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277. 連携対決 其の壱

 試合場にて、真剣な面持ちで剣と錫杖を構える5人の教団員に囲まれた、その状況下……

 考えてみれば、だ。

 

『なんだかんだで、ここの人達って命懸けで当たり前なんだよなぁ』

『お? いきなりどうしたよ。今頃んなってビビっちまったかい? フラムっちくん。カカカ』

『だからその呼び方はやめろって。まあ、訓練の話だよ。聖伐教団の人達って、こういう試合含めていつも皆、命懸けだなって。今更ながら思ってさ』


 煽るジングに答えつつも、俺はその認識を深めてゆく。

 

『人間相手だろうと、魔物、魔獣相手だろうと。魔人ってヤツが相手だろうとさ。訓練は訓練、って線引きを護り続けるやり方と……』


 ギリギリのラインまで踏み込み、時にはその向こう側にさえ踏破せんという覚悟でもって臨み、己を鍛えた者。

 

そういう(・・・・)やり方じゃ、やっぱり土壇場で差は出るんだろうなって思ってさ。それだけだよ』

『ほーん。なにが言いてぇのかイマイチわかんねぇな? 勝てばいいんでねーの? 使えるもんはなんでも使ってよ』

『勝てばいい、か。そうだな。そこは半分、同意しておかないとな』

『半分だぁ?』

『ああ。なんていうか……お前の力を借りる以上。そういうやり方は認めておかないといけないって思ってさ』

『……やっぱよくわかんねぇわ、ガキの言うことはよ』

『単に気持ちの問題さ。ただそれが、俺みたいなヤツにはそこそこ大事ってだけの話で』


 要領を得ないといった風のジングに対して、俺は素直に感じたままの言葉を口にする。

 戦いの最中、それも未だ5対1という絶対的不利な場面における、無音の対話。

 

 炎天の元にてじわじわと間合いを狭めてくる敵意に肌を焦がされながらの、思索の時。

 想定外から始まったこの一戦。

 まずは3人、相手の主軸たる護衛長の男に続けざま、男女の神官を不意打ちで削ぎ落すことには成功していた。

 

 しかしそれは飽くまで、ジングのいうところの『使えるものは何でも使っていた』からだ。

 相手にしてみれば、それはまだこちらの山勘、博打が上手く決まった結果にしか見えていないだろう。

 

 つまりあちらは俺のことを『一か八かの奇策に走るタイプ』と見做している可能性が高い。

 ぶっちゃけ圧倒的な戦力差をひっくり返しにいかねばならないのだし、そうしたやり方を完全に否定できるわけではないが……

 その見込みが間違っていなければ、ここからのやりようはまだ残されている。

 

 何故なら、奇策を取り続ける手合いには正攻法を繰り返すのが一番効果的だからだ。

 自らの優位――この場合は、数と経験が主となるが――を活かし、一対一となる状況を避けていけば、こちらがジリ貧となるのが目にみえていたからだ。

 

『ま、全員揃ってハンサたちほどの腕前じゃなさそうってのは救いだったな。護衛長って呼ばれてたおっさんは、フリーにしてたらちょっとわかんなかったけど』 

『相変わらずゴチャゴチャと考えすぎなんだよ、テメェはよ。んで? ここからなんか作戦とかあんのかよ。先に教えといてやるが、何を隠そうこの俺様は――こまけぇこととか、よくわかんねぇぞ?』

『ですよね』


 予想通りの反応を示してきたジングに、俺は呆れながらも鞘付きの短剣、その柄を順手で握り締める。

 相手もコイツぐらいに単純なら、事は簡単に解決――

 

 いや、そうとも言えないか。

 なんのかんので数を頼りにゴリ押しで来られるのが、やはり一番不味いだろう。

 

 ごちゃっと押し寄せてきて、団子になったところで誰かしらが止めを刺して、即終了。

 形としては美しくはないかもだが、本気で勝ちにくるならそれが最適解と言える。

 

 それをやって来ないのは理由は、聖伐教団員としての矜持プライドだとか、年下の少年一人に対して何もこそまでは、とか……何を仕出かしてくるかわからない相手だからとか、まあ色々とあるのだろう。

 

 少なくとも、『コイツは隙を作ってから仕掛けたい』と思わせているようなので、そこはあちらの挟撃を捌きつつ、『閃光』からの逆奇襲ともいえる攻防を繰り広げた成果といえるだろう。

