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297. なんかになんて、禁止令

「それにしても本当に驚きました。まさか9名の……それも大教殿所属の教団員を相手に無傷で。しかも大きな怪我も追わせずに勝ち切ってしまうとは」 


 おそらくはこちらに使用した神術の内容や、体調の変化・経緯を書き記したものだろう。

 フェレシーラが白鳥のものと思しき羽根ペンをカルテの上へと走らせつつ、そんなことを言い出してきた。

 

「勿論、変に抜き身の短剣で挑みかかったり、全力の攻撃術で攻めるよりは余程やりやすいというのもあるのでしょうが。あれではフラムが手加減したように見えてしまったかもですね。ふふ」

「その点に関しては……まあ、仕方ないよな。ただでさえ『ティオのヤツと同格です』みたいな態度で押し切ったし。過大評価されるのもトラブルの元かもだけど」

「私はとくに過大評価だとはおもいませんよ。あのティオを相手に渡り合えていたこと自体、一つの結果ですので」


 ペンナイフとインク壷が収められた木製のケースに羽根ペンを戻し終えて、彼女は尚も寝台の上にいた俺に向けて、言葉を続けてきた。

 

「私が知る限り、ティオを相手に勝ちを納められる人はそう多くありません。というか、教団関係者に絞ればおそらく片手を超えませんね」

「え。片手を越えないって……多くても五人ってことか?」

「そういうことですね。相性的なものもあるので、それ以外の方が一概にフラムより下、というわけではありませんが。総合的にみれば上位陣と、比肩しうるだけの実力が備わり始めているかと」

「……マジですか」

「マジですよ」


 俺の実力が、聖伐教団の上位戦力とも張り合えるレベルに達しつつある。

 ドレス姿のまま器用に腰を浮かせたフェレシーラが、背凭れ付きの椅子ごとこちらに向き直りつつ、サラリとそんなことを口にしてきた。

 

「嘘を言ってもなんの得もありませんので。ああ、でもそうですね。実力自体はあったのかな、とも最近は思い始めていますよ。下地的なものですけどね」

「下地って、戦うことに関してのか?」

「はい。これまでも時折言われていましたが、術法以外の面でもマルゼス様に鍛えられていた能力や、塔を管理する上で自然磨かれていた技能を、上手く噛み合わせて活かし始めた結果かと」


 俺のことを褒めさせて欲しい。

 そう願い出てきた彼女だが、あまり過剰な物言いはせず、先ほどからこうして『何故』『どうして』『いまこうなったのか』という、一種の分析染みた会話が続いている。


「私が思うに、闘う上で貴方に圧倒的に足りないものがあったとすれば。それは気構えと経験だったのではないかと」

「気構えと経験……」

「ええ。フラム自身は、魔術士に必要なこと以外は不要といった感じで頓着していなかったでしょうから、そうした点が不足していたのも当然なのですが。とはいえ、その二点に関しても並の向上具合ではありません。戦術的な頭の回転の速さと鋭さ、そして戦いながらそれを実行に移せる桁外れの集中力。それらが合致してこその、ですね」


 実力の下地は出来ていた。

 足りないものを満たす為の、能力があった。

 

 普段であれば、背中がむず痒くなるほどのべた褒めだ。

 しかし不思議と今日の俺は、フェレシーラの言葉を素直に聞き入れることが出来ている。


 たぶんそれは、彼女が俺を褒めたいと言ってくれたので、あまり口を挟んで話の腰を折りたくない、という気持ちもある。

 しかしそれ以上に、フェレシーラがこちらが受け止めやすい話し方に徹してくれていたお陰で、すんなりと聞き入っていられるのだろう。


 自分で言うのもなんだが、俺はある程度理論だって考えないと物事をすんなりと受け入れることが出来ないところがある。

 それ自体の良し悪しは別として、そんな俺に色々と話して聞かせるのは大変だろうという自覚はある。

 我ながら面倒くさい性格だとはおもう。

 

 フェレシーラは、そんな俺の性格・性質を踏まえて、懇切丁寧に順を追って話をしてくれているのだ。

 だから俺は、余計な謙遜もせずに彼女のいうところの『褒め言葉』を受け取れている。


 その気遣いをありがたいと思うと同時に、コイツも少し変わってきたな、なんて偉そうに思ったりもするけど……

 

「あの」


 そんな彼女が、不意に口籠る様子を見せてきた。

 俺はそれに頷きのみで返す。


 暫しの間、医務室にホムラの可愛らしい寝息の音だけが響く。

 

「こんな事をいうのは、不謹慎と思われるかもですが」 

「うん」

 

 なにがうんなのかは自分でもよくわかってはいなかったが、俺は彼女の言葉の、その先を認めて再び頷いた。

 それを見て、フェレシーラが真剣な表情で後を続けてきた。

 

「フラムが戦うところを見ていると……私、どきどきしてしまうのです」

「……うん?」

「あ、いえ……! な、なんというかですね。その……うまく言えないのですが」

 

 突然、話が明後日の方向に飛んでしまった。

 そう思い俺が首を捻ると、フェレシーラが視線を彷徨わせてながらも言葉を継いできた。

 

「色々とあぶなっかしいといいますか。いつもどうなるか、ハラハラしてしまうといいますか。飛び出していって止めたいような、でも背中を押してあげたいような……」

「ああ、そういうことか。それは納得だ。悪いとは思ってるけど、俺ってどうも博打に走りがちだからな。でも、一応は勝算あってのことだぞ? 傍からみていたら破れかぶれで向かっていってるようにしか見えないかもだけど」

「あ。それはわかっていますので。別に」

 

 フェレシーラの言わんとすることを、我が意を得たりとばかりに察して釈明を行うと、めちゃくちゃあっさりと肯定された。

 どういうことなの。


 いや正直なところ、自分のやってることをしっかりと理解してくれていた、ってのは嬉しいんだけど……

 なんかいきなり冷たすぎやしませんかね、フェレシーラさん。

 さっきのしおらしさはどこいった?

 

「とにかくですね。個人的にいまのフラムの状態は、とても良いと思っています。正直、特訓だなどと言って貴方を無理矢理神殿に連れ込んだのは、やり過ぎだったとおもっていたのですが……」 

「いやいや。それは影人の討伐含めて考えのことがあってだし、そんなことないって。むしろ俺なんかの為に」

「あ! それ! それですよ! 私が言いたかったのは! それ、なしにしましょう!」


 つらつらと語り出した彼女に返事を行うと、今度は突然、白いドレスが目の前に迫ってきた。

 

「その『俺なんか』っていうの。今後は出来るだけ、なしにしましょう! それが言いたかったんでした! 私たちの間では、なしにしましょう!」

 

 一番大事なことを思い出した。

 見ればフェレシーラが、そう言わんばかりの口振りで椅子から立ち上がり、こちらに迫ってっていた。

 

 え?

 マジで一体、なにがどうして急にそんな話になるんだ?

 ぶっちゃけワタクシ、話の流れにまったくついていけていないのですが。

 

 それとそんな大声だしていると、折角寝ついてくれたホムラさんが目を覚ましてしまいますよ……!



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