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252. 発覚する聖女の施し

 テーブルに頬杖をつくフェレシーラと、椅子の背凭れに身を預けるティオ。


「そうかしら」

「そうかなぁ」


 同門であり友人でもある彼女らが、揃って即座にこちらの言葉に異を唱えてきたが……

 

「いやいや。別に俺、『そういう関係』がどんな関係までかは言ってないだろ? 二人して同じ意味で捉えてる時点で仲がいい証拠だぞ」

「む……」

「う――」


 またも揃って声を詰まらせてきた二人に、俺は思わず苦笑してしまう。

 知らずのうちに、事あるごとに、タイミングが被ってしまう。

 親しい者同士、同じ時を重ねた者同士にはままある事だろう。

 

 俺だって、そういう人はいるというか、いた。

 

「二人のこと、良くわかったよ。ありがとう、フェレシーラ。そんでもって……よろしくでいいかな、ティオ」 

「どういたしまして」

「どうしようかなぁ」


 うん。

 今のティオのはちょっとわざとらしいな。

 というか「どうしようかな」では困る。

 そこは大事というか、その為に話を聞かせてもらったようなものなので、この際しっかり押さえておくべきだろう。

 

「ティオ。アンタに質問させてくれ」

「なんだい。急に真面目な顔して」

「そりゃ真面目な話だからな」


 言いながら、俺はいったんは膝の上に抱えていたホムラを、そっとテーブルの上に預ける。

 そして両手を膝におきテォオに向き直ると、「ふーん」という何かを探るような声が返されてきた。

 

「いいよ。別に聞くだけならね」

「助かる」

 

 あっさりした、しかし返答の確約も得ていないその言葉に、俺は礼を述べてから問いかけた。 

「俺にちょっかいかけてきた理由って、なんなんだ?」

「……そうくるか。中々ストレートだね、キミ」

「そうなのよ」


 呆れ半分、感心半分、といった感のあるティオの返しに、フェレシーラの同意が続く。

 しかしそんな彼女もそれ以上は口を挟んでこない。

 だがそれも当然だ。

 

 フェレシーラからしてみても、突然ミストピア神殿に姿を現した親友が旅の連れに喧嘩を売るような真似をしてきたことは、それなり以上に驚く出来事だったに違いない。

 なので直接口にはしておらずとも、「何故、どうして」という疑問はあって然りだ。

 というかそこは心配していて欲しい。

 

「さて。これは困ったな。正直どう返したものかねぇ」

「貴女のことだから」

 

 考えあぐねる様子を見せてきたティオへと、フェレシーラが言葉を繋いできた。

 

「完全に興味本位とか、私情のみで、ってことはないんでしょ?」 

「んお? どうしてそう思ったん?」

「そりゃあね。それならあんなにぞろぞろと教団員を引き連れて、喧嘩売ってきたりしないでしょ。やるなら一人で来てるはずだもの」

「んー……言われてみれば、それはそうかもしんないね。あ、ていうかボク、別にあいつらと一緒に行動してないからね? 任務が被っただけでさ」

「そうでしょうね。で? その任務とやらは、査察について? そうなら査察の対象と目的を答える。そうでないなら……まあ、裏があるのにおいそれと話すのは難しいのでしょうけど。話せるだけでも話しておきなさい」


 手慣れた様子で質問と要求を狭めていくフェレシーラに、俺は一旦話を預けることにした。

 地味に喧嘩を売る、という形容が被ったことが嬉しかったりするが、そんなことは今はどうだっていい。

 

 ティオの相手をするなら、どう考えても彼女をよく知るフェレシーラが適任だ。

 そこに聖伐教団の任務が関わるとなれば、尚のこと。

 後は話が横にそれ過ぎないように、そこだけ注意かな……!

 

「そうだねぇ。彼の実力を試したかったって、トコはあるよね。ソロ大好きなあの白羽根サマのお気に入りってなるとさ」

「べつに、お気に入りとか、そういうんじゃないけど……それ以外にも何かあるんでしょ」


 端的に腕試しの意図があったことを認めてきたティオに、フェレシーラが微妙に語尾を濁らせつつも更なる回答を促す。 

 

 ちょっと待って。

 待ってください、フェレシーラさん。

 腕試しであんな過激な真似をしてきたことに関してはスルーですか。

 

 いや……そういやここまで喋りまくってる間にも、コイツ俺がティオの咎人の鎖(クリミナルハンガー)にやり込められて、まんまと捕縛された話もしていたのに「へぇー」とか「なるほどねぇ」ぐらいのリアクションしかしてきてなかったな……!

