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254. 忠告は予感と共に

 神殿従士たちが訓練に励む修練場のど真ん中を突っ切る形で、3人と1匹で『自由区画フリースペース』を目指す最中――


「いやー、ホント待たせてごめんねー、フラムっち。話しだしたら色々と止まらなくなってさぁ。主にフェレスの方がだけど」

「しれっと人に罪を着せるのはやめなさい。そもそも彼に席を外してくれって頼んだのは、ティオの方じゃない」

「そりゃ内容が内容だからねぇ。あ、でもフラムっちに待ってるようにって言い出したのはキミだったじゃん。ボクは別に移動してもらってても全然構わなかったけど?」

「そんな適当なことさせて、迷子にでもなったらどうするのよ。言っておくけど、この子って少し目を離すとすーぐどっかに走り出していっちゃうんだから。それで毎回大変な目に合うのは、私なんですけど?」

「そんなことボクに言われてもね。前々から思ってたけど、キミ、余計なことまで背負い込みすぎなんじゃない? 良かれと思ってなんだろうけど、あまり甘やかしてばかりも良くないよ」

「そういう貴女はコロコロやることが変わり過ぎよ。一度関わったこと、仕出かしたことには責任を持って行動なさい。ただでさ移り気なんだから。その内周りに愛想つかされるわよ」


 御覧の通りというべきか、なんというべきか。

 移動の間中、ティオとフェレシーラはひっきりなしに喋り続けていた。

 

 マジでガチで一切途絶えることなく、ずーーーーーーーーーーーーーっと、である。

 俺もわりとお喋りな方だと自覚はあるし、フェレシーラも話すこと自体は好きな方だとおもってたけど、ティオのヤツはそういう範疇を越えてるというか……

 

 いや、これは二人の会話の相性っていうか、条件反射的な感じがあるな。

 ティオに関しては知り合ったばかりで、まあかなりのお喋りで適当なことも口にしたり、人を食ったような物言いをするところがある、ぐらいといえない部分はあるにせよ。

 普段は思慮深さが言葉や表情に出てくるフェレシーラまでもが、ティオ相手だと遠慮も気兼ねも一切なし、とばかりにティオのラッシュトークを迎え撃つ感じになってしまっている。

 

 お陰でこちらはロクに会話に参加することも出来ずに、二人の後をついてゆくばかりだ。

 肩にホムラが乗っかっていてくれなかったら、たぶん寂しくてちょっと拗ねてたぞ。

 ちょっとだけど。

 

『なぁ、小僧』

『んだよ、鷲兜。あんまりちょくちょく話しかけてくんなよな。ティオのヤツはすっかり忘れてるっぽいけど、ついうっかりお前に返事したら、また腕輪なりなんなりを疑われかねないんだぞ? そこのとこ、わかってんのか?』

『いや、コイツらよくひっきりなしに延々、ずぅーっと、ダラダラ、ペチャクチャと話続けてんなー……とおもって呆れてたら、オメェもオメェで話がなっげーぇんだよ!』

『む……わるかったな。でもお前に合わせて話してるとこっちもクドくなりがちなんだよ。会話のレベルを落としてるぶんな』

『ケッ! ぬぁーにが、くぅわいわのルゥエヴぇルだよ、クソガキが。勿体つけて話せば頭が良いってモンじゃねーんだよ。真の知者は、俺様のようにもっとこう……スウィートかつ、マイルドな表現でもってダンディーにキメてだな』 


 ……うん。

 まあ、ジングのヤツが度々こんな感じでウザ絡みしてくるから、そこまで暇してるってこともないんだけどな。

 ウザいけど。

 

 ちなみにティオが翔玉石の腕輪を狙っていたことについては、会議棟を離れる際にフェレシーラと少しやり取りを交わしていたりする。

 というか、これに関しては一応ではあるが解決済みだ。

 

 というのも、ティオにしてみれば俺がフェレシーラに『不定術用の霊銀盤』を貸与されていたことの方が余程の大事だったようなのだ。


 そのあまりの驚きように、ついつい「腕輪の方が気になってたんじゃないのか?」と聞いてしまったところ、

 

『ああ、それね。それ最初みたときは、真っ黒でカッコイイなって思って真名の候補も考えてみてたんだけどさ。影の方陣(シャドウサークル)とか、闇の円環(ダークループ)とか、いまいちなのしか思い浮かばなかったし。もういいかなって』

 

