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384. 魔人の証明

 それはメグスェイダを同行者として招き入れた後、闇に包まれた馬車道を行く最中のこと。


「この世界、サーシャルードで魔人の力が……魂絶力ゼフトが発露し、私たちの目に触れるとされているパターンは、基本的に二つ」


 先ずはビッと人差し指を立てて、フェレシーラが魔人に関する注意事項を挙げていた。

 

「一つは瘴気が発生した際。魔人の棲まう奈落を満たしているという、人類種にとって有毒な気体ね。魔人が多量のゼフトを解放した際には、この瘴気が振り撒かれると言われているわ」

「なるほど。たしか、御伽話にあるアーマ神話でもそんなモノが出てきてたな」

「ええ。ただしこれは、魔人が瘴気を放つ為にゼフトが必要だっていう説もあるから。関連性はあるにせよ、どちらが正解とも言えない部分ね」


 そう言いながら、彼女は俺のベストにチラリと視線を飛ばすが……

 残念ながらというべきか、そこに隠れ住まう元魔人の白蛇、メグスェイダ・フォルオーンは顔を出してきていない。

 

 まあ話自体はしっかり聞いてるだろうけどな。

 自分の今後の身の安全にも関わる話だし。

 

「それで……もう一つのパターンはいわゆる背理法って奴なんだけど」


 頷く俺に向けて、続けてピンと伸ばされてくる少女の中指。

 丁度ピースサインとなる形でちょっとラブリーだが、今は話に集中せねばなるまい。

 

「術法ないし、それに近しいものが齎す『結果』に対する『魂源力アトマの不在』。それを目にしたとき、人はこう言うの。『これは魔人の仕業に違いない』……ってね。まあ、これはもうフラムなら簡単にわかると思うけど」

「ああ。このサーシャルードでは、あらゆる物質、万物がアトマを備えている。そんな俺たちが術法のような超常神秘の力を発露させるには、アトマを消費するしかない」


 フェレシーラの言葉を引継ぎ、俺は『魔人の証明法』について言及してゆく。

 

「でも、魔人は違う。彼らはアトマを持たず、ゼフトを用いてそれを成すからには……アトマを介さずに術法に近しい現象を引き起こす存在こそ、(イコール)魔人であるに違いない、って理屈なわけだ」

「そうね。アトマであれば『探知』を使ったアトマ視でその存在を確認することは出来るけど。ゼフトに関しては、看破する方法が見つかっていないのが現状だから。アトマ視で確認出来ない力は『この現象はゼフトに依るものだ』っていう判断に至っている、というのが常識よ」

「ふーむ……」


 なんだかとっても迂遠な判別法に思えるが……

 直接ゼフトの存在を視認出来ないとあっては、それも致し方ないのだろう。

 

 しかし……そうなってくると、だ。

 

「なあ、メグスェイダ。ちょっとアンタに質問があるんだけど」

「……なんだい、宿主殿」

「その言い方だと、体のどこかに寄生されてるみたいでちょっとアレだな――って、そうじゃなくてさ」


 ベストに空いた穴から頭だけ覗かせてきた白蛇へと向けて、俺は先ほどから気になり続けていたことを尋ねてみることにした。

 

「なんかいま、アンタを『探知』で見ていても、赤色のアトマしか見えないんだけど。もしかして、ゼフトって体の外に出さないように出来るモンなのか?」 

「ああ、なにを聞いてくるかと思えばそんなことか。そりゃ出来るよ。特に今はこんな成りで力も殆どないからねぇ……出来る限り、意識して使わないようにしてるよ」

「おぉ……なるほど。ってことは、今はアトマを使って動いてるって寸法なのか?」

「んー。そこはよくわからないけど、そうなんじゃないかな。なんだか体の動きがぎこちないし、いつもより熱いような気もするし。ま、問題があるってほどじゃないけどね」

「なるほど。別段こっちは、アンタのいる場所が熱いって感じはしないから……当人だけの感覚なのかもしれないな」

「ピィ……」


 メグスェイダの回答に一人で納得していると、しれっと頭上の住人と化していたホムラが賛同するかの如く声をもらしてきた。

 まあ、ホムラも俺からアトマを貰っているんだし、案外そういう感覚があって同意しているのかもしんないけど。

 

 それにしてもこの状態。

 なんというか、アレだな、アレ。

 

「なんだか貴方の体って、人外の寄り合い所染みてきちゃったわねぇ……」 

「言ってくれるなって。こっちはジングのヤツで手一杯みたいなところがあるんだからさ。今は大人しくしてくれているからいいものの、ここにアイツまで加わったらとおもうと頭痛くなってくるぞ」 


 こちらの思考を読み取ってきたかのようなフェレシーラの一言に、若干凹む俺。

 いや、ホムラさんはいいんですよ?

