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【ボーイミーツガール & ハイファンタジー!】君を探して 白羽根の聖女と封じの炎  作者: 芋つき蛮族
五章

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113. 見慣れた鎖

「おおー……遂に出たッスね。パイセンの補助武器サブウェポン。新人潰しのベアナックル。試合場ここで見るのは俺も初めてッスよ」


 試合場の中心でファイティングポーズをとるイアンニをみて、観客席のミグが感嘆の声をあげてきた。


「いや……いやいやいや! それ、補助武器サブウェポンとかじゃないだろ! 人類共通、標準装備の……れっきとした主力武器メインウェポンだろ!? こんな隠し玉、聞いてないぞ!」

「やー。それ言ったら、フラムくんの頭突きと蹴りも同じッスからね。先に見せてくれてるぶん、パイセンのほうが紳士的ッス」 

「ぐ……!」


 続けてツッコミを放ってきたミグに迎撃されて、俺は口を噤んでしまう。


 まずい。

 これはちょっと……というか、完璧に予想外だ。

 

 実のところ俺には、素手同士の戦いの経験がまったく足りていない。


 師匠には様々な武器の扱いを教えてもらっていたが、向こうは杖を使うか魔術を用いた攻防に専念していたからだ。

 一応『隠者の森』で影人相手に取っ組み合いはしていたが、格闘技術を修得した人間相手では、まったく勝手が異なることは明白だ。

 

 しかも相手は2mを越える大男、イアンニときている。

 直前の試合でのダメージがあり、右手が半分死んでるとはいえ……


 否。

 だからこそ俺は、彼がそのまま剣を使ってくれていれば、圧倒できると判断していたのだ。

 

 剣の一撃を掻い潜り、短剣でポイントを取る。

 それが不可能なら、掴まらないうちに距離を取り、また機会を窺う。

 俺がイアンニから一本を取る形は、基本的にこれしかない。

 

 だが、イアンニは違う。

 彼ならば剣を捨てても、ポイントを取る方法は幾らでもある。

 拳に足に、体当たり……

 体のどこでもいい、どこかを思い切り俺に当てたなら、一撃でポイントを奪える。

 それだけのパワーが彼にはある。

 当たるまでごり押し出来るタフネスもあるし、リーチも圧倒的に上だ。

 

 大人と子供ほどの体格差があるのだ。

 おそらくこれまで拳を主に使ってこなかったのは、なにかしら主義や拘りがあるのだろうが……

 それも既に、ハンサの一声で吹き飛ばされてしまっている。

 再び剣を手にしてくることは、期待出来ないだろう。

 

 ……ああ、くそっ。

 少し有利になって余裕ぶっていたら、すぐこれだ。

 また戦い方を練り直さないといけない。

 我ながら、自分の甘さがイヤになる……!

 

「その様子だと、貴公もまだまだやれるようだな」

「……どこをどう見たら、そう思えるんだよ」


 イアンニが不敵に笑い、上体を揺らめかせて間合いを狭めてくる。

 基本的なリーチはあちらが断然上。 

 しかしそれは――


「こっちは余裕ゼロだってのに――よっと!」 

 

 あくまでも、拳と拳で打ち合えばの話だった。

 拳と足では、さすがにこちらに分がある。

 俺が出した結論は、そういうものだった。

 

「ぬ……!」 

 

 こちらの繰り出した前蹴りに、イアンニが僅かに退く。

 丁度股間の部位を掠めようかという、最短最速の蹴りだ。

 防具で守られているにしても、打撃が響けば手痛いダメージとなる。

 

 クリーンヒットでポイントが取られでもすれば大事だし、まともに喰らうのは勘弁というところだろう。


「おっーと、これは鋭い前蹴りッスねー……って、あれ? ウチの試合だと、金的って禁止じゃなかったッスか? 解説のハンサさん」

「誰が解説だ、誰が。まあ、原則的には故意に当てれば反則だがな。あの小僧だと、体格的にああなるのは仕方もあるまい。兜と同じで、ハンデと見ておけばよかろう」


 ……マジか。

 ならさすがにもう当てにいくのはやめておこう。

 ありがとう、実況と解説の人(ミグ&ハンサ)

 

 などと思いつつ、俺は再び前蹴りの構えを取っていた。

 

「そう何度も……!」 

 

 それを見て、イアンニが拳の握りを解く。

 こちらの右膝が跳ね上がるタイミングで、前足を掴みにくる。

 だがその掌が、俺の蹴りを捉えることはなかった。


「な――」

「そうだな……!」 


 こちらも続けて同じことは、やってやらない。 

 読みを違えたイアンニに、俺は意気を返す。 

 

 両腕を空ぶらせたイアンニへと前蹴りを見舞う、その代わりに。

 俺は軸としていた左の足で二度、素早く地を蹴っていた。

 

