表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
128/292

117. 創世 - 神々の闘い -

 キミサガの世界が創造されて間もない頃の物語

 三人称形式 本編から千年ほど過去のお話です

 遷神暦せんじんれき百六十年。

 今現在、レゼノーヴァ公国では『魂源神アーマ』を神とする『アーマ教』が国教に定められている。

 命と魂を司り、美徳と繁栄を尊ぶアーマ教は、世界最大の宗教だ。

 その教えは中央大陸のみならず、世界中に広まっていると言われている。

 そしてここ神殿従士たちの属するでは聖伐教会の神殿では、当然ながらアーマの教義が尊ばれており、実践されている。

 

 そんなアーマの教が、世に受け入れられたことには理由がある。

 この世のあらゆるものに正の力『魂源力アトマ』を与えたとされる、アーマ神。

 かの神には、ゼストと呼ばれる弟神がいた。

 

 

 

 

 これはいまより遥か昔、伝承のみが残された神話の時代。

 虚空に在った創造神は、まず初めに己が降り立つ大地のみを創り出し、『アルスルード』と名付けた。


 そして腕を大きく動かし絵を描き、一対の神を産み出し名前を与えた。

 

 左手からは、美しき乙女の姿をしたアーマを。

 右手からは、精悍な少年の姿をしたゼストを。

 互い向かい合わせで産み出すと、創造神はこう口にした。

 

「これより私は世界を創りあげる。お前たちはそれを見届けよ」

 

 双子の神は、これに無言で頷き従った。

 

 それ以来、アーマは昼を照らす神として。

 ゼストは夜を覆う神として。 

 創造神の偉業を見届けるために、時を回し始めた。

 

 創造神は二人に見せつけるようにして大地に絵を描き連ねて、新しい生命を次々と創りだしていった。

 

 獣に鳥、魚に虫、木々に草花……

 大皿のように平であった世界は、瞬く間に賑やかとなり。

 それらすべてが主を敬い、賛美の言葉を送り続ける。

 誰もが喜び慎ましく生きる。

 

 そんな毎日に、創造神はすぐに飽きてしまった。

 

「誰でも良い。なんでもいいから、私を愉しませよ」


 大地に生きる小さきものたちは、主の命令に必死になって応えようとした。

 だがしかし、彼らは主を褒める以外のことを教えられずに暮らしてきた。

 

 彼らは、神を模して創られてはいなかった。

 彼らは、自らからなにかを生みだすことが出来なかった。

 彼らは使命を違えてきた主を前に、震え上がることしか出来なかった。


 そんなちいさきものたちを見て、創造神はため息と共に告げた。


「もう良い。汝らは失敗作だ。この大地より消え失せよ」 


 創造神はそう言うと、大地に穴を開けて奈落に続く道を創りあげた。

 そして震える彼らへと、すぐさまそこに飛び込むよう命じた。

 彼らは畏れ慄いた。 

 慄きながらも、にこにこと笑い、主を褒め讃えることしか出来なかった。


「父よ、どうかおやめください」 

「どうかおやめください、お父様」

 

 そんな彼らを見かねて、双子の神が口を開いてきた。

 創造神は驚いた。

 彼は双子の神が口をきけるとは思っていなかったので、大層驚いた。

 そして、怒り狂った。

 

「なぜ私に意見する。そのような役目、お前たちには与えておらぬ。お前たちの役目は、私の偉業を見届けることだ。わざわざ私を模してやったお前たちすらも、失敗作であったか」 


 猛り狂った創造神は檜の樹を生み出し引き抜いて、それでアーマを奈落に突き落とそうとした。

 しかしそこに、ゼストが飛びだし姉を庇った。

 檜の樹で強かに打ちのめされるなか、彼は叫んだ。

 

「完璧なる父よ。偉大なる創造の神よ。なぜ貴方は寛容さだけを持ち合わせなかった」 

 

 叫びながら、彼は父の見様見真似で杉の樹を生み出すと、檜の樹と打ち合った。

 ゼストは創造神と二百年と二月と二日打ち合いながら、次第にアーマを奈落から遠ざけた。


 このとき、二人の神が激しく争ったことで、世界は地と海に引き裂かれてしまった。

 また、周りのちいさきものたちは、奈落に落ちるか、その短命さゆえ殆どが死に絶えてしまった。

 ただ、ゼストの身を案じて奈落の傍を離れなかった獣たちだけが、アーマの庇護のもと荒ぶる世界を生き延びた。

 

 戦いは、次第にゼストにとって不利なものとなっていった。 

 アーマは悩んだ。

 このままでは千年もしないうちに、弟が奈落に突き落とされてしまうだろう。

 しかし自分は、二人のように武器を生み出し戦うことは出来そうにない。

 彼女は嘆き哀しみ、涙を流した。

 

