第8話 あの人、誰? ───知らない人
◆◆◆
「ところで、ローがスライムとかゴブリンの死体を持って来たということは何か使い道があるということなんだろう?」
「ああ。ボックスに死体を入れると消えてしまう。 僕もたまたま見つけた。ボックスに死体を大体半分だけ入れて、その状態を10秒キープすれば───」
ボックスに入れていたスライムがぱっと消えた。ローはボックスに手を入れ、スライムから取れる素材らしき、小瓶に入った液体を取り出した。
「こんな風に多少傷んでても、きちんと修復された上で素材が取れる。」
ローにしては珍しく長文だが、別にローは喋るのが苦手な訳ではない。最低限しか喋らないだけだ。
「便利だな。これならパーティーに生産職がいなくても、素材集めができるし。」
「それに、よっぽどのオーバーキルしなければ、素材が傷つく心配もいらないし、不要な素材は冒険者ギルドで買い取ってもらえるし、最高だね。」
「皆の衆、もうそろ着くぞ。ここらへんで、下ろそうかの」
「ああ。ありがと」
「私たちも宿屋で一旦ログアウトしないとね。ログアウトしたところが、キルされた時のリスポーン地らしいし。」
「そうだな」
「じゃあ、またな」
そこからは歩いた。ローの時間にはまだ余裕があったからだ。
───それに気になることも1つあるしな。
ビュン。
突如、風を切る音がした。それも複数だ。
イキシアは振り返り、その数多の碧い斬撃を一目見ることで把握する。そして、それに受け流す角度、タイミングを計算し、同じ技を放つ。
「〈青嵐〉〈多重〉」
その大半の碧い斬撃は無効化されるが、残りの5つ、6つの斬撃はそのままイキシアを襲い、その身を引き裂いた。
「……ッ」
声にならない悲鳴が上げられる。しかし、それはイキシアではなく、その襲撃犯のものだ。
「だ、大丈夫?」
「うおっ」
「すぐに魔法を───」
「いや、いい。それよりも、アイツを捕まえてくる」
「えっ、若様⁉ ちょっと───」
しかし、その静止を聞くことなく、イキシアは走って行ってしまった。
「ど、どうされますか?」
「先に行こっ!」
「そうだね。シアンだったら、こんなことも珍しくないんだよー。すぐに追いついて来るだろうし」
「そうなんですか。」
「では、先に検問所に向かいましょう。」
◆◆◆
「捕まえた」
イキシアは少女のローブの首根っこを掴んだ。そのフードから金髪に近いブロンズの髪と頭から生えた両サイドの黒い角、それに青と紫のオッドアイが見え隠れしている。
「うぅ。こんな、か弱い女の子になんてことを」
「か弱い? PKをスリル目当てで、何十回もしてきただろう、あなたが? それよりもあなた、悪魔でしょう? 俺と契約しませんか?」
少女の体がぶるりと震えた。
「すみません。調子乗りました。いやでも私もさ、噂の鬼神様だと───あ痛!」
鬼神様と蒼が呼ばれている理由は、このゲームとはまた別の和風ファンタジーゲームのイベントでの切り抜きが、そのゲームの宣伝ムービーとして広まり、つけられたものだ。
「わざわざ二つ名じゃなくて、ここではシアンって呼んでください。反省の色が見えませんね。」
「はひっ、契約だけはご勘弁を!」
この少女のローブにはコンパクトに折りたたまれた漆黒の翼が2対隠されている。その外見の通り、悪魔なのだろう。
なぜ、こんなにも契約を嫌がるのかというと、一人と両者の合意の元、契約を結べる。しかし、戦いに負けると契約をその勝者の意のままに結ばされるかもしれないというリスクがある。契約は両者にとって絶対だ。おそらく、そのリスクを背負ってPKをするというスリルを楽しんでいたのだろう。
そんなことを考えていると、突然その場に人が現れた。おそらく、プレイヤーだろう。状況から考えると、この少女の連れ当たりだろうか。
その男はこの少女に顔立ちが似ている。もしこの少女の目を切れ長にしてツンと尖った感じにしたら、こんな感じになるのではないだろうか。よく見れば、爪が黒い。おそらく、竜人だろう。
イキシアはその顔をさり気なく観察し、絶句した。
「……ッ」
「……? シアン君って弟と知り合いかな?」
「……いえ、知りません」
「そう?」
少女は訝し気にイキシアを見る。
「ま、いっか。とりあえず、紹介しとくね。弟のライルだよ。仲良くしてやってねー。」
「初めまして、ライルと言います。シアン君と呼べばいいのかな。よろしく」
見た目がクールで排他的にも見えてしまう上に、近寄りがたい雰囲気を放っているという裏腹の丁寧で親しみを感じるような口調。
───なんでこんなところに。
「ベリルさん。これ、俺のカードです。ライルさんのもあるので、もし何かあれば連絡してください。俺も何かあれば連絡しますね。」
「あれ? もういいの?」
「はい、ではまた」
そうして、イキシアは去って行った。
「何だったんだろうね」
「そうだね」
2人は気を取り直してPKに勤しんだ。
◆◆◆
「ただいま」
「遅かったね。先にもう検問所通ったからここで待ってたんだー。」
ここは冒険者ギルドの中だ。真新しい訳ではないが古すぎる訳でもない、そこそこ大きな建物だ。一番奥には受付があり、手前には食堂兼、酒場がある。真昼にも関わらず、もうすでに酒盛りをしている輩もチラホラいる。
「おかえり。あれ、捕まえるって言ってたけど?」
「あの人知り合いだったの?」
「いや、知らない人だ。捕まえようと思っていたけれど、やめてフレンド登録だけしておいた。」
「ふーん」
「絡まれなかったのか?」
「ううん。絡まれたの。でも、椅子を1つアスナが燃やしたら、皆、道を開けてくれたよ。」
ちなみに、可哀そうなことにその椅子に座っていた酔っ払いの服がいくらか犠牲になったらしい。中々、えげつないことをする。
「そうか。それで、素材はいくらで売れたんだ?」
「そちらについては、私が致しました。スライムが68匹で金貨204枚、ゴブリンが47匹で235枚、計439枚となっております。内訳については、アスタさんが200枚、リリス様とロー様に若様がそれぞれ70枚、わたくしが29枚でどうでしょうか?」
「異議なしだ」
「私も」
「僕も」
「私の金額が少し多いと思うのですが……」
「アスターはかなりの働きをしてくれたから、それは正当な対価だ。もし気にするようなら、ベリーに貸してもらっていた金貨50枚を返せばいい。」
「……そうですね。そういうことであれば、私も異議はありません」
「じゃあ、お金は片付いたな。ロー、時間だ。」
「おっす。お疲れっした!」
「リリスはどうするんだ?」
「うーん。私も、もう流石に寝ようかな。明日、友達と予定あるし。」
「そうか。じゃあ、おやすみ」
「うん。おやすみ、お兄ちゃん」