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164. 内緒話は突然に

 アトマを視認することが出来る。

 

 フェレシーラが有する能力であり、彼女はこれまでもその力で様々なアトマを感知し、それをこちらに伝えてきていた。

 

「アトマを見る力を、訓練で、ですか……」

「ああ。前々から気になってはいたんだけど。『探知』の術法でも使わないと認識できないアトマの流れを、呪文の詠唱もなしで視認できるってすごい便利そうだなって思ってさ」

「それは……そのとおりですね」


 こちらの言葉に、フェレシーラは納得の頷きで返してきた。

 

 通常、人がアトマを視認出来るのはパターンは大別して二つ。

 

 一つは術法の発動時、余波として放出されるパターン。

 これが最もポピュラーであり、目にする機会も多い。

 フェレシーラが使う『防壁』や『治癒』も、発動に際して白い光を伴うのが常だ。

 

 扱う術法により差異があり、水を操れば水色や青色、風であれば緑色など……この色合いの違いは、術法式を構成した者の想起したイメージによって決定付けられると言われている。


 そしてもう一つは、純粋にアトマがエネルギーとして強く放出される際。

 例えば以前『隠者の森』相対した、鳥頭の影人の『息吹ブレス』がこれにあたる。

 

 たわめ蓄えた力が大きければ大きいほど、その予兆として可視化される、といった具合だ。

 模擬戦でハンサが見せた『アトマ光波』も同様で、三度目となる全力の光波においてこの現象は確認されていた。

 ここらは『起』『承』の段階でアトマを己の内に留めて、増幅補強を行う術法との明確な違いなのだろう。

 

 あとは、例外として『威圧目的での意図的な放出』があるぐらいか。

 これに関しては、俺も実際に経験済だ。

 

 あれはたしか、四年ほど前のことだったか。

 夕食を終えたマルゼスさんが、楽しみにしていたフルーツが既に俺に食べられていたと知ったとき――

 

 不意にあの人が放ってきた、殺気混じりの燃え盛るアトマの輝きはいまも瞼に焼き付いている。

 幸いあの時は、塔の近場で桃に近い実をつける樹を見つけていたので事無きを得たが……

 

 なにはともあれ。

 そうした力の行使に及ばない限り、アトマが目に見えて現れることはない。

 揺らめく魂の輝き、秘匿されたことわりの力。

 それがこの世界における魂源力アトマの在り様なのだ。

 

「結論からお伝えしますね」

 

 おそらくはこちらの言わんとすることを察してきたのだろう。

 フェレシーラが、暫しの間をおいてから質問に答えてきた。

 

「私のアトマ視……『魂見の眼』とも呼ばれるこの力は、修練によって身に付けられる類の能力ではありません。少なくとも、私はそう聞き及んでいます」

「あ、やっぱそうなのか。そりゃそうだよな」

 

 申し訳なさげにやってきたその答えに、俺は軽めの口調で返す。

 

「戦闘にも探索にも色々と使えそうな能力だもんな。習得できるものなら、もっと視れる人も多い筈だし。セレンさんにしても、あんな高価そうな術具に頼る必要もないもんな」

「はい……期待に沿えず、申し訳ございません」

「いやいや、お前が謝る必要なんてないぞ? 単に俺が気になって聞いてみた、ってだけの話だし。そういうことなら、やりようもあるしな」

「やりよう……と、おっしゃいますと?」

 

 俯き加減となっていたフェレシーラだったが、こちらの〆の言葉に興味をひかれたのか、ちょこんと小首を傾げてきた。

 

 うん。

 今の言い回しだと気になるよな、やっぱり。

 コイツには隠していても仕方ないし、話してもいいんだけど……

 

「え。なぜ突然、周りをキョロキョロと見回しているのですが」

「ん。一応、再戦の可能性もあると思ってさ……フェレシーラ、ちょい耳を貸してくれ」

「へ――あっ、はい……いま、すぐに……!」

 

