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360. 拝啓、君たちへ

 付かず離れず。

 規格外の影人、鉄巨人に対するこちらの初期方針。

 言葉にしてみれば単純なそれは、いざ実行してみるとなると中々に大変な行為だった。


「そういや、そうだったな……!」


 光源として『照明』の術効を付与した蒼鉄の短剣を手に、周囲を照らしながら……


「そういやここらが、あの竹とかいう植物が生えまくってたんでしたね!」


 俺は鉄巨人に踏みしだかれて騒々しく乱れて倒れてくる、馴染みのない植物を前に全力での回避行動を強いられていた。


「くっそ……! おもってたより、めちゃくちゃ厄介だなコレ!? なんで一度倒れたものがまた反り返ってきたりするんだよ! 珍妙すぎるにもほどってものがあるだろ!?」

「珍妙とか言わないの。これでも最近は、ミストピアの観光の目玉になりつつあるんだから――っと」


 がさがさと揺れまくる青い幹と枝葉を前に思わず文句を口にしていると、光る小盾ラウンド・シールドを構えたフェレシーラが軽快なステップを披露してきた。

 そこに遅れて、頭上より大量の笹の葉が降り注いできて――


「うぷっ!?」

「ピピッ!?」


 俺とホムラは、二人仲良く謎植物の洗礼を受けていた。

 いやまあ、実際には笹の葉が頭に直撃したぐらいで、受けて軽い擦り傷ぐらいのものだが……

 

「だあっ! いい加減、鬱陶しい! てーかあのデカブツよりも高さがあるのに、こんな大量に生えまくってるとかおかしいだろ!」

「たしかにねぇ。20mぐらいまでは成長するらしいけど……聞いたところによると、タケノコ状態から物凄い速度で伸びていくみたいね」

「マジかよ……幾ら貪竜湖の周りの水のアトマが豊富っていっても、めちゃくちゃすぎるだろ……っとぉ!」

「ピー!?」


 会話の合間にもひっきりなしに次々と押し寄せては返し、返してはまた押し寄せてくる、竹笹の波、波、波……


 幾ら鉄巨人が鈍重とはいえ、ぶっちゃけこんな状況で近寄るメリットは絶無に思えるが、これにはしっかりとした目的がある。

 それが何かといえば、だ。

 

「ふむ。ここまで近づいても歩いて近寄ってくるだけ、か……どうやら鳥頭の影人みたいに、息吹ブレスあたりの飛び道具の類が使えるわけじゃなさそうね」

「そんなもん撃てるんなら、竹のアトマを吸収して撃ちだしてきそうでヤだけどな……!」

「竹の息吹ブレスとか斬新すぎでしょ。とにかく、これで見た目通りに近接攻撃が主体なのはわかったし。二人ともいつまでもふざけてないで、後退準備!」

「別にふざけてなんてないけどな……了解だ!」 

「ピーッ!」


 フェレシーラの発案の元、俺たちが最初に決めていた鉄巨人への対応法。

 つまりは『相手に近づいて、どんな攻撃手段、移動能力があるかを掴みにゆく』という体を張った情報収集こそが、まず俺たちがやると決めたことだった。

 

 まったくといっていいほど情報のない初見の魔物に対しては、必須ともいえる行為であり、長らくソロで行動していたフェレシーラとしても、それが当然の提案だったのだが……


 何故にこんな動きにくい竹地獄でそんな真似に及んでいたかと言えば、答えは簡単だった。

 単純に、鉄巨人から離れすぎると不味い、という判断に至っていたからだった。


 一応今現在、影人の標的が俺にあるという予測はついている。

 とはいえ、それで無闇にこのデカブツから距離を離しすぎて、万が一にでも迎賓館に向かってしまったとしたら……

 それはそれで、取り返しが付かない状況になりかねないからだ。


 加えていうのであれば、本格的な戦闘に移行していないことにも理由がある。

 このまま迎賓館の近くで交戦に及べば、巻き込み被害がとんでもないことなるのは明白だからだ。


「さすがにここまで巨大な相手だと、私の『浄撃』でも一気に消し飛ばすのは無理っぽいか……」


 撤退準備を指示してきたフェレシーラの唇から、そんな独白染みた声がぼそりと洩れ落ちる。

 片目を閉じてのその言葉に、俺は「かもな」と返してから、後を続けた。


「上手く張り付けたら、こっちで『解呪』が出来るか試してみたいところだけど。同じく物がデカすぎて、上手くいくかは博打だな」

「そうね。やるにしてももっと開けた場所で体力を削りまくってから、っていう流れが無難でしょうね。これだけ大きな相手で鎧まで身に付けてるとなると、ホムラも直接的な攻撃じゃ支援できないし」

