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330. いま自分に出来ることを

「ようやく外に……いや、いよいよ打って出るんだな!」

「そうですね。あの気味の悪い化け物たちに一泡吹かせてやりましょう」

「気を抜くんじゃねえぞ。いつ影人が湧いて出るかわからんからな」

「よし、4人一組の班で前後を固めろ! フラム様に続くぞ!」


 迎賓館正面入口。

 大小合わせて6匹の影人が占拠していたロビーを奪い返したことで、兵士たちの士気は十分に高まりきっていた。

 

 総勢12名。

 伝令役の2名を省き3つの班に分かれた彼らは、館内をうろつく影人どもを相手に恐れることなく果敢に挑みかかり、見事な連携でこれを打ち倒している。

 

 その間、俺はといえばホムラと共に動き回っていたのだが……

 

「しかし本当に見事なものですな、フラム殿の戦いぶりは」

「ああ。我らがあれだけ手間取った相手を、短剣一つで事も無げに仕留めてゆかれる。驚嘆するより他にない」

「短剣一本って言っても、術法も使えるんだろ? てか、術法ってあんなに動き回りながら使えるモンなんだな。術士っていやぁ、大体ドン臭いイメージだったんだけどよ」

「おい! 私語を慎まんか! 申し訳ございません、フラム様。お見苦しいところを見せてしまい……こら、そこ! 聞こえてるぞ!」

「あ。いえいえ……こちらこそありがとうございます」

 

 畏まりつつも怒声をあげて皆をまとめる年嵩の兵士に、俺は恐縮しすぎないように気を払いつつ、言葉を返す。

 

 ここに至るまで俺たちは、既に20近い数の影人を打ち倒してきている。

 その中で、自然と出来上がっていった型。

 

 影人と遭遇した際には班であたり、常に数での優位を保つ。

 その間、俺とホムラは『探知』と頭上からの監視警戒担う。

 そうして敵に付け入る隙を与えず、また、相手に隙が生じればこちらがトドメを刺して回る。

 

 まあ、ぶっちゃけてしまうとだ。

 今の俺は相当楽をしている、というのが現状だった。

 

 兵士たちは事あるごと、俺が影人を倒してゆくごとに何かと驚き褒めそやしてくるが……

 はっきりいって、こちらは単独ではそこまで手早く影人を処理することは出来ない。

 その理由は単純だ。

 

 純粋に、影人が強いのだ。

 以前、『隠者の森』で遭遇した影人は、その殆どが鱗による守りも備えておらず、動きもそう俊敏ではなかった。

 

 苦戦した覚えがある相手といえば、巨大化した奴と最後に倒した鳥頭ぐらいのものだった。

 しかし、今回はそうではない。

 

 的確に急所を狙っていかねば、短剣での攻撃は硬い鱗に弾き返されるし、力も強く総じて頑健だ。

 常に奇襲を狙ってくるあたり、狡猾さも身に付けていると思われる。

 

 となれば、こちらも一手一手、ある程度の火力を出せる選択肢を捻じ込んでゆく。

 それが肝要となる。

 だがしかし、その為にはある程度の隙が欲しかった。

 

 度々用いている『熱線』モドキは、威力面と制御の慣れで優先度は高くとも、発動に至るまでの貯めが大きい。

 貫通力に優れるのも痛し痒し、といったところで、常に巻き込み被害を考慮せねばらない。


 なので基本は、皆で影人の体勢を崩しきったところへのトドメ。

 それも初戦の影人に撃ち込んだ時のように、転倒させた相手に上から浴びせかける、というのがベストな運用法だった。

 

 そしてもう一つの選択肢である、アトマ光波。

 こちらも飛び道具として用いる際は、射線上に味方がいないこと、飛び出してこないことが大前提となる。

 着弾までのタイムラグも考慮すると、可能な限りは接近しての使用が望ましい。


 特に混戦時においては、短剣に不足したリーチを補う、ぐらいの感覚で扱うのがベターだと言えた。

 ホムラという上空からの一撃離脱を行える味方が存在するため、無理に遠くの影人にまで手を出さずに済んでいるという点も大きい。

 

 なのでこの状況下であれば、メインの使い所は接近戦。

 それも影人の目や口といった、鱗に護られていない部位に短剣での一撃を加えてからの、追い打ちとしての運用が有効打となっている。

 

 便宜上、ゼロ距離アトマ光波と呼んでいる使用法だが……

 自分で言うのもアレだけど、はっきり言って滅茶苦茶エグい技だとは思う。

 

 相手は魔物、見境なく襲い掛かってくる敵。

 やられる前にやらねば、味方がやられるだけ。

 故にこちらも手段を選ぶ余裕もなく、最善を尽くすのみ。

 

 そんな状況下だからこそ、咄嗟に出てきた――

 というと、そこは少し嘘が混じることになる。

 それというのもここ最近、アトマ光波を使っていてわかったことがあったのだ。

 