 偉いぞ俺。

 まあ、俺一人の手柄じゃないんだけど。

 

 三方を神殿従士に囲まれた状態では、どうしたところで一人は背後を取られてしまう。

 その位置取りを相手は崩してはこない。


 対する俺は若干の前傾姿勢。

 左の手甲は背後側、フリーにみえるよう(・・・・・)意識しておく。

 正直、ここが一番大事なところだ。

 

 前に前へと攻めながら、包囲を突き抜けて1人ずつ確殺を狙う。

 先ほどの奇襲、彼らの目に焼き付いたであろうその再現をチラつかせてゆく。

 ぶっちゃけこういうやり方は、何も考えずにごり押ししてくるような魔物相手だと、ほぼ無意味だとは思うが……

 

『――来るぞ、小僧ッ!』

『!』


 ジングの発した警告に、迷わず俺は駆け出す。

 前傾姿勢を更に強めての疾走。

 狙いは正面にいた神殿従士の右側面方向。

 

 3人の前衛、その互いの距離が最も開いた位置にして、後衛を務める神官たちからも離れた場所。

 

「な……!?」


 こちらに一番近い位置取りとなった男が、驚きの声を漏らす。

 それも仕方のないことだろう。

 あちらにしてみれば、俺が真っ先に狙うのは神官の女性、2人のどちらかと当たりを付けていた筈だ。

 

 指揮を担う者が真っ先に脱落した状態で、まともに口頭での指揮の委譲も発生せず、それどころかロクなやり取りすらない。

 それだけで、暗黙の了解、パターンの様なものが構築済みなのだと予想が出来ていた。 

 

 いわゆる鉄板の動きがあるからこその、落ち着きと沈黙。

 そうした頼りになる動きの軸が存在しているからには、変にこちらを虚言で引っ掛けようとしたところで、むしろ自分達の動きに齟齬が出る危険性が高い。

 

 ならば神官は、狙われるに任せておけばいい。

 神術での防御や足止めを行っている間に、前衛3枚で一気に詰め寄り勝負を決める。

 同時に狙われるのが1人である限り、神官同士フォローし合えばそう易々とやられはしない。


 もし俺が指示役ならば、先ずはそういう流れを作る。

 何故なら敵が『スピード頼りのタイプ』なら、当然その足を止めさせるのが、非常に効果的だからだ。

 

 だが―― 

 

『どうだジング。これでもいけそうか?』

『ハッ! 誰にモノを言ってるのかね、チミってヤツはよぉ』


 軽装を活かしての、突如始まった走りっこ。

 攻撃という択を捨て去って円陣を乱しにかかる最中の問いかけに、ジングが太々しい物言いで返事を行ってきた。


『――と、言いたいところだがよ。やっぱ全力疾走はキチィわコレ。あとブンブンされるのもムリムリカタツムリ。やっぱさっきのみてぇに止まってる状態がベストだわな』

『ですよね』


 そんなことだと思ってましたよ、ジングさん。

 これでジングがついてこれるようなら、『足で掻き回しつつ、相手の動きを見切って同士討ちにもっていく』っていう戦法もとれたのだが、やはり無理があったようだ。


 とはいえ、これは初手の動きで大体予想がついていたことだ。

 落ち込むようなことではない。

 

「く……どうする!?」

「落ち着け。走り回ってスタミナが尽きれば、自滅するだけだ。無理に付き合わずに押し包んでいくぞ」

「時に審判殿。これって時間制限とかアリアリ? 我、そこが気になるナリ」

「んー……そういや決めてなかったね。どうしようかなぁ……まあ陽が落ちるまでに人数多かった方の勝ちでよくない? そろそろお腹も空いてきたしさ」

「ピ!」


 ちょっとホムラさん。

 なにいきなり相手側に賛同してるんですかね。

 幾ら暇していたとしても、会話の乗っかり先ぐらいは考えて欲しいですよ?

 

 というかコイツってどういうわけか、ほとんど中央大陸語を理解しているのか、そうでなければ周りの人間の感情を察知しているぽいところがあるんだよなぁ……

 フェレシーラやセレンたちがいうには、散歩に連れていってる時とかはフツーに子供っぽいというか雛っぽくて、鋭い感じは特にしないらしいけど。


 ていうかティオさん、いきなりルール追加とかやめてくれませんかね?

 こっちは走りながら崩し方を練ってるってのに、思いっきり大迷惑なんですが。

 お腹が減ってきたって主張だけには、同意しておくけどさ! 



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