 ひそひそ話を持ちかけると、何故だかフェレシーラは「こほん」と咳払いを一つ打ち、居ずまいを正してから寝台に身を寄せてきた。

 それに合わせて、俺もまた彼女の耳元へと向けて身を乗り出す。 


「実はさ」 

「は、はひっ……!」

「ちょ――なんでお前、声裏返ってるんだよ……! 内緒話なのに、人に聞こえたらどうすんだよ……!」

「そ、そうおっしゃられましても、息が、耳にですね……!」


 なに言ってんだコイツ。

 ひそひそ話ぐらいすれば、それぐらい当たり前だろ。

 

 ……あ。

 

「わりぃ、もしかして俺……寝起きだったし、口、臭ったか……!?」

「ち、ちがいますよっ!」

「ぉわっ!?」


 まさかと思い確認してみると、先ほどを上回る、半ば悲鳴じみた声が返されてきた。


「だからお前なぁ……声がデカイっていってるだろ……!」

「あ、わ――も、もももも、申し訳ありません……!」


 これではわざわざ人を呼び寄せているようなものだ。

 やや語調を強めて注意すると、法衣の裾で口元を押さえつけての謝罪の言葉がやってきた。

 

 いやマジでなんですか、フェレシーラさん?

 人が真面目な話をしようというのに、ちょっと困るんですけど……!


 戸惑う俺の元に、今度は「んんっ」という小さな咳払いが届いて来る。

 

「……では。あらためて拝聴させていただきます。いつでもどうぞです……!」


 ビッ、と耳に手をあて、唇を真一文字に引き締め直して、フェレシーラがふたたび耳を側だててきた。


「いやいや、今度は今度でその気合の入りようはなんなんだよ……ったく。ちゃんと考えてのことだから、しっかり聞いていてくれよ」

「了解です。一言一句聞き逃さず、記憶しておきます……!」


 これまた矢鱈と畏まった返答と共に、頷きが繰り返されてくる。

 

 ほんと、大丈夫かなこの人。

 ここで耳に息でも吹きかけたら、飛び跳ねてどっかにぶっ飛んでいきそうな気配すらあるぞ。

 流石に怒られそうだし、しないけど。

 

「まあ、なにを思いついたかっていうとだな……実はさ……お前のあの……」

「はい……ふむふむ……おお、なるほど……あ、それで先ほどの――おぉ……!」

 

 なんだかんだ声は潜めつつも、時折テンション高めとなる少女に、俺は説明を続ける。

 話の内容は、勿論この神殿での特訓に言及したものだ。

 

 思いつきではあるが、これが嵌ればきっとやれることも増えてくる筈だ。

 少女の反応を織り込みつつ、更なる説明に併せて要求も行ってゆく。

 

「なるほど……それはたしかに、面白いですね。いえ、面白いだけでなく、効果的かと思われます。明日から早速、試してみる価値は十二分にあるかと……!」

「だろ」 

 

 興奮気味となるフェレシーラに、俺は内心ドヤ顔を決めたい気持ちを抑えつつ答えてみせた。

 これで一応、こちらの要望を伝えることが出来たわけだが……

 

 あともうだけ一つ、どうしても気になっていることがある。

 

「なあ、ところでフェレ――」

「そうと決まれば、善は急げです! 残された期間は四日! すぐにでも準備に取り掛からねばなりません!」


 しかし俺が発しかけた問いかけは、突如「ガタンッ」椅子を鳴らして立ち上がったフェレシーラの声に寸断されていた。

 

「では、私はこれから方々に掛け合って、必要なものを手配しておきますね! フラムは今日のところは、このままここでゆっくり休まれていてくださいませ!」

 

 えっ、あの、ちょ――

 

「……えぇ」

 

 こちらが引き留めるいとまもあらばこそ、神殿従士の少女は診療所を飛び出し、何処かへと駆け去っていったのだった……





『君を探して 白羽根の聖女と封じの炎』


 六章 完





 ここまでキミサガをお読みいただきありがとうございます


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