 ティオの物騒さに慣れてるにしても、ちょっとドライすぎるっていうか、荒事に寛容すぎるというか――

 

 あ、いや。

 考えてみろ、俺。

 そうだよ。

 そうだったよ。

 

 そういやこの人、出会ったばかりの俺に、いきなり戦鎚ウォーハンマーで殴りかかってきてたもんな!

 しかも話しかけてきながらという蛮族真っ青の、ド畜生な奇襲法で。

 あの見事なアッパースイング、忘れようもない。

 

 なんか奇襲されたこと自体は記憶の彼方に忘れ去っていたけど。

 ぶっちゃけアレって、我ながらよく初見で避けられたなー…… 

 思い返してみると、よくもまあ命があったものだと感心してしまう程度にはヤバかった気がするんですが。

 

「それ以外って言われてもね。査察の件に関してはさすがに守秘義務ってヤツがあるし、ここでは言えないかな。そっちが全部話してくれる、ってことなら考えないでもないけど」

「そう。ならお互いにこの話はなしね。話した挙句、考えただけだもーん……なんてことは流石に言い出さないでしょうけど。トントンってことで」

「オッケー。ま、そんなに焦らないでもすぐにわかるんじゃないかな。ボク以外にも動いてるヤツはいるだろうし」


 などと以前の出来事を振り返っていると、話が進んでしまっていた。

 結局ティオは査察に関する内容は明かしてこなかったし、フェレシーラもあっさりと引いてしまって……って、アレ?

 

 なんだが俺の質問、殆ど答えてもらってなくありません?

 これじゃ何のために時間を割いて話に付き合ったのか――

 

 いや待て。

 待つんだフラム。

 

 ここで変に深追いしたら、ティオのヤツも翔玉石の腕輪についてツッコミ返してくる可能性もある。

 そしてそれに関しては、フェレシーラにこっそり伝えてある。 

 ということは……ここは一旦場をお開きにしておいて、後からまた相談という流れになるのだろう。

 

 こちらがチラリとフェレシーラに視線を飛ばすと、一瞬「ん?」という感じに首が傾げられて、すぐにニッコリとした笑顔が返されてきた。

 うん。

 間違いない。

 ここはそれでいこう。

 

「ありがとう、ティオ。査察もしないといけないのに、付き合ってくれて」

「ん? ああ、気にしないでいいよ。今回はこっちが誘ったも同然だしね」


 椅子から立ち上がり感謝の意をティオに伝えると、あちらも席を立ってきた。

 

「立場上、どう転ぶかはわからない部分はあるけど。とりあえずは……よろしくかな?」

「そういってもらえると嬉しいよ。ああいう感じのは、ちょっと困るけど」

「えー。ボクは結構楽しかったけどなぁ。フェレシーラとやる時とはまた違った感じでさ」

 

 中庭での一戦を指してついつい苦笑いを洩らしてしまったところには、名残惜し気な響きを伴う声に続いて、少女の右手が差し出されてきた。

 

 右手を差し出すのは、利き手を預ける意味もあるとかいうけど、咎人の鎖(クリミナルハンガー)を操るティオからしてみたら、相手の利き手を封じるだけって気もするけど……

 折角の友好の証だ。

 ここでごちゃごちゃ考えすぎるよりは、こちらも友好の意思で返しておくべきだろう。

 

「よろしくな、ティオ」

「ほい、よろしくフラム」


 それは、軽い握手を交わして話を締めにかかろうとした、その瞬間のことだった。


「……ん? あれ?」


 ティオが首を捻る。

 捻りつつも、視線を下に落としてくる。

 

「ちょっと待って。これって」

 

 あ……ヤバいか、これ。

 出来るだけ自然に振る舞ったつもりだけど、やっぱりコイツ、ジングが封じられた腕輪をまだ狙って……!

 

「ちょっと……ちょっとちょっと! ちょっと待ってよ、フェレス! キミ、なに聖下が下賜してくださったあの(・・)霊銀盤を、コイツに使わせちゃってるのさ!?」

 

 と思ったら、ティオが素っ頓狂な声をあげて、俺の手甲を「ぐわしぃっ!」と掴んできた。

 

 え……驚くの、そっち?



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