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393. 鉄火場、いまだ熱冷めやらずか

 いつの間にか、先を行く兵士たちから随分と距離が空いてしまっていた。

 

「魔人が影人の呼び出し口になってるって……確かに、そんなこといってたけど」 

 

 そんな中、俺は先のメグスェイダの発言に触れてきたフェレシーラを見て、継ぐべき言葉を見失ってしまっていた。

 

「可能性としては十分あり得るでしょ? さっきだって、こっちの主だったメンバーが集まっていたところに、ドンピシャで魔人が飛び込んできたわけだし。それで影人が湧いてこなかったところをみると、多分、相応に影人を呼び出すための手順や条件があるんでしょうけど」

「……いや、あり得るどころか、まんまそれが狙いだったんだろうな」


 岩肌の魔人が、単身で会議室に突っ込んできたのは、そこから影人どもを呼び出し場を制圧するためだった。

 あの状況では、そう考えるのがむしろ正常だ。

 

「そこのところ、どうなんだ。メグスェイダ」


 いつの間にやら再びベストのポケットを巣にしていた白蛇に問いかけると、「フン」と鼻を鳴らす音が返されてきた。

 

「ま、そのお嬢ちゃんのいうとおりだろうね。おおかた『爆炎』とやらを仕込んでいたデカい玩具が火柱上げただけ、ってオチがついた時点で、ムグンファーツのヤツを撃ち込んで、あの場に影人を呼び出させようってコトになったんだろうけどさ……」


 そこまで言って、メグスェイダは溜息を吐くような仕草をみせてきた。

 

「所詮、ワタシたちは下っ端の捨て駒ってことなのかねぇ」

「それは……」

「ああ、返事も同情もいらないよ。ただの愚痴さ。ワタシはそれを確かめたくて、こんな成りを晒してるんだ。直に確認するまでは、内情も話すつもりはない。逆にいえば、ああやって目にしたモノには好きに言わせてもらうけどさ」 

「……わかった。無理には聞かない約束だったしな。そこは任せるよ」

 

 つらつらと吐き出す白蛇をみて、俺はそれ以上なにもいえなくなる。

 

「ハッ! やめなって、そんなツラすんのはさ。どの道ワタシが知ってることなんて、たかが知れているんだ。しかしまあ、そうだね。デカい弾はあってあと一回ってところだろうよ。それ以上注ぎ込んだら、自分達の身が危うくなるだろうからね」

「そっか……教えてくれてありがとな。メグスェイダ」

「礼はいらないよ。面と向かって話せるならともかく、いきなり闘いに巻き込まれでもしたら、こっちは一巻の終わりだからね。精々気を付けておいてくれ、ってもんさ」


 そう言って、メグスェイダはポケットの中へと消えていった。

 なんとなくで、俺たちは再び歩み始める。

 

「んーと。なんかいまいち、事情がよくわかってないんだけど……なにはともあれ」


 そこでティオが口を開いてきた。


「ボクの密かな活躍のお陰で、影人ってのが攻めてくるのを防げてたってことかな!」

「そうねぇ。正直、一人でどこをほっつき歩いていたのかと思ったけど。お手柄じゃない。ね、フラム」

「うん? ああ……たしかに、あれ以上一気に影人どもが攻めてきたら、被害が跳ね上がっていただろうしな。お手柄だな、ティオ」

「そうだよねーそうだよねー……って、なんか適当感漂ってない? 君たち二人してさ」

「いやいや。本当に感謝してるぞ。延々と影人が押し寄せていたところに、あの鉄巨人が攻め込んできていたら、とてもじゃないけど捌ききれなかったしさ」

「そうそう。あそこで一旦落ち着いていたから、私たちも迎賓館から離れられたんだもの」

「ふぅん? なーんかやっぱり、君ら雰囲気が怪しいっていうか……そもそも、鉄巨人ってなに? ボク、それっぽいヤツ見かけてないんだけど」

「……あ」

「そういえば……」

 

 小首を傾げてからの逆サイドへの首傾げを披露してきたティオに、俺とフェレシーラが揃って固まった。

 

 そうでした。

 そういやティオさんには、まだあの鉄巨人と『爆炎』の話、してなかったですね……!

