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373. 足手纏いを認めた日

「ふぅ……まったく。幾ら緊急事態だったからって、無茶するんだから」


 フェレシーラからの神術による治療を受け終えて……


「いやー、わるいわるい。しかしやっぱりフェレシーラの『体力付与』は効くなぁ。凍えた体もばっちり解れたよ」


 俺は再び、全高15mを超える鉄巨人の背後に戻ってきていた。

 といっても今はもう自重のせいか、その半分ほどが地中に埋まっているという有様なんですが。

 

「なによ、わざとらしい褒め方しちゃって。はい、ホムラもこっちこっち。貴方も頑張ったのだから、ちゃんと回復しておかないとよ?」

「ピ? キュプププ……ピピィ♪」


 メグスェイダの放った蛇から受けた毒の回りを防ぐために、自らの左脇腹を『凍結』の不定術法で氷付かせていた俺だったが……

 それがどうにも、思っていたよりも派手に体を凍らせてしまっていたらしい。


 そんな俺を看てくれたフェレシーラ、曰く。

 

「ほんと一歩間違えば、自分で自分の心臓を凍らせていたところよ。もしそうなれば、こんな設備もなにもないところじゃ『蘇生』なんて無理なんだからね。それにダメージも大きすぎたら、『治癒』じゃ追いつかないことだってあるんだから。欠損部分が出ても、私まだ『再生』は成功したことがないし――ちょっと、フラム。貴方さっきからキョロキョロして。ちゃんと聞いてるの!?」

「あ、はい。聞いてます。たしかにどれぐらい凍らせればいいか加減がわからなくて、意図的に身体を防御するアトマを抑えて『凍結』させたのは不味かったかもだけどな。あそこで毒が回ってたらそれはそれでアウトだったし……ていうか、お前さ」

「なによ」

 

 フン、と鼻を慣らしてこちらを睨んできたフェレシーラさん。


 あれからしっかり『治癒』で凍傷を治しきってから、念のためにと『解毒』も重ね掛けしてもらい。

 更には駄目押しの『体力付与』までかけてもらっておきながら、大変言いにくいのですが……

 

「さっきから妙に距離が近くないか? そんなにぴったりくっついて来られると、色々と困るぞ」

「……あ」


 腕と腕を重ねて話しかけてきていた神殿従士の少女が、その一言で我に返った。

 途端、フェレシーラが真横にピョンと跳ねて、肌と肌が離れ離れとなる。 

 それでようやく、こちらもしっかりと息を吐くことが出来た。

 

 なんとなく勿体ない気もするが、これから先のことを考えるとこれで良いのだろう。

 ていうか、今のフェレシーラの反応から察するに……コイツ自分のしてたこと、いまいちわかってなかった感じだな。

 

 まあ、さっきはフェレシーラにとってもそれなりにピンチだったぽいしな。

 俺も毒で動けないほどの瀕死に見えていただろうから、ちょっと怖い思いをさせてしまったのかもしれない。

 

「取り敢えず、自分で自分に攻撃系の術法をかける感覚は、それなりに掴めたからさ。次の機会があれば、もうちょい上手くやるよ」

「……そんな感覚が身につくのもどうにかしてる気はするけど。一応、了解よ。今後は私も貴方の状態をもっと落ち着いて把握するように努めるから。フラムも出来たら、ああいう時はサインを出すなりで伝えてにきてみて」

「なる、サインか。ジングの裏を掻くにやった、アトマで文字を書いて見せるヤツとかか?」

「それもいいけど。それだと今回みたいに術法を使いたいときは無理目でしょう? それに敵にだってすぐバレるし。もっとこう、たまには普通に……アイサインとか、ジェスチャーとか?」

「あー、たしかにそっちが有効か。そうなってくると、落ち着いたら『念話』も練習しておかないとだな。ホムラばりに考えてることが通じてくれたら、文句無しだけど」

「ピ!」

「あのねぇ。お願いだから変に凝ろうとしないで、一般的な手段から試してくんない? 私の話、聞いてる?」


 なんてことを話しつつ。

 俺たち三人は、夜の荒れ地で一息ついていた。

 取り敢えず、この木偶の坊と化している鉄巨人をなんとかしたい、というところではあるのだが……

 

 流石にちょっと連戦続きで、心身ともに堪えてしまっている感はありありだ。

 フェレシーラも無理にこちらを急かしてはこない辺り、わりと似たような状態なのだろう。

 

「なんだか、人とペアを組むのって思っていた以上に大変なのね。皆、こんな調子なのかしら……」

「ん? なんだよ突然。お前、前にペア組んで行動するのも楽しそう、とか言ってなかったか?」

「いってまーしーたーけーどぉ」

「けど?」


 いきなり弱音っぽいことを吐き出し始めた少女の言葉の先を、俺は促す。

 するとフェレシーラは、「ふぅ」と溜息をついて告げてきた。

 

「正直なところ、ここまで誰かに振り回されるだなんて思ってもみなかったもの」

「なるる。言われてみればお前の場合、振り回されるよりは、振り回す方が好きそうだもんな」

「へー。そういうこと言うんだ、フラムくんは。随分と生意気な口、きくようになってきたじゃない」

「ま、あれだけボコスカ殴り回されてたら、多少は抵抗も出来るようになるからな。それに得意武器的にも――って、おまっ、マジで振り回そうとすんなって! 盾がダメになったからって、両手持ちデフォにすんなって!」

