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233. 厄介者担当者、決定す

 魂源神アーマを奉じる祭壇の間にて、総勢15名での祈りが捧げられる。

 

「ふぅ……困りますよ、青――いえ、ティオ様」 


 略式の――それでも5分は祈りの言葉を詠じていたが――祈祷を終えて、ドルメ助祭が口を開いてきた。

 

 あれから査察団のメンバーを案内する形で、ハンサによる先導の元、俺たちは祭壇の間を訪れていた。

 査察を行うにしても、まずは信奉するアーマ神への礼拝から、という流れだ。

 それが済むまでは、ハンサとドルメが教団に関する世間話を交わしていた程度だったのだが……

 

「今日ここに我々は、アーマ神に代わり目となりに出向いてきたのです。その中でも、貴女は私と組む形を取っております。それなのに、着いて早々に勝手な真似をされては」 

「いやー、すみませんね。ボク、元気の良さそうな子を見かけてしまうと、ついついちょっかいかけたくなる癖がありまして。この通り、謝罪いたしますよ。ドルメ・イジッサ殿」

 

 ……うそこけ。

 相手が話してる途中に割って入りやがって、お前ちっとも悪いだなんて思ってないだろ。

 

 こちら側へと振り返ってきたドルメに対して恭しく首を垂れた異装の神官に、俺は心の中で悪態をつく。

 すると、まるでそれに勘付いたかのようにそいつが振り向いてきた。

 

「フラムくんにも申し訳ない。こんな長々として形式ばったお祈りなんて、見ていて退屈なだけだったでしょう?」

「いえ。皆さんの一挙手一投足から、勉強させて頂いています。お気遣い感謝します」

「おやおや、そう来ますか。勉強熱心ですね。関心感心」 

「はい。ありがとうございます」


 別にお前から学んでるわけじゃないけどな、とこれまた心の中で付け加えてから、俺はその少女――ティオ・マーカス・フェテスカッツを名乗る神官に礼を述べた。


「……あの、セレン様。なんなんですか、あの方。青蛇を名乗っていましたけど……さっきから事あるごとに、ししょ――んんっ。フラムさんに、絡んでませんか?」

「私語は慎み給え、パトリース嬢――と窘めたいところだが。あちらがあれでは言いたくもなるだろうね。どうも口振りからして、フラムくんのことを調べているようだが……」


 こちらの隣にいたパトリースとセレンが小声でやり取りするのが、耳に入ってくる。

 フェレシーラはといえば、これから始まる査察の手順について、ハンサとドルメの会話に加わっているようだった……のだが。

 

「ときにフラムくんはどちらの産まれですか? 小耳に挟んだ話では、あの『煌炎の魔女』が支配していた『隠者の森』から出てきた、ということでしたが。もしや?」

「そうですね。レゼノーヴァ公国の英雄、マルゼス・フレイミング様に憧れて独学で魔術を学び、弟子入りを志願しました。ですが断られてしまいましたので、断腸の思いで森を離れました。今は身よりもなく放浪していたところを、見かねた白羽根様に助けて頂きこの神殿でお世話になっています」

「へえ……そんな過去がおありで。それはお気の毒に。とはいえ、キミの話のとおりであれば、あのマルゼスの元を訪れて(・・・・・)弟子になれた者は存在していませんからね。気を落とす必要もないですよ。他に理由があれば別でしょうけどね」

「……先ほどから助祭が見ていますよ。貴女はあの方のペアとしてここに来たのでしょう? 何処の馬の骨とも知れない俺なんかを相手に売る油はないんじゃないですか?」

「いやいや。彼は優秀ですからね。ボクのような若輩者の補佐など必要ありませんよ」 

 

 うん。

 この通り、神殿の入口で姿を見せてから、ず――――――――――っと。

 言葉の至るところにチクチクとした棘を含ませながら、コイツは俺に絡み続けてきていた。

 

 いやなんなんだ、ほんとマジでコイツは。

 俺に話しかけてくる体で、明らかに周りの皆に聞こえるように嫌なところばかり突いてくるし。

 言葉の端々から、こっちの素性についても知っている――

 

