395. そして比率4:1へ……
フェレシーラとティオからの協力を取り付けたところで、二人は揃ってこちらに問うてきた。
「それで? その魔人が襲ってくる合図っていうのは何でわかるんだい?」
「そうね。さっき聞いたときは、音と振動とか言ってはぐらかしてきたけど。それでわかるようなら、私を含めて他にも気付いている人はいた筈だし……キリキリと話しちゃいなさい」
「ああ、誤魔化して悪かったよ」
一丸となって魔人と戦うと決まった途端、食い気味となって詰め寄ってきた彼女たちに、俺は思わず苦笑する。
「あの岩肌の魔人……ムグンファーツが迎賓館の会議室に飛び込んでくる直前にさ。この腕輪が反応していたんだよ」
「え……それって」
俺が指さした翔玉石の腕輪をみて、先に反応を示してきたのはフェレシーラだった。
そこに続けて、ティオが「ああ、なるほどね」と呟いてくる。
「その腕輪、なんの為の術具だろうって思ってはいたんだけど。魔人を探知する為の代物だったってことか」
「……まあ、そういうことだな。今まで隠していていたけどさ」
「なるぅ。聞いたこともない術具だけど、魔人殺しの『煌炎の魔女』に育てられていたのなら、それぐらいの品は持っていてもおかしくはないか」
咄嗟にティオの推測に話を合わせると、「うんうん」と口にしつつ彼女は頷きで返してきた。
ちょっと騙すようで気は引けるが……
フェレシーラとは違い、ジングの存在を知らないティオにアイツのことを一から説明すると、中々に大変なことになる。
加えていえば、今ここでそれを伝えると、メグスェイダの耳に入ること不安材料の一つだった。
それは何故かといえば、こちらが『隠者の塔』を出て以降、影人絡みで引き起こされた出来事と、ジングの存在、目的に何かしらに関連性があることは明白だったからだ。
さすがにそこを無関係だと思うほど、俺も馬鹿ではない。
しかし当のジングがミストピア神殿での代理戦を終えてから沈黙し続けていた為、そうした点を追及することは出来ずにいた。
ジングのヤツがまともに取り合うかどうかは別にして、現状、魔人とジングに繋がりを持たせるのは得策ではない。
「まあ、そこらについては落ちついたらまたお前にも話させてもらうよ。な、フェレシーラ」
「そうね。私もそれがいいと思う。それよりも……魔人が現れれば反応するってわりには、たしかメグスェイダが現れた時には、それらしいことは言ってなかったような気がするのだけど」
話の矛先をフェレシーラに向けると、そんな疑問で返されてきた。
彼女にしてみても、こちらがいきなり翔玉石の腕輪を『魔人探知の術具です』だなんて言い出してきたことには、ツッコミの一つも入れたくなるというところだろうが……
「そりゃアレだ。その時は腕輪の術効を起動してなかったからな。それにこれ、師……マルゼスさんが作ってくれた、試作品だからさ。上手く機能しないこともあるかもだし。取り敢えず、保険と思ってくれればいいよ」
「ああ、それなら納得ね」
しれっとして口からの出まかせを返したところ、これまたしれっとした得心の頷きで返された。
ちょっとフェレシーラさんや。
文句の一つも言いたくなるのはわかりますけど、隠れて人の足を踏むのはやめてくれませんかね……!
俺だってなんで腕輪があんな反応したのかはわかってないけど、それを言い出したら話が終わらないんですよ!?
