202. 五大種族 - 神を追いし者たち その足跡、断片 -
それは今より千年もの時を遡る、神代の時。
俺たちが生きる『サーシャルード』の大地では、神々、そして人類と魔人が激しい戦いを繰り広げていたという、言い伝えが残されている。
魂源神アーマには、弟たる双子の神がいたのだとか。
世界を作り上げたのは、アーマではなく名も無き神であったのだとか。
今現在サーシャルードで暮らす五大種族とは異なる、知られざる人類種も存在したのだとか。
この世界とは異なる次元より、天を切り裂き鋼鉄の巨人が墜ちてきたこともあったのだとか。
嘘か真か、あるいは虚実の断片が入り混じった産物なのか。
神話の世に纏わる数々の逸話が、いまなお人々の間で語り継がれている。
しかしそうした寓話・御伽話とされる類の代物の中にありながら、形あるものとして世に残された存在も、また多く残されている。
五大種族。
またの名を人類種。
創世の時と今を繋ぐ、生きた証明。伝説の名残り。神々の足跡を辿る者たち。
以下はその個人的要約である。
人族。
魂源神アーマの庇護の元、最も栄えた者たち。
中央大陸にてその版図を拡げ、他の大陸とも積極的な交易・文化交流を図ると共に、術具研究を中心とした軍事力の強化に余念を残さぬ種族。
レゼノーヴァ公国・メタルカ共和国・アシュローグ帝国以外にも、北西部大陸のノーザグラン連合王国を領土として有する。
公国以外では、亜神教徒も比較的多い。
五大種族の中では肉体・アトマ強度はともに可もなく不可もなし、といったところ。
強いていえば、領土欲が非常に強いのが特徴。
歴史研究家や他種族からは、それ故に嘗て50年周期であった魔人からの襲来を高頻度で受けているのだという指摘が後を絶たない。
綺麗好きで衛生観念が高いとの自負があるようだが、その割りに屋台の類いはバンバン利用している。
竜人族。
竜神バアトに従ったとされる、秘境に棲まう翼もつ者たち。
その多くが東方大陸の南部ペスカザントに定住しており、他の地域で姿をみかけることは稀。
非常に長命。
個体によっては300年を超える時を生きた例もある。
肉体とアトマの両面で強大な力を有するが、個体数は少ない。
また、古来より種族長制度を引き継いでおり、代々の長には女性の竜人が選出されている。
五大種族の中では唯一の卵胎生。
なにかしらの息吹を操るのも大きな特徴。
魔人の襲撃に対しては、単身海を渡り山野を飛び越え参戦する者もいる。
特にラグメレス王国が健在であったころは、長自らが姿を現し助力していたとの記録がある。
生真面目な者が多く、義理堅い。
プライドが高く、気難しい一面があるとも。
番いとして寄り添う相手は、生涯に一人だけと言われている。
獣人族。
獣神ベルギオを崇める、個性豊かな爪牙の民。
中央大陸南部のラ・ギオを固有の領土とするが、非常に優れた野外行動適正を備えており、流浪の民としても知られる。
一纏めに獣人と呼称されることも多いが、猫獣人・狼獣人・獅子獣人を代表とした様々な近親種が存在する。
ちなみに鳥型の獣人は存在しない。
多産かつ好戦的な傾向があり、アトマの総量は低くないものの、総じて術法の扱いは苦手。
一説によれば、獣神ベルギオが魔人王との戦いで腹に呪いを受けたせいだとかなんとか。
その多くが部族制度による集落を形成している。
最近若者たちの間では、「俺たちで部族国家作って中央大陸で一旗上げようぜ!」なんて主張をする者も出始めているのだとか。
部族であることは大事らしい。
ノリと勢いで生きている節があるとされるが、エピニオを見てるとそんな感じがしないでもない。
鬼人族。
鬼神ディルザに倣い振る舞う、誇り高き戦闘民族。
額から一本ないし、二本の角を生やしている。
東方大陸の北部シンレンの大半を占める険しい岩地を棲家としているが、わりと何処でも暮らしていけるバイタリティーを誇る。
