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348. 仕組まれた式

 篝火がバチンと燃え爆ぜて、人気の少ない陣中に火の粉を振りまく。 


「疑問って……なにがだ?」


 その中で、俺は手近な木箱に腰かけてフェレシーラへと問い返していた。

 それに倣うようにして、彼女もまた俺の隣へとやってきた。

 

 辺りは相も変わらず薄霧が立ち込めており、それが篝火や水晶灯の放つ光を包み込み、ぼんやりとした輝きに変じさせている。

 

 周囲を兵士たちの行き交う兵士たちの話し声も、殆ど聞こえてはこない。

 少し前まではあれだけ激しい戦いを繰り広げていたというのが、嘘のような静けさで満ちている。

 ともすれば奇妙に思える落ち着きぶりだが、おそらくはこれもハンサの指示によるものなのだろう。

 

 神出鬼没の影人を相手にするのであえば、奇襲はあって然り。

 無駄に歩哨に兵士を割かずに、休める者はしっかりと休み、そうした者を万全な状態にある者が傍で護衛し、襲撃があれば遠慮なく叩き起こして回る。

 

 必要以上に警戒していては、それだけで神経をすり減らしてしまうから、ということなのだろうが……

 理屈の上ではそうだとしても、こうした戦い事態に不慣れな俺などは、どうしても上手く休めずにいる。

 

 フェレシーラとて、それをわかっているのだろう。

 先程から半ば無駄話とも思えるこちらの影人対策に、文句も言わずに付き合ってくれている。

 それ自体が、一つの答えのようなものだった。

 

「勿論、『解呪』の話よ」


 若干の間を置いて、彼女は会話を再開してきた。


「さっきの戦いでもやっていたみたいに、『分析』を使えば戦闘中でも『解呪』を仕掛けていけるんでしょう? 術効を得るのに、直に相手に触れる必要はあるみたいだけど」

「流石によく見てるな。たしかに、『分析』の術効を得るためには、対象に接触しないと駄目だけど……『分析』は『解呪』と相性がいいから、戦ってる時も相手の隙をつければ無力化を狙っていけるな」

「うん、やっぱりそういう理屈よね? でも……それならなんで皆、フラムみたいに『分析』を使って『解呪』しないのか、って疑問におもうじゃない。魔法生物が相手で苦戦した、って話も結構耳にするし」

「うん? ……あぁ、そっか。フェレシーラは『分析』を使ったことがないんだな。じゃあそこに関しても説明が必要だったな」

「はーい。お願いします、フラム先生」


 フェレシーラ抱いていた疑問と、それに対するこちらの認識のズレ。

 それを理解して説明の再開に着手すると、神殿従士の少女が芝居がかった仕草でもって、ちょこんと頭を下げてきた。


 最近こいつ、ちょいちょいこういう仕草するようになってきたなぁ、なんて思いつつも俺は言葉を続ける。 

 

「これは実際に『分析』を使ってもらえばわかることなんだけど。はっきり言って、普通にこれを使って『解呪』の確実性を引き上げるのは、相当難しいとおもう」

「え? そうなの? たしか……『分析』の術効って、術法式の構成を把握する為のものよね? それならやってみる価値はありそうなものだけど」

「うん。術効自体はそのイメージであってる。正確には術法式を走るアトマの流れが、術者に視えるように可視化するんだけど。それでどんな術法式が組まれているか、大凡の当たりをつけていける、ってところかな。勿論、『分析』自体の術効のレベルや、対象術法式のプロテクトのレベルによって、成功率は左右されるけど」

「ふむ。つまり――どういうことなの? いまいち話が見えてこないのだけど。私に『分析』の知識がないから、細かに説明してくれているにしてもね」

「わるいわるい。まあ、ぶっちゃけると……『分析』は『解呪』と同時に使用してこそ、戦闘中に試す価値がある。でも普通は、それが難しいって話だな」

「……あ、そっか」


 そこまで言ったところで、フェレシーラがポンと手と手と打ち鳴らして得心の表情を見せてきた。

 どうやらこちらの言わんとすることが、伝わってくれたらしい。

 その事に密かに安堵を覚えつつ、俺は続く彼女の言葉を待ち受けた。

 