「……!」

「ピ? ピピィー♪」


 そんなこんなでバタバタ、ちょっとした息抜きを兼ねたじゃれ合いも挟みつつ。

 

「さてと。しっかりとリフレッシュも出来たことだし。そろそろこのデカブツに『解呪』を試しておくとするか」

「うむ。善きに計らえ」


 軽く屈伸なぞをしつつ準備をしていると、フェレシーラが腕組みと共に鷹揚に頷いてきた。


 突然なんなんですかね、フェレシーラさん。

 こいつなんでか人目に付かないときに限って、たまーにこういうリアクションとってくるよな。


 しかしまあ、あまりチンタラやってると、また魔人なり影人なりが出てくる可能性も十分にある。

 ここは一発気合いを入れて『分析』から――


「……って、そういやちょっと気になってたんだけどさ。お前ってこれまでも、結構な数の魔人と戦って倒してきたんだよな?」

「ん? あー……まあね。といっても、魔人そのものが滅多に姿を見せないから、それなりにって感じだけど。それがどうしたの?」

「いやさ。さっきのあいつ……メグスェイダって名乗ってたあの蛇頭ぐらいの強さってさ。フェレシーラからみたら、魔人の強さ的にはどれぐらいのもんだったのかなって。ちょっと気になってさ」

「ふむ。たしかに、そこは気になって当然か。そうね。一概には言えない部分はあるけど――」


 こちらの質問に返されてきたのは、小さな顎に手を当てての思案のポーズ。

 

 おっと。

 これまた可愛らしい仕草ですね、フェレシーラさん。

 手に物騒なモノを握ってなければ、花丸つきで満点でしたけど。


「中の下……ぐらいかしらね。あのぐらいの相手だと」

「うっへ。あれで中の下って、マジかよ……ぶっちゃけ三人がかりだったにしては、しっかり苦戦してなかったか?」


 予想していたよりも随分と低めの脅威度評価に、思わず本音が漏れてしまう。

 正直なところ俺からしてみれば、少なくとも上の部類に入る強さだったのですが。

 幾ら初めての魔人戦とはいえ、多対一で危ない橋を渡ることになってたし。

 

 そんな風に思っていたのが、フェレシーラには透けて見えていたのだろう。

 

「そこらは相性・状況的な面もあるもの。能力はそれなりに厄介だったけど、手の内が割れてたら遅れを取るような相手でもないし。はっきりいって、地力はそこまででもなかったから。まあ……だから強さそのものよりも、厄介さの方が上回る、ってところかしら。そういう視点でみれば、中の中ってところね」


 フェレシーラが、評価法と内容に若干の修正をかけてきた。

 中の下と中の中って、殆ど変わりがないような気もするが……

 なんにせよ、評価の割には追い込まれていたという事実に変わりはない。

 

 まあ、自分でもわかってはいる。

 おそらくではあるが、メグスェイダを倒すだけならフェレシーラのみで事足りていたのだろう。

 俺とホムラがその場に居合わせない、『完全な一対一』という状況下。

 その条件ならフェレシーラも、メグスェイダに『浄撃』を叩き込んだ後、警戒心を保ったまま、様子を探りにいった筈だ。

 それにもし自分が毒蛇に噛まれても、彼女であればメグスェイダの攻撃を凌ぎつつ、『解毒』を試みることも不可能ではない。

 

 というか、あの時のフェレシーラの集中具合では、早々被弾する筈もないと断言できる。

 長期戦にはなっていただろうが、そういう展開をこなせるのも彼女の強みだ。


 だから今回は、むしろ俺が変に彼女を庇っていたせいで――

 

「フラム」


 思考の渦に入りかけていたところに、声がきた。

 いうまでもなく、フェレシーラの声だ。

 彼女は真っ直ぐに青い瞳で、俺を見据えてきていた。

 

「今回のことは、足を引っ張っただなんて思わないで。それどころか、こっちが助けてもらったぐらいだし。私もこれからまだまだ、連携戦闘も磨いていくから。だから、その……なんていうか、上手く言えないのだけど……」

「わかった」


 夜風に揺れる亜麻色の髪はそのままに、ちょっと言葉を詰まらせてきた少女に向けて、俺はほぼ無意識で返事を行っていた。

 そんなこちらを見て、フェレシーラが少し困ったような表情となる。 

 

「わかったって。こっちがちゃんと言えてないのに、なにがわかったっていうのよ」

「んー……そこはあれだ。気持ちが伝わってきた、ってヤツだ」

「なによ、気持ちって」

「遠慮するなってことだろ? あと、一緒に戦うからには一蓮托生的な気持ちとか。あとは……そうだな。敵を騙すには先ずは味方から、的なのも込み込みみたいな?」

「なにそれ」


 思いつくままに口を開いていると、彼女がプッと吹き出したのがわかった。

 その笑みを前にして、俺の中にあった後ろ向きな気持ちがほどけていく。

 

「次は上手くやる……ってのは、悠長な考えかもしんないけどさ。ペアで動く上では、俺もお前も、まだまだってことだな」

「そういうことにしておきますか。ありがと、フラム。ちょっと難しく考えすぎちゃっていたみたい」

「どういたしましてだ。なー、ホムラ」

「ピ!」

 

 皆で初めての、難敵を打ち倒した日。

 細かいことは一旦忘れてそう考えてみると、今日という日は、とても特別な日に思えた。

 


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