 するとそれが地に落ち、大きな川が生まれ、そこから一本の大きな黒胡桃の樹が生えてきた。

 それを見て、生き延びた獣たちが一斉に唱和し始めた。

 

「お優しいアーマさま、どうか私たちにその黒胡桃の樹を齧らせてくださいませ」

 

 アーマは戸惑いながらも、獣たちを自分の元へと呼び寄せた。

 すると彼らは勢いよく樹の根元に噛みつき横倒しにして、枝葉に齧りつき、一本の巨大な丸太へと変えてしまった。

 

「我々は主に逆らうことは出来ません。ですがアーマさまとゼストさまは、我々を庇ってくださいました。ですので、どうかこれでゼストさまを助けて差し上げてください」 

 

 獣たちの願い出に、アーマは頷き丸太に手をかけた。

 しかしその幹は太く、持ち上げることは叶わない。

 途方にくれるアーマに、獣たちが声をあげた。

 

「アーマさま。どうか我々に、貴女さまのような素晴らしい手と、長い脚をお与えください。そうすればその丸太を、貴女さまにぴったりのものにしてみせましょう」

 

 アーマは、悩みながらも獣たちの求めに応じた。

 そして彼らの中から、姿形の異なる逞しい十二匹の獣を選びだし、自分と似せた『二つの脚で立ち、二つの手で道具を持つ』ものへと造り変えた。

 

 手先の器用な、神々に似たもの。

 鋭い爪を生やした、地を駆ける獣に酷似したもの。

 知恵に優れた、頭から長い耳を生やしたもの。

 無数の牙をもち、体に鱗を纏ったもの。

 体が大きく、力の強い勇敢なもの。

 好奇心が強く、物真似が得意なもの。

 

 直立した獣たちは多いに喜び、荒れた大地に転がった石を手にして丸太を削り始めた。

 神の手にもあまるほどの丸太を前にして、彼らは力と知恵を絞り、互いに助け合った。

 丸太はみるみるうちに形を変えて、それはやがて見事な一本の棍棒へと仕上がった。


 アーマが恐る恐る棍棒を手に取り、試しに一振りしてみると、天が吹き飛び空が生まれた。

 その衝撃の大きさに、ゼストを奈落の淵に追い詰めていた創造神すらも振り向いてきた。

 アーマは直立した獣たちに頭を下げて、棍棒を構えた。

 

「ありがとう。これなら私でもなんとか使えそうです」 

 

 黒胡桃の棍棒を手に、アーマは弟を助けるべく突進した。

 それを見て、創造神が叫びをあげた。

 

「なんだそれは。そのようなもの、私は知らぬぞ」 

「はい。私も知りませんでした、お父様」 

 

 アーマは父の問いかけに答えると、ぼろぼろになっていた杉の樹へと棍棒を叩きつけた。

 その一撃で、樹はバラバラになった。

 そして彼女はそのまま棍棒を振るうと、父を激しく打ち据えた。

 

 だがアーマの棍棒は、杉の樹は砕けても、創造神を殺すことは出来なかった。

 仕方なく、彼女は棍棒を振るい続けて、父を弟の元から遠ざけることにした。

 

「おのれ、小賢しい」


 予想もしなかった出来事に、創造神が怒り地団太を踏むと大地にひび割れが起こり、アーマの足を挟み動けなくしてしまった。


「これでもう、誰も私の邪魔は出来まい」 

 

 高らかに勝利を宣言する創造神の背中に、突如として鋭い痛みが走った。

 創造神が背後を振り向くと、そこには杉の樹の破片を握りしめたゼストの姿があった。

 

「如何な父とて、我が姉を傷つけることは赦さぬ」

 

 そう言うと、ゼストは樹の破片で父の首筋を引き裂いた。

 創造神の喉首は、彼自身が創り出した樹の力で容易く真っ二つに裂けて、その返り血がゼストの全身を真っ赤に濡らした。

 しかしそれでも、創造神は倒れなかった。

 

 倒れず、よろよろと前に進んでいった先には……棍棒を両手で握りしめた、アーマが待ち構えていた。

 

「さようなら、お父様。どうか私たちの手が届かぬ、遠くへといってくださいませ」


 彼女の祈りと共に創造神は吹き飛ばされ、その巨大な体は天を突き破り、遥か彼方へと消え去っていった。

 するとバラバラになった木片が、それを追いかけるようにして空へと舞いあがり、無数の星となった。


 こうして世界で初めての争いごとであった、神々の闘いは幕を降ろした。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