 見た目は斬撃を遠くに飛ばすイメージのある、アトマ光波くん。

 こう見えて彼、実は腕の振りとか勢いとかは、そこまで威力に影響しないことが判明していたのだ。

 勿論、振りは鋭ければ鋭いほどいいし、得物の切れ味も加味されるのは確かではある。

 しかしそこら辺に転がる石などに試しに『攻撃動作なし』で武器を媒介にアトマを打ち込んでみたところ……

 

 これがまあ、あっさりと石を粉砕して、荒れ地の岩などにも罅を入れることが出来たのだ。

 そうして試行錯誤を重ねつつ、導き出された答えといえば。

 標的の脆い部位に、『突き込むイメージでアトマを撃ち出す』という代物だった。

 

 その技を編み出して、俺は思った。

 これ迂闊に人間相手に使ったらダメなヤツだ、と。

 その理由として、とにかく加減が難しいのだ。

 

 本気でやると巨岩すら打ち抜きかねないクセして、かといって威力を抑えようと試みると、威力が足りずに不発に等しい結果に終わりがち。

 まだまだ試行回数が不足しているので何ともいえない部分はあるが、躊躇いなく撃てる相手以外には選択肢にあがらないのが現状だ。


 そういう意味では、館に現れた影人を倒すには持ってこいとは言えるし、なんならそれを想定して用意した技の一つともいえる。


 なんにせよ『熱線』モドキにしろ『ゼロ距離アトマ光波』にせよ、だ。

 相手をピンポイントで直に遠距離攻撃が可能であれば、それに越したことはなく、逆に言えばそうした攻撃手段をもたないが故に、工夫が必要なのだ。

 

『覚えておきなさい、フラム。攻撃術には、こういう使い方もあるという事を』

 

 俺がまだ小さい頃、『隠者の塔』を取り囲んできたオーガーの群れに、マルゼスさんが対峙した時のこと。

 

 相手の足元から炎を噴き上げて、周囲に被害を出さずに一瞬で仕留めたことがあったことを記憶している。


 そうした高等技術は、人並外れた術法式の構成力に加えて、それを実行可能とする規格外のアトマの持ち主でなければ到底不可能だ。

 

 というか、いきなり足元に火柱が生み出されるってヤバすぎるだろうと当時は思ったけど。

 いまならワンチャン、『探知』で術法が発動する直前のアトマの流れを見切って、回避しつつ攻め込めるかもしんないな……

 

 って、流石に思考が余計な部分に飛び過ぎた。 


 まあ、今の俺の手札はまだまだ限られているとはいえ、だ。

 短剣一つで敵を排除していく俺の姿は、見ようによってはいっぱしの術剣士、それなりの手練れに周囲からは見えることだろう。


 しかしそれは当然、周囲で奮戦してくれる兵士たちと、ホムラの的確なサポートあってのことだ。

 正直いって、過大な評価が耳に飛び込んでくるたびにバツの悪さを覚えてしまい、それを否定する言葉を口にしたくもなる。

 

 が、それは出来ない。

 やるべきではない。

 

「伝令です! 今現在、2階に出現した影人はごく僅か……全て撃退済みとのこと!」

「わかりました。ありがとうございます。交代の方にこちらが打って出るのを伝えてもらいます。戦闘は一旦味方に任せて、貴方は息を整えておいてください」

「はっ……!」


 息を切らしてこちらの元に駆け込んできた兵士に、俺は労いと指示の言葉で応じる。

 はっきりいって柄ではないし、そんな権限も責任もない。

 

 だが、先の見えない闇夜に踏み出す戦いには、誰かしら支えとなる者が必要なのは明白だった。 

 もし俺が新米の兵士で、いきなりこんな事態に直面して、リーダーとなり皆を率いてくれる上官がいなければ、尻尾を巻いて逃げ出すのが関の山、という奴だろう。

 

 無論、外にいけばすぐにハンサと鉢合わせして、事無きを得られるかもしれない。

 しかしそれは賭けの域を出ない行動だ。

 俺一人が命を張れば済む話ではない。

 失敗すれば敵の数と勢いによっては、あっさりと全滅に追い込まれるだろう。

 だからこの場は、俺が仮初の統率者として振る舞うしかない。

 

 自信満々で、不安などおくびにも出さずに、例え失敗したとしても即座に次の手を打ち、進むにも退くにも淀みなく皆を率いねばならない。

 

 医務室でひと眠りしたのが、フェレシーラの看護が効いていたのだろう。

 日中、あれほど激しい戦いを繰り広げたというのに疲れはなく、思考は奇妙なほどに冴え渡っている。

 

 ……否。

 むしろそれは逆なのだ、とふと俺は思う。 

 あの代理戦を越えて、集団の動きを外から見て、切り崩しにいったからこそ。

 数で戦うことの利と害が、俺なりに見えているのではと。


「フラム殿。全員、準備は整いました。いつでも動けます」

「――わかりました」

 

 意図的な言葉の貯めを、その場にいた仲間全てへの覚悟を決めるための猶予として与え――

 

「これより、ハンサ副従士長との合流を目指します。総員……出撃!」 

 

 響く軍靴の音色を背に、俺は眼前で開かれた大扉へと向けて足を踏み出していた。



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