 といった非常に丁寧かつ納得の回答を賜り、事無きを得ていた次第となっておりました。

 なんなの。

 今までの俺たち心配はなんなの、って感じで正直なところ文句の一つも言ってやりたい。

 しかしそれでティオの気が変わって、また腕輪を狙われたら笑えないので頑張ってスルーした。

 誰か俺の忍耐力を褒めて欲しい。


 ちなみにティオに腕輪のことを多少匂わせておいたことに関してだが、そこはフェレシーラからも「良かったと思う。あの子、妙に勘が鋭いところがあるから全部隠すと最優先で暴きにきたでしょうし」とこっそりとオーケーをもらっていたりする。

 やったぜ。


 フェレシーラ曰く、なんでもティオは相手が隠し遠そうとするほど、勘が冴えまくるのだとか。

 厄介極まりないことこの上ない話である。

 そんなこんなでひそひそ話に興じていたら、離れて見ていたティオのヤツが「ニタァ~」と笑ってきたのが怖かったが。

 なんなの。

 

 ていうか真名ってなんだよ。

 めちゃくちゃ気になるワードなんですけど。


 アレかな?

 祝福を受けし神器とかに与えられた本当の名前で、それを叫ぶと真の力が解放されるとか、そういうヤツなんだろうか。

 でもそんなの使った時点で周りにモロバレで、奪われでもしたら大変なことになっちゃいそうだな。

 それとも必ず殺す技と書いて必殺技で、目撃者を全て消し去るから問題がないのか。

 謎は尽きない。

 あ、でもそれだと攻撃技以外だと消し去れないか。

 どうしよう。

 

『……なぁ、オメェいま、くっっっっっそどーでもいいコト考えてるだろ』

『な、なんだよいきなり。なんでそんなコト、お前にわかるんだよっ』 

『そらお前、顔よ、顔』 

『顔って……え? いま俺、なんか表情に出てたか? え、マジで?』

『マジで? じゃねえよ。くっそニヤニヤしててキメェんだよ。てかこえぇよ、下から見上げるこっちの身にもなれってんだよ』 


 ……マジか。

 マジですか。

 そんなに顔に出てたのか、俺。

 

 たしかに暇すぎたせいで、色々想像して楽しんではいたけど。

 実は中庭で待機している間もティオとの術具ネーミングの件を思い出して、その手のことを

 考えてもいたけども……!

 

 というか文句があるんなら見るなと言いたいが、ちょっとショックで声が出ない。

 フェレシーラたちが先に進んでくれていてよかった……!

 

「フラム……?」


 なんて事を考えて肩を落としていたら、突然フェレシーラがこちらへと振り向いてきた。


「どうかしたの? いきなりションボリしちゃって」

「え、あ、いやいや……! なんでもないぞ! ちょっと考え事をしていただけでさ!」

「そう? もう少しで着くから、気になることがあれば聞かせて頂戴ね」 

「うん。わかった、ありがとう……フェレシーラ」


 こちらの先を行っていたフェレシーラに、俺は頷き感謝の意を示す。

 久しぶりの親友との会話を楽しんでいるところに、要らぬ心配をさせてしまった。 


「へへ……」

 

 その事に申し訳なさを感じながらも、ついつい俺は頬を指で掻いてしまう。

 視線はこちらに向けておらずとも、すぐにフェレシーラがこちらの様子に気付いてくれた。

 それ自体が、俺は嬉しかったらしい。

 

「ピ♪ チチチチチ……!」 

 

 そこにホムラが嬉しげな囀りで頬寄せしてくる。

 ジングが「ケッ」と悪態を吐いてくるが、どうやらちょっと言い過ぎたと思ったのか、それ以上は何も言ってこなかった。

 

「ふーん。へー。ほー」

「……なんだよ、ティオ。前見て歩かないとまたコケるぞ」

「いやいや、あんな真似されない限りボクがコケるとかないし。というか、あんなアトマ頼りの粗っぽい真似されるなんて思ってもみなかったし」

 

 それだけ言うと、ティオはプイと前を向いて歩きだした。

 なんだろ。

 怒ったとか、拗ねたとか、そういう感じじゃないけど……ちょっと意味深だな、いまの言い方は。

 

「ま、彼女・・からちょっと話は聞かせてもらったからね」

 

 言葉の端々から何とはなしに伝わってくる違和感。

 疑問に思いティオを注視し続けていると、返されてきたのはそんな言葉で――

 

「此処から先は、多分荒れるだろうからさ。ちょっと覚悟しておいた方がいいと思うよ? フラムっちもね」


 そこからニタリとした笑みを、青蛇の少女がこちらに送ってみせてきた。





『君を探して 白羽根の聖女と封じの炎』



 十章 完





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