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【ボーイミーツガール & ハイファンタジー!】君を探して 白羽根の聖女と封じの炎  作者: 芋つき蛮族
六章

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146. 診断結果

「それにしても……意外だったよ。まさか君が大人しく看病にあたっていられるとはね。神殿従士見習い、パトリース・マグナ・スルス」

「え……あ、ハイ!」


 会話の最中、突然名前を呼ばれたパトリースが慌てて姿勢を正してきた。

 ここまでずっとマイペース然とした態度でいた彼女だが、セレンが相手となると勝手が違うらしい。

 まあ無理もないよな、この人相手だと。

 

「こちらは、旅人フラムのカルテです」

「ご苦労」


 黒衣の従士より労いの言葉を受けても、パトリースは直立不動のままその場を動かずにいる。

 しかしその視線はセレンの足元の辺りに固定されており、視線を合わせようとする気配すらない。

 

 ……なんか過去に、相当怖い目に合わされたんだろうか。

 ホムラが不思議そうに周りをクルクルと飛び回っているが、それに気づいた様子すらない。

 

 というかホムラ、お前かなり達者に飛べるようになったなぁ……

 これまでは勢い任せで羽ばたいていたのに、いまは無理なく飛んでいる気がする。


 ……いや、これって飛んでいるというより、


「風のアトマを操り、滞空しているのだよ。羽根の動きは補助にすぎん」


 こちらの思考を読んだかのようにして、セレンはそんなことを口にしてきた。


「アトマを操っている……ホムラがですか」

「まだ幼体なのにとでもいいたげだな。だが実際にその動きは視えている。白羽根殿のアトマ視には遠く及ばずとも、師バーゼル謹製のコレ(・・)が教えてくれているのでね」 

「……なるほど」 

 

 誇示するでもなく再び眼鏡のブリッジを押し上げてきたセレンに、俺は納得の頷きで返すより他になかった。

 どうやら彼女が使っている眼鏡は、アトマの動きを把握する機能が搭載されているらしい。

 

 バーゼル謹製ってことは、あのおっさん術具作成まで出来るのかよ。

 家庭教師をしてるのは嘘じゃなさそうだけど、余計に謎が増えた感すらあるな……!

 

「さて。熱は平熱並、脈拍も正常範囲、寝言は多し、寝相は良しか。ふむ……これだと健常体すぎて拘束出来んな。寝相は悪しとでもしておくか」

「いやそこ関係ないでしょ。ていうか拘束目的でナチュラルにカルテ改竄ってどうなんだよ、医者として」 

「所詮は真似事だからな。そこのホムラ君を診させてもらえるのであれば、喜んでやらせてもらうが……ああ、そうだ。肝心なことを忘れていた。君、今日から訓練になるぞ」 

 

 ついつい丁寧語を崩してしまったこちらに、セレンがサラリとした口調で告げてきた。

 それに対して、俺は頷きで返す。

 

 こちらがこうして寝込んでいる間にも、先の模擬戦の内容を踏まえてフェレシーラがカリキュラムを組んでくれていたのだろう。

 それを聞いて、俺はようやく寝台から身を起こしにかかることが出来た。

 

「え……今日から訓練って、そんな無茶だわ! この人、今の今までぶっ倒れていたじゃない! しかもそれって――!」

「はて」 


 横合いから驚きの声をあげてきたパトリースに、やおらセレンが疑問の言葉を向けた。

 

「今現在、ミストピア神殿における旅人フラムの訓練実施は優先事項の一つにあたると。カーニン従士長より、私はそう聞き及んでいたが。君には何らかの権限、もしくは伝達事項があったかね。パトリース」

「……! ありません、けど……!」 

「いや。いいんだ、パトリース。気を使ってくれてありがとう」


 尚も食い下がろうとするパトリースを制して、俺は両の脚で石床を踏みしめた。

 そうしてそこから一旦、大きく伸びを打つ。

 しばらく寝込んでいたせいか、背中が結構痛かったが……まあこればかりは仕方ない。

 

「いいんだって……あなたまだ半病人でしょ! なにやる気になってるのよ!」

「ごめん。あまり時間がないんだ」


 出来る限り冷たくならないよう、しかし端的に言い放ったその言葉に、パトリースが声を詰まらせる。

 なんていうか……純粋にいい子なんだろな、この子は。

 専門職でもないだろうにいきなり部外者である俺の看病を任されて、それでここまで親身になれるのだ。

 

 それこそ周囲から推薦されているように、神官として向いている面もあるとは思うけど……彼女が目指したいものがあるように、いまの俺にもまた、目指したいものがあった。

 

「魔幻従士セレン。良ければ案内を頼みたいです。なにか質問や協力出来ることがあれば、後程こちらから伺いますので」 

「ふむ。心得た。もとより私からこの件に関しては願い出ていたからね」 

「……? というと……?」 

 

 快諾しつつも意図の掴めない内容を付け加えてきたセレンに、思わず疑問の声が衝いてでた。

 そこにやってきたのは、クク、という暗い笑い声。

 

「いやなに、ちょっとした興味本位のお節介さ。君、ハンサにも勝ちにいったのだろう? 事情はどうあれ、負けは負けだからね。あの場に居合わせた面子の誰が来ても……ねえ」

「……あの。どうしてそれを、あなたが知っているのでしょうか……?」

「人の口に戸は立てられぬ、ということさ。これに懲りたら、内緒話はもう少し小声でやるといい」

「……ご忠告、痛み入ります」


 止まぬ暗笑には、それだけを返すのが精一杯だった。

 どうやら、ハンサと一戦交える前にフェレシーラと話していた内容が、周囲に筒抜けだったらしい。

 確かにあのとき、ハンサと戦いたいと口にしていたしな。

 それがあの状況下で周りの耳に入れば「勝ちにいった」と認識されても仕方ないだろう。

 

 いや……

 多分それは、言い訳だ。

 明言していなかったからと、誤魔化そうとしているだけだ。


 俺は勝ちたかったのだ。

 ハンサに勝ち、模擬戦を完勝で終えて……フェレシーラにその姿を見て欲しかったのだ。

 言ってしまえば格好良く見せたかっただけの話だ。

 

 セレンという人物がそんなことに気を回してくるのは、失礼ながら意外ではあったが……彼女の言うとおり、あの場にいた誰がここに来てもバツが悪くなっていたのは間違いないだろう。

 ホムラを除いて、の話だが。

 

「ま、若いうちはどんどん失敗しておくものだ……というには、少々出来過ぎのきらいはあるがね。なにせミグとイアンニを降したことのみならず、曲がりなりにもあのハンサを追い詰めたのだ」

「それは……」

「おっと、こちらは結果を聞き齧った身にすぎん。解説の類は遠慮しておこうか。言っておくが、このミストピア神殿でハンサを打ち負かせるのはカーニンぐらいのものだ。それとて今のうち、という感すらある」

「謙遜しすぎるのも嫌味に聞こえる、ってヤツですか」

「それもあるがね。生物には成長期というものがある。そしてヒトのそれは他種と比べて、個体差が非常に大きいと私は認識している。師バーゼルには、大差なく思えていたようだが……ま、有り体にいえばだ」 

 

 手にしたカルテを中指の背で、コツコツ、と叩いてみせながら、

 

「君はいま、肉体・精神の両面での成長期の只中にいるのではないかと。そう私には思えるわけだよ」


 セレンは愉しげに言い放ってきた。



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