り、ついでになんとなくでティオまで乗ってきてくれた。


「え、あ、おま――挟み討ちは卑怯だるおぉぉぉぉッ!?」


 そしてあがる鷲兜の悲鳴と、仮初の魂の器へと満ちるアトマの脈動。

 意識は途絶えぬまま、しかし視界が急転して高きへと流れ戻る。

 

「……ふぅ」

 

 一度深く呼気を取り込み、拳をぎゅっち握り込み、確認する。

 これまでの事象から見出した予想通り、『ジングが得たゼフトを越える、多量のアトマを得た』ことで、再び支配下へと収まった体を、明確な意識でもって動かし終えて――

 

「いきなりごめん、二人とも。お陰でなんとか戻れたみたいだ。助かったよ」

 

 俺はそこでようやく、己の口でもって二人の少女に礼の言葉を述べることが出来ていた。

 

「え……なに? キミらいったい、いまなにしてたの? なにがなんだか、さっぱりなんだけど。てかなんで、ルゼアウル様がやられてんの……?」


 そこに降り注いできたのは、白蛇様ことメグスェイダの呆れ声。

 思わず頭上を仰ぎ見ると、そこには「ピピィ♪」と鳴きながら、機嫌良さげに旋回するホムラの姿。


「つーわけで、だ。お前、またしばらくその中で動けるだろうからな。懲りずに人様の体に手を出してくれた分、また働いてもらうんで。そこのところ、よろしくな」 

「クソが……! まだおれぁ、なんにもしてねーぞ! ざけんなよ! こんぬぉ、糞餓鬼ィ!」 

 そして結局元鞘に収まったジングくんへと、俺は久しぶりの挨拶を返したのだった。


 まあまあ、あんまり騒ぎなさんなって。

 お仲間の(?)魔人たちも、あまりのドタバタっぷりに呆れてものも言えなくなってるぞ?

 多分だけど。



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