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377. 種明かし

「えーと。どう説明すればいいのかな。まあ、手品ってほど大層な事をやったわけでもないんだけどさ」

「前置きはいいから。はーやーくー」

「ピーピーピー」

 

 なんとか『爆炎』の脅威から難を逃れて一息つこうとしていると、フェレシーラとホムラに揃って急かされてしまった。

 

 ていうかホムラさん、鳴き声のリズムと音階まで合わせて凄いですね。

 しかし考えてみればコイツ、飛翔能力だけでなくパワーやスタミナも雛とは思えない域にあるよなぁ。

 幾らフェレシーラの『身体強化』に加えて俺の『浮遊』で加重を殆ど相殺していたとはいえ、あのごっつい戦鎚ウォーハンマーごと、二人分の人間を引っ張り上げて飛んでいたわけだし。

 

 視力に関しても、低空飛行に入ってからの樹木を避けつつのコース取りの冴えを見るに、上半身が鷹っぽいから夜目が利かないどころか、逆に鋭敏な感じまでするし。

 もしかして、猛禽類の獲物を捉える能力と、ネコ科の……

 あれ、なんだっけ?


 輝板? 

 タペタム? 

 とにかく夜行性の動物や、闇夜で目がめっちゃ輝くアレだ。


 前になんかの本だかで解説してたけど、アレで夜目も利く感じなのかな。

 でもいつもは暗くても、ホムラの目が光ってたりしないしなぁ……

 今度暇があったら、セレンにも聞いてみるか。

 

 って、いけね!

 

「ごめ、ちょっと考え事してた。いま説明するよ」 

「まあ……そこまで急がなくてもいいんでしょうけどね。あの木偶の坊も『爆炎』を運ぶための物だったみたいだし」


 無駄に待たせてしまったことをフェレシーラに詫びると、彼女もちょっと落ち着いたらしく、伏し目がちとなって視線を逸らしてきた。


「あの様子じゃ万が一無事でも身動きも取れないでしょうから。考えてみたら、フラムが謝る必要は全然ないんだけど。余裕のない状況だったのに、頑張ってなんとかしてくれたんだし……」

「んー、そこは保険みたいなモンだったからさ。ほんと上手くって――と。これじゃ話が前に進まないか。ええと、ちょっと待ってくれよ」


 鉄巨人に仕込まれていた『爆炎』の魔術が、広範囲に影響を及ぼすことを防げたその理由。

 その説明にあたって、俺は少々考えてみた。

 

「えーと。フェレシーラは『爆炎』がどういう手順で周囲に炎と衝撃を撒き散らすのか、知ってたりするか?」

「ううん。効果は何となくわかるけど、理屈の方は全然よ」 

「なる、了解だ。それじゃ、そうだな……いま自分の手の中に、正方形の木箱があるとおもってくれ」

「箱?」

「ああ。開け口のない密閉された、全面が均一な強度を持つ箱だ。そんでもって、いまお前が持ってる箱の中は、火属性のスライムが10匹ほど犇めき合っている状態だ」

「スライムって……叩き潰すと、ドッカーン! ……ってなっちゃう、あのスライム?」

「そう。動くアトマの塊、生きる爆発物こと、スライムくんだ」


 こちらの言葉に逐一頷いたり、首を傾げたりしつつも、しっかり箱を抱えていると思しきジェスチャーで返してくるフェレシーラさん。

 

 ええ、はい。

 それで合ってはいますけどね?

 貴女、スライム相手になんて真似してるんですか。


 んな雑で危ない駆除法に走って貴重なスライム素材を無に帰したら、素材目的の術士連中が両手で顔を覆って泣き崩れるぞ?

 まあ近所の子供相手とかには、派手でウケがいいかもだけど。

 そもそも普通に『浄化』も出来る筈なんだから、純アトマ体相手に物理メインでいくのはやめなされ。


 とまあ、脇道に逸れるのはこれぐらいにしておいて。

 

「で……その箱の中にいるスライムの1匹がな。いきなり爆発したら、どうなると思う?」

「どうって――え、あぶなっ!?」

 

 こちらがそう言うなり、フェレシーラが箱を放り出して……

 

「って、おまっ……こっちに放り投げてくんなよ! 危ないだろ!?」

「そ、そんなこと言われたって、このままだと――あ」 


 そこまでいって、彼女も俺の言わんとすることを理解してくれたらしい。

 ちなみに足元ではホムラが「ピ? ピピ?」と首を傾げながらエアースライムボックスを探し回っている真っ最中だ。

 

 多分それもう、俺の顔面の辺りで爆散したけどな。

 

「そっか。『爆炎』の魔術って、そういう仕組みであんな大爆発を引き起こしてるのね」

「ああ、連鎖爆発させた火球を結界で閉じ込めておいて、威力を高めて一気に開放するって、手順なんだけどな。これが結界を上手く維持出来ないと大した術効は望めないし……かといって結界を強化しすぎると、肝心の威力を殺しちゃうしでさ。大味な術法にみえて、あれでなかなかの高等技術を要する、って寸法だ」

