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【ボーイミーツガール & ハイファンタジー!】君を探して 白羽根の聖女と封じの炎  作者: 芋つき蛮族
十二章

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383. 取引きの行方

「噛まれた周囲を凍らせて、毒の進行を封じていた、ねぇ……」


 心底呆れた様子の蛇というものを、俺は生まれて初めて目にしていた。

 といっても、中身は魔人なので純粋な蛇とはいえないかもだが。

 

 ともあれ俺はメグスェイダに『毒封じ』の手順を説明し終えていた。


「まあ、いきなりだったし思い付きだったけどな。幾ら『凍結』を使ったところで、血管を噛まれていたらアウトだったと思うし」

「その思い付きとやらにやられる身にもなって欲しいんだけど。ま、一応わかったよ。あの馬鹿デカ影人の『爆炎』を捻じ曲げたのといい、なんかキミが色々とおかしいの含めてね」

「え? 俺が『爆炎』捻じ曲げたって……なんでお前がそのことまで知ってるんだ? タイミング的におかしくないか?」

「そりゃアレだよ。ワタシ、そこの神殿従士さんにドタマブッ飛ばされてから、気付いたらキミの服の中にいたからね。初めの内は頭もぼーっとして、いまいち状況も掴めてなかったけど……」


 ここでのメグスェイダのいう服とは、こちらが身に付けていた合皮のベストのことだろう。

 そういやコイツが出てきた卵って、俺が毒蛇に噛まれた部分に入っていたんだっけか。


 よくよく見れば毒液で穴があいてるし。

 まあ、ベストを貫通して俺の脇腹に牙が達するほどだから、当然といえば当然なんだろうけど。

 もうちょい穴が大きかったら、コイツ卵の状態でポロッと落っこちてたんじゃなかろうか。


「たぶん、そのおチビちゃんに捉まってキミらが移動し始めたあたりかな? そこら辺から記憶がはっきりしてるね」

「マジか。じゃあ結構な間、こっちの話を聞いてたんだな」

「まあね。といっても、意味のわかんないことばかりで暇してたけどさぁ」


 なるほど。

 メグスェイダが既に卵の中で意識を取り戻していたのであれば、まあ納得できる話ではある。

 

 ここまでの口振り、話の内容からしても、やはり今回の卵化からの復活に関しては、コイツが意図的にやったことではないのだろう。

 そこはメグスェイダの欲求に、『なぜ自分がこんな状態に陥ったのかを知りたい』という内容が含まれていることからも、確定事項といえるだろう。

 

「なんにせよ、俺があの毒を防いだのはそういうやり方だったとして、だ」


 それを念頭に置いて、俺は眼前の白蛇との交渉を再開した。


「アンタはこれから、仲間の魔人たちにどんな思惑があったのかを知りたいんだよな?」

「そうなるね。もっともこの成りじゃあ、それも叶わないかもだけど」 

「ああ、そうだな。アトマをもってるその体じゃ、難しいと思う」

「フン……はっきり言ってくれるね。人が気にしていることを」

「わるい。でも、事実だからな。そこを無視することは出来ない」


 事実は事実。

 出来ることと出来ないことは、遠慮なく区分けして話を進めてゆく。


 フェレシーラも言っていたが、人間の思考と魔人のそれは大きく乖離しているというのは、俺にもなんとなくわかる。

 しかしそれは多分きっとおそらく、互いが持つ『常識と環境』の差だ。

 

 人と魔人が真に異なる思考で動くのであれば、そもそも会話すら成立せず、たとえ表面上で言葉を交わすことが出来ても、隠しきれない齟齬が生まれるはずだ。

 ここに至るまでのメグスェイダとの会話から、俺は己の中でそんな判断を下していた。

 

 加えていえば、魔人であるとの疑いがかかっているジングとのやり取りも、そこに影響してはいたが。

 あいつも会話が可能とはいえ、明らかに人間として生活してきた感じではなかったもんな。


 今この場で話が出来るのであれば、叩き起こしてメグスェイダとのやり取りを聞かせたかったとろこだが……

 相も変わらず翔玉石の腕輪に『声』を送っても、うんともすんとも返ってこないのでお手上げ状態だ。

 まあジングの場合、本人がアホすぎて色々とおかしいだけかもしんないけど。

 

 とはいえ「相手が魔人でも、話せばわかりあえる」なんて綺麗ごとを口にして、お為ごかしを狙うつもりはこちらにはない。

 状況次第ではまたすぐに敵に回りかねない相手を、無理に味方扱いしても良いことはない。


 必要なのは、飽くまでもきっちりとした取引内容、行動指針だった。

 

「だからさ。アンタは一旦、このまま俺たちについてきてくれ。さっきも言ったとおりに、アンタが気になることがあれば、可能な限りは協力する」

「……それでそっちにも得るものがある、ってのは、まあわかるとしてさ。ワタシが力を取り戻したら、先ず真っ先にキミからガブッといくよ? もう元の場所に戻れないとしても、そうなった元凶はたぶんキミと関わったせいだからね」