 

 まあ、それをいったらあのムグンファーツとかいう魔人が会議室に飛び込んできたせいで、他の皆にも詳しいことは話せていなかったんだけど。

 それはともかくとして、ここはメグスェイダの正体も明かされたことだし、ティオに対してはしっかりと説明をしておかねばならないだろう。

 

「フェレシーラ」

「そうね。この際だから、ティオには全部話しておきましょう。こう言ってはなんだけど、この子って大教殿は元より、聖伐教団の教えに対してわりと……っていうか、かなりアレなスタンスだから。メグスェイダの件は他言無用、ってことならいいと思うわ」

「わかった。それじゃ、ティオ。そういうことだけど、聞くか?」

「オッケーオッケー。またまたよくわかんないけど、早く聞きたいし、他言無用承認承認!」


 フェレシーラの確認を経て、やたらと軽い承認で話は決まった。

 さて。

 そうなると、やはりティオが姿を迎賓館から姿を消して以降の話になるわけだが――

 


 

「……マジか」 

 

 ぼそりと。

 

 まずは迎賓館内での影人掃討から、兵士たちを率いてフェレシーラと合流を果たし、第二監視塔に至るまでの一幕。

 お次は中庭で円陣を敷いての防衛戦を経ての、再び結界を施した迎賓館へと陣取っての持久戦。

 続けて現れた、規格外の超大型影人『鉄巨人』または、『木偶の坊』への誘引と捕縛。

 

 そしてこちらに襲い掛かってきた魔人メグスェイダ・フォルオーンとの戦いに、鉄巨人に仕掛けられたいた『爆炎』の術法式の発覚と起動まで――

 

「いやいや……いやいやいやいやいや! 盛り過ぎでしょ! 幾らなんでも、短時間の間に君らイベント詰め込みすぎでしょ!」

「そう言われてもねえ……全部実際に起きてたことだし」

「まあ、あらためて起きたを羅列してみると、わりとトンデモな気はするけどな。一応、事実は事実だな」


 てーかイベント言うな、イベントって。

 パトリースが聞いたらキレるぞ。

 まあ会議室でのあれは、父親のエキュムが軽口を叩いたからかもだけど。


「むぅ……マジかぁ。そんな賑やかなことになってたのなら、ボクも大人しく迎賓館の中に残っておくべきだったかなぁ……でもパンピーくんたちが周りにいると、咎人の鎖(クリミナルハンガー)が使いにくいしなぁ……」


 だからパンピー以下略。

 

「しかしそれにしても、ホムホムにぶら下がって飛んでみたり、影人を『解呪』したり沼に沈めたり、ボクに先んじて魔人っていうかメグっちをボコったり……果ては超特大の『爆炎』を火柱に変えちゃうか……ふーん」

「な、なんだよ。急に人のこと、ジロジロみてきて。言っとくけど、カッコつけようとして話を盛ったりしてないからな!」

「それは、まあ……わかるよ。なんとなくだけど」

 

 これまでにも増して不躾にこちらを眺めてきていたティオだったが、それだけ言うと今度は隣にいたフェレシーラへと向き直ったいた。

 

「どうやらこの戦いで一皮剥けたみたいだね。君の目論見通り、特訓が上手くいったってところかな?」

「さあ。私は元々、フラムが持っていた素養の一部だと思うけど? 特訓は飽くまで、切っ掛けだし。それを言ったら代理戦なんてものに巻き込んできた貴女の仕業じゃ?」

「んー……そこはどうだろうね。ボクはあれで潰れるなら、そこまでだったと判断していただろうし。代理戦だって、君の指導あってこそでしょ」

「そんなこと言い出したら、マルゼス様の話にまで遡るだけだもの」

「へー。そこ、気にしてるんだ。なるほどねぇ」

「――ティオ」


 不意に圧を増してきた白羽根の少女を前にして、青蛇の少女が「おっと」と両手を広げてお道化てきた。

 

 え。

 なんだ、今のやり取り?

 なんか結構険悪っていうか、刺々しくなかったか?

 

 よくわかんないけど、俺のことで言い合いっていうか、可笑しな感じになっていたっぽいし。

 

「ま、そういうことなら納得だよ。フラムっちが影人だか魔人だかに狙われている、って話なら、それだけわんさか攻めてきてたのも納得だし。なんにせよ、これまで以上に気が抜けない状況だね」

「ん? これまで以上にって……いや、まだ敵に余力はあるかもだけどさ。さすがにそこまでは言い過ぎじゃないか?」

「はぁ? なに言ってんだよ君は。なんか勘違いしてるみたいだから……言っておくけどね。いまのあちらさんは、大枚叩いて、ぜーんぶ君らに勝ちを攫われた状態だからね?」

 

 思わず衝いてでた反問に、再びティオがこちらに向き直ってきた。

 そして心底呆れたとばかりの表情で、彼女は「いいかい?」と念押しの言葉を挟み込むと、

 

「そんな状況で、負けが込んだヤツがやることといえば、もう決まってる。最後に残った虎の子握りしめて……大穴狙いの、一点勝負に出てくるに決まってるだろ」

 

 その可愛らしい唇を、心底愉しげに歪めてきた。



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