 幾らでも乗ってきてくれて……とは、最近ちょっと言い難い成長具合ではあるけども。

 

 問題は、絶賛魔人容疑拘束中のジングくんと、元魔人のメグスェイダのお二人だ。

 片ややむにやまれぬ事情アリ、片や打算に基づく一時休戦・協力状態にあるとはいえ……

 

「さすがになんの準備もなしに皆のところに戻るってのは、問題がありすぎるかな。メグスェイダはこのままだと、どうしても人の目に晒される場面もあるだろうし」

「そう? いまのところアトマしか視えない状態なら、そんなに不都合があるとも思えないけど。そんなに気になる?」

「いやいや……流石にそれは大雑把すぎるだろ。普通に考えたら、蛇を服に棲ませるヤツなんていないだろ。絶対に怪しまれるって」

「それを私に言われてもねえ。そこを気にしたら、その子を一緒に連れていこうなんて土台無理な話だし。籠か何かに入れて運ぶとかいったら、貴方暴れるでしょ。メグスェイダ」

「当然。愚問だね」

「そこで自信満々に断言してくれるなって。だけど、まあ……」


 取り敢えずの今後の算段を頭の中で描きつつ、俺はベストの中で小さな蜷局を巻く白蛇へと声をかけた。 


「ありがとうな、メグスェイダ」

「ん? なんだよ、いきなり。なんに礼を言ってるのか、さっぱりだぞ」

「そりゃ当然、ゼフト絡みの質問に答えてくれたからだよ」

「はあ? 答えてくれたから、って……そうでもしておかないと、ワタシの身に危険が及びそうだと思ったから、答えたまでのことだし。そんなことに、礼なんて言われてもねぇ」

「例えそうだとしても、だよ。俺たちが何とか問題点を解消しようとしていたのに、協力してくれたことに変わりはないからな。なら、ここはありがとうだ。ついで言えば、借り一つだな」


 訝しげな声を発してきた白蛇へと俺なりに筋道立てた答えを返すと、今度は「ハッ!」とこちらを一笑に付す声が飛んできた。


「やめなやめな! そんなみみっちぃ理由で恩着せがましく貸しを押し付けるだなんて、このワタシのプライドが許さないよ! 今度どうでもいいことで貸し借りだのと抜かしたら、ここで脱皮してやるからね!」

「どんな脅しだよ……でも、そういうことならわかったよ」

「ていうか、普通に脱皮して育つものなのかしら。ホムラは毛の生え代わりはあるっぽいから、そこら辺はグリフォンっていっても普通の動物ぽいけど」

「ピ? ピピッ!」


 うーむ、たしかに……と、言いたいところなんですが。

 なんだか最近、ホムラはホムラで、普通の(?)グリフォンとはまた違うっていうか、別種の特性を秘めている気がしてならないんだよなぁ。

 

 明らかに知能は高いし、アトマの操り方や身体面での成長ぶりも、雛とは思えないほどに著しいものがあるし。

 これがグリフォンという種が備えていて当然の能力だとしたら、それこそ成体は竜種迫るレベルで人々に恐れられているのではなかろうか。

 

 まあ、実際にドラゴンにお目にかかったことがないので、言い過ぎかもしれないが。

 ここらに関しても暇があればまたセレンに教えを乞いつつ、また確かめてみたいところだけど……

 

 セレンからすれば、アトマとゼフトを混在させている、メグスェイダも興味の対象だろうし、そこはちょっと気を付けていかないとだ。

 あの人、一見アレだけど良識的なところもあるのに、でもやっぱり根っこはアレな感じだからなぁ。

 

 ちょっと目を離した隙に「うん! これは非常に興味をそそられる対象だね! 早速実験といこう!」とか言い出して、白蛇さんにチョメチョメしちゃいそうだし。

 それでなくても、メグスェイダもそう簡単に皆とも馴染めないだろうから……

 

「うん。やっぱりここは迎賓館に戻るまでに、いい感じの言い訳っていうか、誤魔化しかたを考えておくべきだよな。メグスェイダが見つからないように、ってのは流石に無理があるし。変に隠して見つかった時には、駆除されちゃうかもだもんな。ジングと違って生身だし」

「そう簡単に人間どもに殺される気はないけどね。ま、そこらは任せるよ。ワタシはしばらく様子見させてもらうからね」


 こちらの案に、白蛇さんはそこまで興味もないご様子だ。 

 さりげ何度かジングの名前を出してみても、反応らしい反応はない。

 

 ちらりと視線を横に移すと、フェレシーラと目が合った。

 どうやら彼女もメグスェイダの言動に注視しているらしく、意図的に衝突を避けて言いたいように言わせているようだ。

 

 停戦状態にあるとはいえ、当たり前だが信用などしていないという証明だ。

 もっともそれは、メグスェイダにしても同様だろうが。

 

「しかし実際のところ、皆にどう切り出すか。鉄巨人を何とかしたら、気付いたらついてきてました! とかじゃ、今後も一緒に行動する理由としては弱いしなぁ」


 結局はそこに話が戻ることとなり、どうしたものかと首を捻ってしまう。

 自分からメグスェイダを同行させておいたからには、責任を持ってなんとかしたいところだが――


「ああ、それなら私にいい考えがあるけど?」 

「……へ?」

 

 なんてことを考えながら、うんうんと唸っていたところにやってきたのは、フェレシーラの声であり。

 

「今回の件は、私もフラムに交渉を任せたし……良ければ任せて頂戴な」


 そう言って彼女は、ニンマリとした人の悪い笑みを浮かべてきたのだった。



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