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267. 揺れ動く鎖、いずこを指し示すか

「フェレシーラ!」


 駆け足気味で試合場に舞い戻っての第一声に、亜麻色の髪の少女が振り向いてきた。

 

「フラム……そっちは?」

「今回の件に絡みそうなことを、副従士長たちに教えてもらった。てか、待たせてごめん。お前こそ、どうだ?」

「ううん、私は平気」


 査察団のメンバーから一人離れて、フェレシーラは試合場の中央に佇んでいた。


「やあ、フェレシーラ嬢。待たせてしまってすまないね」

「申し訳ありませんでした、教官。お陰で皆でしっかりと話すことが出来ました」 


 そこにホムラを抱えたセレンがやってきて、ハンサがパトリースを引き摺るようにして続いてきた。

 フェレシーラもそれに気づいて、軽い会釈で応じている。

 

 というかパトリースさん、がっちり彼に手を握られてるあたり、どちらかといえば『逃げ出さないように確保されている』って感じもしますが。

 

 まあ、そこらは『勇者ごっこ騒動』の話を聞かせてもらった側的には、正直なところ副従士長の対応も仕方なし、という印象しかないけど。

 

「大丈夫ならよかった。けど……これってどういう状況だ? 俺はてっきり、査察のメンバーに囲まれていて大変な状態だろうな、ってたんだけど」

「うん。途中まではそんな感じで、助祭から色々と質問を受けていたのだけど……」

 

 チラ、と動いたフェレシーラの視線を追ってみると、試合場の奥の壁際でドルメたちが円陣を組むようにして集まっていた。

 一見して、皆で相談事に及んでいるようにもみえるが……

 

「ああ、そういや副従士長がそろそろ休憩に入るって言ってたもんな。じゃあフェレシーラも、それで質問攻めから解放されたのか?」

「質問攻め、ってほどでもなかったけど。大体そんな感じね。なんで私がこの神殿に滞在していて、査察の対応にまで関わってきてるのかとか、そういうのがメインな感じよ」

「なるほど……たしかに、そこは気になるところだろうしな。でもそれだと、『副神殿候補地』うんぬんの話はあまりでなかったとか?」

「ええ。私はここの部外者、っていうのもあるんでしょうけどね。それにしても――」


 それは彼女が再度、視線を巡らせかけたときのこと。

 

「どういうことなのですか、ティオ殿!」


 突如、試合場に男の声が響き渡った。

 査察団を率いていた助祭――ドルメの声だ。

 

「どういうこともなにもないよ。要はこの街を苦しめている、湖賊とやらと派手にやりたいって話なんだからさ。とっとと従士長に話をつけてお開きにすればよくない?」


 それに対して言葉を発してきたのは、ティオだ。

 二人は護衛の神殿従士と神官が組んだ円陣の中央で、向き合う形となっていた。 


「お付きの皆も暇しすぎて、さっきから欠伸噛み殺してるよ?」

「あ、欠伸……!? ふ、ふざけているのですか、貴女は! 我らは司祭長様より厳命を受けてここに来ているのですぞ! それをそのような……!」

「厳命っ言われてもねぇ。ボクはそんなもの受けてないしさ」

「な……あ、貴女がそのような態度で、どうなされるのですか!」


 一体どうしたわけなのか、いきなり口論を――といっても、ティオはあしらうような態度ではあったが――し始めた二人を見て、思わず俺も声をあげてしまう。

 

「え……いきなりどうしたんだ、あの二人。突然どうしたんだ」

「ええとね。実は少し前から、あっちで揉めていたみたいなの。それがヒートアップしちゃった感じね」

「揉めてたって……同じ査察のメンバーなのにか?」

「うーん。同じといっても、細かな所属によって一枚岩じゃないというか……あの子のやることだしねえ」


 呆気に取られるこちらを余所に、フェレシーラは慌てるでもなく事の推移を見守っていたが……

 いやこれ、ドルメの護衛できていた人たちも、相当戸惑っているだろ。

 明らかに動揺して、互いに顔見合わせちゃってるし。

 声までは聞こえてこないけど、なんかヒソヒソ言い合ってるのがモロに見えてるし。

 

「ふむ。どうやらあちらは事前の相談が上手くいってなかったようだね。あっはっは」

「セレンさん……呑気に構えてますけど、俺、なんか予感がするんですけど……!」

「うん? ああ、まあ言いたいことはわかるがね。湖賊の対策として神殿の増改築が進むのはミストピア的には願ったり叶ったりな部分はあるからね。問題は経費その他を大教殿持ちに出来るかどうか、だが……」


 隣に並んできたセレンが、ホムラの頭をポフポフとしつつ続けてきた。

 

「そこでこちらが要らぬ襤褸ぼろを出すと、副神殿とやらの話が流れるか……最悪、金と労働力はそっちが出すように、となるかもしれないからね。フラムくんに事情を話しておいたのも、まあつまりはそういうことだ。そうだろう、副従士長殿」

「え……マジですか。あの相談って、そういう……?」

「セレン殿のおっしゃる通りですね。お前は放っておくと何を仕出かすかわからんからな。これ以上、問題児が増えては敵わん」


 今更ながらに先刻相談に及んでいた理由をセレンより明かされたところで、ハンサが話に加わってくる。

 

「うぐ……た、たしかに何も知らないと、つい余計な質問とかして足を引っ張っていた可能性はありますね。お手数おかけしてしまい、申し訳ありませんでした……!」

「なに、気にするな。むしろお前のやらかしは込みで考えていたからな。既に青蛇殿とも一戦交えたことはこいつから聞いているぞ。中々惜しいところまでいったようだな」

「むぅ……! ちょっと、皆の前でコイツとかやめなさいよっ。自分だって呼び捨てにされたらうるさいクセして……っ」


 そこに続いてやってきたのは、元お転婆娘ことパトリースさん。

 倉庫で1年前の大騒動を暴露されてからというもの、しゅんとしょげ返ってしまっていて少し心配していたが……この様子だと大丈夫そうかなと思える。

 

 しかしそれにしても、だ。

 

「なんか査察団あっちの人たち、物凄く揉めてるぽいですね。やりあってるのは、助祭様とティオだけっぽいですけど……!?」


 遠巻きに彼らの動きを窺う中、突如としてそれはやってきた。

 

 サァッ、という微かな鞘走りの音に「ジャラン!」と金具の打ち合わさる音が連なり、円陣より発せられる。

 

 護衛の神殿従士たちによる、抜剣の音。

 そして神官たちが手にした錫杖を構えたことで生まれ出でた臨戦の音色だ。

 

「青蛇神官、ティオ・マーカス・フェテスカッツ!」

 

 円陣の外周へと下がりながら、ドルメが声を張り上げる。

 対するティオは微動だにせず、それどころか不敵な笑みを浮かべているようにも見えた。

 

「いまの貴女の発言は、聖伐教団大教殿司祭長、リファ・ライドリィズ・アレイザ様への冒涜と見做します! 即時、撤回と謝罪がないようであれば――」

「はいはい。そういう長ったらしいのはいいからさ」


 ドルメの言葉に呼応して湧き立つ円陣の中心へと、ティオが溜息と共に進み出る。

そうして彼女はニンマリとした満面の笑みを浮かべると。

 

「ボクのやり方に文句があるってのなら……子飼いの連中共々、まとめてかかってきなよ。新米助祭クン」


 明らかな挑発の言葉を口に、黄銅色の鎖を揺らめかせてきたのだった……



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