「はー……誰が最初に考えついたのは知らないけど、随分と手の込んだ物騒なやり方を考え付くものね」


 ちょっとふざけてしまった感はあるものの、フェレシーラも『爆炎』の仕組みを理解してくれたようだ。

 それ自体は、そこまで詳しく説明する必要はないのかもだが……


「ま、普通に広範囲を炎で呑み込もうとしても、『防壁』なり水や氷、使い様によっては風の術法なりで楽に凌げるかもだから。それこそ足を使って逃げきったり、手頃な遮蔽物に身を隠すなりでもいいし。炎だけでなく衝撃による破壊力を加味するのは、そういう防ぎ方が厳しくなるから、効率的といえば効率的ね。やな効率だけど」 

「まったくだな」

 

 ここでサラリと守り側の対応と、攻撃側の視点を述べてくるのが、彼女らしいといえば彼女らしい。

 思わす苦笑いしてしまったところに、更にフェレシーラが「それで?」と切り出してきた。

 

「いまのレクチャーのお陰で、『爆炎』への対抗策もぼんやり浮かんできたし、ありがたいのだけど。肝心の『爆炎』をあんな風に(・・・・・)しちゃったのは、どういうカラクリなのかしら?」

「流石は実戦派。それじゃ無駄に引っ張るのもなんだし、パパっと種明かしといくか」

 

 早速『爆炎』への対処法に言及しかけた神殿従士の少女に、俺は内心舌を巻きつつ、未だ微かに夜空を焼く火柱へと向き直った。

 

「あの『爆炎』さ。一直線に噴きあがり続けているだろ? 本当は、全方位に炸裂する筈なのに」

「ええ。お陰で辺りに被害らしい被害も出ずに済んでいるみたいね……って、まさか」

「ああ、そのまさかだよ。フェレシーラもいま連想したと思うけど。あの鉄巨人から離れる前に、炎と衝撃が撒き散らされる方向が変わるように仕向けてみた」

「そんなの……ありえないわ」


 意図的に『爆炎』の放出範囲をコントロールして、火柱へと変じさせた。

 そのやり口を言い出す前に、フェレシーラの断言してきた。

 

 しかしそれも、仕方のないことだ。

 

「他者が組んだ複雑強固な術法式を、あんな一瞬で組み替えるなんて不可能よ。そりゃあたしかに、貴方はバーゼルがホムラに施した契約術に手を加えていたみたいだけど……それはしっかりと時間をかけた上での話でしょう? でも今回はそうじゃない」


 こちらの言を疑ったというよりは、術法そのものの根幹、摂理に従う形で、彼女はきっぱりと言い放ってきた。

 が――

 

「とはいえ、ね」

 

 ふぅ、と軽く溜息をついてから、フェレシーラは「やれやれ」といった風な微笑みをこちらに向けてきた。

 

「フラムのことだから、私が思いも寄らない手法でなんとかしちゃったんでしょ? 疑ってかかったりしないから、良ければ教えて頂戴?」

「ん……わかった」


 少々意外な反応を受けたことで、なんだかちょっとこそばゆさを覚えつつも……

 俺はく彼女のお願いに応えることにした、


「ま、なんていうかだな。一種の発想の転換ってヤツだよ。俺も最初はフェレシーラと同じことを考えたからさ」

「同じことって……術法式に手を加えるってこと?」

「ああ。でもそれじゃ、お前のいうように時間も理解度も足りてなかったから。今回思いついたのは、別に式を組む(・・・・・・)ってやり方だったんだ」

「ん? んん?」


 こちらの言っていることが、全く理解出来てない。

 

「つまりさ。こういうことだよ」

 

 そんな感じで首を傾げてきたフェレシーラに、俺は手甲の霊銀盤を起動しにかかっていた。

 そして先ほど話していた『スライムボックス』を……

 つまりは、超小型の『爆炎』モドキを両の掌の間に生み出してみせてから、言葉を続ける。


「このまま結界内部で火球を発動させると、連鎖爆発が起きて、周囲に均一にエネルギーが振りまかれることになるけどさ。ここに、こうしてやると、だ」

「あ」


 俺の指が炸裂前の『爆炎』モドキに触れたところで、彼女は声をあげてきた。

 六面体として構成された結界に追加された、更なる四面・・の結界を見て……ポン、と手と手と打ち合わせてきた。

 

「そっか。別に組んだって、それ《・・》だったのね」

「だな。ホムラ、ちょっと離れてろよ」

「ピピッ!?」


 チョロチョロと結界を覗き込みにきていたホムラが、こちらの一言で慌てて飛び退すざった、その直後。


 ぼひゅんっ! という上下の結界が(・・・・・・)吹き飛ぶ音に続き、俺の眼前に極細の火柱が発露していた。



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