一対一の誇り高き戦いを好み、酒豪揃いとして知られる。
男女の体格差が非常に大きいことでも知られており、平均的な成人個体同士で比較した際には、男性であれば人族と比べて頭二つ分ほど高く、逆に女性であれば頭一つ分は低いと言われている。
竜族に次ぐ長命種であり、彼らによればそれは鬼人族に伝わる『長命酒』を愛飲しているお陰だとのこと。
また、伝説の神酒『竜殺し』を求めて度々ペスカザントを訪れては竜人族を困らせているらしい。
強靭な肉体とアトマを誇るが、獣人族と同様に総じて術法の扱いは不得手。
こちらも一説によれば、鬼神ディルザが魔人王から仲間を庇った際にうんたらかんたら。
性質は総じて気さくで温和。
組織形態もまちまちで、堅牢な城塞都市があるかと思えば、野宿同然でなに不自由なく暮らしている者も多いのだとか。
物事をあまり深く考えないと見られがちだが、生まれながらにして悟りの境地にあり、達観しているのだと主張する者もいる。
そういう人は無類の酒好きばかりだとかなんとか。
聞くところによると、男性は音痴で女性歌が上手いという傾向があるそうなのだが、鬼人族の男は歌が下手なほどモテるのだという。
兎人族。
兎神ラパーニを祖とする、賢人の民。
南方の大陸をソカ魔導連合とツイナ合議国で二分しており、そこを指して『黒兎のソカ』『白兎のツイナ』との別名でも呼ばれる。
一見して獣人族の近親種にも見えなくもないが、まったくの別種族。
アトマ特化種族ともいうべき強大なアトマを保有しており、術法式の構築センスにも秀でる。
また、俊敏性に関してもそれなり以上。
基本的には戦いを好まぬ、ともすれば臆病ともいえる性質故に、逃げ足に関しては天下一品などと揶揄されることも。
その割にはソカでは自律型術具、ツイナでは搭乗型術具と呼ばれるゴーレムタイプの兵器で白黒つけようと争っているようだ。
ちなみに女性と男性の出産比率に大きな偏りがあり、男の個体は非常に少ない。
そのため一人の男性を多数の女性が取り囲む、いわゆる『ハーレム』を形成して種の維持に努めている。
最長寿命自体は「男女差は殆どない」とのデータがあるにも関わらず、男性は早死にする者がばかりらしい。
これも魔人王の呪いかと思い調べたことがあるが、それらしい記録を見かけたことはない。
というか、何故ラビーゼだけが世間で兎人と呼ばれていないのか、その理由もいまいちハッキリとしていない。
他は竜人とか獣人呼ばれることが多いのに、謎である。
「……とまあ、大体はこんなイメージかな。あくまで、俺が知る限りの五大種族に関する知識だけど」
思い起こせる限りの内容を語り終えて、俺は朝日が燦燦と降り注ぐ試合場にて一息ついた。
「な、なるほど。フラムさんらしいというか、なんというか……ちょっと言葉に困る部分はありますけど。お話ありがとうございました、師匠……!」
それを受けたパトリースが、ほぼほぼ完成しつつある五星陣の上より礼の言葉を述べてくる。
よかった。
どうやら簡単にでも、彼女に五大種族について理解してもらうことが出来たらしい。
「いやいや、これぐらいどうってことないよ。あ、そういえば他にも南西の大陸にランスリィ神皇国ってのがあってさ」
「ちょい……ちょいストップです、師匠! さっきからセレン様とフェレシーラ様の視線が痛いので……お話は、是非また今度にでも!」
「へ――?」
パトリースに指摘に、俺はその場を振り向く。
そこには苦笑いを浮かべるセレンと、腕組みをしたフェレシーラの姿がありまして。
「す、すみません! ちょっと調子に乗ってつい……! 陣の最終チェック、急ぎますんで……!」
「わかればよろしい」
「ピ」
慌てて再度謝罪した俺の声に続き、黒衣の女史の爆笑が試合場に木霊した。
はい。
これから特訓開始だっていうのに、マジで夢中になりすぎて申し訳ございませんでした……!
参考用
【サーシャルードワールドマップ】遷神暦160年現在