 全身が、石床の上を滑るように前へと進み出る。

 前蹴りをフェイントにしての、瞬足の踏み込み。

 それを用いて、俺は巨漢の従士の懐へと飛び込んでいた。


 短剣が、一度は打ち据えた首筋を狙い伸びる。

 イアンニの腕が持ち上がり、それを阻もうとする。

 俺を掴めば、即一本に繋がる。

 しかし失敗すれば、二本目を奪われ敗北が決定する。

 

「ぬ――おおおおっ!」


 その両方を天秤に賭けて、体が動いたのだろう。

 従士の巨体が、なんの前触れもなくこちらに弾け跳んできた。

 

 体当たりだ。

 いまだ健在であった脚を活かしての、体当たりだ。 

 防御と攻撃を兼ねる、彼が取れるであろう最善最速の反撃手段だ。

 

 少しでもタイミングを間違えば、自ら短剣に喉首を差し出しす結果に終わったであろうそれは、俺の体を正面から捉えていた。

 

「ぐぅっ!」

「――フラム!」 

 

 右肩からやってきた衝撃を、少女の声が押し込めた。

 だが、勢いは殺しきれずに体が宙に浮きかける。

 右手にあった短剣は、弾き飛ばされてしまっている。

 当たり前だ。

 助走なしとはいえ、あのイアンニの体当たりを受けたのだ。

 必然、軽量なこちらがそれに抗しきれるはずもない。


 だから俺は――その勢いを利用してやることに、端から決めていた。

 

「う、おぉ――!」 

「なにっ!?」


 グンと、突然強い力に胸元を引き摺られて、イアンニが驚きの声をあげた。

 その肩には、俺の左手が掛けられている。

 そこに絡みつく鎖を、俺の五指が掴んでいた。

 

 絡みついた、鎖と指。

 革製の手袋(レザーグローブ)の表皮が擦り切れてゆく最中、イアンニとの間に接合点が生まれる。

 それを支点として、俺は宙に弾き飛ばされる。

 浮き上がりざま、帷子の前面を右足で蹴りつけて上に飛ぶ。 

 

 イアンニの防具は、鎖帷子チェインメイルだ。

 それも、前面と関節部の装甲を補強したカスタム品。

 その構造は、実のところ……

 俺が毎日のようにお目にかかっている、白羽根の刻まれた胸甲と酷似していた。


 その両方が、おそらくは聖伐教団からの支給品なのだろう。

 胸甲には、脱着用の肩紐と鎖。

 鎖帷子チェインメイルにもまた、追加の装甲を取り付けるための鎖。

 共に、多少の余裕あそびがある構造をしていた。 


「わりぃな――」 

 

 その事実に、心の内で感謝をしながら――

 

「そこの扱いには……こっちはもう、とっくに慣れきってんだよ!」 


 俺はイアンニの直上で、振り子のように身を翻していた。 

 

「ぐ、お……っ!」 


 イアンニの巨躯が、僅かに後方へと引き摺られる。

 俺の体が、その背後へと落ちてゆく。 

 既にその左手は自由だ。

 支点に用いた、繋ぎ鎖は必要はない。

 必要なのは……このままこの巨漢の従士に、背後から組みつくことのみ!


「ば、かな……!」

「馬鹿じゃねえ! こちとら必死で考えたんだよ! 本気のあんたを出し抜く方法をな! お猿さん、舐めんなよ!」

 

 背後に取り付いたこちらを、なんとか引き剥がさねばと考えたのだろう。

 イアンニが、必死で背後に腕を伸ばしてくる。

 その喉首へと、俺は渾身の力でもって腕を喰い込ませる。

 

 傍から見れば、まるでおんぶされているみたいだろうけど……

 この際、贅沢は言ってられない!

 

「は、はなせっ……離さぬか……!」

「誰が、離すかよ!」


 イアンニの腕から頭だけを捩って逃れながらも。

 俺は正面で勝負を見守っていた審判の少女を前にして……フェレシーラを前にして、叫んでいた。 

 

 こちらの狙いは、締めによる失神狙いだ。

 体当たりを受けた時点で、短剣はどこかに吹きとばされている。

 頑健なこの男を仕留めるとすれば、これが最後の攻防となる。

 

 例えここで後ろに倒れ込まれて、彼の巨体に押しつぶされようとも……

 離すつもりは、毛頭なかった。

 

「イアンニさん……! 最後に一言、あんたに言っておきたいんだけどさ……!」

「な、なん、だ……旅人、フラムよ……!」 


 目潰し狙いで伸びてくる指を必死で避けつつ呼び掛けると、律儀にも返事がやってきた。

 それを耳に、俺は背筋を反らす。


 そうして最後の力を溜めながら、


「俺の頭突き、通用しないとか言ってたけどさ! 身長差がありすぎて、元から届かないんだよ! こうでもしないと――なっ!」 

「ぐごっ!?」


 俺は抗議の頭突きを、イアンニの脳天へとお届けしてやることに成功した。


 その一撃で、二人もろとも前のめりに倒れてゆく。

 

「う、おっと!」

「一本! 旅人フラム!」


 審判のコールを耳に、俺は膝から崩れ落ちるイアンニから飛び退き離れていた。



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