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228. 隠蔽工作、進む

「まず、私が『大地変成』で生み出した物に関しては諦める……というより、これを隠れ蓑にするよ。落としどころとしてはこれ以上なく分かり易いからね」


 そんなセレンの指示の元、俺たちは揃ってプチ神殿の中で作業に取り掛かっていた。

 突然舞い込んできた査察への対応。

 

 聖伐教団公都所属の査察員による、いわば抜き打ち検査。

 その目的が何処にあるかは知らされていない。

 

 しかしこちらは叩かれれば、ジングというどデカい埃が出る身だ。

 あちらの査察対象が何であるにせよ、魔人に関係しそうな者が……

 つまりは俺が神殿内をうろついている判明すれば、大変なことになるのは目にみえている。

 

「フラムくんの特訓への協力は白羽根の名で正式に申請されたものだ。妥当性に関しては上の判断は無視出来ない……というより、その点を攻められたら素直に認めていこう。お咎めをうけたところで、そこまで大事にはならないからね。よしんば謹慎や強制待機といった処分を受けたとしても、その時は影人討伐に関しては諦めてしまえばいい」

 

 そもそも影人討伐は、一種の演技。

 フェレシーラが俺の依頼を受けて動いていると証明するために、仕方なく受けた依頼なのだ。

 なので、当のフェレシーラが行動不能になるのであれば、そこは甘んじて受けるしかない。

 

 そうなればそうなったで、影人討伐の依頼はアレクさんらの他冒険者パーティが達成してくれるだろう。

 ならばその後、関わる依頼もなしとなった状態で処罰を終えたフェレシーラと再度アレイザを目指せば良いだけの話だ。

 当然それで依頼を放棄すれば、ギルドと依頼主の双方に対して違約金が発生することになるだろうし、『冒険者フラム』の登録抹消もあり得るだろう。

 しかしそこに関しては目を瞑るより他にない。


「ま、そのパターンを引いた場合、その後フェレシーラ嬢が何らかの任務に回される可能性もあるがね。そこはもう流れ次第というか、査察の目的がそこにあったとみるべきだろう」

「それは……多いにあり得るわね。元々この街に来た時点で待機要請は出ていたし、もしそうなれば、フラムには私の任務が終わるまでどこかで待ってもらうことになるけど……」

「大丈夫です、フェレシーラ様! そういうことなら、私がなんとでもしますよ! ミストピアにはスルス家所有の屋敷や別荘がゴロゴロしてますから! 私から父の名を出して頼み込めば、すぐ宿代わりに出来るかと!」

「おおぅ……そういやパトリースって、ミストピアの領主様の家の出だったっけ。そういうことなら、もしもの時は甘えさせてもらうかな」


 試合場に残る四方・五星・六芒の陣の痕跡を抹消すべく動きながらの、打ち合わせ。

 届け出なしの陣術の使用自体、処罰の対象となるのでこれは必須の作業だ。

 当然、ジングに関する情報を消し去る意味も大きい。

 

 ジングの魂を移動させた機材に関しては、持ち主であるセレンが真っ先に処分を済ませてある。

 なにかしらの術法を使用したというアトマの形跡は出るにせよ、陣術と違い地物に術法式が刻まれるわけでもなし、それで内容の特定に繋がることはあり得ないとの話だった。

 

「あと、これははっきりと決めておかねばならんことだがね。査察の内容がジングの存在を知ってのものでなかった際に、その他の事柄で調査や処罰が入るようであれば……軽く抵抗する素振りをみせてから、罪を認めようか。それで査察が落ちつけば良し、ということでね」

「軽く抵抗って……ああ。すんなり処罰を受けても、抵抗しすぎても、『他になにか後ろめたいことがある』と思われちゃうってことね。オーケー、了解よ」

「そういうことでしたら、私は『見習い従士なので皆さんに言われたことをやっただけでーす』で通しちゃいますね。その方が自然ですし、家柄的にも私のことはスルーしたいでしょうから」

「な、なるほど。ていうか皆、妙に落ち着いてるな……!」

 

 不定術式を用いての疑似『熱線』で陣の焼却処分に勤しむ俺からやや離れた位置にて、阿吽の呼吸で話を進めていく女性陣。

 なんていうか、突然の事態にも頼りになるというべきか、やたら肝が据わっているというべきか。

 年長者(だよな?)のセレンを中心に、変に慌てたりもせず、しかし次々と『査察対策』の提案と実行ゆく様は、心強いを通り越してちょっと怖いものがある。

 

 特にセレンは、どうみてもこうした事態に『慣れ切っている』人間の動きにみえてしまい、仕方がない。

 取り調べをする側の心理も、受ける側の心構えも備わり切っている感じだ。

 どんだけ危ない橋渡ってくればこんな対応を思いつくのか……ちょっと想像もつかないぞ。

 

「ああ、当たり前だがフラムくんは間違ってもジングとのやり取りは洩らさないように。ここぞというところで騒ぎ立てて場を乱しに来られては堪ったものではないからね」

「う……たしかに。おい、ジング。もしお前の存在がバレたら、困るのはお前だからな。余計なことするなよ」

「ケッ! わーってるよ。俺様もいま聖伐教団の連中と事を構えるつもりはねぇ。大人しくしておいてやるから、安心してシバかれてこいや」

 

 セレンの指摘を受けてジングに釘を刺すと、意外な返答がやってきた。

 大人しくしておくって、本当かよコイツ。 

 

 まあ実際のところジングが俺以外と会話を行うには、こうして腕輪を通しての俺の許可が必須となってはいる。

 なので注意すべきは、ジングが念話を用いて俺を脅かしてきたりしないか、という点に絞られる。

 

「うーん……そう考えると、俺もパトリースに倣って基本だんまりがいいのか……? どの道、聖伐教団について詳しいわけでもないし。変に喋ってもぼろが出るだけだろうし……」

「そうね。査察中は、基本的にセレン様と私が対応していく形がいいでしょうね。もし個別で質問を受けてもこちらで応答していくから、四人で纏まって行動するようにしましょう。ホムラについては、私が旅の途中で保護して魔幻従士であるセレン様に一度預けにきた、ってことで通せばいいし。フラムはその過程で懐かれたってことにしておきましょう。ねー、ホムラ」

「ピ! ピピィ♪」


 あれこれと悩んでいると、今度はフェレシーラがホムラ回りの『設定』まで固めにきた。


 うん。

 ごめん、ぶっちゃけいまの俺、ホムラさんより落ち着きがないです。

 ほんとよくこの人たち、微塵も動揺せずにここまでスパスパと話を決めにいけるな……!

 

 なにかの本で、ここ一番では野郎より女の人のほうが落ち着いて行動できる、って見たことがあるけど、マジでそんな感じしかしない。

 味方につけると心強いけど、敵に回したら一体どうなってしまうのか。

 

 ……取りあえず、俺の仕事は疑似『熱線』で陣に残留したアトマを上書きも兼ねて焼き払うことのみだ。

 というかそろそろいい加減、他の術法も実戦で使ってみたいぞ……!


 いや、密かに普段の修行でも練習はしてるんだけども。

 どうにもこうにもタイミングが合わないというか、使う機会に恵まれてないんだよなぁ、実際のところ!

 


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