「そっか。そうだったわね……なんだか最近、フラムがポンポンと二つ同時に術具を使うのを見てたから、忘れちゃってたけど……普通、二つ以上の術具や術法を、同時に操るって無理だものね。ほんと、完全に失念しちゃってた」

「だな。『分析』自体は、霊銀盤を加工する術具技師にとっては、めちゃくちゃ有用な術法だけど……アトマを操る必要のある『解呪』を実行するとなると、先に『分析』で構成を調べた後に、あらためて『解呪』に挑む、っていう手順が必要になるからなぁ」

「そうなると、戦闘中にやるにはリスキーすぎるからとても無理、ってことね」

「ああ。それに影人の術法式も、ちょこちょこ『探知』のアトマ視と、『分析』で調べておいてようやく把握出来たからな。量産品として共通の術法式が使われているのもデカイよ」

「なーる。どうり途中から『解呪』でバンバン影人を消していたから、どうやってるのか疑問だったけど。一体一体、違う術法式で作られていたら、毎回調べるのに時間がかかっちゃうし大変ってことね。たしかにそれなら、とっとと張り倒しちゃった方が早いか」

「ちょ……だから一々武器を振り回すなって! 説明、長くなったのは謝るからさ!」

「べっつにー。そこは怒ったりしてませんもーん」

 

 なんて言いつつ、ブンブンと戦鎚ウォーハンマーを回してくるフェレシーラさん。


「それにしても、『解呪』を戦闘中に成功させちゃうなんて。相変わらずやることがブッ飛んでますこと。その調子だとゴーレムやリビングアーマーが出てきてもあっさりバラしちゃいそうね」

「うーん……それはどうだろうな。影人が術法式で構成されている、っていう当たりはもう『隠者の森』で戦ったときには付けていたし。今回は出現してからずっと『探知』と『分析』で調べてたからさ。いきなり遭遇した相手を無力化するとなると、難易度は跳ね上がるとおもうぞ」

「そこは無理だとおもうぞ、じゃないんだ。呆れた話ね、ほんと」

「いやいや……空から降って来てデカブツ張り倒すような真似と比べたら、これぐらい可愛いモンだろ。あんなの人に見られてたら、まーた物騒な渾名がついてたぞ。自由落下系聖女とか降り注ぐ鈍器とか、そんな感じのが」

「へー。フラムくん、そんなこと言うんだ? 人が折角、大急ぎで助けに来てあげたっていうのに……ねっ!」

「あだっ!? だからおまっ、頭ぶつけてくんな――いでっ!?」


 そんな感じで脇道に話が逸れつつも、俺は彼女と言葉を交わし続けていた。

 

 まあ、あれだ。

 わかってはいるんですよ。

 自分でも本題に入るまでが長くなりすぎてる、っていうことは。

 

 しかしながら、こっちは『解呪』をどういう手順と理屈で、どこまでの精度で運用していけるかは、しっかりと伝えておかないといけないことではある。

 ここぞって場面でこっちが『解呪』に失敗したときも、フェレシーラが傍にいればフォローを飛ばしてくれるだろうし。

 

 と、いうわけで……

 

「ではあらためて、本題に入ります」

「ん。善きに計らえ」 

「……そのわけのわからんノリはともかくとして。あれだよ。俺たちが『隠者の森』で初めてみた、影人」

 

 上空でゆっくりと旋回していた赤茶の翼を見上げて、俺は話を元に戻してゆく。

 

「あの雄のグリフォンに倒されていた影人たちは、消えずに死体が残っていた。その理由……原因は多分、あの影人たちに設定されていた術法式にその術効、機能がなかったからなんだと思う」

「死体が消える機能はないって……逆にいえば、いま戦っている影人には、例えば……そうね。『ある程度のダメージを受けると術法式が自壊して消滅する』ような式が組み込まれている、ってこと?」

「ああ。おそらくその手の仕組みだと思う」

「なんでそう思うの」 

 

 こちらの推測に対するフェレシーラの返しを認めると、間を置かずに彼女は問いかけてきた。

 


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