 縦縞の蛇眼でこちらの真意を覗き込むようにして、メグスェイダが問いかけてきた。

 別段それは、脅しというわけでもないのだろう。

 

 自分の居場所を奪った相手を恨むのは、当然のことだ。

 例えそれが仕掛けた戦いの結果のしっぺ返しだとしても、「なら仕方ない、自業自得だ」と割り切れる奴なんてそうそういやしない。

 いてたまるものか、と俺は思う。

 

「わかった。アンタが元の魔人の力を取り戻せたら、俺が相手になる。約束だ」

「はあ? なにそれ。ほんとキミ、アタマどうかしてるんじゃない? 大人しそうな顔しておいて、話に聞いていた聖伐教団の連中より、よほど覚悟ガンギマリじゃん。そこまでして、なんでこんな取引に拘るんだよ」

「そりゃ簡単だ。自分のことが知りたいからだよ。そういう意味じゃ、いまのアンタと同じだ」

「同じ? キミと私が?」

「ああ、同じだ。アンタはいまの自分が、どうしてそんな体になったのか、仲間の魔人が何を考えているのかを知りたい。俺はなんで自分が魔人に狙われているかを知りたい。そこに関わることを知りたい。メグスェイダが何か知っていれば、すぐにでも教えて欲しいけどさ」

「……生憎なにも知らないね」

「だよな」

 

 一瞬、チロリと二股の舌を見せてきた白蛇の言葉に、俺は苦笑いで賛同した。

 おそらくメグスェイダは、そう重要な情報をもっていない。

 こう言ってはなんだが、コイツは味方の魔人に捨て石にされた下っ端でしかない。

 

 そんなヤツがもしも何らかの、こちらにとって有益な情報、手掛かりになることを知っていたとしても、素直にそれを開示してくる筈もない。

 いわばそれは、体と力を失ったメグスェイダにとっての、切り札だ。

 切ってくるとすれば、こちらがそれなりの対価を提示した場面に限られるだろう。

 

「はあ。ほんと、変なヤツに手をだしちまったモンだね。一応聞いておくけど……この話を断ったら、どうするつもりだい」

「その場合は……アンタをもう一度始末するだけだ。むざむざ見逃して、こっちの情報を持ち帰らせるわけにもいかないからな」

「そりゃそーだわなぁ……ククッ」


 白蛇の質問に答えを返すと、全身を波打たせるようにしてメグスェイダが嗤い声をあげてきた。 


「最初は脳ミソお花畑の、頭の暖かいヤツかと思ったけどさぁ。なかなかどうして、しっかりしてるじゃないか。そうだねぇ。そこはそうするべきだ」


 愉快気に頭を揺らすその姿に、ついつい「そりゃどうも」とでも返したくなるが、ここは我慢だ。

 折角こちらにプラスの評価をしてくれているところに、余計な口を挟むつもりはない。

 

「さて。それじゃ念押ししとこうか。ワタシがキミについていけば、仲間に持ち帰る情報も増えていくわけだ。なにせあんなふざけた影人まで持ち出してまで、消したがっている人間だからね。使えそうなネタは幾つあっても困らないだろうねぇ」

「それを言ったら、アンタも俺が狙われるのに巻き込まれて、あっさり終わるかもだけどな」

「ハッ……! このメグスェイダ様が、そんなマヌケを晒すワケないだろ! あんまり舐めたクチ聞いてると、その細っこい首、締め落としてやるよ!」

「どうぞやれるモンなら、いつでもご自由に……ってヤツだ」


 威勢よく地を滑り出てきた白蛇に向けて、俺は首筋をポンポンと叩きその場に膝をつく。

 そうして合皮のベストに再び袖を通すと、その直下よりメグスェイダがひょっこりと頭を出してきた。

 

 見たところ手下の毒蛇が空けてた穴を利用して、身体を出し入れしているようだ。

 なんというか、ちゃっかりしたヤツである。

 

「取り敢えず、いまは大人しく仮宿として使ってやるよ」

「そっかそっか。宿代、期待してるからな?」


 どうやら取引は成立、家主と借主の間柄に収まったらしい。

 内心意気揚々と踵を返すと、そこには事の成り行きを見守っていた神殿従士の少女と、グリフォンの雛が待ち構えていた。

 

「お疲れ様。中々どうして、面白いことになったじゃない」 

「ピ! ピピピピピ……!」

「お待たせ、フェレシーラ。ホムラ、暫くの間コイツとも仲良く頼むよ」

「はぁ……どうにも喧しいったらないね。ま、暇してるよりはいいけどさ」


 こうして期せずして旅の道連れを増やすことと相成った俺たちは、ああだこうだと夜道を騒がせつつも、迎賓館を目指しての歩みを再開させたのだった。

 


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