「ピィー……」


 集めた情報と手持ちの札を向き合わせて、倒しきるための算段を重ねてゆく。

 それだけ慎重に対処したい相手だ。

 考えなしに力押しに及んで、跳ね返されるわけにはいかない。


 大人と子供、なんて比ではないサイズ差、重量差を相手取るというのは、そういう事だ。

 仕留め損なって反撃をもらうなんて羽目になれば、それこそ一巻の終わりという奴だろう。


 仕掛けるのであれば、確実に仕留めきる。

 その為には、俺たちが最大限に力を発揮できる状況下に持っていくことが肝要だった。


 今回の行動は、完全にこちらの……

 いや。

 俺の独断から生まれた結果なのだ。


 例えどんな理由があったとしても、勝手に皆の元を離れて動き始めてしまった以上は、やれる限りのことはこちらでやりきるしかない。


 そんな風に考えていたのが、きっとおそらく、顔に出てしまっていたのだろう。

 

「退きましょう、フラム。この先にお誂え向きの平地があるから。そこで迎え討ちましょう」

「……ああ」


 フェレシーラの声に短く答えると、俺はその場を後にすべく、素早く踵を返した。

 




「あれ……?」

「ピィ?」


 月明かりと魔術の輝きを頼りに竹林を抜けたところで、俺はある物の存在に気がついた。


「うん? いきなりどうしたの? ホムラの足が、どうかしたの? あ――もしかして、怪我!?」

「あ、いや……そうじゃなくってさ。怪我はしてないよ。大丈夫だ」


 なだらかな起伏でもって広がる平野にて、慌ててこちらに駆け寄ってきたフェレシーラへと、俺は意識してゆったりとした声で返す。


「そ、そう……それなら良かったのだけれど。いくら『身体強化』有りっていっても、その子には二人分の体重を運ばせたし、ちょっと焦っちゃった……」


 そう口にするフェレシーラは、心底ホムラの身を案じているようだった。

 しかしそれが思い過ごしとわかると、彼女は「ところで……」と前置きをしてから、ホムラの前足に視線を落としてきた。


「怪我じゃない、ってことなら……一体なにを見つけたのかしら?」

「ああ、それなんだけどさ。ホムラ、ちょっと動くなよ?」

「ピ」


 フェレシーラの問いかけを受けて、俺はホムラの前足に手を伸ばす。

 あれからしばらく走り続けてこともあり、鉄巨人からとは結構な距離が開いている。


 相も変わらず、ズシン、ズシン、という重く大地が揺らされる音が、腹の底に響いてきている気はするが……逆にいえば、それぐらいのものだった。


 旅慣れたフェレシーラにより選ばれた、決戦の地。

 奴がそこに辿り着くまで、いま暫くの時間的余裕がある。


 その間に、俺はホムラの身にどこか異常がないかと調べていたのだが……


「ええと。ここをこうして、こうすれば――っと! お、解けた解けた! ほら! 見てみろよ、フェレシーラ!」

「え? なにこれ……随分上質な紙みたいだけど……これ、ホムラの足に結びつけてあったの?」

「ああ、みたいだな。暗いところばかりにいて、今まで気づいてなかったけどさ」

「それもだけど。正直いって、全然余裕がなかったものね」


 言いつつ、フェレシーラが俺の手にした紙片を覗き込んでくる。

 そこに記されていたのは、見覚えのある筆跡で記された、独特の文体のメッセージ。


 術ペンを用いたと思しきそれは、言うまでもなく俺たちに向けて宛てられたものであり……


 即ちそれは、魔幻従士セレン・リブルダスタナの手により書きしたためられた、これから戦いに関する助言アドバイスだった。



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