 いや。

 入念に調べ上げている感じしかしてこない。

 ぶっちゃけコイツは、その気になれば俺が『煌炎の魔女』の元弟子だと皆に暴露できるだろう。

 それをしてこない、明確は理由まではわからないが……

 

「うーん、意外と乗って来ないなぁ。つまんないですね……キミ」

「……ワシカブトの仲間かよ、アンタは」

「ん? ワシ――なんですか? いまなにか言いました?」

「いえ、なにも。ていうか本当に仕事しなくていいんですか、貴女」

「そう言われてもですねぇ……ああ、ホラ。ボクってこういうオシゴトしてますから。なんで神殿の査察なんてモノに、無関係な筈の(・・・・・・)少年が立ち会っているかとか、そこらが気になるってことでどうでしょう?」


 言いながら、ティオが自らの羽織っている鎖付きの黒い外套を指し示してきた。

 そこにあるのは、二つの印章。

 右側には金色の星。

 そしてその対となる左胸には、青い蛇を模した印章が飾られている。

 

「ま、他の皆はこっちの蛇ちゃんは隠したがるんだけどね。仕事がしにくくなるからって理由で。悪くないデザインしてるのになぁ」


 明らかに見下した物言いと共に、少女の指先にて蛇の印章が誇示される。

 ……よくよく見れば、その蛇は葉を覆い茂らせた樹木に絡みついていた。

 

「似合ってると思いますよ」

「はは。そうかい。そういう風に言われたのは初めてだな。あ……もしかして今の、皮肉のつもりで言ってくれた? そうだとしたら、相手してくれて嬉しいなぁ。ほら、一人でずっとお喋りしてると疲れるじゃん?」

「そうですか」

 

 聖伐教団において、金の星は一級神官にあることを示すものだ。

 その時点でこのお喋りな鎖少女が卓越した神術、ないし魔術の使い手であることは想像に難くなかったが……

 

 問題は、もう一つの青い蛇の印章にあった。

 

「ボクも引き受けてみてから気付いたんだけどさぁ。青蛇って、思ってた以上に怖がられるっていうか、鼻つまみ者扱いされちゃうんだよね。だからボク、キミみたいな同い年ぐらいの子の友達あまりいなくってさ。それで仲良くして欲しいなあって話だったんだけど」

「それは……役職とは無関係なんじゃないですかね。出会い頭にあんな殺気モノをぶつけられたら、誰だって敬遠すると思いますけど」

「いやいや。流石のボクも普段はあんな真似はしないよ? さっきのはアレさ。キミ、フェレシーラに拾われたって話だったでしょ? だからどんな子か気になってさ」


 いやいや。

 ほんっっっっと、よく喋るなコイツ。

 もうとっくに祭壇の間を皆出ていって、気づけば俺たちが最後尾だぞ。

 

 いっそのことガン無視して前にいこうかとも考えるが……

 出くわした端のやり取りをみるに、コイツがフェレシーラの知り合いぽいっていうのが、また面倒臭さに輪をかける結果となっている。

 

「あーあ。こんなに嫌われるんなら、こんなモノ引き受けるじゃなかったなー。そしたらいま、彼女と旅してるのはボクだったかもしんないのに。後悔役に立たず、ってのはこのことだね」

「それを言うなら、先に立たず、だと思いますけど。きっと今頃、貴女を指名した人も似たような心境でいるんじゃないですかね」

「お。中々ノッてきたじゃん、キミも。そうなんだよねぇ。そこなんだけどさぁ……あ、聞いて聞いて――」

 

 触らぬ神官に祟りなし、といったところだろうか。

 どうやら先を行く皆さんのご様子からして、この青蛇さんの相手は俺がしなくてはならないらしい。

 先頭を行くことになったフェレシーラも、チラチラとこちらの様子を窺ってはいるが、流石に助祭を放置することも出来ないのだろう。

 

 ていうか……たしか青蛇って聖伐教団で暗殺任務を担当してる、いわゆる始末屋とか言われる連中に与えられる称号階位だよな?

 なんか俺が思ってた、恐ろしき手練れとか非情の暗殺者アサシンってイメージからめちゃくちゃかけ離れたところにいるんだけど、このお喋り神官さん。

 

 ていうかホムラが怯えてるのか、さっきからパトリースにくっついて離れないし、あっち行ってくんないかな……!



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