「と、とにかくだ。腕輪はそんなに当てにせずに、しっかりと警戒していくぞ」
「言われなくても、魔人どもの好きにさせたりはするものですか」
「ほーい。なんで君が仕切ってるのかはわかんないけど……ま、一応狙われてるのはそっちだし、仕方ないね」
あうち。
仕方がないとはいえ、ちょっと強引に話を進めた分、フェレシーラがどことなく冷たい。
ティオはまあティオなんで、協力してくれるなら別にいいけど。
しかしそうなると、問題は――
「なんかよくわかんないね、キミたちって」
「メグスェイダ……」
「ああ、別にそっちのやることに文句はないよ。ただ、このままここでやり合うつもりなら、ワタシもこんなザマだからね。少しばかり、離れていてもいいかい?」
「いや、それはいいんだけどさ」
丁度ポケットの中にいた白蛇様のことに思考を巡らせたところで、タイミングよくメグスェイダがこちらに話しかけてきた。
「心配しなくたって、逃げやしないよ。こっちとしてもアイツらが出向いてくるんなら、様子を伺う絶好の機会だからね。ムグンファーツのヤツみたいに意思の疎通が難しいのが出てこない限りは、付かず離れずでどっかに隠れているよ」
「そっか。なら助かるけど……ん?」
期せずしてこちらの思惑と合致したその言葉に感謝の言葉を述べるも、ふと、俺の中である疑問が再燃した。
「そういや、チラッと気になってたんだけどさ。魔人も人類種の言葉が理解出来るんだよな。まさか、攻め入る国で使って言葉を覚えたりしてるのか?」
「うん? ……ああ、なんだ。なにを聞いて来るかとおもえばそんなことかい。変なことを気にするヤツだね、キミも」
「いやまあ、なんだかんだ魔人の情報は欲しいって、いうのもあるけどさ。単純にどういう理屈なのかなって。要は知識欲ってヤツだよ」
「そう言われてもね。別にわざわざ覚えているってワケでもないよ」
「わざわざ覚えているわけはじゃないって……」
意外過ぎるメグスェイダの返答に、思わずオウム返しに及んでしまう。
聞けば聞くほど余計に大きくなっていく疑問に、ついつい、追問の言葉が口を衝いてでていた。
「それじゃいつも魔人同士で、中央大陸語で会話してるってことなのか?」
「ああ、そうさ。他にも人間どもが使っている言葉なら、全部使えるよ」
「え? そうなの? それほんと? それがホントなら、魔人ってめちゃくちゃ頭良くない?」
「ちょっとティオ。横から話に入るのはやめておきなさい。フラムも、今ははそんなこと気にしてる場合じゃないでしょ」
「う……ごめん。たしかに脇道に逸れすぎだった」
話の途中口を挟んできたティオ共々フェレシーラに釘を刺されてしまい、俺は慌てて話を切り上げることにした。
「ありがとう、メグスェイダ。面白かったよ。よければまた今度、聞かせてくれ」
「だから礼はいらないって言ったろ。ま……ここからお互い命があって、気が向いたらね」
こちらの言葉にメグスェイダはそう返してくると、合皮のベストのポッケから這い出てきた。
どうやら宣言どおりに、どこかに身を隠すつもりらしい。
となれば、後は最後の一人。
「フェレシーラ。今から一旦、俺がホムラを預けてくるから――」
「ピ」
……って。
あれ?
言葉の途中、俺はフェレシーラの腕の中にいた小さな相棒へと視線を奪われていた。
「ホムラ?」
「ピ! ピピィ♪」
うん。
はい。
これはこれは。
めちゃくちゃハッキリとしたお返事、ありがとうございます。
どうみても元気です。
いつの間にやら、これは完全に起きられてますね。
「あら、ホムラ。もうお目覚め? 尻尾もペシペシ、やる気満々じゃない」
「ピピ! キュピピピピ……」
「お、ホムホムおっは。聞いたぞ聞いたぞ~。フラムっちだけじゃなくて、君も大活躍だったって話じゃん。良ければ今度、ボクも一緒にお空の散歩に連れてってくんない?」
「ピ? プピ?」
「なに言ってんだい、ボウヤ。おチビちゃんが起きたってのなら、ワタシの方が先に乗せてもらうよ。こう、ちょちょっと翼にでも巻き付かせてもらえれば済むからさ」
「ピピッ!?」
呆気に取られるこちらを余所に、盛り上がる女性陣。
そういやこそっと一応聞いてみたいたんですが、メグスェイダさんも一応そうらしいです。
ていうか、マジでホムラさんタフすぎでは。
幻獣の体力恐るべしというか、ちょっと末恐ろしいものがあるんですが。
いやまあ、頼りになるのは素直に嬉しいんですけどね。
殆ど重さもない白蛇様はともかくとして、どう考えても無茶苦茶するのが目に視えてる青蛇さん、貴女は許しませんよ?